FacebookのLibra(リブラ)が世界に衝撃を与えているが、各国の対応は分かれている。フランスとドイツはLibraを認めないとする共同声明を発表した。ユーロ圏内で統一してLibraを規制する方針を示した。一方、中国はLibraを規制するものの、対抗する暗号通貨の開発を急いでいる。この暗号通貨は数か月以内に運用が始まるといわれ、フィンテック市場でも中国が米国に対峙する形となる。

出典: People’s Bank of China |
発表概要
中国の中央銀行にあたる中国人民銀行(People’s Bank of China)は、暗号通貨を開発しており、数か月以内に運用を始めることを明らかにした。同行のデジタル通貨研究所「Digital Currency Research Institute」の責任者Mu Changchunが明らかにし、上海証券報(Shanghai Securities News)が報道した。
暗号通貨とデジタルワレット
中国人民銀行が開発している暗号通貨はDC/EP(Digital Currency and Electronic Payment tool)と呼ばれる。DC/EPは流通している通貨をデジタルにしたもので、支払いツールとして機能する。専用のデジタルワレットをスマホにダウンロードしてDC/EPを利用する。
利用方法
支払いの際にはネットワークは不要で、スマホ同士をタッチするだけでトランザクションが完了する。通貨と同じくネットワーク環境が整っていない場所でも使える。ただ、スマホに近距離通信機構などが必要になると思われるがシステム要件については公表されていない。また、DC/EPは銀行口座を持たなくても使うことができる。ただし、DC/EPにお金をチャージする際は銀行口座とネットワーク環境が必要となる。
システム構成
DC/EPは二階層で運用される。中国人民銀行がDC/EPのコアシステムを運用し、ここに金融機関が加盟し、それぞれのシステムを運用するかたちとなる。7社が加盟する予定で、この中にはAlibaba、Tencent、UnionPayが含まれている。金融機関がシステムを運営する際には、ブロックチェインまたは従来の経理システムを使うことができるとしている。ブロックチェインを使わないケースではDC/EPは暗号通貨の定義から外れることになる。
中央銀行と金融機関の役割
DC/EPの運用は通貨の運用に類似しており、金融機関は中国人民銀行に口座を持ちDC/EPを購入する。利用者となる個人や企業は金融機関からDC/EPを購入し、それをデジタルワレットで使う。Libraと対比すると、中国人民銀行がLibra Associationに相当し、加盟している金融機関がFacebookなどに相当する。またデジタルワレットはCalibraのような機能を持つ。
国家が暗号通貨を運用する目的
中国では既にAlibabaやWeChat がデジタル通貨を運用しておりキャッシュレスの社会が出来上がっている。キャッシュレスの処理金額は59兆元(2019年第一四半期)で、Alipayがその1/2を、WeChat Payがその1/3を担っている。このような環境に暗号通貨を導入する狙いは、中国政府が通貨主権を守ることにある。また、民間企業が国家の通貨運用を担うと、会社が倒産した際に社会に与える影響が甚大となる。更に、仮にLibraが中国で普及すると、ドルやユーロや円に裏付けられたLibraが人民元(Renminbi)の価値を脅かすことになる。

出典: Alipay |
Libraが開発を加速させた
中国人民銀行は2014年から専属の研究チームを設け暗号通貨の開発を進めてきた。その目的は、通貨の流通量を減らし運用コストを下げ、また、マネーサプライ政策を効率的に行うことであった。FacebookがLibraを発表したことでDC/EPの運用が早まった。Libraが中国の暗号通貨開発を加速させたことになる。
課題を抱えての船出
DC/EPが投入されると世界最大規模の暗号通貨エコシステムが構築されることになる。DC/EPはビットコインと異なり、価値が安定し、安全に利用できる。また、ビットコインのように匿名で使うことはできず、資金洗浄や人民元の海外への流出を防止できる。一方、DC/EPが銀行やAlibabaなどの事業にどう影響するのか見通せない部分も多い。また、キャッシュレスが普及している社会で本当にDC/EPが使われるのかも疑問視されている。様々な課題を抱えて中国人民銀行の暗号通貨プロジェクトが稼働することになる。