Uberはサンフランシスコでの自動運転試験を中止、認可を巡りカリフォルニア州政府と激突

Uberは必要な手続きをしないでSan Franciscoで自動運転車の試験営業を始めた。カリフォルニア州政府はこれを認めず、試験車両の登録を取り消す強硬策を取った。これに対し、Uberは隣のアリゾナ州に移り、ここで路上試験を始める計画だ。Uberが法令に従わないで自動運転車を運行するのは危険だという意見がある。同時に、カリフォルニア州は規制が厳しすぎるという意見も聞かれる。

出典: Uber

San Franciscoで試験運転を始める

Uberは2016年12月14日、San Franciscoで自動運転車の試験操業を始めるた。この車両は「Self-Driving Uber」と呼ばれ、Volvo XC90に自動運転技術を搭載した構成となっている (上の写真) 。Uberはこの車両で無人タクシーの試験営業を開始した。ただし、車両にはUber専任ドライバーが搭乗しており、問題が発生すると運転を代わる手順となっている。

タブレットがインターフェイスとなる

誰でもSelf-Driving Uberを利用できる。いつもの手順でUberアプリで配車をリクエストする。もし配車車両が自動運転車であれば、その旨がアプリに通知される。利用者は確認ボタンを押すとSelf-Driving Uberが配車される。利用者が搭乗すると、車内にはタブレットが備えてあり、これでクルマと交信する (下の写真)。タブレットがインターフェイスとなり、無人走行時に乗客が安心できる機能を搭載している。

タブレットで走行状態を把握

乗客はシートベルトを装着し出発準備が整い、タブレットでスタートボタンを押すとクルマは発進する。走行中はタブレットに運行状況に関する情報が示される。Self-Driving Uberに搭載されているセンサーで捉えたクルマ周囲のイメージが表示される (下の写真)。またタブレットで自撮りすることもできる。カメラアイコンを押すと写真撮影でき、それを友人とシェアできる。

出典: Uber

San Franciscoを選んだ理由

Uberは既にPittsburgh(ペンシルベニア州)でSelf-Driving Uberの営業試験を展開している。UberはSan FranciscoでSelf-Driving Uberを試験する理由について、試験走行の環境を拡大することで、技術開発を加速するとしている。San Franciscoは自転車が多く道路は狭く交通量が多く、難しい環境で技術を磨くとしている。当地はUber発祥の地であり、ここで試験を展開するのは自然な流れとなる。

認可を受けないで試験営業を開始

しかし、Uberは認可を受けないで試験営業を始めた。カリフォルニア州で自動運転車を試験走行するときは、自動車運行を管轄するDepartment of Motor Vehicles (DMV) から認可を受けることが義務付けられている。Uberはこの法令に従わづ、自動運転車運行許可証を取得しないでSelf-Driving Uberの営業試験を始めた。このためカリフォルニア州政府はUberに対してSelf-Driving Uberの運行停止の命令を発行した。

なぜ認可を受けないで運行するのか

UberはSelf-Driving Uber営業試験を始めるにあたり、自動運転試験の認可を取得する必要はないとの見解を表明した。この理由はSelf-Driving Uberは自動運転車の定義に該当しないというもの。DMVは自動運転車「Autonomous Vehicles」を「ドライバーが制御しないで運行する車両」と定義している。Self-Driving Uberはドライバーが制御しながら運行する車両で、この定義に当たらないとUberは主張している。

自動運転車の定義を明確にすることを求める

Uberは、Self-Driving Uberは高度な運転アシスト技術であり、Tesla Autopilotと同じ方式で運行を制御するとしている。Tesla Autopilotの走行は認可が必要でないように、Self-Driving Uberも認可が必要でないと解釈すると述べている。更に、Uberは法の穴をかいくぐるのが目的ではなく、自動運転車関連法を明確にすることが目的とも述べている。Uberは「Autonomous Vehicles」の法的な定義を明確にすることを求めている。

DMVはUberの試験車両16台の登録を取り消す

UberとDMVは12月21日、自動運転車試験の認可について協議した。しかし、認可必要性についての解釈の相違は埋まらず、Uberは認可申請を行わないとの立場を崩さなかった。このため、DMVはUberの試験車両16台の登録を取り消すという措置に出た。これにより試験車両は路上を走行できなくなり、Uberは走行試験中止に追い込まれた。

アリゾナ州に試験場を移す

DMVとの協議が決裂した翌日、アリゾナ州知事Doug DuceyはUberが同州で自動運転車の試験をすることを明らかにした。アリゾナ州はハイテク企業誘致に積極的で、Duceyは2015年、自動運転車の試験や運行を認める法令に署名している。GoogleやGMは既にアリゾナ州で自動運転車試験を展開している。DuceyはUberを大歓迎すると述べ、同時に、カリフォルニア州は規制が厳しすぎるとも指摘した。(下の写真は自動運転トラックOttoがSelf-Driving Uberを積んでSan Franciscoを出発する光景。)

出典: Doug Ducey

Uberとカリフォルニア州の駆け引き

Uberは規制に従わないことで関係当局との交渉を優位に進めたいとの意図がある。Uberが投入する新技術は既成法令の枠を超え、既存ビジネスとの軋轢を生んできた。法令をUberに都合よく改定するため、Uberは規制当局と全面対決する手法で交渉を進める。一方、カリフォルニア州は住民の安全を最優先に規制を強化するが、ハイテク企業はこれを嫌い州を離れていく。安全を優先するのか、それともイノベーション育成を支援するのか、難しいかじ取りを迫られている。

試験車両の技術的問題も明らかになる

Self-Driving Uberは規制当局との軋轢がクローズアップされるが、技術的な問題も明らかになってきた。Self-Driving Uberは横断歩道を赤信号で横切ったことがニュースで大きく報道された。隣の車線で停止していたクルマから撮影されたもので、Self-Driving Uberは赤信号を無視して進行した。これに対してUberは、Self-Driving Uberは自動運転モードではなく、ドライバーが運転していたとコメントした。技術的な問題ではなく、ヒューマンエラーであるとしている。しかし、これを裏付けるデータは示されていない。

自転車レーンを無視して違法に右折する問題

Self-Driving Uberは自転車レーンを無視して違法に右折する問題を指摘されている。自転車レーンがある道路で右折するには、自転車レーンにマージしてから右折することが義務付けられている。Uberはこの問題を認め、すでにソフトウェアでバグを修正したとしている。(下の写真は自転車レーンの事例。左の走行車線から破線部で自転車レーンとマージし、右側レーンから右折する。走行レーンから直接右折することはできない。Waymo自動運転車はこのテクニックを既に習得している。)

出典: VentureClef

試験走行は時期尚早という基本的な疑問

Self-Driving UberはPittsburghで試験営業しているが、クルマがドライバーの支援なしで走れる距離は限られているとの報告もある。頻繁にドライバーの割り込みが必要となる。Self-Driving Uberが他車に接近しすぎて走行したなど、不安定な挙動もレポートされている。これに上述のSan Franciscoでの問題が重なり、消費者はUberの安全性に不安を抱く結果になった。Self-Driving Uberの試験営業は時期尚早ではという疑問の声も聞かれる。Uberはこれを認識しており、自動運転技術を抜本的に改良する方策を打ち出してきた。(詳細は次回のレポートで報告。)