米国政府は23andMeの遺伝子解析による乳がん検査を認可、消費者はがん発症リスクを知り健康管理

アメリカ食品医薬品局 (FDA、Food and Drug Administration) は23andMeに対し、遺伝子解析で乳がん発症のリスクを検査することを認可した。これにより消費者は、乳がんを発症するかどうかを知ることができるようになった。FDAがこの手法を認可したことで、米国では個人向け遺伝子解析サービスが急拡大する勢いとなってきた。

出典: VentureClef

23andMeの遺伝子解析サービス

FDAから認可を受けたのはMountain View (カリフォルニア州) に拠点を置く23andMeというベンチャー企業で、個人向け遺伝子解析サービスを提供している (上の写真)。23andMeは、遺伝子配列の変異から被験者がどんな病気を発症するのかを予測し、米国医療市場に衝撃を与えた。しかし、FDAは2013年、予測精度が十分でなく、消費者が不要の手術を受けるなど危険性が伴うとして、業務停止命令を出した。このため、23andMeは医療解析サービスを中止し、人種解析サービスに特化して事業を進めてきた。

FDAから認可を受ける

その後23andMeは事業内容を改良し、2017年4月、FDAは10種類の病気に限り遺伝子解析サービスを認可した。ここにはパーキンソン病やアルツハイマー病が含まれており、消費者は病気を発症するリスクを把握できるようになった。これに続き、2018年3月、FDAは乳がんや子宮頸がんに関する遺伝子解析サービスを認可した。病院では乳がんのスクリーニングで遺伝子解析が使われているが、消費者は23andMeのサービスを使ってがん発症のリスクを知ることができるようになった。

BRCA1とBRCA2遺伝子

乳がん検査では「BRCA1」と「BRCA2」という遺伝子(下の写真)を解析する。BRCA1とBRCA2は共に、ガン発症を抑える機能を持ち、がん抑制遺伝子 (Tumor Suppressor Gene) と呼ばれる。BRCA1とBRCA2は傷ついた遺伝子を修復するためのたんぱく質を生成する。しかし、BRCA1とBRCA2がダメージを受けると、この修復機能が影響を受け、がん発症のリスクが高まる。特に、女性の乳がんと子宮頸がんの発症が高まる。男性にも関与ており、前立せんがんの発症リスクが高まる。

出典: Wikipedia

遺伝子変異とリスク

BRCA1とBRCA2の遺伝子変異ががん発症のリスクを高めるが、これらはAshkenazi Jewish (ユダヤ人のグループ) に多く見られる。このグループの40人に一人がこの遺伝子変異を持つとされる。また、この遺伝子変異を持つ女性の45-85%が70歳までにガンを発症するともいわれている。女優Angelina JolieはBRCA1の遺伝子変異が見つかり、予防のために両乳腺を切除する手術を受けたことを公表した。このニュースのインパクトは大きく、BRCA遺伝子変異と乳がんの関係が認識され、遺伝子検査への関心が高まった。

遺伝子解析の限界

BRCA1とBRCA2に注目が集まっているが、これらの遺伝子変異が検出されなければガン発症のリスクがゼロになるというわけではない。23andMeが試験する範囲は限られており、がん発症リスクをすべて網羅するものではない。BRCA1とBRCA2の遺伝子変異の数は1000を超えるが、23andMeはこのうちの三つを対象に検査する。また、がん発症はライフスタイルとも大きく関係しているが23andMeはこの要素は勘案していない。乳がん発症の原因は数多いが、23andMeはその中で代表的なBRCA1とBRCA2に特化してリスクを評価している。

解析結果をどう解釈すればいいのか

このように遺伝子解析は複雑で完全なものではなく、23andMeから受け取るレポートをどう解釈すればいいのか、消費者から戸惑いの声が聞かれる。これに対して、CEOであるAnne Wojcickiは、ブログの中で、解析結果の活用方法を述べている。23andMeの遺伝子検査は「病気を診断するものではなく」、また、「病被験者が検査結果を見て医療方針を決めてはならない」としている。つまり、検査結果の解釈については、病院の医師などに相談し、判断を仰ぐべきとしている。また、23andMeは、遺伝子解析専門のカウンセラー(Genetic Counselors)に相談してアドバイスを受けることを推奨している。

遺伝子解析専門カウンセラー

遺伝子解析専門カウンセラーとは馴染みのない名前であるが重要な役割を担っている。病院の医療チームの一員で、遺伝子疾病 (Genetic Disorder) に関し、患者にカウンセリングする職務である。サンフランシスコ地区では多くの病院で遺伝子解析専門カウンセラーを置いており患者をサポートしている (下の写真、大手病院Kaiser Permanenteの事例)。個人向け遺伝子解析サービスが急増する中、解析結果を解釈する仕事が増えている。カウンセラーは、遺伝子解析結果を被験者に分かりやすく説明し、必要であれば専門医を紹介する。

出典: Kaiser Permanente

病院の先生は否定的

病院の医師の多くは消費者が独自に遺伝子解析を受けることに対し否定的な考えを持っている。病院では家系に乳がんの病歴がある患者に限り遺伝子解析などでスクリーニングテストを実施している。この条件に該当しない患者が遺伝子検査を受けることは実用的でなく、また、心理的な負担が大きいとしている。

もし遺伝子変異が見つかると

医師の考え方とは裏腹に、多くの消費者が既に23andMeの遺伝子検査を受けている。今までは、BRCA1とBRCA2に関する解析結果は被験者に通知されなかったが、FDAの認可を受け、23andMeはその結果を会員に順次通知する。この結果、発がんリスクが高いと判定された被験者は、23andMeの指針に沿ってカウンセラーや病院の医師の診察を受けることになる。女性の場合は乳がんなどで、男性の場合は前立せんがんが対象となる。

解析と治療のギャップ

これから相談を受ける医師がどのように対応するのかは見通せないが、病院で詳細な検査を実施し、定期的にスクリーン検査を受けることなどが予想される。このように23andMeは遺伝子解析結果を示すにとどまり、その後の医療措置はカウンセラーや医師に任された形となっている。消費者としては両者の間に大きなギャップを感じ、サービスが完結していないとも感じる。

出典: 23andMe

未完のサービスであるが

未完のサービスであるが消費者の間で遺伝子解析サービスの利用者が急増している。23andMeで遺伝子検査を受け、アルツハイマー病を発症するリスクが高いと診断された消費者は、介護保険を購入する動きが急拡大している。病気のリスクを把握し、それに応じてライフプランを修正する人が増えている。消費者は自分の将来の健康状態を知りたいという欲求が強く、問題を抱えながらも、個人向け遺伝子解析サービスが急成長している。