GoogleはAIコールセンターを発表、人間に近づきすぎたAIが顧客のクレームを処理

GoogleはコールセンターにAIを統合したサービス「Contact Center AI」を発表した。Google Cloud Nextで科学研究責任者のFei-Fei Liが基調講演の中で明らかにした(下の写真)。Contact Center AIはコールセンターのオペレーター業務をAIで代行するもので、顧客からの問い合わせに、人間のようにインテリジェントに対応する。

出典: Google

AIが消費者の苦情を処理

講演の中でContact Center AIのデモビデオが紹介された。消費者が、購買した商品を返品するため、eBayのコールセンターに電話したという設定で、Contact Center AIの機能が紹介された。消費者がコールセンターに電話するとAIに繋がり、AIは人間のように自然な会話で対話する。AIが消費者の苦情を聞き、その内容を理解して、事務処理を完結した。

AIと人間の共同作業

具体的には、消費者はテニスシューズを買いたかったが、間違えてランニングシューズを購買したので、これを返品したいと申し出た。AIは会話を通して、消費者の意図を理解し、商品返品のプロセスを実行した。更にAIは、消費者はテニスシューズを買いたいという意図を掴み、電話をファッション担当オペレーターに転送した。消費者はオペレーターと会話して、目的のシューズを購買することができた。インテリジェントなAIが示されたことに加え、人間と協調してコールセンターのタスクを実践する仕組みも明らかになった。

消費者とAIとの会話

消費者とAIの会話は次の通り進行した:

AIは冒頭でマシンであることを明らかにし、人間そっくりの口調で消費者と対話を始めた。ここにGoogle Duplex(人間過ぎる仮想アシスタント)の技法が使われている。オープンエンド形式の会話モデルで、AIはHelloと挨拶してから要件を確認した。オープンエンド形式とは、テンプレートが無い会話モデルで、消費者の発言にAIが臨機応変に対応する。多くのコールセンターはツリー形式の会話モデルで、質問に答えながらガイダンスが進む。

AI:Hello Mala, I am an automated agent.  Welcome back to eBay.  It looks like we delivered six running shoes on June 26the.  Are you calling about this order?

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消費者は購買したシューズが合わないので返品したいと告げる(上の写真)。AIはこれを理解して、返品のプロセスを起動し、その確認書をメールで送信したと告げる。

消費者:Unfortunately, they don’t fit.  So I need to return them.

AI: I can help you that.  I am starting a return for you.  You will be receiving an email with the details of your return.

AIは消費者の意図を把握し、更に、会話した情報を記録する。AIは、消費者は返品だけでなく、目的のシューズを探していることを推測する。AIは消費者にファッション担当オペレーターに電話を転送しましょうかと提案。消費者はイエスと答え、AIはオペレーターに電話を転送した。

AI:One more thing.  Would you like me to connect to an eBay fashion expert to find the right shoes?

オペレーター向けの情報

電話が転送されると、オペレーターのデスクトップには消費者とAIの会話が表示され、今までの経緯を理解することができる。更に、オペレーターが消費者と会話を進めると、AIは対話をリアルタイムで解析し、消費者の意図を把握し、最適な商品を推奨する。このケースでは、AIはハードコート用のテニスシューズを推奨し(下の写真)、消費者はこれを購入して一連のトランザクションが終了した。

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システム構成

このケースではGoogle Cloudで稼働するGenesysのコールセンターシステムが使われた (下の写真、中央部)。消費者(左側)はAI(AI Virtual Agent、中央上部)と対話し、AIが自然言語でクレーム処理のタスクを実行する。次に、AIはオペレーター(右側)に電話を転送する。オペレーターが消費者と会話する際に、別のAI(Agent Assist、中央下部)が会話をリアルタイムで解析し、推奨製品などをディスプレイに表示する。

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インテグレーション

Contact Center AIは既存のコールセンターシステムに統合して利用される。Contact Center AIがインテリジェントな音声対応機能(Interactive Voice Response)を司り、コールセンターの頭脳として機能する。このデモではGenesysが使われたが、この他に、Mitel、Cisco、TwilioなどのシステムでContact Center AIを使うことができる。企業はコールセンター業務をContact Center AIで実行し、人間のオペレーターを知的な業務に振り向けることができる。

Google Duplex

Googleはこれに先立ち、会話型AI「Google Duplex」を公開している。Duplexは人間のように会話するAIで、レストランの店員と話してテーブルを予約する(下の写真)。話し方が人間そっくりで、市場からは驚嘆の声が上がっている。同時に、なぜAIをここまで人間に近づける必要があるのか、議論となっている。Google Duplexは消費者向けのサービスとして登場したが、Contact Center AIに組み込まれ、適用範囲が企業向けに拡大した。

出典: Google

人間の能力を開花させる

Googleは先進的なAIを投入し社会で波紋が広がっているが、企業向けのソリューションであるContact Center AIでは、人間との協調を重視している。Fei-Fei Liは事務的な作業はAIに任せることで、人間は知的な仕事に専念できると説明した。これを「Empowering Human Talent」と呼び、Contact Center AIはオペレーターの職を奪うのではなく、人間の能力を開花させる存在であることを強調した。

AIコールセンター市場

AIコールセンターではIBM Watsonなどが先行しているが、Googleは強みであるAIを全面に押し出して、インテリジェントな機能で先行他社に挑戦する。今回の発表では、各社が独自のAIを開発するためのツールも公開された。業務形態に合わせてAIコールセンターを開発することができる。多様なキャラクターのエージェントが開発され、人間より対応が上手なAIが登場するのか、期待が膨らむ技術である。