新型コロナウイルスのパンデミックはいつ終息する?統計的には国民の大半が感染するまで続く

米国で新型コロナウイルスの感染が爆発的に拡大し、主要都市はロックダウン(shelter-in-place)の状態となった。住民は自宅に留まることを求められ、外出時には他人と一定の距離を取ること(Social Distancing)が義務付けられた。このため、全米の主要都市で経済活動は止まり、失業者が急増している。新型コロナウイルスがいつ終息するのか見通せない日々が続き、社会生活や企業活動に不安が広がっている。(下の写真、サンフランシスコの観光地は閑散としている。)

出典: The Mercury News

いつまで感染が続くのか

世界各国は新型コロナウイルスを抑え込むことに失敗した。SARSやMERSでは一定の成果を上げたが、新型コロナウイルスではけた違いに大きな被害が広がっている。主要都市を閉鎖して感染拡大を阻止しているが、これがいつまで続くのか先が見えない日々が続いている。統計的には、感染病が終息するためには集団免疫(Herd Immunity)が形成されることが前提となる。

集団免疫とは

集団免疫呼とは住民の大部分が免疫を持つことで感染病の拡大を防ぐことを意味する。多くの住民が免疫を持てばこれが楯となり、病気が爆発的に感染することを防げる。一般には、ワクチン接種で抗体が生成され、これが感染症に対する免疫となるが、新型コロナウイルスにはワクチンは無い。このため、新型コロナウイルスでは、感染して病気になり、自力で快復して抗体を得るしか手がない。

病気のうつりやすさ

集団免疫は病気の感染の度合いにより決まる。病気が感染しやすい場合は集団免疫の数値は上がり、多くの人が免疫を持たないとアウトブレークは止まらない。病気の感染のしやすさは基本再生産数(Basic Reproduction Number、略称はR0)と呼ばれ、一人の患者から何人に感染するかという指標となる。平均して一人の患者から二人に病気がうつると基本再生産数は2となる。

国別の基本再生産数

新型コロナウイルスに関して国別に基本再生産数が公開されている(下のグラフ)。米国では1.9 – 5.9と非常に高い値を示している。一方、日本の基本再生産数は極めて低く0.6 – 1.1となっている。ただし、この集計は3月19日現在のもので、日本において感染が急拡大する前の値である。この指標は各国が実施している感染対策がどれだけ効果があるかを示している。

出典: Centre for the Mathematical Modelling of Infectious Diseases

集団免疫を計算すると

この基本再生産数を元に集団免疫を計算すると、米国は0.47 – 0.83となり、国民の半数以上が免疫を持つまでパンデミックは止まらないことを示している。米国の人口は3.2憶人超で、1.5億人から2.7億人が感染すると病気が終息する。日本の基本再生産数は0.6 – 1.1で、3月19日時点では、感染は収束に向かっていることを示している。

二つのルート

新型コロナウイルスにはワクチンが無いため、免疫を得るためにはウイルスに感染して抗体が作られるのを待つしかない。このため、素早く集団免疫に到達するため、都市をロックダウンしないで通常の生活を送らせる方式を取る国がある。これはスウェーデンとブラジルで、集団免疫に早く到達できることに加え、経済活動を停滞させという大きなメリットも見込んでいる。特に、ブラジルは国民の健康より経済活動を優先しているともいわれる。しかし、両国では感染者数に対する死亡者数の割合が大きく、無謀な選択だとして世界から批判されている。

いつまでロックダウン

この方式では、患者数が急増し治療のためのベッドやICUの数が足らず、医療崩壊につながる。このため、他の国々は緩やかに集団免疫に向かうルートを選択している。都市をロックダウンし、ソーシャルディスタンシングを取り、感染のピークを押さえる方式を取っている。では、いつまでロックダウンを続けると感染を抑え込めるのかが議論となる。

米国は30日間

米国では、トランプ大統領は4月30日までこの措置を続けるよう求めている。しかし、医療関係者は医療崩壊を防ぐためには、少なくても3か月のロックダウンが必要であると主張する。ロックダウンが長引くと企業活動が停滞し、経済に重大な影響を及ぼすため、感染防止と経済活動のバランスをどうとるか難しい選択となる。

出典: The Hill

気になるレポート

このような中で英国Imperial Collegeから気になる研究レポートが発表された。レポートは、ワクチンが無い中で感染のピークを押さえるために、今年8月までロックダウンを継続する必要があるとしている。一方、9月にロックダウンを緩めると、今年の後半に再び感染が広がると予測している。4月から8月までロックダウンを続け、その後これを解除すると、11月に大きく感染が広がる(下のグラフ)。これは英国の感染者数の予測であるが、このトレンドは日本や米国にも当てはまる。

出典: Imperial College

グラフが意味すること

上のグラフはウイルス対策と患者数(ベッドの数)の関係を示している。黒色の実線:何も対策を取らないと5月に患者数が急増するが、今年後半にはピークは現れない。緑色の実線:学校閉鎖など厳しい対策を取ると患者数は抑えられる。しかし、その後対策を緩めると11月に大きなピークが発生する。

今年後半にも対策が必要

これは集団免疫の考え方によるもので、基本再生産数を2.6としており、住民の62%が免疫を得るまでは感染が続くことになる。いま感染のアウトブレークを押さえるために厳しい対策を取るが、対策が緩和されると感染症がぶり返す。そのため、今年後半に再び対策が必要になることを示している。

年内は厳戒態勢

今は目の前の感染を押さえるために手一杯で、今年後半の対策については考えが及ばないのが実情である。しかし、ワクチンができるまでは感染対策と病気拡大のサイクルが繰り返される。このため、少なくとも今年いっぱいは厳戒態勢で臨む必要がある。