シリコンバレーで新型コロナウイルスの抗体検査を実施、実際の感染者数は公表値の80倍

各国で新型コロナウイルスの感染者数が公表されているが、実際の感染者数はこれより多いと予想されてきた。シリコンバレーで大規模な抗体検査が実施され、新型コロナウイルスに感染した人数が判明した。それによると、その数は公表値の80倍で、やはり感染が広範囲に及んでいる実態が明らかになった。全米で都市封鎖解除が始まるが、これらの調査結果が計画立案のベースとなる。

出典: The Stanford Daily

抗体検査を実施

この検査は2020年4月、スタンフォード大学医学部(Stanford Medicine)がカリフォルニア州サンタクララ群で実施した。地区住民の3,300人が対象となり、被験者の血液を採取して新型コロナウイルスの抗体検査(Serology Testing)が行われた(上の写真、ドライブスルー方式の抗体検査)。被験者はFacebookのターゲティング広告で募集され、検査対象グループは地域を代表するデモグラフィックになるよう調整された。

検査結果

試験結果は統計処理され、有病率(Prevalence)は2.49%から4.16%であった。これは被験者の中で新型コロナウイルスに感染した人の割合を示している。これを人数に換算すると、サンタクララ群の住民の48,000人から 81,000人がウイルスに感染したことになる。一方、サンタクララ群が発表している感染者数は1,019人(4月2日現在)であり、実際の感染者数はその50倍から80倍であることが判明した。

検査の目的1:正確な感染者数を把握

スタンフォード大学がこの検査を実施した理由は新型コロナウイルスの感染者数を正しく把握することにある。新型コロナウイルスは感染しても症状が無いか、または、軽いケースが多い。これらの人は国(CDC)の基準によりPCR検査対象者とならず、検査を受けることができない。事実、米国ではPCR検査を受けた人は全体の1.2%程度で感染範囲の全体像がつかめていない(下のグラフ)。多くの感染者が未確認の状態で統計データには反映されておらず、公表値は実際の数字を大きく下回っている。

出典: Our World in Data

検査の目的2:正確な致死率を把握

正確な感染者数が分かると、新型コロナウイルスによる死亡率の実態が分かる。調査レポートには具体的な数字は示されていないが、サンタクララ群が発表したデータを見ると、感染者数は1,870人で死亡者数は73人(下のグラフィックス)で、致死率は3.9%となる。一方、抗体検査で判明した感染者数で致死率を計算すると0.15%から0.09%となる。この数字はインフルエンザの致死率(0.1%)と同じレベルで、新型コロナウイルスは必ずしも危険な病気とは言えない。

出典: Santa Clara Public Health

検査の目的3:免疫を持っている人を把握

抗体検査のもう一つの目的は免疫を持っている人を特定することにある。新型コロナウイルスから快復すると体内に抗体ができ、これが免疫となり再び病気にかからないとされる。抗体検査で陽性であれば、これが社会復帰へのパスポートとなると期待されている。しかし、WHOは、この仮説は確認されておらず、抗体ができても再び病気にかからないとの保証はなく、慎重な対応を促している。免疫に関する確実な情報はなく、都市閉鎖解除で社会復帰のプロセスを策定する際には、この点に留意して進める必要がある。

抗体検査キットの信頼性

抗体検査キットは多くの製品が出ているが、その検査精度が疑問視されている。通常なら、FDAの厳格な評価を経て製品化されるが、いまは非常事態でFDAは検査基準を緩めており、市場には様々なキットが出荷されている。このため、精度が十分でないキットが沢山ある。精度はSensitivity(正しく判定する精度)とSpecificity(誤検知しない精度)で示され、どちらも99%の精度が要求される。しかし、これを大きく下回る精度の製品も少なくなく利用には注意を要す。

ニューヨーク州で実施予定

ニューヨーク州のクオモ知事は、4月20日から同州で大規模な抗体検査を実施すると発表した。FDAはこの試験を承認しニューヨーク州保健当局(Department of Health)が実施し、全米で最大規模の抗体検査となる。14,000人の住民がランダムに選ばれ、何人が感染したのかを調べ、感染の規模が初めて明らかになる。更に、抗体があればそれが免疫となり、社会に復帰できる証明書となるシナリオも計画されている。ただ、上述の通り病気に対する免疫は実証されたデータはなく、その効果を検証しながら進められることになる。

ドイツで抗体検査を実施

米国に先立ち、ドイツで抗体検査が実施され、4月にその結果が発表された。Gangeltという地区の住民500人を対象に実施され、その14%が抗体を持ち、過去にウイルスに感染したことが判明した。この町では2月にカーニバルが開催され多くの人が訪れ、その後感染が急拡大した。この検査で致死率は0.37%と推定しており、公表されている数字(3.11%)を大きく下回る。ドイツは抗体があれば病気に対する免疫があるとの解釈が支配的で、住民の14%が陽性であることは集団免疫(Herd Immunity)に近づいたとみている。これはWHOの解釈と異なり、免疫に関する考え方について議論が続くことになる。

出典: Vice

致死率と都市ロックダウン

米国のアカデミアには、新型コロナウイルスの致死率はインフルエンザと同程度であり、都市をロックダウンして感染を防止することに反対する意見もある。都市を閉鎖すると、社会活動が停止し、経済恐慌に至る。致死率が高くない感染症対策では都市ロックダウンという強硬策はそぐわないとしている。一方、新型コロナウイルスにはワクチンはなく、拙速に都市閉鎖を解除すると感染が再び急拡大し、今までの努力が水泡に帰すとの考え方が大勢を占めている。識者の多くは、ロックダウンは正しい判断で、いまはそれを解除するプロセスをゆっくりと進めることが重要との見解を示している。(上の写真、都市閉鎖に反対するグループは州庁舎を取り囲み解放を求めている。)