植物ハンバーガーが全米に広がる、本物の味と変わらない代替たんぱく質の製造がアメリカの食文化を支える

ハンバーガーはタバコと同じ程度に不健康といわれてきたがその流れが変わった。大手ハンバーガーチェインBurger Kingは植物由来のハンバーガー「Impossible Whopper」(下の写真)の販売を開始した。これはシリコンバレーのベンチャー企業Impossible Foodsが開発したベジバーガーで、健康食品であるとともに、食べると本物の味と変わらない。いまアメリカの食文化と食品産業が大きく変わろうとしている。

出典: Burger King  

ベジバーガーの販売が始まる

大手ハンバーガーチェインBurger Kingは今月からサンフランシスコ地区で植物由来のハンバーガー「Impossible Whopper」の販売を始めた。Burger Kingはこの商品を「Made from Plants(植物由来)」と説明し、健康なハンバーガーとして大々的にプロモーションを展開している。屋外にはImpossible Whopperの大型ポスターが掲げられ、店内にはメニュー中央に大きく表示されていた(下の写真)。

実際に食べてみると

早速食べてみたが本当に肉の味がして美味しかった。Impossible Whopperは大型ハンバーガーで、バンズにミートパティ、トマト、レタス、オニオンなどがのっている。パティは網焼きされ、中はピンク色でみずみずしいはずであるが、少し焼きすぎた感があった。しかし、食べると肉の味と変わらず、通常のハンバーガー「Whopper」と見分けはつかない。植物由来のハンバーガーの中で一番おいしいと感じた。

出典: VentureClef  

高級レストランから大衆レストランへ

Impossible Burgerは2016年に販売が始まり、2019年1月にはその改良版「Impossible Burger 2.0」の出荷が始まった。改良版は味が良くなり、パティの中身がジューシーになり、また、塩分と脂肪分が少なくより健康な食品となった。今までは高級レストラン向けに提供されてきたが(下の写真、美味しかったが価格は20ドルと高い)、今年からBurger Kingが取り扱うことになり、Impossible Burgerが庶民の食べ物となった。Impossible Whopperの価格は6.49ドルで、通常のバーガーより1ドル高いが手頃の値段で食べられる。消費者の反応は良好でImpossible Burgerが全米に普及する勢いとなってきた。

出典: VentureClef  

Impossible Foodsとは

Impossible FoodsはRedwood City(カリフォルニア州)に拠点を置くベンチャー企業で合成生物学の手法でハンバーガーを生成する。スタンフォード大学教授が起業した会社でGV (Google Ventures) やBill Gatesなどが出資している。Impossible Burgerは本物のハンバーガーの構成要素をリバースエンジニアリングして開発された。

何故肉の味を出せるのか

Impossible Burgerが肉の味を出せる秘密は「Heme」という素材にある。Hemeとは血液中のヘモグロビンの色素を構成する物質で濃い赤色の液体(下の写真、手前の容器に入っている液体)。Plant Bloodとも呼ばれ、これをパティに加えると牛肉の色になり、焼くと薄赤色の肉汁となる。Hemeがハンバーガーの味を決める一番重要な材料で、合成生物学の手法(酵母DNAを編集し糖を発酵させる手法、AIやロボティックスが使われる)で生成される。

出典: New Food Economy

製造施設を拡充

Impossible FoodsはパイロットプログラムでImpossible Burgerを生産してきたが、2017年にOakland(カリフォルニア州)工場を開設し量産体制に入った。これによりImpossible Burgerを供給するレストランの数を増やしBurger Kingに供給を始めた。ただ、これでも需要に十分応えることができず生産量の拡大が課題となっている。

Beyond Foodsのハンバーガー

これに先立ち、ファストフードレストラン大手Carl’s Jr.がBeyond Foodsが開発した植物由来のハンバーガーの販売を開始した。これは「Beyond Famous Star」と命名され全米で販売を展開している。消費者が健康な食品を求めるなか、Carl’s Jr.は植物由来のハンバーガーの提供に踏み切った。

アメリカの食文化を支える

ベジバーガーはスーパーマーケットで多種類が販売されているが食べてみて美味しい商品は無い。ここにハイテクを使った植物由来のハンバーガーが登場し、その味が消費者を引き付けている。多くの人は健康に配慮してハンバーガーを食べるのを控えてきたが、Impossible WhopperやBeyond Famous Starの登場で、再びアメリカの味を楽しめるようになった。合成生物学で生成される代替たんぱく質がアメリカの食文化を支えている。