カテゴリー別アーカイブ: セキュリティ

5Gネットワークの次はEVが国家安全保障を脅かす、中国製自動運転車が監視カメラとなり市街地を走行し機密情報を収集する

自動運転車の開発が進み、製品出荷が目前に迫っている。自動運転車はカメラやLidarなど高機能センサーを搭載し、路上やその周囲のオブジェクトを認識する。自動運転車は”走る監視カメラ”でもあり、市街地の多様な情報を収集する。ここには消費者の個人情報や組織の機密情報が含まれる。中国企業は数年以内に、米国で自動運転車を含むEVの販売を本格化する。中国製のEVが米国市街地のデータを収集し、これを中国本土に送信することに関して懸念が広がっている。米国や欧州は中国製5G技術を規制する方針を打ち出したが、今度は、中国製EVに関するセキュリティが課題となっている。

出典: Tesla

中国政府の規制

自動運転車が収集するデータに関する規制では中国政府が先行している。中国政府は、クルマはデジタル化が進み、運転者のプライバシー保護と国家安全保障のために、クルマが収集するデータの関するガイドラインを発表した。現在、市販されているクルマの15%が自動運転技術を搭載しており、センサーが収集するデータに関する規制が必要との立場を取る。

規制の内容

ガイドラインは、自動運転機能でデータを不正に収集することを防ぎ、また、収集したデータを不正に利用することを防止することを目的とする。具体的には、中国国内外の自動車メーカーが対象となり、クルマが収集するデータは、中国国内に留めるよう義務付けている。対象となるデータは、クルマの位置情報や同乗者情報の他に、クルマのセンサーが撮影した画像やビデオなどで、顔情報、ライセンスプレート情報、個人情報などが含まれる。また、軍事施設内で収集したデータも規制の対象となる。

Teslaへの規制

このガイドラインに先立ち、昨年、中国軍はTeslaの所有者に通達を出し、クルマを軍の敷地に乗り入れることを禁止した。Teslaに搭載しているカメラが軍施設を撮影すると、重大なセキュリティ問題が発生するとしている。Teslaの所有者にクルマを軍施設の域外に駐車するよう求めている。また、先月、中国政府はTeslaが成都市(Chengdu、下の写真)の中心部を走行することを禁止した。この時期に、習近平(Xi Jinping)国家主席が同市を訪問しており、治安上の対策とみられている。

出典: Wikipedia

Teslaのセンサー

実際に、Teslaは高度なセンシング技術を搭載しており、市街地の状況をインテリジェントに把握する。TeslaのカメラとAIは、走行中に撮影した映像から、そこに映っているオブジェクトを判定する(下の写真)。クルマや歩行者などの他に、道路の車線や道路標識などを把握する。更に、Teslaは、車内のカメラで運転車と搭乗者を撮影し、AIが顔認識技術でIDを特定し、前方を注視しているかどうかを判定する。一方、Teslaは、市街地で撮影した人物に対し、顔認識技術を適用しているかどうかについては、何もコメントしていない。

出典: Tesla

Teslaは走る監視カメラ

市場では、Teslaのカメラの映像から、ナンバープレートを読み取り、周囲の人物の顔を認識するソフトウェアが開発されている。このソフトウェアは「Scout」と呼ばれ、オープンソースとして公開されている。このソフトウェアをTeslaにインストールすると、尾行しているクルマを検知し、アラートをあげる。また、駐車中のクルマに接近した不審者の顔を撮影し、その人物を特定する機能がある(下の写真)。ドライバーのセキュリティやクルマの盗難防止に使われているが、Teslaが監視カメラとして利用されている事例となる。

出典: Scout

Teslaをハッキング

自動運転車は簡単にハッキングできることから、セキュリティ対策が問題となっている。ドイツのプログラマーDavid Colomboは、Teslaをハッキングし、クルマが収集したデータにアクセスすることに成功したと発表した。一連のプロセスをブログで公開しており、これを読むと、Teslaをハッキングする手法と、センサーが収集する情報が分かる。Teslaのシステムに不正にアクセスすると、クルマの状態や走行したルート(下の写真)などが分かる。Teslaのセンサーが収集するデータは膨大で、クルマに関する様々な情報を得ることができる。

