アメリカ大統領選挙の予想は大きく外れた、一方AIは有権者の群集心理から勝敗を正確に予想

アメリカ大統領選挙はバイデン氏が圧勝すると予測されていたが、ふたを開けると僅差での勝利となった。選挙予想は再び外れたが、今回の予測は四年前より誤差が大きく、現行手法の限界が示された。一方、AIは有権者の群集心理を解析する手法で、激戦州の勝敗をズバリと的中させた。また、このAIは、勝敗が決まった後も、トランプ大統領は、選挙は不当であると主張し、敗北宣言をしないと予測している。

出典: CNN  

再び予測が外れる

アメリカ大統領選挙で主要メディアはバイデン氏が圧勝すると予測したが、バイデン氏が勝ったもののその差は小さく、再び予測が外れた。2016年の大統領選挙でも予測が外れたが、今年の選挙では前回より誤差が大きく、世論調査の手法についての検証が始まっている。国の世論が激しく対立する中、いまの手法で動向を予測することは限界であるとの意見も聞かれる。

AIによる選挙予測

このような社会情勢のなか、AIで選挙結果を予想する技法が注目されている。このAIを開発したのはサンフランシスコに拠点を置く新興企業Unanimous AIで、群集心理を解析することで勝敗を予測する。この技法は「Swarm Intelligence」と呼ばれ、個人ではなく集団で予測すると予測精度が上がるという仮説の元に構築されたモデル。大統領選挙の他に、野球やフットボールの試合の結果を正確に予測する。また、アメリカ映画のアカデミー賞では受賞作品を正確に予測し、社会を驚かせた。

激戦州の予測

大統領選挙ではSwarm Intelligenceを激戦州に適用してその結果を予測した。多くの州はその結果は明白で、投票前に勝敗が分かる(例えばカリフォルニア州は民主党支持でバイデン氏が勝利など)。しかし、10余りの州は勝敗の予測が難しく、激戦州(Swing States)と呼ばれ、これらの州の結果で大統領が決まる。Unanimous AIはこれら激戦州の勝敗の予測を投票日の45日前(9月21日)に実施し、その結果を公開した(下のグラフ)。

出典: Unanimous AI

予測結果

このグラフは激戦州ごとに勝敗の予測とその差が示されている。例えば、ペンシルベニア州はバイデン氏が3.5%の差で勝利すると予測。選挙結果が出そろったが、この判定はすべて的中している。注目はフロリダ州で、主要メディアはバイデン氏が3%から5%の差で勝つと予想していたが、Unanimous AIは1.6%の差でトランプ氏が勝つと予測した。実際に、トランプ氏が3.4%の差で勝利し、この手法の有効性が示された。

トランプ大統領が負けを認めない期間

Unanimous AIは選挙結果が出た後の両者の行動を予測している。トランプ大統領が負けた場合、94%の確率で、「この選挙は公正でない」と主張すると予測し、実際にこの事態が発生している。また、82%の確率で「勝敗が確定した後も最低二週間は負けを認めない」と予測している(下のグラフ、左側)。つまり、少なくても11月21日まではトランプ大統領は勝ちを主張することになる。

出典: Unanimous AI  

トランプ大統領支持率の予測

Unanimous AIはこれに先立ち、トランプ大統領就任後100日間の支持率を予測している(下のグラフ、緑色の線、歴代大統領との比較)。AIの予測によると支持率は42.1%で、他の大統領と比較して極めて低く、ショッキングな数字となった。しかし、この予測は的中し、支持率は41.9%で、在任中一度も50%を上回ることはなかった。

出典: Unanimous AI  

応用分野

Unanimous AIはこの技法をマーケティング調査や専門家の意見集約などに応用している。実際に、スタンフォード大学医学部は肺のレントゲン写真から結核を判定するプロセスにSwarm Intelligenceを導入した(下の写真)。複数の放射線医師がレントゲン写真から結核の判定をするが、そのプロセスをSwarm Intelligenceで解析すると判定精度が22%向上した。この病院ではAIが自動で結核を判定するシステム「CheXNet」を使っているが、Swarm Intelligenceの判定精度がこれを上回った。人間の知恵を集約することでAIより高度な判定ができることを示している。

出典: Unanimous AI  

何故予測が偏るのか

主要メディアは予測が大きく外れた理由を解析しているが、四年前に増して今回も、数多くの「Shy Trump Voters」がいたと考えられている。これは隠れトランプ支持者とも呼ばれ、世論調査の統計に表れない層を指す。今回は、トランプ大統領が支持者に対し、世論調査には答えないよう発言しており、この数が増えたとの見方もある。

有権者は懐疑的

一方、今回は、有権者は世論調査結果に懐疑的で、数字を割り引いてみる傾向が強かった。特に、マイケル・ムーア映画監督はしばしばテレビ番組に出演し、世論調査の結果はバイデン氏に偏っているので、これを信用しないようバイデン支持者に呼びかけた。このように、今回の選挙戦は有効な予想技術を持たない中、霧の中での戦いとなった。分断されたアメリカ社会で世論動向を正しく把握する技術としてAIに期待が寄せられている。