やはりIQは遺伝で決まる。DNAとインテリジェンスに関する大規模な臨床試験が実施されその結果が公表された。それによると52の遺伝子がインテリジェンス形成に関与している。

出典: Suzanne Sniekers et al. |
大規模な研究
研究結果は「Genome-wide association meta-analysis of 78,308 individuals identifies new loci and genes influencing human intelligence」として科学雑誌Natureに掲載された。 (上の写真)。今までも遺伝子とインテリジェンスに関する調査が実施されたが有効な結論は得られていない。今回の研究はそれを大規模に展開し遺伝子とインテリジェンスの関係を特定することができた。
遺伝子変異と身体特性の関係
研究は遺伝子変異が身体特性にどう影響するかを把握する手法で進められた。この手法はGWAS (Genome-Wide Association Studies) と呼ばれ、遺伝子特性 (Genotype) と身体特性 (Phenotype) の関連性を把握する。ここでは遺伝子特性としてSNP (Single-Nucleotide Polymorphism) が使われた。SNPとはゲノム塩基 (C、T、A, G) の配列で一塩基が変異した多様性を指す。身体特性ではIQテストなどで被験者のインテリジェンスのレベルが測定された。これらSNPとIQの間に相関関係が認められるかどうかが評価された。
解析結果
研究では78,308人の被験者の1200万個のSNPが解析された。その結果336個のSNPがインテリジェンスに関与していることが分かった。これらのSNPは染色体 (Chromosome) の18か所で特定され、その半数は22の遺伝子の中にある。つまり、22の遺伝子が人間のインテリジェンスの形成に関連することが分かった。
52の遺伝子がインテリジェンスに関与
更に、この研究では上記のGWASに加え、遺伝子の中の複数変異と身体特性の関係についても解析された。この手法はGWGAS (Genome-Wide Gene Association Studies)と呼ばれインテリジェンスに関与する47の遺伝子を特定した。合計で69 (22+47) の遺伝子が特定されたが17の遺伝子は両手法で重複しており、差し引き52 (69-17) の遺伝子がインテリジェンスに関与していると結論付けた。
インテリジェンスを形成する理由
これらの遺伝子がインテリジェンスを形成する生物学的メカニズムについては分かっていない。しかし、それに関連する興味深い解析を示している。遺伝子はたんぱく質を生成するためのプログラムとして機能し、遺伝子のタイプにより異なるたんぱく質が生成される。心臓や血管や脳や神経や皮膚などは特定タイプの遺伝子で作られる。GTEx Data and Analysisというツールに遺伝子IDを入力すると生成される組織 (Tissue) のタイプが分かる。

出典: Suzanne Sniekers et al. |
遺伝子は脳の組織を生成
研究で特定されたインテリジェンスに関与する遺伝子をこのツールで調べたところ、この中の14の遺伝子は脳のたんぱく質を生成する機能を持つことが分かった。具体的には大脳皮質 (Cortex)、海馬 (Hippocampus)、小脳 (Cerebellum) などを生成する機能を持つ。インテリジェンスに関与する遺伝子の多くは脳を生成する機能と関係する。 (上の写真は遺伝子とそれが生成する人体組織の種類のマトリックス。横軸が遺伝子の種類で、縦軸はそれらが生成する組織を示す。赤色の枠は両者に強い関係があることを示す。)
遺伝子と社会的立場
更に、遺伝子と社会的立場や健康との関係も解析された。特定された52の遺伝子と最も相関関係が高いのが学歴であることが分かった。特定の遺伝子変異が教育レベルに強く影響することが科学的に証明された。更に、喫煙者がタバコを止めることができるのはこれら遺伝子が関係していることも判明した。また、これらの遺伝子はアルツハイマー病の発症を抑制する効果があることも報告されている。
Nature vs Nurture
インテリジェンスは遺伝すると経験的に感じているが、この論文はこれを科学的に証明した。一方、インテリジェンスは社会生活の過程で習得できることも経験しており、我々は遺伝が全てではないとも感じている。これは「Nature vs Nurture」といわれる考え方で、人間の特性は遺伝かそれとも育ちかという議論がある。今ではNatureとNatureの両方が関与するという意見が大勢を占め、インテリジェンスは遺伝子と教育が絡み合って決まると解釈されている。
IQと学習のバランス
実際にGoogleがこれを職場で実践している。Googleは社員に求められる能力を、「Intellectual Humility (知性に謙虚)」と「Learning Ability (学習能力)」としている。知性に謙虚であるとは、仕事はインテリジェンスだけで解決できる訳ではないということを示す。知性に頼り過ぎると失敗から学習する能力が不足し、意見が異なると激しい議論に発展し、建設的な展開が期待できないとしている。後者の学習能力とは新しいものを学習する能力で、状況を素早く把握し、幅広い情報を取りまとめ、柔軟に考察する能力と定義している。Googleは採用対象大学を少数のエリート校に限っていたが、最近ではその幅を大きく広げた。Googleの事例が示すように、また我々が直感的に感じているように、IQと学習のバランスが成功のカギとなる。