ゲノム編集技術CRISPRで新型コロナウイルスを検知、5分で結果が分かり感染対策の切り札として期待される

バイデン次期大統領は政権移行の準備を進め、先週、新型コロナウイルス対策のタスクフォースのメンバーを発表した。就任後はこのチームが司令塔となり、世界最悪とも言われる米国のコロナウイルスと戦うことになる。バイデン次期大統領は、科学と技術を最大限に活用し、都市をロックダウンすることなく、感染を食い止めるとしている。

出典: Melanie Ott et al.

現行のコロナウイルス検知技術

コロナ対策でカギを握るのはウイルスの検知技術で、短時間で正確に判定できる技法が求められている。現在はPCR検査が主流であり、高精度に判定できるものの、結果が出るまでに時間を要す。また、処理量を増やすことが難しく、これらが感染拡大を防げない要因とされる。

CRISPRベースの検査

いま、ゲノム編集技術CRISPRを使った新型コロナウイルス検知技術の開発が進んでいる。ノーベル化学賞を受賞したジェニファー・ダウドナ教授らの研究チームは先月、CRISPRを使った新型コロナウイルス検知技術を発表した。この技法を使うと5分間でウイルスを検知でき、感染拡大を防ぐ切り札になると期待されている。

検査キットの概要

検査キットは専用デバイスとスマホから構成され(上の写真、左側)、判定結果はスマホに表示される(上の写真、右側)。採取した検体をサンプル容器にいれ、それを専用デバイス(箱型の部分)に装着する。ここにレーザー光を照射し、これを専用デバイス上のスマホカメラで読み取る。新型コロナウイルスを検知するとサンプルは緑色に発光し、陽性であることを示す。また、光の強度はウイルスの数を示し、陽性判定だけでなく、検体の中のウイルスの量を把握できる。このキットは病院や会社などで使われ、現場でリアルタイムに感染状況を把握できる。

CRISPRで検知する仕組み

検査キットはCas13aとcrRNAを使い、新型コロナウイルスに特有のRNA配列を検知する(下のグラフィックス)。検査キットにはマーカー(Reporter RNA)が入っており、ウイルスのRNAを検知するとCas13aがその周囲のマーカーを切断する。マーカーが切断されると蛍光物質が放出され、ここにレーザー光線を照射すると発光する。この光を検知することでウイルスの存在を把握する。

出典: Melanie Ott et al.

感染対策の決め手

CRISPRベースの検査キットは既に使われているが、検査結果が出るまに1時間かかり、更なる改良が求められていた。ダウドナ教授らの研究チームはこれを大幅に短縮し、5分で結果を得ることに成功した。また、この方式はウイルスの量が少なくても検知できるとしている。新型コロナウイルスに感染した直後は、ウイルス量が少なく検知が難しいが、この方式はこれを解決した。短時間で高感度でウイルスを検知でき、感染対策の切り札として期待されている。

[米国における新型コロナウイルス検査方法]

新型コロナウイルスの検査の種類

新型コロナウイルスの検査ではPCR検査と抗原検査が普及している。PCR検査はウイルスのRNAの断片を検知することで感染を把握する。抗原検査はウイルスを特徴づける抗原(タンパク質)を検知し感染を把握する。ここにCRISPR検査が加わった。CRISPRベースの検査では、ウイルスを特徴づけるRNAの断片を遺伝子編集の手法で把握する。

PCR検査

ウイルス検査ではPCR検査(RT-PCR、Reverse transcription polymerase chain reaction)が標準手法で、高精度で判定でき幅広く使われている。PCR検査は20年の歴史があり、新型コロナウイルス以外でも標準検査として定着している。一方、PCR検査は特殊機器を備えた施設で実施され、検査結果がでるまでに数日かかる。医療現場で手軽に検査できないことが課題となっている。

高速PCR検査

この問題を解決するため、PCR検査を高速で処理するキットが開発された。これはAbbottが開発した「ID Now」で(下の写真)、アメリカ食品医薬品局はこれを医療機器として認可した。検体を採取して15分ほどで結果がでることから注目を集めた。トランプ大統領が記者会見でID Nowを推奨したことで有名となった。一方、ID Nowは検査精度が高くなく、利用法が難しいことが指摘される。実際に、大統領や高官が相次いでウイルスに感染し、検知精度の限界が明らかになった。

出典: Abbott

抗原検査

抗原検査キットは多くの企業から販売されている。Abbottは「BinaxNOW」というブランドで販売している(下の写真)。特殊な機器は不要で短時間で結果がでるため容易テストとして使われている。抗原検査はPCR検査に比べ精度は低く、また、偽陰性(陽性を陰性と判定)と判定されるケースが多い。

出典: Abbott

CRISPR検査

マサチューセッツ州ケンブリッジに拠点を置く新興企業Sherlock BioSciencesはCRISPRベースの新型コロナウイルス検知キットを開発した。これは「Sherlock CRISPR SARS-CoV-2 Kit」と呼ばれ、アメリカ食品医薬品局が認可した最初の製品となった。この基礎技術はマサチューセッツ工科大学のFeng Zhang教授らにより開発され、技術改良が進んでいる。

出典: Sherlock BioSciences