次期大統領選挙の争点はベーシックインカム、AIに仕事を奪われる大失業時代の政策が問われる (1/2)

AIの急速な進化で自動化が進み、労働者の職が奪われるケースが急増している。アメリカ経済は成長を続けるが、富が富裕者層に局在し、社会格差が広がっている。2015年には米国製造業で400万人が職を失い、2030年には全労働者の1/3が失業するといわれている。資本主義の矛盾をどう解決すべきか、ベーシックインカムの議論が広がっている。2020年の大統領選挙ではベーシックインカムが重要な争点となりそうだ。更に、失業を生み出すAI企業の責任も問われることになる。

出典: yang2020

ベーシックインカムとは

ベーシックインカム (Universal Basic Incomeと呼ばれる) とは、社会保障の一種であるが、従来の失業保険などとは異なり、全ての国民に一律にお金を支給する制度を指す。受取のための条件はなく、毎月一定額の金額が支給される。受け取ったお金の使途の制限も無く、受給者が自由に使うことができる。ベーシックインカムの構想は50年ほど前から議論されてきたが、AIによる失業問題が拡大する中、再び注目されている。

大統領選挙に向けた動き

トランプ大統領が就任して一年余りたつが、既に次期選挙に向けた動きが活発化している。民主党 (Democratic Party) からは起業家のAndrew Yangが立候補を表明した。Yangは自動化による失業者を救済することを公約のトップに掲げキャンペーンを展開している (上の写真)。大失業時代の対策としてベーシックインカムの導入が必要であると主張する。

毎月1000ドル受け取る

Yangは選挙サイトにベーシックインカム導入の意味やその具体的な政策を示している。それによると、毎月1000ドルを18歳から64歳までの米国国民に一律に支給する。支給条件はなく、収入に関わらず誰でも毎月1000ドルを受け取る。生活保護を受けている人は、これを延長するか、又は、ベーシックインカムを選択できる。65歳以上は国民年金 (Social Security) を受け取ることになる。国民医療保険 (MedicareとMedicaid) はそのまま存続する。これ以外の保護政策はなく、月額1000ドルがセーフティーネットとなり生活を下支えする。

ベーシックインカムが必要な理由

AIやロボットの導入で米国製造業で既に400万人の職が失われた (下の地図、赤い部分Rust Beltに集中している)。自動運転車の導入でトラック運転手350万人の職が失われると予測される。Yangは単純労働作業や危険な職種は自動化すべきだとし、AIやロボットが社会に入ることを歓迎している。一方、これによる失業者が最低限の生活をするために、ベーシックインカムを導入する。更に、失業を生み出すAIやロボット企業は応分の負担をすべきだと考えている。

出典: Wikipedia

財源をどこに求めるか

ベーシックインカムを導入すると年間2兆ドルの歳出となり、米国国家予算 (4.1兆ドル、2018年度予算教書) の半分を占める。Yangはベーシックインカムの財源をValue-Added Tax (VAT、付加価値税) に求めるとしている。米国で新たにVATを導入し税率を10%とする。VATとは企業が生み出す製品やサービスに課税する税で、企業は税を回避することが難しくなり、公平に課税できる点が評価される。欧州では幅広く導入されているが、米国では使われておらず、地方政府がSales Tax (売上税) として徴収している。

効果はあるのか

最低の生活が保障されると人は働かなくなるとの議論があるが、Yangはベーシックインカムを導入することで勤労意欲が増すとしている。現在の社会保障制度は受給者が収入を得ると支給が停止され、これが勤労意欲を減らす原因と指摘する。ベーシックインカムは収入に関係なく一律に支給され、最低限の生活ができ、仕事が見つかると収入が増える。また、大学で学びなおし新しいキャリを目指す人も増える。更に、起業家のように独立して事業を始める人が増えるとも述べている。

オバマ大統領などが支持

多くの政治家がベーシックインカム導入を積極的に検討している。オバマ前大統領は在任中、AIやロボット開発を推進したが、同時に、これにより富が富裕層に局在することを懸念していた。今後、10年から20年後には、お金を配布する仕組みの導入が必要と述べ、ベーシックインカムの導入が必須であるとの見方を示した。ヒラリー・クリントン候補は大統領選でベーシックインカム導入を公約とはしなかったが、この仕組みに共感していたと伝えられる。

(後半に続く)