シリコンバレーの新型コロナウイルス出口戦略、ロボットによる配送サービスが始まった

都市閉鎖を解除して元の生活に戻るためには、経済活動の再始動とウイルス感染対策の二つの車輪をバランスよく回す必要がある。新型コロナウイルスの出口戦略の策定が求められるなか、シリコンバレーはハイテクでその解を探っている。マウンテンビュー市はロボットによる宅配サービスを認め、非接触で安全なソリューションとして注目されている。

出典: VentureClef

配送ロボット「Starship」

このサービスを始めたのはサンフランシスコに拠点を置くベンチャー企業Starship Technologiesで、荷物配送ロボット「Starship」の営業運転を始めた。Starshipは市街地のレストランと提携し、注文を受けた料理をロボットで消費者宅まで配送する。サンタクララ群は外出禁止令を発令し、レストランは店舗での営業を禁止され、事業者はビジネスの存続に危機感を募らせている。

実際に利用してみると

今月から運用が始まり、実際に使ってみたが、可愛いロボットがランチを配送してくれた。使い方は従来の宅配サービスと同じで、スマホアプリで食事を注文すると、人間に代わりロボットが目的地まで自動走行して食事を届ける。(下の写真、左側:多くのレストランがロボット宅配サービスを展開中、右側:その中でCrepevineというレストランでクレープを注文)。

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レストランで料理を積み込む

注文を受けたレストランは料理を調理して、店頭にスタンバイしているロボットの荷物ベイにパッケージを積み込む(先頭の写真)。店舗スタッフは料理を積み込む前に、荷物ベイを殺菌ワイプで拭き、コロナ対策が取られる。準備が整うと、店舗スタッフは専用アプリを操作してロボットを発進させる。

ロボットは安全に走行

ロボットは目的地まで自動で歩道を走行する。ロボットの走行速度は意外に速く、駆け足しないと追い付かない。しかし、人込みや障害物がある個所では速度を落とし、安全な経路を見つけてゆっくり通過する。横断歩道では信号を認識でき、赤の時は歩道で停止し(下の写真、左側)、青になると発進し道路を横断する。歩道でも駐車場の入り口では一旦停止し、安全を確認して進行する(下の写真、右側)。

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目的地に到着

ロボットが目的地に到着すると、スマホアプリにメッセージが表示される。ここで「Unlock」ボタンを押すと(下の写真、左側)、荷物ベイのカバーが開錠される。カバーを空けて(下の写真、右側)、積まれているパッケージを取り出す。そしてカバーを閉じ、スマホアプリの「Send Robot Away」ボタンを押すとロボットは自動でレストランまで帰還する。

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ロボットの安全性

ロボットと一緒に歩いてみたが、慎重に走行し安全であると感じた。人間が歩道で立ち話をしていて、通路を塞いでいるときは、ロボットはゆっくりとその脇を通過した(下の写真、左側:このケースでは歩行者が道を譲った)。信号のない横断歩道を渡ることができ、この際は、慎重に左右を見てクルマがいないのを確認して横断した(下の写真、右側)。これだと市街地で歩行者が行き交う中で走行することができると感じた。

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レストランやスーパーマーケットが参加

市街地で多くのロボットが運行しているが、これらは複数の店舗で共有して使われている。レストランの他にカフェやスーパーマーケットがロボットを使って商品を配送している。ロボットはステージングエリアで待機しており(下の写真)、リクエストに応じて店舗に移動する。また、配送先から帰還したロボットはここに停止し次の指示を待つ。

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自律走行の仕組み

Starshipは自動運転車のように自律的に走行する。車体には10台のカメラとセンサーを搭載し、カメラで周囲360度の映像を撮影する。カメラがとらえたイメージをAI(Convolutional Neural Network)で解析し、周囲のオブジェクトの種類や歩道を把握する。ロボットは高額なLidarは搭載しておらず、カメラだけで走行する構成で、AIの技術力がカギになる。

小さなAI

更に、AIは搭載されているGPUで処理され、大量の電力を消費する。自動運転車と異なり、配送ロボットはバッテリー容量が小さいため、ニューラルネットワークのサイズを小さくした軽量AI「Tiny AI」の開発が求められる。

新型コロナウイルス

Starshipの運用が始まった背景には新型コロナウイルスによる都市閉鎖がある。レストランは店舗での営業が禁止され、出前サービスと店頭受け取りに限定され、売り上げが大きく落ち込んでいる。スーパーマーケットはオープンしているが消費者は感染のリスクを感じ足が遠のく。このため、人間と人間が接触しないで配送できるロボットが注目されている。

マウンテンビュー市の判断

マウンテンビュー市においてStarshipは企業キャンパス(Intuit社)でロボット配送サービスを展開しているが、安全性の観点から市街地における運用は許可されなかった。しかし、都市ロックダウンでレストランなどが苦境に陥り、これを救済するために市議会はStarshipが公道で配送サービスを実行することを認める判断を下した。これは「Delivery Device Pilot Program」として運用され、一定の制限(同時に走行できる台数は10台まで)の下で、安全を確保して実施される。

出典: VentureClef

新型コロナウイルス社会

新型コロナウイルス社会で安全に事業を再開するには自動化がカギとなる。人間に代わりロボットが商品を配送することで感染のリスクを下げる。一方、歩行者で込み合う歩道で接触することなく安全に運行するためには、ロボットの技術開発だけでなく、歩道の整備など社会インフラの見直しも必要になる。更に、住民はロボットが生活空間に入ることを受け入れることが前提条件で、そのための啓もう活動も求められる。解決すべき課題は少なくないが、新型コロナウイルスの出口戦略ではハイテクの活用がカギとなる。