顔認識AIの危険性が暴露、我々の顔写真が全米の警察で使われている!!

FacebookやTwitterに投稿した顔写真が全米の警察の犯罪捜査で使われていることが判明した。日本人を含む消費者の顔写真が顔認識システムに組み込まれ、犯罪者割り出しに使われている。警察は容疑者の写真を撮影し、それを顔写真データセットで検索し、容疑者の身元を割り出す。その時に使われる顔写真データセットは、ソーシャルメディアに掲載されている顔写真をダウンロードして作られた。写真の数は30億枚を超え、我々の顔写真が含まれている可能性は極めて高い。警察は容疑者の身元を特定でき犯罪捜査が効率的になると評価している。一方、消費者は本人が知らないうちに顔写真が使われ気味悪さを感じている。顔認識システムの暴走がAIに対する不信感を増長している。

出典: Clearview

Clearviewという会社

この技術を開発したのはNew Yorkに拠点を置くベンチャー企業「Clearview」で世界最強の顔認識システムともいわれている(上の写真)。Clearviewはサイトに公開されている顔写真をダウンロードして顔写真のデータセットを作成した。写真の数は30億枚を超え、世界最大規模の顔写真データセットとなる。Clearviewの技術は米国主要都市の警察に提供され、容疑者の身元を特定するために使われている。警察はスマホで容疑者の顔を撮影し、それをキーにデータセットを検索すると、容疑者のIDが分かる。

使い方はシンプル

Clearviewは顔認識技術をスマホやパソコン向けのアプリとして提供している。スマホで撮影した顔写真はアプリで解析され、その人物に関する情報を表示する。例えば、スマホで記者の顔写真を撮影すると(下の写真、右下の丸の部分)、アプリはその顔と同一人物の顔写真を出力する(下の写真、中央部)。出力した顔写真の下には、それが掲載されているサイトのURLが示され、このサイトを閲覧することで氏名などの個人情報を得ることができる。

出典: CBS News

顔写真データセット

Clearviewは顔写真データセットを制作するために、サイトに公開されている顔写真をスクレイピングした。スクレイピングとはウェブページに掲載されている顔写真ファイルをダウンロードすることで、YouTube、Facebook、Twitter、Venmoなど、ソーシャルネットワークを中心に顔写真が収集された。収集した顔写真の数は30億枚に上り、世界最大規模の顔写真データセットが誕生した。登録されている顔写真の数が多いほど、顔認証システムの判定精度が高くなる。

シカゴ市警察で犯罪捜査に利用

Clearviewの判定精度は極めて高く、それが口コミで広がり、全米の警察関係者がその存在を知ることになった。今では600を超える警察で使われている。シカゴ市警察は専任スタッフが犯罪捜査で容疑者を特定するためにClearviewを使っている。具体的には、犯罪者データベースに格納されている被疑者の顔写真をClearviewに入力し身元を特定する。また、犯罪現場では、被疑者の顔写真を撮影し、これをClearviewで解析してIDを特定する。

フロリダ州では迷宮入りの事件を解決

フロリダ州ゲインズビル市警察は「FACES」と呼ばれる顔認識ツールを使ってきた。FACESはFBIが開発した顔認識技術で、全米の警察が犯罪捜査ツールとして使っている。しかし、Clearviewを使うとFACESで特定できなかった容疑者の身元が次々と判明した。Clearviewの顔写真データセットは世界最大規模で、カバーする人物の数が多いため、迷宮入りになった事件が解決されている。

ニュージャージー州はClearviewの使用を禁止

しかし、ニュージャージー州の司法長官はClearviewの使用を禁止する通達を出した。ニュージャージー州警察はClearviewを利用しており、顔認識技術を犯罪捜査に使うことで、事件を早く解決できる。このため、司法長官はこの顔認識技術を使うことに関しては肯定的な評価をしている。一方、Clearviewのケースでは、顔という生体情報が消費者の許諾なく収集されていることに問題があると指摘する。この問題が解決されるまではClearviewの使用は禁止される。

顔写真を収集する手法

Clearviewが顔写真を収集する手法が議論となっているが、この事例は個人データを利用する事業者に本質的な問題を提起する。Clearviewは、YouTubeやFacebookやTwitterなどに掲載されている顔写真ファイルをスクレイピングするが、これらは消費者が投稿したもので、写真は公開情報であり、それを収集することは違法ではない。事実、米国には公開情報を収集することを禁止する法令は無い。また、セレブのデータセット「CelebA」(下の写真)は、サイトから20万枚の顔写真をスクレイピングして生成されたが問題とはなっていない。

出典: Multimedia Laboratory, The Chinese University of Hong Kong

YouTubeやTwitterは写真消去を要求

Clearviewの存在が明らかになり、顔写真がスクレイピングされている事実が判明し、これらのサイトは一斉に写真の収集を停止するよう求めている。YouTubeやTwitterやVenmoは、Clearviewにサイトから顔写真をスクレイピングしないよう書簡を送った。また、収集したデータを消去することも求めている。掲載されている情報をスクレイピングすることはサイトの利用規約に反すると説明している。特に、YouTubeは使用規約で、本人を特定するためにデータを使うことを禁止している。

スクレイピングは憲法で保障された権利

これに対して、ClearviewのCEOであるHoan Ton-Thatは、企業が公共のデータにアクセスする権利は、アメリカ合衆国憲法修正第1条(First Amendment)で保障されていると主張する。修正第1条は「表現の自由」や「報道の自由」などの権利を定めており、公開されている情報を収集することは、憲法でその権利が保障されているとのロジックを展開している。

顔認識システムについての議論

Clearviewは警察だけに提供されており、一般には公開されていない。警察がテロリストや犯罪者を特定し、社会の治安が保たれるとの期待から、これを容認する意見もある。しかし、警察が使用範囲を広げ、デモ参加者を特定する使い方が始まると、この限りではない。更に、企業や個人がこの技術を手にすると、その危険性がぐんと広がる。街中で我々の写真が撮られると、即座に氏名や住所や所得などの個人情報が判明し、プライバシーは消滅する。恐れていた事態が現実となり、米国で顔認識システムについて国民的議論が始まった。