米国で新型コロナウイルスの感染が拡大しているが、ピークは来週といわれ峠を越そうとしている。全米の主要都市がロックダウンされ厳しい対策が続くが、いつ都市閉鎖を解除し通常の生活に復帰できるかが関心事となる。その手掛かりの一つが血液検査で、抗体があれば再び病気にかからないと解釈される。抗体検査で陽性の人から社会に復帰する仕組みが議論されている。(下の写真、米国の感染者数の分布、患者はニューヨーク地区に集中している。)

出典: New York Times |
全米で抗体検査を実施
アメリカ国立衛生研究所(National Institutes of Health)で感染症対策の指揮をとるアンソニー・ファウチ(Anthony Fauci)博士はCNNとのインタビューで、抗体検査が必要であるとの認識を示し、米国内で大規模な検査を実施するとの見通しを示した(下の写真)。また、ファウチ博士は抗体検査で陽性であれば新型コロナウイルスに対する免疫があることを示す「証明書」を発行するとの考え方も示した。この証明書が社会復帰のためのパスポートとなり、ロックダウンを解除するためのツールとなる。ファウチ博士はトランプ政権の新型コロナウイルス・タスクフォースの中心的存在で、国民に病気に関する正確な情報を発信し続けており、いま一番信頼されている人物でもある。

出典: CNN |
感染の範囲を把握
これに先立ち、アメリカ疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention)は新型コロナウイルスの感染者数についてより詳細な調査を始めた。これは血液検査で新型コロナウイルスの抗体があるかどうかを調べるもので、検査結果が陽性であれば被験者は過去にウイルスに感染していると解釈される。新型コロナウイルスでは病気の症状が出ない(Asymptomatic)人が多く、感染者数は報告されている数字よりかなり多いと推測される。抗体検査を実施することで見落とされていた感染者を把握し、病気の実態を正確にとらえることを目標にしている。
抗体検査が始まった
既に、カリフォルニア州で新型コロナウイルスの抗体検査が始まった。サンタクララ群では3000人の被験者から血液を採取して検査を実施した。また、ロサンジェルス群では今日から試験が始まり、1000人の被験者を対象に検査が実施されている。これらはCDCの検査と同様に、新型コロナウイルスの感染の範囲を正確に測定するために実施される。
スタンフォード大学
これとは別に、スタンフォード大学病院(Stanford Medicine)は医師やナースなど医療従事者を対象に抗体検査を実施している。これは、医療従事者のだれが感染のリスクが低いかを把握するために実施されている。検査結果が陽性であれば感染のリスクは下がり、安心して治療にあたることができる。
抗体とは
抗体(Antibody)とは血液の白血球(White Blood Cell)から作られるたんぱく質で、感染を防ぐために作用する。抗体はウイルスに結合し、ウイルスが細胞に感染するのを防ぐ。また、抗体は感染が終わっても長い間血液の中に留まる。つまり、抗体の存在はウイルスに感染した証拠であり、感染病の真の範囲を把握できる。更に、抗体があれば再び病気に感染する可能性は低く、通常の社会生活を送ることができる。このため、抗体は職場復帰へのパスポートとも解釈される。
抗体検査方法
抗体検査は被験者が特定の抗原(Antigen、ウイルスなどの病原体)にさらされたかどうかを判定する。検査ではELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)という方式が使われ、ウイルスの抗原に似た物質を使って調べる。検体に抗体が存在すると抗原と結合し、試薬の色が変わるなどの仕組みとなる。
抗体検査キット
既に、Cellex社から抗体検査キットが提供されている(下の写真)。これはアメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration)が承認した最初のケースで、消費者は家庭で手軽に抗体検査ができる。被験者は指先で採血し、それを検査容器(下の写真、手前の白い容器の円形の部分)に入れ、ここに試薬を入れることで結果が出る。検査時間は10分程度で手軽に検査ができる。

出典: Cellex |
病気感染の検査
これに対して、新型コロナウイルスに感染していかどうかを調べるにはスクリーニングテスト(Diagnostic Tests)が使われる(下の写真、ドライブスルー方式の試験場)。これは現在実施されている試験でRT-PCRテストとも呼ばれる。この試験では検体に新型コロナウイルスのRNAがあるかどうかを調べる。新型コロナウイルスでは感染しても症状がでない患者が多いといわれている。このため、症状のない感染者はスクリーニングテストの対象から外され感染者数が少なく推定される。

出典: SF Chronicle |
不明な点が多い
新型コロナウイルスに関するデータは少なく抗体について不明な部分が多い。新型コロナウイルスは新しい病気で、抗体がいつまで存在し続けるのかは分かっていない。来年、新型コロナウイルスが再発しても病気にかからないという保証はない。また、感染してから抗体ができるまでに10日かかるといわれており、抗体ができたあとも病気を感染させるケースもある。これらの要素を考慮してロックダウン解除の手段を講じていくことになる。
社会復帰のシナリオ
米国の主要都市は閉鎖状態で、企業や小売店や飲食店の営業活動が止まり、多くの人が職を失っている。アメリカ合衆国労働省によるとこの三週間で1700万人が職を失い、労働人口の10%が失業状態にある。このためできるだけ早くロックダウンを解除し、市民を職場に復帰させる必要がある。安全に社会復帰を行うには抗体検査が重要なツールとなり、陽性の人から職場に戻ることが検討されている。病気に対する免疫については分からないことが多く、他の対策を併用し安全に職場復帰を目指すシナリオが検討されている。