Amazonは家庭向けロボットを開発していると噂されている。Googleはこれに対抗して、同じく、家庭向けロボットの開発に乗り出した。Googleは五年前、ベンチャー企業を買収してロボット開発を始めたが、このプロジェクトは頓挫した。GoogleはAmazonに刺激され、ロボット開発を再開し、高度なAIを武器にインテリジェントなシステムを開発している。

出典: Dmitry Kalashnikov et al. |
ロボット開発の経緯
Googleは2013年、プロジェクト「Replicant」を発足し、ロボット開発に乗り出した。ロボット開発は「X」(当時のGoogle X)が担い、Andy Rubinが指揮を取っていた。Rubinは「Android Inc.」創業者で、2005年にGoogleが買収し、スマホ事業の基礎を築いた。Rubinはインテリジェント・マシンに興味を持っており、ドイツの製造会社でロボットエンジニアとして働いていた。
ベンチャー企業買収
Googleはロボット企業8社を相次いで買収した。最大規模の買収はBoston Dynamicsで、同社は、軍事支援ロボットとヒューマノイドを開発していた。日本企業でヒューマノイドを開発しているSchaftも買収された。また、コンピュータビジョンをロボットに応用したIndustrial Perceptionや次世代ロボットアームを開発していたRedwood Roboticsも含まれ、Googleはロボット市場に本格的に参入すると見られていた。
開発を中止
しかし、Googleは突然ロボット開発を中止した。Andy Rubinは2014年にGoogleを離れ、その直後、Replicantは活動を停止した。Googleは買収したBoston Dynamicsの買い手を探していたが、2017年、SoftBankが同社を買収することで合意した。これに先立ち、SoftBankは2012年にAldebaran Roboticsを買収し、ロボット事業を開始した。
中止の理由
Googleがロボット開発を中止した理由はロボットを事業化するのが難しいと判断したため。ロボットは配送センターや組み立て工場使われる工業ロボットが中心で、一般社会で使われるサービスロボットの開発には時間がかかる。Rubinは2020年頃に製品を投入する予定でいたが、Google幹部は短期間で成果を求めており、この意識の相違が中止に繋がった。
ロボット基礎研究
Replicant中止の後も、Googleは高度なAIをロボットに適用する研究を進めてきた。Googleはコモディティハードウェアに最新のAI技法を取り込み、インテリジェントなロボットを開発している。具体的には、Deep LearningとReinforcement Learningをロボットの頭脳として使う。Googleのロボット研究施設は「Arm Farm」と呼ばれ(先頭の写真)、10台超のロボットアームが並列に稼働しスキルを学ぶ。
AI研究内容
研究ではロボットアームでドアのノブを回し、それを手間に引いてドアを開けるタスクが実行された (下の写真)。それぞれのロボットはニューラルネットワークのコピーを搭載し、Reinforcement Learningの手法で教育された。行動(Action)を実行するとき、与えられた環境(Sate)で値(Value)を算定し、ロボットはValueを最大にする方向でActionを決定する。ロボットがタスクを実行するときにノイズを加え、それぞれのロボットは異なる環境でタスクを実行する環境を構築する。

出典: Google |
ロボットクラウド
これらのデータはクラウドに収集されネットワークを最適化する。アルゴリズムは収集されたデータからうまく処理できたケースとそうでないケースを検証し、Actionとタスク完遂の関係を把握し、ネットワークを改良していく。このサイクルを繰り返し、ロボットの性能を向上する。ロボットは数時間の教育でドアを開けることができるようになった。
最新のAI研究
Googleは最新のAI技法「QT-Opt(Q-function Targets via Optimization)」を開発した。Arm FarmにQT-Optを搭載するとオブジェクトをつかむ(Grasp)精度が飛躍的に向上する。QT-Optとは分散型Q-Learning(Reinforcement Learningの一つのモデル)で、連続したアクション(Continuous Action)を安定的に処理できる点に特徴がある。
ロボットでモノをつかむ
ロボットはカメラのRGB画像からオブジェクトを把握し、アーム先端のグリップを開きそれをつかむ。ロボットが複雑な形状のオブジェクトを正確につかむためには高度な技法が要求される。これは「Picking Challenge」と呼ばれ、多くの企業や研究機関がこのテーマに挑戦している。いかに正確にかつ高速にモノをつかめるかがロボットの商品価値を決める。
アルゴリズム教育
アルゴリズムはカメラの画像を読み込み、ロボットアームの動きと、グリッパーの開閉を出力する(下の写真、左側)。最初にオフラインでアルゴリズムを教育し、次に、ロボットを稼働させオンラインで教育する。オフライン教育では1000種類のオブジェクトが使われ(下の写真、右側)、ロボットはこれらを580,000回つかむ試験が実施された。完成したアルゴリズムを使い、ロボットの性能を検証したところ、オブジェクトをつかむ成功率は96%と好成績をマークした。

出典: Dmitry Kalashnikov et al. |
研究の意義
アルゴリズムはオブジェクトを正確に掴むことができるほか、操作をインテリジェントに理解する。アルゴリズムは上手く掴めなかったときには、異なる掴み方を自動で学習する。また、オブジェクトを掴む手法を長期レンジで把握する。(下の写真上段:オブジェクトが纏まっているときはそれを崩す(Singulation)ことを自律的に学習する。中段:立っているローソクはつかみにくいのでそれを倒して実行する。下段:軽くてつかみにくいボールはトレイの端に寄せてつかむ。上の写真右側:煩雑な環境でもオブジェクトをつかむことができる。)

出典: Dmitry Kalashnikov et al. |
実社会への応用
Googleのロボット開発はGoogle BrainとXで進められている。GoogleのArm Farmで開発された技術は、ロボットアームだけでなく、ロボットの基礎技術として応用される。実社会には様々な形状のオブジェクトがあり、それに触れた時、オブジェクトの物理挙動も異なる。ロボットを実社会で使うためには多くの課題を解決する必要があるが、これらの研究がその手掛かりとなる。
家庭向けのロボット
Googleは家庭向けロボットの開発を進めていると噂されている。AIスピーカー「Google Home」は人気商品で、多くの家庭で使われている。GoogleはAIスピーカーを駆動型にしたロボットを開発しているとみられている。ロボットは家の中を自律的に走行し、タスクを実行することとなる。
Amazonに対抗
Amazonは「Vesta」という名前でロボットを開発している。これはAmazonの人気商品Amazon Echoを駆動型にしたモデルである。GoogleはVestaに刺激を受け、ロボット開発を再開したとみられる。AIスピーカー市場ではAmazon EchoとGoogle Homeが競い合っているが、今度はロボットで両社が鎬を削る。両社ともロボット技術はまだまだ未成熟であるが、商品化に向けての開発が進み、大きなブレークスルーが期待される。