サンフランシスコで世界最大のネオバンクChimeが誕生、コロナを契機にフィンテック銀行が急成長

米国においてコロナ感染拡大でネオバンク(Neobank)が急成長している。ネオバンクとは新興企業が運営する銀行で、店舗を持たないでスマホアプリだけでサービスを提供する。Chimeはネオバンクの最大手で、口座手数料は無料で、給与を前受できる機能などを搭載し、手軽な銀行として大人気となっている。コロナを契機に利用者が一気に増え、世界最大のネオバンクとなった。

出典: Chime

Chimeとは

Chimeはサンフランシスコに拠点を置く新興企業で、銀行に挑戦するフィンテックと位置付けられている。専用アプリ「Chime – Mobile Banking」でデジタルバンキングを利用する。口座手数料はゼロでミレニアル層からの支持を得て急速に顧客数を増やしている。日本では普通預金口座の手数料は無料であるが、米国主要銀行は口座維持のために手数料を徴収する。Citi Bankのケースでは預金残高が1500ドルを下回ると月額12ドルの手数料を徴収する。これが銀行の収益を構成するが、消費者としてはこの手数料が重荷となる。

Chimeは手軽な銀行

Chimeは2013年に創業しTwitterなどから出資を受け、企業価値は58億ドルと評価されている。米国主要メディアによると、Chimeは4.85憶ドルの出資を受け、企業価値は145億ドルとなった。現在、最大のネオバンクはブラジルのNubankで企業価値は100億ドルとされる。Chimeはこれを抜き世界最大のネオバンクとなった。

世界最大のネオバンク

Chimeは2013年に創業しTwitterなどから出資を受け、企業価値は58億ドルと評価されていた。米国主要メディアによると、Chimeは4億8500万ドルの出資を受け、企業価値は145億ドルとなった。現在、最大のネオバンクはブラジルのNubankで企業価値は100億ドルとされる。Chimeはこれを抜き世界最大のネオバンクとなった。

コロナを契機に急成長

Chimeはコロナで成長のスピードを速めている。米国連邦議会はコロナ救済策として大型経済対策法CARES Act(Coronavirus Aid, Relief, and Economic Security Act)を可決し、企業や個人に補助金を出している。個人向けには大人一人当たり1200ドルの補助金が支給された。補助金は小切手で郵送されるが、銀行口座を登録すれば短期間で資金が振り込まれる。このため、Chimeに口座を開設し、ここで補助金を受け取る人が急増した。他の銀行と異なり、Chimeで口座を開くと、補助金が振り込まれる前に200ドルを前受することができる。このような事情から、Chimeの利用者が急増した。

出典: Chime

ネオバンクとは

ネオバンクとは営業店舗を持たないでオンラインだけで運用する銀行を指す。具体的には、Chimeは銀行の認可(Bank Charter)を受けてなく、顧客インターフェイス(Deposit Account)だけを提供し、銀行業務はBancorp Bankという銀行が担う。Bancorp Bankはデラウェア州の地方銀行で全米で215位の規模の中堅銀行である。ChimeはBancorp Bankの上に構築されたデジタルバンクとなる。Chimeは同行を通じて連邦預金保険公社(Federal Deposit Insurance Corporation)の預金保険に加入しており、仮にChimeが倒産しても顧客の預金は25万ドルまで補償される。

Chimeと銀行の関係

Chimeは銀行機能をモバイルアプリで提供するデジタルバンクであり、大手銀行とは正面から競合する関係となる。一方、ChimeとBancorp Bankは補完関係にある。中堅銀行のBancorp Bankは自社でモバイルバンキングを開発することは難しく、Chimeをデジタルバンキングのチャネルとして利用する。これは「Banking as a Service(BaaS)」といわれるビジネスモデルで、銀行が新興企業に銀行機能をクラウドとして提供し事業を拡大する。

Chimeの収益源は

口座手数料や貸し越し手数料が無料であり、Chimeはここから収益を上げることはできない。Chimeの収益源はデビットカードで、顧客がこれを使ったときに、店舗から手数料を得る構造となっている。Visaはトランザクションごとに店舗から手数料「Interchange Fee」を徴収し、この一部がChimeに支払われる。

出典: Chime

米国の法令

米国では銀行が徴収できるInterchange Feeについて法令で定められている。地方銀行は大手銀行に比べ格段に高いレートで手数料を徴収でき、ここでビジネスを構築しているChimeはカード手数料で大きな利益を上げている。(Interchange Feeは法令「The Dodd-Frank Act of 2010」で定められているが、その改定規則「Durbin Amendment」で地方銀行に有利な条件が付加された)。

ネオバンクとチャレンジャーバンク

新興企業が運営する銀行は二種類あり、ネオバンクとチャレンジャーバンク(Challenger Bank)に分類される。ネオバンクは銀行の上に構築されたデジタルバンクであるが、チャレンジャーバンクは銀行ライセンスを取得し、独立した銀行として事業を運営する。どちらもデジタル・ネイティブの銀行で手数料が無料で使いやすい点に特徴がある。(下の写真、チャレンジャーバンク最大手Revolut(レボリュート)、英国企業であるが米国市場で事業開始。)

出典: Revolut

米国メガバンクの応戦

米国のメガバンクはネオバンクの躍進に応戦するため、独自ブランドのネオバンクを投入してこの市場に参入した。JPMorgan Chaseは「Finn」というネオバンクを設立し事業を開始した。しかし、ビジネスは軌道に乗らず、Finnを停止し、ネオバンク事業から撤退した。同行は既にオンラインバンキング「Chase Online Banking」を運用しており、Finnとの差別化が難しかったことが失敗の要因とされる。JPMorgan Chaseの事例が示すように、米国のメガバンクはネオバンクの対応に苦慮している。

ネオバンクの将来

「銀行のイノベーションはATMだけである。」これはリーマンショックの際に連邦準備制度理事会議長であったポール・ボルカー(Paul Volcker)が述べた言葉である。この発言は銀行の消費者サービスが進化していないことを意味する。厳しい指摘であるが、ニューヨーク大学によると、銀行はITに積極的に投資しているが、その恩恵は消費者ではなく銀行が得ていると分析する。米国の銀行はデジタル化を進めているが、この目的はコストダウンであり、必ずしも消費者が恩恵を受けているわけではない。このような背景からネオバンクが急成長し、米国の金融サービスを大きく変えようとしている。