デジタルアートが70億円で落札される!! ブロックチェインで芸術作品が高値で売れる

オークションハウスのクリスティーズ(Christie’s)でデジタルアートが6934万ドル(約70億円)で落札された。作品はコンピュータで制作され、デジタルファイルとして売られた。誰でも複製できるファイルに高値が付いた。ファイルには証明書「Non-Fungible Token(NFT)」が添付され、これがアートの所有権を示す。なぜ複製可能なデジタルアートに高値が付くのか、米国社会は騒然としている。

出典: EVERYDAYS: THE FIRST 5000 DAYS, 2021 by Beeple

デジタルアート

この作品は「Everydays: The First 5000 Days」というタイトルで、Mike Winkelmann(筆名はBeeple)が制作した(上の写真)。Beepleは米国のアーティストで、2007年からデジタルアートの制作を続け、毎日作品を発表してきた。ちょうど5000作目が完成し、これを纏めて一枚のファイルにしたのが「The First 5000 Days」となる。作品の中の小さなマス目が単独のデジタルアートで、ファイルを拡大するとヒトやモノや自然や宇宙が空想的に描かれていることが分かる。

オークション

クリスティーズでこのデジタルアートは昨日6934万ドルで落札された。作品は解像度21,069 x 21,069 ピクセル (319,168,313 バイト)のJPEGファイルとして販売された。この作品には証明書がNFTのフォーマットで付加される(下の写真)。落札者はこのJPEGファイルとNFTを受け取ることになる。

出典: Christie’s  

Non-Fungible Tokeとは

Non-Fungible Token(NFT)とは暗号通貨の一種で、特定のモノを代表する機能を持つ。具体的には、NTFはブロックチェインで構成されるトークンで、デジタルアートなどの所有権を示す証文となる。NFTはブロックチェイン「Ethereum」の上に構成され、分散データベースとして安全に管理される。また、NFTはEthereumの「Smart Contracts」を使っている。Smart Contractsとはインテリジェントな契約機能で、人間の介在無しにアプリが事前に設定されたルール(契約)に基づき、売買のトランザクションを実行する。これにより、デジタルアートの取引をソフトウェアで定義し、クラウド上で実行できる。

Fungibleとは

ちなみに、Fungibleとはコモディティの特性で等価に交換できるものを指す。例えばビットコインがこれに相当し、1ビットコインは別の1ビットコインと等価に交換できる。一方、Non-Fungibleとは等価に交換できないコモディティの特性を指す。この代表がデジタルアートの証明書で、上述のトークンは「The First 500 Days」には有効であるが、他の作品には使えない。

なぜデジタルアートが高値で売れるのか

簡単に複製できるデジタルアートがなぜ高値で売れるのか、ネットで議論が沸騰している。「The First 5000 Days」のオリジナルファイルはサイトに公開されており、それをダウンロードして閲覧できる。(先頭の写真はこのサイトからダウンロードしたもの)。アート所有者と同じように、同品質の作品を見ることができる。一方、所有者はこの作品を別のオークションにかけ転売して利益を得ることができる。その際に、NTFでアートの所有者であることを証明する。

デジタルアートが投資の対象

絵画や彫刻などの芸術作品は今までも投資の対象となり、資産家や団体が所蔵している。同時に、これらの写真がネット上に公開され、我々はPCやスマホで見ることができる。このケースでは、アート所有者は写真撮影者ではなく、購買者であることは明瞭。しかし、ここにデジタルネイティブのアートが登場し、オリジナルの複製が多数ネット上に存在している。

著作権保護はできない

その権利の所在を明らかにする技術としてNTFが使われ、簡単に複製されてもその所有者が明確になった。つまり、インターネットは著作権保護の技術開発に失敗し、ここにNFTが登場し、所有権が明確になった。アートや音楽の複製を止めることはできないが、NFTが権利の所在者を証明する。これにより、NTFがデジタルアセットの新しいクラスとなり、ネット上で資産を形成することが可能となる。このNTFという新たな資産に対し投資が始まった。

デジタルアートの価値

しかし、デジタルアートが市場の常識を超え、高値で評価されている。Beepleは上述の作品の他に、「CROSSROAD #1/1」という作品(下の写真)を発表し、これが660万ドルで落札された。これはGIF形式の動画で、裸のトランプ氏の体に落書きされ、そこにTwitterが舞い降りる構成になっている。大統領選挙でトランプ氏がバイデン氏に敗戦したことを残酷に表現している。

出典: CROSSROAD #1/1 by Beeple

デジタルアート売買サイト

デジタルアートは投資の対象となり、その所有権が高値で売買される。今ではデジタルアートを売買するサイトが数多く登場し、「Crossroad」は「MakersSpace」というサイトで販売された。サイトには数多くのデジタルアートが掲載され、オークション形式で作品が販売される。デジタルアートの所有権を高値で購入するのは、転売して利益をあげることにあるが、オリジナルを持つことの満足感も大きな要因となっている。

著名人がデジタルアート制作

Elon MuskのガールフレンドであるGrimes(本名Claire Elise Boucher)はミュージシャンとして有名であるが、デジタルアートを制作し、多くの作品を発表している。その代表が「WarNymph」で(下の写真)、オークションサイト「Nifty Gateway」で販売された。WarNymphはデジタルアートのコレクションで、売上高は累計で580万ドルとされる。Nymphとはギリシャ神話に登場する女神で、悪霊から山や森を守る。WarNymphは女神が戦争から火星を守るモチーフが描かれている。

出典: Grimes

デジタルカード

この流れはデジタルアートだけでなくデジタルカードに広がり、これらがNFTで取引されている。男子プロバスケットボールリーグNBAはデジタルなトレーディングカードの販売を開始した。これはプロバスケットボールのトレカで「NBA Top Shots」と呼ばれ、愛好家の間で収集され交換される。カードは短いビデオ形式で、選手のファインプレーが録画されている。一番人気はLeBron Jamesの「Dunk」で、ダイナミックなダンクが動画で再生され、25万ドルで販売された(下の写真)。因みにNBA Top Shotsは「Flow」というブロックチェインで構成され、専用のアプリでデジタルカードが売買され、ここがNBAの大きな収入源になっている。

出典: NBA Top Shots

バブルかニューエコノミーか

アートやスポーツの他に、音楽や写真やアニメやツイートも販売の対象となる。Twitter創業者Jack Dorseyは同氏の最初のツイート(下の写真)をNFTで競売にかけ250万ドルの値が付いている。

出典: Jack Dorsey @ Twitter  

希少価値のあるデジタルアセットはNFTで取引される対象となっている。常識を超える高値で取引されるが、NFTが次のビットコインになるとの解釈もある。ビットコインが登場した当時は6万ドルの値が付くとはだれも想像していなかった。ビットコインバブルが続いているが、NFTもこの足跡を辿るのか、エコノミストや投資家が注目している。