テスラは今年中にレベル5の完全自動運転車を出荷する。クルマにはそれに必要なハードウェアが搭載され、ソフトウェアの更新で完全自動運転車となる。このソフトウェアはFull-Self Driving(FSD)と呼ばれ、現行車種にはそのベータ版が搭載されている。ベータ版から正式版に機能アップするために、AI開発が急ピッチで進んでいる。

出典: Tesla |
完全自動運転車
テスラCEOのElon Muskは、2020年度第四四半期の決算発表で、多くの時間を割いて自動運転技術について説明した。テスラの自動運転技術はFSDと呼ばれ、現行車両にはそのベータ版が搭載されている。Muskは今年中に完全自動運転車が完成するとの見通しを示した。FSDが出荷されるとクルマはレベル5の自動運転機能を持ち、ドライバーの介在無しにクルマは自動で走行する。
ロボタクシー
完全自動運転車が登場するとクルマの利用法が劇的に変わる。ドライバーはクルマを利用しない時間帯は、これをロボタクシーとして運行する。クルマが無人のUberとなり、乗客を拾い目的地に送り届ける。これにより、オーナーは臨時収入を得ることができ、その一部をサブスクリプションとしてテスラが徴収する。テスラはロボタクシーを運行するクラウド「Tesla Network」を提供し、オーナーはこのクラウドにクルマを接続しタクシー事業を展開する。(下の写真、テスラはステアリングのないロボタクシー専用車両をデザイン)

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車両販売はソフトウェア事業
Muskによると、テスラの事業は車両販売に加え、ロボタクシー運用によるサブスクリプション収入が大きな収益源になる。Muskは車両販売による収入が500億ドルで、ロボタクシーの収入が同額の500億ドルになるとみている。ロボタクシーの部分のコストは小さく、収益の殆どが利益になる。つまり、完全自動運転車が完成すると、自動車販売はクラウドによる収益が大きな部分を占め、ソフトウェア事業となる。
テスラの収益構造
Muskはロボタクシー収益の詳細を明らかにしていないが、今までの情報を元に計算すると次のようになる。ロボタクシーの料金は0.5ドル/マイルで、Uber料金の半額に設定される。ロボタクシーが年間45,000マイル走行すると、売上金額は22,500ドルとなる。テスラはサブスクリプション料金としてこの30%を徴収し6,750を得る。これを6年間運用すると、テスラの収入は40,500ドルとなる。Tesla Model 3(先頭の写真)の車両価格は47,900ドルで、ロボタクシーが車両価格と同等の収入を上げることになる。
FSDベータを支えるAI
ロボタクシーを運行するためにはクルマがレベル5の完全自動運転車となることが前提条件となる。このため、テスラはFSDのニューラルネットワークを大幅に改良しこれを目指している。現行モデルFSDベータでは、ニューラルネットワークはカメラが捉えたイメージを解析し、オブジェクトを把握する。クルマは周囲に8台のカメラを搭載しており、AIはそれぞれのカメラが捉えた画像を解析する。
FSD最終版の仕組み
これに対して、FSD最終版はカメラが捉えたビデオを解析する。これは「4D Data」と呼ばれ、ステレオカメラの3D画像が時系列に繋がる動画を解析し、そこからオブジェクトの種類を把握し、次の動きを予測する。ニューラルネットワークには8台のカメラが捉えたビデオが同時に入力され、クルマ周囲の状況をリアルタイムに把握する。これにより、FSDは人間が運転するより100%から200%安全なクルマとなる。(下の写真、8台のカメラが捉えた画像)

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Dojo Supercomputer
ニューラルネットワークがビデオを解析するためには、タグ付きビデオでアルゴリズムを教育する必要がある。この教育システムは「Dojo Supercomputer」と呼ばれ、ここでシステムはビデオからタグ(ビデオの内容説明したテキスト)を自動で生成する。テスラの強みはビデオの量で、現行車両が撮影したビデオ画像がクラウドにアップロードされ、これをDojo Supercomputerでタグ付けする。タグ付けされたビデオを使ってFSDのニューラルネットワークを教育する。
現行FSDベータの評価
現行車両にはFSDベータが搭載され、限定的な自動運転機能を提供している。調査機関Consumer Reportによると、FSDは名前が示す自動運転機能には至っておらず、問題点が多いと指摘する。具体的には:
- 「Navigate on Autopilot」は自動でハイウェイに乗り降りする機能であるが、目的の出口で降りないケースがある。また、込み合ったハイウェイで自動運転機能が解除される。
- 「Traffic Light and Stop Sign Control」は信号のある交差点や一時停止標識で停止する機能であるが、停止せず直進した事例を報告している。
FSDベータは名前の通り、未完成の自動運転技術で、ドライバーは非常事態に備えスタンバイしておく必要がある。TeslaはAIを大改造することで、完全な自動運転技術を目指している。(下の写真、Auto Summon機能を使うとクルマが駐車場から玄関前に自動で走行しドライバーを迎える。)

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FSDベータ版を最終版にアップグレード
上述の通り、FDSベータはAIがクルマに搭載されたカメラの静止画像を解析する手法で自動運転機能を実現する。これに対し、FSD最終版はAIが格段に強化され8台のカメラの動画を同時に処理することで自動運転を実現する。Muskはこの機能はSuperhumanで、人間の運転技術を大きく上回ると説明した。Lidarを使わないでカメラでレベル5の自動運転車ができれば自動車産業にとって大きなブレークスルーとなる。
自動車産業はクラウド事業となるのか
テスラの株価が急騰しここ一年で700%近く上昇した。テスラの量産体制が整い、好調な業績を反映しているが、株価はこれ以上に上昇している。Muskによると、株価はテスラのロボタクシー事業を反映していると説明。テスラは車両販売の他に、ロボタクシー向けクラウドのサブスクリプション収入があり、株価をこれを先取りしている。自動車産業はクラウド事業となるのか市場が注目している。