Uberはシリコンバレーに人工知能研究所を設立、次世代AIで自動運転技術のブレークスルーを狙う

UberはAIベンチャーを買収し、人工知能研究所を設立することを発表した。研究所はSan Franciscoに設立し、次世代AI技術を開発する。研究成果を自動運転車に適用し、人間のようにスマートに運転できるクルマを開発する。更に、この成果を航空機やロボットに応用することも計画され、UberはAI研究を本格的に推進する。

出典: Uber

Uber AI Labsを設立

Uberは2016年12月5日、San FranciscoにAI研究所「Uber AI Labs」を設立することを発表した。あわせて、AIベンチャー「Geometric Intelligence」の買収を明らかにした。AI研究所はDeep Learning (深層学習) とMachine Learning (機械学習) を中心テーマとして研究開発を進める。買収したGeometric Intelligenceの研究員15名が研究所の構成メンバーとなる。所長には同社CEOのGary Marcusが就任する。

Geometric Intelligenceとは

Uberが買収したGeometric Intelligenceだが、その実態は殆ど知られていない。同社はMarcusらにより設立され、論文などは発表されておらずステルスモードで研究が進んでいる。一方、Marcusは業界の著名人で、講演などでGeometric Intelligenceの一端を紹介している。それによると、同社は少ないデータでアルゴリズムを教育できるDeep Learning技法を開発している。

少ないデータでイメージを認識

Deep Learningでオブジェクトを判定できるようになるには、大量の写真を読み込みアルゴリズムを教育する必要がある。これに対しGeometric Intelligenceは、人間が物を認識するように、少ないデータでイメージを判定できるアルゴリズムを開発している。少量データは「Sparse Data」と呼ばれ、Deep Learning研究の主要テーマになっている。

自動運転車開発の課題

MarcusはDeep Learningで自動運転車アルゴリズムを開発する際の問題点を挙げている。自動運転車開発ではクルマは遭遇するすべてのケースを学習する必要がある。このため、雨や雪の日の走行環境が必要で、天気のいいカリフォルニア州を離れ、別の地域での走行試験が必要となる。クルマやドローンやロボットを含む自律システムの開発ではアルゴリズム教育のためのデータが最大のネックとなる。Geometric Intelligenceは少量データでアルゴリズムを教育し、開発期間を大幅に短縮することを目標にしている。

ハイブリッドAIを開発する

更に、この研究所の最大の特徴はハイブリッドAIを開発することにある。Geometric IntelligenceはDeep Learningだけではなく従来型AIを開発している。具体的にはBayesian Model (階層構造での統計技法) やProbabilistic Model (確率分布の統計技法) などの研究を進めている。これらはMachine Learningの根幹技法で幅広く使われている。しかし、Deep Learningの登場で影が薄れ人気がなくなっているのも事実。

出典: Gary Marcus

ルールベースと統計手法を組み合わせる

Geometric Intelligenceはこれら従来モデルを改良し、Deep Learningと組み合わせて使う技法を開発する。これをハイブリッドAIと呼び、ルールベースの学習モデル (Machine Learning) と統計手法の学習モデル (Deep Learning) を組み合わせたアプローチを取る。多くの自動運転車ベンチャーがアルゴリズムをDeep Learningだけで実装するのに対し、Uber AI Labsは幅広い技法をミックスして使う。

Deep Learningは行き詰る

この背後にはMarcusのAIに対する際立った考え方がある。MarcusはNew York Universityの教授で心理学が専門。MarcusはDeep Learningは行き詰ると主張する。その理由はDeep Learningの教育には大量のデータが必要で、適用できる分野が限られるためである。実社会では常に大量データが揃っているわけではない。特に、言語解析と自動運転車でこの問題が顕著になるとMarcusは指摘する。(上の写真はMarcusのホームページ。Marcusは心理学、言語学、生物学の観点からヒトのインテリジェンスに迫る。)

ハイブリッドAIで構成する自動運転技術

このハイブリッドAIで自動運転アルゴリズムを構成する。ハイブリッド型の学習モデルでは、画像認識にはDeep Learningを使い、少ないデータでアルゴリズムを教育する。運転テクニックについてはルールベースの学習モデルを使う。運転テクニックは汎用的な運転ルールだけでなく、地域に特有な運転ルールなどを学習する。例えば、San FranciscoとPittsburghでは運転マナーが異なるが、ルールベースの学習モデルがこれを吸収する。Geometric IntelligenceはDeep Learningに特化するのではなく、複数の学習手法を組み合わせて使う点に特徴がある。

出典: Uber

Self-Driving Uberの試験営業を開始

Uberはこれに先立ち2015年2月、自動運転車開発センター「Uber Advanced Technologies Center」をPittsburgh設立した。Carnegie Mellon Universityと共同で、自動運転技術とマップ作製技術を開発している。Uberは同5月からPittsburgh で自動運転車の試験営業を始めた。自動走行するUberは「Self-Driving Uber」と呼ばれ、客を乗せて試験営業を展開している (上の写真)。同12月にはSan FranciscoでSelf-Driving Uberの営業試験を始めた。しかし、カリフォルニア州から運行停止命令を受け、Uberの試験営業は中止に追い込まれた。このため、Uberは試験場所をアリゾナ州に移し、2017年早々から試験営業を始めるとしている。

Self-Driving Uberを無人走行させることが最終ゴール

Self-Driving Uberは自動で走行するがドライバーが搭乗し、システムが対応できない時は運転を代わる。クルマがドライバーの支援なしで走れる距離は限られており、頻繁にドライバーの割り込みが必要となる。San FranciscoではSelf-Driving Uberは横断歩道を赤信号で横切ったことがニュースで大きく報道された。このため、Self-Driving Uberの試験営業は時期尚早ではという疑問の声も聞かれる。Self-Driving Uberの自動運転技術は完成度が低いと専門家は指摘する。Uber AI Labsの使命は自動運転技術を飛躍的に進化させることにあり、Self-Driving Uberを無人走行させることが最終ゴールとなる。

出典: Uber

ロジスティックからAI・ロボティックス企業に

UberはAI研究所の成果を自動運転技術だけでなく飛行機やロボットなどにも応用する。Uberは2016年10月、オンデマンドで利用する航空輸送サービス「Uber Elevate」を発表している。Uber Elevateはパイロットが登場しない航空機で、空飛ぶSelf-Driving Uberとして位置づけられる。(上の写真、Uber Elevate はSan FranciscoとSan Joseの間70キロを15分で結ぶ計画。価格は129ドルとUberXと同じレベル。) また、Uberはロボットについては具体的な製品を発表していないが、登場は間近とみられている。UberはロジスティックスからAI・ロボティックスに大きく舵を切り、2017年は企業形態が大きく変わろうとしている。