OpenAIは世界最大規模のAIを公開、AIが不気味なほど人間らしい文章を生成、トランプ大統領宛の手紙を執筆

OpenAIは世界最大規模のAI「GPT-3」を公開した。GPT-3は言葉を生成するAIで、アルゴリズムが人間のように記事を書く。不気味なほど人間らしい文章で、GPT-3がトランプ大統宛の手紙を執筆した。AIを巨大にすると人間に近づけるのか、GPT-3でその端緒が見えてきた。

出典: OpenAI

OpenAIとは

OpenAIはAI研究の非営利団体で、イーロン・マスク(Elon Musk)らにより、2015年に設立された。OpenAIは人間レベルのインテリジェンスを持つAIを開発することをミッションとしている。OpenAIは深層強化学習(Deep Reinforcement Learning)やGPT-3のような言語モデルを中心に研究を進めている。

GPT-3とは

GPT-3は言語モデル「Autoregressive Language Model」で、過去の挙動(入力された言葉)に基づき、将来の挙動(それに続く言葉)を予測する機能を持つ。つまり、GPT-3は入力された言葉に続く言葉を予測する。シンプルな機能であるが、これが言葉を理解する本質的な能力となり、文章の生成だけでなく、言語の翻訳や文章を要約することができる。GPT-3は言語モデルであるが、その特徴はシステムの規模で、世界最大のニューラルネットワークで構成され、けた違いに高度な言語能力を示す。

GPTの開発経緯

OpenAIは言語モデルGPT (Generative Pre-Trained)の開発を進め、それをオープンソースとして公開している。AIのサイズはニューラルネットワークのパラメータの数で示され、第二世代のモデルGPT-2は15億個で、第三世代のモデルGPT-3は1750億個と百倍以上大きくなった。GPT-3が生成する記事は人間のものと区別はつかず、これが悪用されると社会が混乱する。このため、GPT-3は一般には公開されておらず、審査に合格した研究団体だけがこれを使うことができる。

GPT-3で記事を生成すると

GPT-3を使って生成された文章は気味悪いほど人間が書いた文章に近い。GPT-3に題名と副題を入力すると、GPT-3がそれに沿った記事を生成する(下の写真、灰色の部分が人間の入力で、黒色の部分がGPT-3が生成した文章)。

出典: Tom B. Brown et al.

人間が「米国メソジスト教会が分割された」という内容で記事を書くよう指示すると、GPT-3は「同性婚をめぐり意見が対立し新たな教派ができた」という内容の記事を生成。文章は自然で人間の記者が書いた新聞記事のような印象を受ける。実際に、生成された記事の判定試験をすると、88%の人が、人間が書いた記事と判定した。もはやAIと人間の違いを見分けることができない。(因みに、米国メソジスト教会の分割については協議中で、まだ分割されてはいない。)

トランプ大統への書簡

GPT-3は地球温暖化防止を訴える書簡を執筆し、トランプ大統領に送付した(下の写真)。GPT-3に書簡の趣旨を指示すると、アルゴリズムがこれに沿って手紙を執筆した。具体的には、「Ice Cap(氷帽、氷河の塊)から大統領への書簡をしたためよ」と指示すると、GPT-3は「自分はIce Capで、我々を見捨てないで」と窮状を訴える文章を生成。更に、GPT-3は「温暖化対策は必要ないという意見は聞かないで」と助言する。これはアルゴリズムを使った芸術家Jeroen van der Mostが制作したもので、GPT-3の多彩な機能の一面が示された。

出典: Jeroen van der Most

歴史上の人物と会話する

GPT-3は歴史についての豊富な知識を持っており、この機能を使って歴史に登場する著名人と会話できる(下の写真左側)。歴史をさかのぼり、シェイクスピア(William Shakespeare)に、なぜブルータス(Brutus)はシーザー(Caesar)を殺したのかと質問すると、「ブルータスはシーザーが力をつけるのを恐れていたため」と回答。更に、この行為は正しかったのかと質問すると、「ブルータスはシーザーに事前に警告しており、国を守るための正当な行為であった」と回答する。シェイクスピアが著書ジュリアス・シーザー(The Tragedy of Julius Caesar)を書いた背景を窺うことができる。

出典: Mckay Wrigley

また、実在する人物と会話することもできる(上の写真右側)。SpaceX創業者イーロン・マスクにロケットの仕組みを尋ねると、「ロケットはオブジェクトを宇宙空間に運ぶために使う」と回答。どんなロケットを開発しているかとの質問には、「Falcon 9とFalcon HeavyとBFR」と回答する。著名人と直接話すことはできないが、GPT-3でバーチャルな会話を楽しむことができる。

ブログはGPT-3が作る

「Adolos」はマインドフルネスと創造性に関するブログで、仕事と心の健康に関し有益な記事を掲載している(下の写真)。その中で、「Feeling unproductive?」という記事を読むと、「考えすぎると思考回路がストップする。新たな分野に挑戦することで創造的な発想ができる。」とアドバイスする。このブログが話題となり、ニュースランキング(Y CombinatorのHacker News)でトップとなった。

出典: Adolos

しかし、このブログは人間ではなくGPT-3が作成したものであることが判明し、再び、話題となった。これは、カリフォルニア大学バークレー校の学生Liam PorrがGPT-3を使って作成したもので、ブログ記事のすべてがアルゴリズムで生成されている。ブログのタイトルと副題を入力すると、GPT-3がそのテーマに沿った記事を生成する。

GPT-3の得意分野と弱点

GPT-3でブログ記事を生成するにはコツがあり、アルゴリズムの特性に沿ったテーマを選ぶ必要がある。GPT-3がロジカルな記事を生成するとしばしば論理に齟齬が生じるが、メンタルな記事では人間のように滑らかな文章が生成される。マインドフルネスや創造性などのテーマがGPT-3の得意分野となる。

人間のインテリジェンスに到達

GPT-3は人間と変わらない技量で記事を書きブログを生成する。GPT-3の能力の高さに驚くと同時に、アルゴリズムが人間に近づき不気味さを感じる。この研究ではニューラルネットワークを大きくすると言語機能が高まることが示された。それでは、更に巨大なニューラルネットワークを構築すると人間レベルの言語能力を獲得できるのか、OpenAIのインテリジェンスの探求が続いている。