ATMに顔をかざしてお金を引き出す、中国で顔認証サービスがブレーク

中国で顔認証システムの導入が異常な速さで進んでいる。ATMに顔をかざすと本人の確認ができお金を引き出すことができる。空港の搭乗ゲートでは顔が搭乗券となり飛行機に乗ることができる。中国のAI技術レベルは欧米と同等といわれるが、それを応用したビジネスでは中国が先行している。顔認証サービスが中国でブームになっているが、その背後にはプライバシー保護に関し寛容な国民性がある。

出典: Alizila  

顔認証で支払いをする

中国最大手のEコマース企業AlibabaはAIを活用した顔認証システムに着目している。同社金融部門Ant Financialは2015年、ベンチャー企業と共同で顔認証で支払ができるシステム「Smile to Pay」を開発した。これをモバイルアプリAlipayに適用し、顔認証を使ったスマホ決済を運用してきた。

Alibabaは2017年9月、Smile to PayをKFCなどレストランにおける支払いに導入した。消費者は入り口に設置されたキオスクで料理を注文し顔認証で支払いをする (上の写真)。カメラに向かって顔をかざし電話番号を入力すると会計処理が完了する。ステレオカメラが3Dで顔を識別し、アルゴリズムは被写体が写真ではなく人間であることを把握する。将来は電話番号の入力は不要で、顔認証だけで買い物ができるシステムとなる。

顔認証でお金を引き下ろす

中国大手銀行China UnionPayはATMに顔認証システムを導入した (下の写真)。このATMはマカオに設置され、顔をかざすだけでお金を引き出すことができる。このサービスを利用するためには事前に顔写真を登録しておく。ATMにバンクカードを挿入しPINを入力し、中国政府が発行するIDカードを読み込ませ、最後に顔の写真を撮影する。顔の登録の全プロセスをATMで実行する。

出典: Bloomberg  

China UnionPayがATMに顔認証システムを導入したのは訳がある。お金の引き出しを便利にするためだけでなく、中国政府の政策と関連する。中国で人民元 (Renminbi) の海外流出が拡大しており、この多くがマカオのカジノからとされる。一般市民や政府関係者が複数の口座を開き、お金を限度額以上に引き出している。ATMに顔認証システムを導入することで個人を特定でき金の流れをトラックする目的がある。このATMはNCR製で顔認証のためのアルゴリズムが組み込まれている。

観光スポットへの入場は顔パス

Baiduは中国のGoogleともいわれAIで世界をリードしている。BaiduはAIによる顔認証技術の開発を進め多くの企業で利用されている。中国・烏鎮 (Wuzhen) は人気の観光地で、街の中を運河が流れ東のベニスと呼ばれる。この地区でBaiduが開発した顔認証システムが使われている。景観地区に入場する時に受付で顔を登録し支払いを済ませる (下の写真)。入口にはゲートが設けられ、そこに設置されているタブレットに顔をかざし顔認証を受ける。本人と確認されるとゲートが開き中に入ることができる。

出典: Financial Times  

空港の登場ゲート

Baiduの顔認証技術は空港の搭乗ゲートでも使われている。中国の大手航空会社Southern Airlinesは空港の搭乗ゲートに顔認証システムを導入した。乗客は搭乗ゲートのタブレットに顔をかざし飛行機に乗ることができる。このサービスは2017年6月から、Nanyang Jiangying Airportで運用が始まった。利用者はチェックインの際に身分証明写真と顔写真をスマホアプリで登録しておく。ゲートでは読み込んだ搭乗者の顔をこれらの写真と照合して認証する。

出典: South China Morning Post  

顔が従業員カード

Baiduは自社でもこの技術を展開しており、オフィスエントランスに顔認証システムを導入した。社員は入館ゲートに備え付けてあるタブレットに顔をかざすと、顔認証システムはリアルタイムでその人物の名前を認識しゲートが開く (下の写真、元Baidu研究所長Andrew Ngがデモのモデル)。本人の代わりに写真をかざしても認証を受けることはできない。

出典: Baidu  

トイレにも顔認証システムが     

北京の天壇 (Temple of Heaven、下の写真) は園内にあるトイレに顔認証システムを設置している。カメラに向かって3秒間顔をかざすとトイレットペーパーが出る。追加でトイレットペーパーを出すには9分間待つ必要がある。これはトイレットペーパーの盗難を防ぐための措置として導入された。顔認証システムの設置費用や維持経費はトイレットペーパーより高そうに思えるが、何か訳があるのかもしれない。このトイレが顔認証アルゴリズム教育のための顔データを集める特殊任務を負っているのかもしれない。

出典: Google Street View  

プライバシー保護に寛容な国民性

中国が顔認証システム普及で他国を大きくリードしているが、これは教育データが豊富でバイオメトリック情報を収集しやすい環境にあるためだ。中国の人口は世界最大で、多くの人が顔認証サービスを利用している。また、中国社会はプライバシー保護に関し寛容な態度を示し、顔データが収集されることに対し大きな反対運動は起こっていない。このため大規模な顔データを集めることができる。収集したデータをDeep Learningアルゴリズムにフィードバックし認証精度を向上させる。顔イメージという生体情報がシステムに保管されることに対する懸念より、中国社会は顔認証サービスの利便性を歓迎しているようにも見受けられる。顔認証システムの導入では中国が欧米や日本より数歩先を進んでいる。