Apple WatchをAIで機能強化、スマートウォッチで心臓の異常を検知

Apple Watchは健康管理のウエアラブルとして人気が高い。ただ、センサーの機能には限界があり心拍数計測精度が不安定といわれる。このため、Apple Watchで収集する心拍数データをAIで解析し心臓の異常を検知する研究が進んでいる。病院でECG検査を受けなくても、Apple Watchで24時間連続して心臓の健康状態をモニターできる。

出典: Cardiogram

Cardiogramというベンチャー企業

この技術を開発したのはサンフランシスコに拠点を置くCardiogramというベンチャー企業だ。同名のCardiogramというアプリがApple Watchで測定した身体データを解析し心臓の動きを把握する (上の写真)。デバイスと連動し心拍数がエクササイズにどう反応するかを把握する。また、平常時の心拍数をモニターし、身体がストレスや食事などにどう反応するかも理解する。更に、心拍数を解析し心臓疾患を検知する研究が進められている。

Apple HealthKitと連動

Cardiogramは健康管理のアプリとしてiOS向けに開発された。Cardiogramの特徴は身体情報をApple Watchで収集することにある。Appleは健康管理アプリ開発基盤「HealthKit」を展開している。Apple Watchで計測した身体データは利用者の了解のもとHealthKitに集約される。CardiogramはHealthKit経由で利用者の身体情報にアクセスし、これらデータを解析し健康に関する知見を得る。具体的には、Apple Watch利用者の心拍数、立っていた時間、消費カロリー量、エクササイズ時間、歩数などを可視化して分かりやすく示す (下の写真)。

出典: VentureClef

Evidence-Based Behavior

Cardiogramは「Evidence-Based Behavior」という手法を使って心臓の挙動を把握する技術を開発している。この手法は日々の行動やエクササイズがバイオマーカーにどう影響するかを検証する。例えば14日間ジョギングをすると、これが心拍数にどう影響するかを解析する。これで心拍数が7%低下すると、この行動は健康に効果があると判定する。Cardiogramは健康管理に役立つエビデンスを特定して利用者に示す。ジョギングの他に自転車、瞑想、ヨガ、睡眠時間などのプログラムが揃っている。また、スマホを絶つと健康にプラスに作用するのかを検証するメニューもある。

Apple Watchで不整脈を検知する研究

CardiogramはApple Watchを使って心臓の状態をモニターし、AIで異常を検知する研究を進めている。これはUC San Francisco (カリフォルニア大学サンフランシスコ校) との共同研究で「mRhythm Study」と呼ばれている。6185人を対象にApple Watchで収集した心拍データを解析し不整脈の一種である心房細動 (Atrial Fibrillation) を検出する。臨床試験の結果、判定精度は高く97%の確率で心房細動を検知できたと報告している。

心房細動を検知するアルゴリズム

Apple Watchで収集したシグナルから心房細動を検知するアルゴリズムにAIが使われた。アルゴリズムはConvolutional LayerとLSTM Layerを組み合わせた四階層の構造を取る (下のダイアグラム)。アルゴリズムに心拍数を入力するとタイムステップ毎にスコアを出力する。スコアは心房細動が発生している確率で、これを各時間ごとに見ることができる。つまり、Apple Watchを着装しているあいだ、いつ心房細動が起こったかを把握できる。病院のECGを使わなくても市販のウエアラブルにAIを組み合わせることで心臓疾患を把握できることが証明され、その成果に注目が集まっている。

出典: Cardiogram

データ収集が課題

同時にこの研究で課題も明らかになった。アルゴリズムを教育するためにはタグ付きのデータが数多く必要となる。このケースではApple Watchで収集した心拍シグナルとECGで計測した心電図のデータを大量に必要とする。特に、患者が心房細動を発症した時の両者のシグナルの紐づけがカギとなる。しかし、これらのデータは病院における心臓疾患患者のECG検査で得られ、その数は限られている。このため、この研究ではモバイル形式のECG測定デバイス「Kardia Mobile」が使われた。

Kardio Mobileとは

Kardia Mobileとはスマートフォンと連動して機能する心電図計測デバイスである。Kardia Mobileには電極が二点あり、被験者はここに指をあててて心電図を計測する (下の写真下段)。測定時間は30秒で、結果はスマートフォンのディスプレイに表示される (下の写真上段)。ガジェットのように見えるが既にFDA (米国食品医薬品局) の認可を受けており、医療システムとして病院や家庭で使われている。研究ではこのKardio Mobileが使われ、6,338件のデータを収取し、これらが教育データとして使われた。因みにKardio MobileがFDA認可を受けた最初のモバイルECGで小さなデバイでも心電図を高精度に測定できる。デバイスの価格は99ドルで、簡単に心電図を測定できるため米国の家庭で普及が始まった。

出典: AliveCor

GoogleのBaseline Project

Googleもウエアラブルを使って心臓の状態をモニターする研究を進めている。Alphabet配下のデジタルヘルス部門Verilyは人体のバイオデータを解析し、健康状態を把握することを目標にしている。これは「Baseline Project」と呼ばれ健康な人体を定義し、ここから逸脱すると「未病」と判定し、利用者に警告メッセージを発信する。Verilyは2017年4月、リストバンド型のバイオセンサー「Study Watch」を発表した (下の写真)。ECG、心拍数、活動状態をモニターでき、Study Watchを使った大規模なフィールド試験が始まった。

出典: Verily

健康管理に役立つウエアラブル

実はここ最近Apple WatchやFitbitなど健康管理のウエアラブルは販売が低迷している。Fitbitは大規模なレイオフを実施し事業を再構築している。消費者は健康管理のためにウエアラブルを買うが、センサーの機能と精度は限定的で思ったほど役立たないというのが共通した声だ。市場は高精度・高機能のウエアラブルを求めており、Apple Watchなどは対応を迫られている。その一つの解がAIで、既存センサーをアルゴリズムで補完することで機能を強化する。Cardiogramがその実例で健康管理に役立つことが証明された。本当に健康管理に役立つウエアラブルが求められておりAIの果たす役割が広がってきた。