Googleの持ち株会社Alphabetはロボット開発を進めているが、2019年11月、最新状況を公開した。ロボットは「Everyday Robots」と呼ばれ、家庭やオフィスで日々のタスクを実行する。ロボットは自分で学習する機能を備え、煩雑な環境の中を自律的に動き、ごみの分別などをこなす。最終的には家庭に入り、家事をこなし、高齢者の介護を手掛ける。Everyday Robotsは高度なAIが求められ、Google BrainやWaymoと密接に開発研究を進める。

出典: Alphabet X |
ロボットの概要
ロボットはGoogleのムーンショット工場「Alphabet X」で開発されている。ロボットは駆動機構に円柱状の本体が乗り、ここにアームが接続されている(上の写真)。頭部にカメラなどのセンサーを搭載し、AIがイメージを解析し周囲の環境を理解する。煩雑なオフィスの中を社員に交じって安全に移動する。
ロボットの視覚とアーム操作
ロボットはアーム先端のグリッパーで日常のオブジェクトを掴んだり動かしたりする(下の写真)。ロボットは搭載されたセンサーで収集したデータを解析し、何を見ているのか、また、何を聞いているのかを理解する。更に、ロボットは世界の中でどこにいるのかを把握し、日常生活の中で人間に交じり、タスクを安全に実行する。つまり、ロボットは常識を持ち人間の同僚のように振る舞う。

出典: Alphabet X |
ロボットの位置付け
いまのロボット(下のグラフ、Industrial Robotics)は管理された環境で厳密に定義されたタスクを実行する。自動車工場の製造ロボットがこれに該当し、規定されたパーツを定義された動作とタイミングでシャシに搭載する。このために、操作を逐一プログラミングする構成で、ロボットはそれに沿って正確に稼働する。この結果、ロボットはオフィスや家庭のように予定外の事象が発生する環境では動くことはできない。

出典: Alphabet X |
汎用学習ロボット
これに対して、Everyday Robotsは人間に交じり、想定外の事象が起きる環境で、日々のタスクを安全に実行する(上のグラフ、Everyday Robots)。自動運転車より難易度が高いというポジショニングとなる。また、Everyday Robotsは人間のしぐさを見てタスクの実行方法を学び、また、他のロボットから学習する機能もある。そして、ロボットはクラウドのシミュレーション環境の中でタスクを学んでいく(下の写真、Lidarで周囲のオブジェクトを把握している様子)。

出典: Alphabet X |
ごみの分別を学習
Everyday Robotはごみを分別するタスクを学習している(下の写真)。箱に入っているごみを、ボトルはリサイクルのトレイに、また、紙コップはランドフィルのトレイに移し替える。ロボットはごみの種類を把握して、それをグリップで掴み、指定された場所に移す。学習を重ね、今では95%の精度でごみの分別ができる。数多くのロボットが並列してごみ分別タスクを実行することで学習速度を上げる。

出典: Alphabet X |
Googleのロボット開発の歴史
Googleのロボット開発は紆余曲折を経て今の形に収束した。Googleがロボット開発に着手したのは2013年12月で、Android生みの親Andy Rubinが指揮を取った。GoogleはBoston Dynamicsなどのロボットベンチャーを相次いで買収した。しかし、ロボット開発は難航し、プロジェクトは中止となり、GoogleはBoston DynamicsをSoftBankに売却した。更に、Rubinは人事問題で2014年末に会社を離れ、Googleのロボット開発は失敗の象徴として語られる。
ロボット開発再開
しかし、2016年ころ、Googleのロボット開発はAlphabet Xに集約され、ここで再出発することとなった。今度は最新のAIをロボットに適用することでインテリジェントなロボットを目指した。Googleのアプローチはコモディティ・ハードウェアに最新のAI技法を取り込み高度なロボットを開発するというもの。研究施設にはロボットアームが40台並び、オブジェクトのピッキングなどのタスクが実施された。多数のロボットアームが稼働することから、この施設は「Arm Farm」と呼ばれた。ロボットが多重でタスクを実施することでアルゴリズムを教育する速度が向上した。
深層強化学習
この頃、DeepMindは深層強化学習(Deep Reinforcement Learning)という手法で囲碁システム「AlphaGo」を開発し、人間の囲碁のチャンピオンを破った。Googleはこの手法をロボットに応用し、学習速度をあげるアプローチを取った。AlphaGoがシミュレーション環境で囲碁の技を磨いてきたように、ロボットもシミュレーション環境でピッキングを繰り返しスキルを上げた。

出典: Google |
Alphabet Xキャンパス
Everyday Robotはこの延長線上にあり、ロボットは、昼間は研究所の中でごみ分別作業を繰り返し、夜間はシミュレーション環境でこのタスクを実行する。ちょうど、自動運転車Waymoが市街地を走行し、同時に、シミュレーション環境で試験走行を繰り返すモデルに似ている。WaymoとEveryday RobotはAlphabet Xの同じキャンパスで開発されている(下の写真)。また、ロボットはWaymoが開発したLidarを搭載しており、これで周囲のオブジェクトを把握し、自動で走行する。

出典: VentureClef |
ブレークスルーはあるか
Everyday Robotsは深層強化学習など高度なAIを搭載し、自分でごみの分別方法を学んでいく。ごみの分別ができると次のタスクに進むが、既に基礎教育ができているので、研究チームは新しいスキルを短時間で習得できると見込んでいる。ロボットは異なるタスクでも学習速度をあげ、Everyday Robotは汎用学習ロボットに到達するというシナリオを描いている。しかし、この仮説が実証された事例はなく、本当に汎用学習ロボットに到達できるのか、大きな挑戦となる。Googleの高度なAIでこの壁を破れるのか、世界が注目している。