GoogleはAIで新型コロナウイルスの3D形状を解明、この情報が治療薬開発を加速する

新型コロナウイルスの感染者数が30万人を超え世界は危機的な状況となった。病気を防ぐワクチンや治療薬がないため、感染が拡大し病気が重篤化している。世界の研究機関はワクチンや治療薬の開発を急いでいる。Google系DeepMindはAIを使い新型コロナウイルスの3D形状を推定した。医薬品開発では病気を引き起こすたんぱく質の形状が決定的に重要で、AIがワクチンや治療薬の開発を加速するのか期待が寄せられている。

出典: DeepMind

AlphaFold

DeepMindはたんぱく質の形状をニューラルネットワークで推定する研究を早くから進めている。このAIは「AlphaFold」と呼ばれ、遺伝子情報を解析し、たんぱく質の3D形状を推定する。つまり、たんぱく質を生成する遺伝子配列を読み込むと、たんぱく質の形が分かるというもの。DeepMindはAlphaFoldを新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に適用し、その形状を推定した(上の写真)。これは新型コロナウイルスの「Membrane Protein」(下の写真、ウイルスの膜に付着しているたんぱく質)といわれる部分で、治療薬の開発には不可欠な情報となる。

たんぱく質の形状が持つ意味

たんぱく質の形状が注目されるのは、その形が機能を決めるからである。細胞内のたんぱく質の形状を見ることで、その役割が推定される。これにより、対象とするたんぱく質(例えばがん細胞)の形に作用する薬の開発に繋がる。新型コロナウイルスも同様で、ワクチンや治療薬を開発するにはウイルスの形状が決めてとなる。しかし、従来の手法(低温電子顕微鏡など)では形状を特定するまでに数か月かかり、この緊急事態に対応できない。このため、DeepMindは既に開発を進めていたAlphaFoldを新型コロナウイルスに適用し、その形状を推定した。

出典: Nature

Protein Folding Problem

たんぱく質はアミノ酸の配列で構成される(下の写真)。アミノ酸と別のアミノ酸が結合するとき、両者の距離や結合角度が決まる。これにより、アミノ酸結合は、らせん配列(Alpha Helix)とシート配列(Pleated Sheet)という構造を取る。更に、これらが絡み合い3D構造のたんぱく質ができる。たんぱく質がどのように折り畳まれているかを解明する研究を「Protein Folding Problem」と呼び、過去数十年にわたり研究が続いている。

出典: DeepMind

ニューラルネットワークの技法

AlphaFoldは三つのニューラルネットワークを使ってたんぱく質の形状を推定した(下の写真)。最初のネットワークはアミノ酸の配列から、それぞれのアミノ酸の間隔と結合角度を推定する。ここでは教育データとして実際のたんぱく質とその距離や角度のデータが使われた。二つ目のネットワークは推定されたたんぱく質の形状がどれだけ正確かを算定する。三つ目のネットワークは、これらの情報からたんぱく質の3D形状を描き出す。

出典: DeepMind

出力結果の検証

このプロセスを新型コロナウイルスに適用し、その形状を推定したのが先頭の写真となる。ただし、これはAlphaFoldによる推定で、実際にこの形状が正しいかどうかは検証されていない。実験で新型コロナウイルスの形状を決定するまでには時間を要し、DeepMindはこの確認を待たないで解析結果を公表した。未確認の情報であるがこれを研究開発に役立てほしいとしている。

体内で生成されるたんぱく質

AlphaFoldは新型コロナウイルスだけでなく、他の病気の治療薬を開発するために開発が続いている。医学分野では、人間の体内で生成されるたんぱく質の構造についての研究が進んでいる。既に、体内で生成されるたんぱく質の中で、その半分について構造が分かっている。これらの情報はProtein Data Bankに登録され一般に公開されている。世界の研究者はこれらたんぱく質の形状を理解し新薬の開発を進めている。

AIを創薬に応用

しかし、遺伝子変異により人間のたんぱく質の構造が変わり、これが原因で病気を引き起こす。これらの病気を治療するためには、変異したたんぱく質の構造を理解する必要がある。この分野でAlphaFoldが活躍し、難病の治療に繋がると期待されている。また、新型コロナウイルスのように新しい種類のウイルスの形状を解析するためにも有益なツールとなる。

医療以外の応用分野

AlphaFoldは医療だけでなく環境問題を解決するツールとしても期待されている。いまプラスチックが海に流れ出て環境汚染が深刻化している。AlphaFoldはプラスチックを生物学的に分解する(Biodegradable)技法の開発を目指している。プラスチックを分解する酵素の発見がゴールとなりAIでその形状を推定する。