遺伝子変異から新型コロナウイルスの感染経路を解明、中国での感染拡大と同時に世界に拡散

新型コロナウイルスが世界各国で広がり世界保健機関(WHO)はパンデミックを宣言した。トランプ大統領は、国家非常事態宣言を発令し、新型ウイルス対策に500億ドル支出する。新型コロナウイルスはどのように広がったのか、ウイルスの遺伝子解析でその経路が見えてきた。

出典: Nextstrain

Nextstrain

これはNextstrainが開発したソフトウェアによるもので、新型コロナウイルスの感染経路をグラフィカルに表示する(上の写真)。これを見ると世界でどのように感染が進んだのかを時系列に把握できる。新型コロナウイルスの遺伝子解析の結果をもとに経路を推定した。Nextstrainは非営利団体の研究機関でオープンソースの手法でウイルスの感染をリアルタイムに把握する技術を開発している。過去にもインフルエンザ、エボラ出血熱、ジカウイルスの感染経路の解析を実施している。

新型コロナウイルスの発祥地

新型コロナウイルスの遺伝子は頻繁に変異を起こし、それを手掛かりに感染経路を特定する。遺伝子が変異し多くの種別が生まれるが、それを「家系図」で示している(下の写真)。ウイルスの遺伝子は左から右に向かって変異していく。左側が先祖で右側が子供となる。丸印は感染者を表わし、丸印と丸印の間で遺伝子が変異している。左右の実線は遺伝子の世代関係を示す。

ウイルスは発生場所により色分けされている。紫色の部分が武漢で検出されたウイルスで、これらは左端に集中している。これらが新型コロナウイルスの初期の患者となる。更に、世界各国で検知されたウイルスはこの子孫にあたり、新型コロナウイルスの最初の感染は武漢で起こり、それが各国に拡大したと推定される。(緑色系は欧州各国で、赤色は米国を示す。日本は薄い青色で示されている。)

出典: Nextstrain

ウイルスが拡大したルート

Nextstrainはウイルスが広がった経路をマップ上にアニメーションで示している。武漢で新型コロナウイルスが急拡大すると同時に、2020年1月中旬には、これが世界に蔓延した(下の写真)。米国では主要都市に、欧州ではイギリス、フランス、ドイツ、イタリアなどに広がった。この時期に、日本にもウイルスが持ち込まれた。

出典: Nextstrain

武漢での新型コロナウイルスの急拡大を受け、各国は中国からの入国を禁止する措置を取り、2月中旬にはウイルスの移動は止まった(下の写真)。

出典: Nextstrain

中国からの感染は止まったものの、この時点では既に手遅れで、欧州と米国で感染者数が急増した。3月上旬には欧州域内で感染が広がるとともに、今度は、欧州から他の地域へウイルスの移動が始まった(下の写真)。米国は3月13日、欧州からの入国を制限したが、既に米国内で感染者が急増している。

出典: Nextstrain

欧州内での感染経路

今では欧州が新型コロナウイルスの発生場所となっている。欧州では同じグループの遺伝子が多数の国で検出され、欧州ではウイルスが国を跨って循環していると推定される(下の写真)。特に、イギリス・ドイツ・オランダ間で同じタイプのウイルスが循環している。

出典: Nextstrain

米国の感染経路

米国には異なるルートで中国からウイルスが持ち込まれた(下の写真)。米中間は人の行き来が多く、多くの都市で感染が広がった。いまワシントン州で市中感染が大規模に発生しているが、これらのウイルスを解析すると、武漢から持ち込まれたウイルスの子孫にあたる。

出典: Nextstrain

イランからの感染が広がる

イランで感染者が急増しているが、これが世界に広がっている。イランを訪問した人が世界各地にウイルスを持ち込んでいる。特に、オーストラリア、ニュージーランド、英国、米国などに広がっている。イラン国内の感染者の遺伝子情報はないが、各国にもたらされた遺伝子は極めて類似性が高く、イランでは一種類のウイルスが国内に蔓延していると推定できる。

出典: Nextstrain

日本の感染経路

日本には数回にわたり新型コロナウイルスが持ち込まれた。これらはすべて武漢からで、これ以外の国からの感染は無い。1月下旬に、大阪、奈良、京都でウイルスが検知され、その直後、静岡と東京でウイルスが検知されている。日本には1月下旬に集中的にウイルスが武漢から流入している。ただし、日本のサンプル数は11と少なく、2月以降のデータはなく、武漢以外の感染経路は特定されていない。

出典: Nextstrain

感染を防ぐには

これらのグラフを見ると武漢で新型コロナウイルスが蔓延し、このウイルスが世界各地に持ち込まれたことが分かる。多くの国で中国からの入国を制限したが、その時点では既に多くの感染者が入国している。米国では最初の感染者は1月15日に武漢からワシントン州に帰国した人物に特定された。いまシアトル近郊で大規模な集団感染が発生しているが、遺伝子解析の結果、そのルーツは最初の感染者にあることが分かっている。

ウイルスのアウトブレークを監視

米国政府は2月初旬に中国からの入国を制限したが、その時には既に米国内で感染が広がっていた。いかに早くウイルスのアウトブレークを検知し、移動を制限するかが決め手となる。米国では新しいタイプのウイルスのアウトブレークを監視する団体が活動しているが、この役割の重要性が改めて認識されている。

経路推定のメカニズム

新型コロナウイルスはRNAタイプのウイルスで、RNAは約3万対の塩基から構成されている。ウイルスが増殖するときにRNAが複製されるが、エラーチェック機能がなく、頻繁に複製の間違い(変異)が起きる。平均して、ウイルスが二回感染すると、RNAは一回変異を起こす。多くの種類のRNAが生成されることになり、これを手掛かりに遺伝子の成長の過程を解析する。この手法は「Pathogen Phylogenies」と呼ばれる。実際には、世界各地でウイルスの遺伝子解析が行われ、その情報はGISAIDに集約される。NextstrainはGISAIDの遺伝子情報を使い、その配列を解析してウイルスが感染した経路を推定した。GISAIDはドイツ・ミュンヘンに拠点を置く非営利団体で医療技術の研究を推進している。