合成生物学の手法で食肉を生成するベンチャー企業から新商品が続々と登場し、米国の食品業界が激変している。これらベンチャー企業は「Protein Producers」と呼ばれ、ハイテクを駆使して代替食肉を生成する。生成された肉は「Clean Meat」と呼ばれ健康食品であるだけでなく、地球上の重要な食量源となる。

出典: Impossible Foods |
ベンチャー企業が生成する代替食肉は二種類に分類され、植物ベースの肉(Plant-Based Meat)と細胞を培養して生成する肉(Cell-Based Meat)からなる。Plant-Based Meatとは文字通り、植物をベースとする肉で、肉を構成する要素を植物から採る。植物のたんぱく質、脂肪、ミネラルなどを組み合わせ肉を構成する。既に製品が市場に供給されており、その代表は「Impossible Burger」(上の写真)や「Beyond Burger」(下の写真)などがある。これらは牛肉の代替製品となるほか、Veganとして区分され健康食品として人気がある。
細胞から培養した肉
一方、Cell-Based Meatとは動物の細胞を生成した肉で、工場で細胞を培養し肉を生産する。工場のクリーンな環境で牛肉や鶏肉や魚肉が生成され、これらは「Clean Meat」とも呼ばれる。培養した肉は地球環境へのインパクトが低く、また、動物を殺す必要がないため若い世代から注目されている。多くのベンチャー企業から試作品が登場しており、近年中に商品が出荷されることとなる。
Beyond Burger
植物ベースの肉のなかでBeyond Meatが注目されている。ロスアンジェルスに拠点を置くベンチャー企業で、この技術をハンバーガーパテとして商品化した「Beyond Burger」(下の写真)を販売している。大手スーパーマーケットの食肉コーナーで販売され、パッケージにはハンバーガーパテが二つ入っていて価格は5.99ドル。

出典: Beyond Meat |
グリルで調理
ハンバーガーパテはひき肉をこねて形をつくったように赤色で、表面は粒々の形状をしている。手に持った感触はしっくりとし、本物と見分けがつかない。ハンバーガーパテをバーベキューグリルで焼いて調理する。熱くしたグリルにパテを置き、調理時間は片面で3分間程度。表面は普通のハンバーガーのように少し焦げて薄茶色になる。中は赤いままかピンクに変色し、肉汁を感じさせる。バーベキューには欠かせない食材で、味は本物のハンバーガーに極めて近い(下の写真、右端)。

出典: VentureClef |
レストランで提供
ファストフードレストラン大手Carl’s Jr.がBeyond Burgerを使ったハンバーガーの販売を開始し話題となっている。消費者が健康な食品を求めるなか、Carl’s Jr.は植物由来のハンバーガーの提供に踏み切った。これを「Beyond Famous Star」と命名し、大々的なキャンペーンを展開している(下の写真、店舗のテーブルマットには商品の写真がプリントされ「Beyond Belief!」と記されている)。食べてみるとハンバーガーの味とまったく同じで、植物性蛋白質とはとうてい思えない。今までは健康に配慮してハンバーガーを食べるのを控えてきたが、Beyond Famous Starの登場でまたアメリカの味を楽しむことができる。

出典: VentureClef |
構成要素
Beyond Meatはエンドウ豆 (Pea)、大豆(Soy Bean)、ソラマメ (Fava Beans) から抽出した蛋白質を分子レベルで再構築して食肉を生成する。肉の赤色はビート(Beet)を、肉の香りは酵母(Yeast)から抽出したアミノ酸20種類を使っている。酵母の遺伝子を編集するなど、合成生物学の手法で肉の味を創り出す。Beyond Burgerは1000種類の分子で構成され、その配分や加工プロセスで本物と同じ味や香りを生成する。
市場が急拡大
植物ベースの肉の市場規模は100億ドルといわれている。食肉を置き換える製品としてシェアを拡大しており、2018年度は前年度に比べ売り上げが20%アップした。植物ベースの肉は消費者の幅広い層で売れており、ミレニアル世代からシニア世代まで健康に関する意識の高いグループで購入が進んでいる。
地球環境の問題
そもそもProtein Producersが登場した背景には地球環境が抱える深刻な課題がある。現在、畜産業者が肉牛を肥育し食肉を生成しているが、この手法は環境への負荷が大きく、このままでは事業として成り立たなくなる。家畜が温室効果ガス(Greenhouse Gas)の14.5%を放出し、地球温暖化の主因となっている。また、家畜は牧草や水を大量に消費し、環境へのインパクトが甚大で、これ以上事業規模を拡大することはできない。
人口増加
更に、地球の人口は増加を続け、このままでは食肉の供給量が限界に達する。現在、地球の人口は77億人で、2050年にはこれが100億人となる。新興国で肉の消費量が増え、2050年には食肉供給量を70%増やす必要がある。畜産の手法で肉を供給することは限界となり、代替たんぱく質の生成が必須となる。
著名人が出資
代替たんぱく質の生産がビジネスチャンスであるとともに、地球の食を支える重要な使命を担っている。このためBill Gatesをはじめ多くの著名人が地球環境保全の観点からProtein Producersに出資している。また、大手食肉企業は製品ポートフォリオを拡大するためにProtein Producersとの提携を模索している。いま米国の食品産業が創造的破壊のプロセスを歩み始めた。