出典: David Colombo

自動運転車による監視

自動運転車は市街地の監視システムでもあり、これに付随して様々なリスクが発生する。クルマのセンサーが収集するデータから、米国主要都市の人の動きやその特性を理解できる。また、軍関係者や政府要人を特定し、それら人物の行動パターンを見つけ出すことができ、重大なリスクが発生する。また、政府に批判的な活動家の行動をトラックするためにも使われ、個人のプライバシーが侵害される。(下の写真、自動運転車Zooxのカメラが撮影したラスベガス繁華街の様子。高度なAIを搭載し多数の歩行者を同時に把握できる。)

出典: Zoox

法制化の議論

米国政府は5Gに関し、社会インフラを中国企業が構築することの危険性を認識し、Huaweiなど中国企業への規制を強化した。トランプ政権は5G 政策に関しては、米国から中国企業を排除することを主眼としたが、バイデン政権は米国と西側諸国が連携して、オープンな5G技術の開発を進めている。これからは、中国企業が開発したEVや自動運転車が米国で普及すると予測され、5Gと同様なレベルの規制が必要との議論が広がっている。

日本や欧州では

自動運転車は市街地におけるモビリティを担い、インテリジェントで安全に走行できる技術が開発されている。自動運転車は、市街地のネットワークや信号機など、都市インフラと連携し、スマートシティの基幹技術となる。米国を含め、これから日本や欧州で中国製の自動運転車が普及するときに、クルマの監視技術をどう規制するのか、各国で議論が始まることになる。

リモートワークではフィッシング詐欺に注意!!会社の同僚はAIが生成したディープフェイク、社員になりすました犯罪者が企業のITシステムを攻撃

今週、アメリカ連邦捜査局(FBI)は通達を出し、リモートワークでディープフェイクを使ったフィッシング詐欺が発生しているとして、企業や団体に注意を喚起した(下の写真)。犯罪者は、ディープフェイクで他人になりすまし、人事面接を受ける。採用された犯罪者は、企業のシステムにアクセスして、機密データを盗み出す。FBIは、ディープフェイクが犯罪で悪用される危険性を警告してきたが、実際にサイバー攻撃が始まった。

出典: Federal Bureau of Investigation

リアルな仮想人物

この通達は、FBIのインターネット犯罪捜査部門「Internet Crime Complaint Center (IC3)」から発行された。犯罪者は、個人情報(Personally Identifiable Information)を盗み、その人物になりすまし、サイバー攻撃を実行する。盗み出した個人情報とディープフェイクを組み合わせ、リアルな仮想人物であるアバターを生成し、この媒体を使って犯行に及ぶ。

アバターで人事面接

攻撃の対象はリモートワークを導入している企業で、犯罪者は盗み出した個人情報とディープフェイクでアバターを生成し、他人になりすまし人事面接を受ける。(下の写真、ビデオ会議のイメージ)。ビデオ会議による人事面接で、アバターが面接官と対話する形式で会議が進む。犯罪者は、情報技術、プログラミング、データベース、ソフトウェアなど、IT部門への就職を希望する。

出典: Microsoft 

採用後のプロセス

IT部門に採用された犯罪者は、企業システムにアクセスすることができ、ここで機密データを盗み出す手口となる。FBIは、犯罪者は、顧客の個人情報、企業の経理データ、企業のデータベース、企業の機密データなどにアクセスすると警告している。

フィッシングメールからアバターに進化

盗用した個人情報でフィッシング詐欺を実行するケースが増え、これが企業のセキュリティで最大の課題となっている。現在は、社員や関係者になりすました犯罪者が、電子メールを使って企業の機密情報を盗み出す手口で、これは「Business Email Compromise」として警戒されている。FBIは、この手法に加え、ディープフェイクを使ったフィッシング攻撃が始まり、新たな警戒が必要であるとしている。

ディープフェイクは完全ではない

FBIの通達は、今のディープフェイクは完成度が低く、偽物を見分けるための特徴があると指摘している。その最大のポイントは音声とディープフェイクの動きで、声と唇の動きが同機していないと指摘する。また、咳やくしゃみなど、音声を発生するアクションの表現が未熟であるとも指摘する。

