移動式スーパーマーケットが登場、店舗がクルマになり無人運転で自宅にやって来る

シリコンバレーで移動式のスーパーマーケットがデビューした (下の写真)。店舗がクルマに搭載された形だが、人は乗っておらず自動運転で街中を移動する。Amazon Goのような無人店舗が、Waymoのような自動運転車と合体した構造だ。買い物は、スーパーマーケットに出向くのではなく、消費者がスマホで店舗を呼ぶ時代になった。

出典: Robomart

移動式スーパーマーケット

このシステムは「Robomart」と呼ばれ、無人車両に商品を搭載した形で、街中を自動走行で巡回する。消費者はアプリで配車をリクエストすると、Robomartが自宅までやって来る。Robomartが道端に停車し、ドアが開き、車内に陳列された商品を買うことができる。商品は生鮮食料品、パン類、調理品などが対象となる。RobomartはSanta Clara(カリフォルニア州)に拠点を置く同名のベンチャー企業Robomartが開発した。

ショッピングの仕方

多くのRobomartが街中を巡回しており、消費者は専用アプリでクルマをリクエストする (下の写真、左側)。そうすると、近くを巡回しているRobomartがリクエストに応え自宅までやって来る。消費者はRobomartのドアを開け、並べられている商品から希望のものを取り出す。Robomartは取り上げられた商品を自動で認識し、登録されているカードに課金する (下の写真、右側)。

出典: Robomart  

商品棚の構造

Robomartの中は商品棚となっている (下の写真)。ここに生鮮食料品などが並べられる。棚には値札が付いており商品名と値段が表示される。「Tomatoes $0.92 each, 13/oz」などと記載され、トマト一つが92セントであることが分かる。量り売りの機能は無いためか、商品は一個当たりの料金になっている。棚にはカメラが設置されており、取り出された商品を把握し、クレジットカードに課金する。ここに、冷蔵庫や保温機などを搭載できるとしている。

出典: Robomart  

自動走行技術

Robomartは完全自動運転車でLevel 5の走行技術を持っている。屋根の上にはLidar (レーザーセンサー) を搭載し、周囲のオブジェクトを認識する。この他にカメラとレーダーを搭載しており、信号機や道路標識を把握し、障害物を検知する。これは「Sensor Fusion」という方式で、複数のセンサーで捉えた画像を解析し安全な経路を算定する。事前に、走行する領域の3Dマップを生成しておく。走行時には3Dマップを参照し、ピンポイントに位置を決定し、走行経路を計算する。Robomartは既にプロトタイプを製造し、シリコンバレーで試験走行を計画している。

EVとワイアレス充電

Robomartはバッテリーで稼働するEVで、走行距離は80マイルで、最大速度は時速25マイル。Robomartは専用ステーションでワイアレスで充電する。これはHEVO Power社の技術が使われ、プレートの上にクルマを停めるだけで充電できる。HEVO Powerを使ったシステムはまだ市場に出ていないが、Waymo自動運転車がこの技術を採用すると噂されている。

ビジネスモデル

Robomartは小売店舗に車両をリースする形で事業を展開する。小売店舗はRobomart使って生鮮食料品などを販売する。つまり、小売店舗は販売チャネルを拡大するためにRobomartを導入すると期待される。また、小規模事業者にとっては事業拡大のチャンスでもある。新規に出店するにはコストがかかり過ぎるが、Robomartを導入するのであれば手軽に事業を拡大できる。

遠隔で監視する

Robomartは自動で走行するが、運行状態については各店舗のオペレーターが遠隔で監視する (下の写真)。オペレーターはRobomartの配車リクエストや走行経路をデスクトップでモニターする。また、品切れの際はRobomartを運用している小売店舗が商品を補充する。更に、遠隔通信機能があり、オペレーターは消費者と直接会話することができる。買い物で支障が出た時はオペレーターがサポートする。経路上で警察官とコミュニケーションが必要な時もこの機能を利用する。

出典: Robomart  

Nvidiaのインキュベーションプログラム

RobomartはNvidiaが運営する「Inception Program」で開発された。これは新興企業を育成するプログラムで、NvidiaのGPUやDeep Learning技術を使った先進的なAI技術開発を支援する。Nvidiaは自動運転技術開発環境として「Drive Platform」を提供している。自動車メーーカーはこのプラットフォームで自動運転技術を開発している。Robomartもこの環境を利用し、Nvidiaの自動運転専用プロセッサ「Drive PX」を使いこのシステムを開発した。

開発コンセプト

小売店舗はAmazonに対抗するため、オンラインショッピングを拡充し巻き返しを図っている。しかし、生鮮食料品のオンライン販売は売り上げが伸びていないという厳しい現実がある。消費者は野菜や果物など生鮮食料品については、自分の手に取って買い物をしたいという要求がある。また、生鮮食料品の宅配サービスは料金が高いことも売り上げが伸びない原因とされる。このような背景からRobomartが開発され、顧客は商品を手に取って買い物ができ、無人運用で配送コストを最小限に抑える。

課題もある

Robomartは画期的な構想であるが解決すべき問題も少なくない。サンフランシスコ市当局は配送ロボットが歩道を通行することを制限している。ロボットが歩道を無人走行すると、事故が起きる危険性が高いと判断しているためだ。Robomartが他の車両に交じり市街地を走行することに対し、当局がどのような判断を下すのか注視する必要がある。特に、家の前に停車して営業する形態で、交通への影響を査定し、買い物客の安全性を如何に担保するかが課題となる。

むしろ日本社会に向いているのか

Robomartは日本社会に適しているのかもしれない。日本は世界最速で高齢化が進み、買い物弱者が増え、その対策が求められている。Robomartを日本で展開すると、スーパーマーケットに買い物に行けない高齢者に、生鮮食料品や調理済み食材を配送できる。また、ドライバーが不足する中でRobomartがその代替手段となり、一般消費者向けにも需要が見込まれる。移動するコンビニとして新規顧客を獲得できる可能性を含んでいる。