トランプ政権は初めてAI戦略を策定、中国の追い上げが安全保障の脅威となる

ホワイトハウスは2018年5月、AIに関する政策を始めて公表した。テクノロジーに関するアドバイザーMichael Kratsiosがレポートの形 (下の写真) で発表した。これによると、トランプ政権はAIを重点技術と位置づけ、AI関連の研究開発予算を拡大する。連邦政府として初めてAI政策を策定したことの意義は大きい。一方、このタイミングで発表したのは、中国が2030年までにAIで世界のトップになると宣言し、米国の安全保障が揺らいでいるという背景がある。

出典: White House

AI政策の骨子

トランプ政権はAI関連技術育成のために予算を計上する。具体的には、AI基礎研究、コンピュータインフラ整備、機械学習、自動運転システムなどが対象となる。また、トランプ政権は米国産業がAIシステムを運用するために障害となっている規制を撤廃する。更に、AI導入で職を失った人に対し職業訓練を実施する。各省庁はAI導入を進め、国民のためのサービスを向上させる。また、米国省庁内のデータを民間に公開し、AI開発を促進することも盛り込まれている。

AI政策の意図

この発表で、米国が引き続きAIで世界をリードするために、トランプ政権はこれを後押しすることを、内外に向かって明らかにした。米国がAIで世界のトップを維持するのは、産業で競争力を持ち、米国労働者の富を増すためとしている。更に、科学、医学、通信の分野で技術開発を進め、新時代を築いていくとも述べている。

発表した理由

ここ最近、中国、フランス、イギリス、EUはAI国家戦略を相次いで発表した。特に注目されるのは中国政府の動きで、中国は国策としてAI技術を育成し、2020年までに米国と肩を並べ、2030年までに米国を抜いて世界トップの技術を持つことを宣言した (下の写真)。既に、中国のAI技術進化は凄まじく、今回の発表は、中国や他国のAI政策に対抗するかたちとなった。

出典: http://www.gov.cn

データ公開

具体的な政策が乏しい中で、特筆すべき点は、連邦省庁が所有しているデータを公開することを明示したことだ。民間企業はこれらのデータを利用してAIアルゴリズムを教育できる。ただし、どんなデータがいつ公開されるかについては明らかにされていない。これに先立ち、オバマ政権は、NASAのリモートセンシング画像を公開し、AI開発を含むイノベーションが進んでいる。

規制撤廃

中国は国策として、AI開発に資金を拠出し、企業の育成を進めている。一方、トランプ政権はAI開発を直接支援する枠組みについては触れていない。今回の発表で、トランプ政権はAI開発で障害となる規制を撤廃することを明言し、政府機関のAI開発に対する規制の在り方を検討する。これにより、自動運転車やロボットやドローンに関連する規制が緩和され、実証実験が進むことが期待される。トランプ政権はAI開発の環境整備に重点を置く姿勢が読み取れる。

AI人材教育について触れていない

一方、今回の発表はAI人材育成については触れていない。現在、AI研究者やAI開発者の数が十分でなく、これがAI研究やAI開発の大きな障害となっている。この問題を解決するためには、大学や民間企業におけるAI教育プログラムの拡充が必要となる。これとは別に、トランプ政権は移民を規制し、就労ビザの発給を厳しく制限していることが、AI人材不足に拍車をかけている。

科学技術政策

AI戦略を含む科学技術政策はOffice of Science and Technology Policy (OSTP) で立案される。

OSTPはホワイトハウスの機能で、科学技術に関するブレインとして、ときの大統領に政策を進言する役割を持つ。しかし、トランプ大統領が就任して以来、長官は不在となっている。また、スタッフの数は半減し、オバマ政権では120人であったが、現在は60人。報告書を制作したMichael KratsiosがOSTPの実質的な代表を務める。地球温暖化対策やAI政策でOSTP長官が不在のまま進んでいる。

AIサミット会議

発表と同時に、政府関係者や民間企業40社余りが加わり、AIサミット会議が開催された (下の写真)。参加者はAI政策に関する議論を交わし、それぞれの意見を述べた。会議では、AI導入により失業者が増えるため、教育の必要性が指摘された。Intelは、政府がAI戦略を構築し、国としてAI技術を育成しないと、中国などの外国勢に負けると主張。IBMは、AI開発でアルゴリズムの透明性を増すことが必要と主張。ホワイトハウスは今後も継続して、他の省庁や民間企業と連携を密にして、AI政策を進めていくとしている。

出典: Office of Science and Technology Policy @ Twitter

難しいかじ取り

トランプ政権が初めてAI政策を発表したことは大きな一歩で、一定の評価を受けている。AI導入により工場労働者の雇用が奪われるため、AI政策を推進することは、トランプ政権支持層から賛同を失う危険性に繋がる。一方、中国が2030年に米国を抜くと宣言しており、国力維持にはAIは欠かせない。トランプ政権は難しいかじ取りを迫れれている。