在宅勤務の働きぶりを上司に代わりAIが監視、アルゴリズムに評価される時代が始まる

シリコンバレーで在宅勤務が定常化し、多くの社員はテレワークで仕事を進めている。企業は初めての経験である在宅勤務において、社員の仕事ぶりを把握することに苦慮している。このため、企業は在宅勤務評価ツールに着目し導入を始めた。特に、AIが管理職に代わり社員を評価する手法が注目されている。仕事の成果を公平に評価できると期待されるが、社員はAIに監視されることになる。

出典: Enaible

スタートアップが開発

このシステムを開発したのはEnaibleというスタートアップで、在宅勤務社員の生産性をAIで解析する。これは「AI-Powered Leadership」と呼ばれ、管理職向けのツールで、仕事の成果を人間に代わりAIが評価する(上の写真、左側)。また、社員の仕事ぶりに問題があれば、AIがこれを把握し、解決方法を提示する(上の写真、右側)。管理職はAIのアドバイスに沿って社員の生産性を上げる。

仕事の評価基準

AIは社員の仕事ぶりを解析し、その結果をスコアー「Productivity Scoring」で示す。スコアは三つの要素で構成され、社員は持てる能力を十分に発揮しているか(Capacity Utilization)、異なる仕事を満遍なくこなせるか(Consistence)、及び、他の社員にプラスに影響しているか(Quality Impact)が評価される(下の写真)。

出典: Enaible

問題点に対するアドバイス

AIは社員の生産性が低下していれば、仕事の進め方をアドバイスする。これは「Leadership Recommender」と呼ばれ、ワークフローの中のどのポイントで問題が発生しているかを掴み、仕事の効率を上げるためのアクションを示す。例えば、コールセンター業務で、AIは「Aさんは残業が多いが、これは朝の仕事で効率が上がっていないため」と分析する。管理職はAIの提言を受け、社員と会話して仕事の取り掛かりの効率を上げるように助言する。

AIの評価を活用する方法

管理職はAIが査定した社員の生産性スコアをみてチーム全体の仕事ぶりを把握する。生産性が高い社員にはそれに見合った報酬を出し、一方、生産性が下がった社員にはアドバイスをする。企業側としては生産性の高い社員を判別し雇用を続ける努力をするが、生産性が上がらない社員はレイオフの対象となる。生産性スコアが評価の基礎データとなり、個人の感情ではなく科学的な根拠で人事管理をすることができる。

導入事例

Enaibleによるとドバイ税関Dubai Customs Agencyとマーケティング企業Omnicom Media Groupがこのシステムを導入している。また、デルタ航空とヘルスケア企業CVS Healthがシステムの導入を検討している。Enaibleは2018年に創業した会社であるが、コロナの影響で在宅勤務が広がり、評価ツールへの需要が急増している。

AIに監視される社会に

在宅勤務で顔が見えない社員を如何に評価するかが課題になっているが、AIがその解として注目されている。一方、社員は自宅においてAIに常時監視されている状態となり、精神的なプレッシャーを感じる。また、個人の行動がAIにモニターされ、プライバシー保護の観点からも倫理的な問題がある。更に、機械学習の手法で社員の生産性を判定する際に、アルゴリズムのバイアスの問題も浮上する。社員の給与はAIの評価で決まり、企業はアルゴリズムが公平であることを説明する必要がある。

出典: ViewSonic

ツールなしで在宅勤務を運用できない

Enaibleはこれらの懸念に対して、ツールは社員を監視するものではなく、企業の人事管理ツールであると説明する。社員の行動をトラックするのではなく、成果だけを構成に評価するもので、在宅勤務体系を運用するには必須のツールとなる。いま、企業が再開し社員がオフィスに戻ってきているが、AI監視ツールはそのまま残るとの意見も聞かれる。オフィス勤務となってもAIが社員の仕事ぶりを評価することになり、人事制度そのものが大きく変わろうとしている。

【補足情報】

実装方法

Enaibleは社員が仕事の際に生成する大量のデータを解析して生産性を評価する。具体的には、社員が使っているツールのタイムスタンプをアルゴリズムが解析する。対象となるツールはメールの他に、Zoom、Slack、ブラウザーなど。Enaibleはクライアントのバックグランドで稼働し、社員がこれらのツールを使って仕事をした際に生成されるデータを解析する。

機械学習

Enaibleは収集したデータを機械学習アルゴリズム「Trigger-Task-Time」で解析する。これは各社員のワークフローを学習するメカニズムで、何がトリガーとなり、どのタスクを実行し、その作業時間を理解する。これでEnaibleは社員の仕事のスタイルを理解し、その社員の生産性スコア(Productivity Score)を算出する。