リモートワークを採用している企業は要注意

今のディープフェイクは未完の技術であり、詐欺を見破る手掛かりがある。しかし、AIの技術進化は急で、完璧なディープフェイクが登場するまでに、時間の猶予は無い。(下の写真、既に人間と見分けのつかないアバターがコールセンターなどで使われている)。人間の目で見分けることは不可能となり、フィルタリングなど、ディープフェイクを見抜く技術の開発が必要になる。特に、リモートワークを採用している企業は狙われやすく、人事面接では応募者を認証するプロセスを強化することが必須となる。

出典: Soul Machines 

メタバースのセキュリティ

FBIの通達は、メタバースにおけるセキュリティ技術の開発が必要であることを示唆している。メタバースは3D仮想社会で、ここで自分の分身であるアバターを通じて、コミュニケーションを取る。企業はこの仮想空間に設立され、社員はアバターとなり、仕事を遂行する。仮想空間では、簡単に他人になりすますことができ、フィッシング詐欺など犯罪行為が懸念される。メタバースでは、利用者の認証技術など、3D空間を対象とするセキュリティ技術の開発が必須となる。

メタバースでは詐欺が多発する!!犯罪者のデジタルツインが消費者の資産を盗む、仮想社会のセキュリティをどう保障するか

メタバースでは詐欺や犯罪が多発すると懸念されている。メタバースは現実社会をインターネット上に3D仮想社会として構築したもので、実社会と同様に、この空間でフィッシング詐欺などの犯罪が多発すると懸念されている。犯罪者のアバターが消費者のアバターに接触し、パスワードやデジタル資産を盗む。アバターを使うと、現実社会より簡単に人を騙すことができ、被害が広がると懸念されている。

出典: Citi

Microsoftの警告

Microsoftはメタバースの開発を進めているが、3D仮想社会では新たな詐欺行為が起こり、セキュリティ対策を強化すべきと警告している。メタバースではヘッドセットを着装し、仮想空間のアバターと交流する。犯罪者は自身のアバターを作り、消費者のアバターに接触し、詐欺行為に及ぶ。現実社会と同じ手口であるが、メタバースでは簡単に他人になりすまし、様々なパーソナリティを生成でき、深刻な被害が発生すると懸念されている。

ソーシャルエンジニアリング

メタバースでは色々な犯罪が発生すると指摘されるが、特に、フィッシングと詐欺に警戒する必要がある。これらはソーシャルエンジニアリングと呼ばれる手法を使い、人間の心理的な隙や、行動のミスにつけ込み、個人が持つ秘密情報を入手する。現在では、Eメールが媒体として使われ、顧客を装ってお金を送金させるなどの犯罪が発生している。また、本物そっくりのフィッシングサイトに誘導し、ここで相手のIDとパスワードを盗む犯罪も多発している。

メタバースでのフィッシング

メタバースでは、Eメールの代わりに、3D仮想社会が犯罪の場となる。例えば、犯罪者は銀行員になりすまし、顧客を仮想社会の銀行店舗に案内する。仮想の銀行ロビーで、顧客のIDやパスワードなど、個人情報を盗み出す。既に、大手銀行はメタバースに出店しており、これらの店舗が犯罪で使われる危険性をはらんでいる。事実、米国の大手銀行JP MorganはメタバースDecentralandに仮想銀行「Onyx」を出店し、営業を開始している(下の写真)。

出典: Decentraland

メタバースでの詐欺行為

また、メタバースでは犯罪者が身近の人物になりすませ、詐欺行為を実行することが予想される。犯罪者は著名人になりすませ、消費者に接触し、特定のアクションを取るよう促す。例えば、犯罪者は会社のCEOになりすまし、社員に送金などの業務を指示する。CEOになりすましたアバターは、会議室で社員のアバターと打ち合わせ、CEOの銀行口座に送金するよう指示する。現在は、Eメールを介して犯罪が行われるが、メタバースではアバター同士の会話で進み、被害にあう危険性が高くなると懸念されている。

メタバースでの広告とセールス

メタバースでは広告の形態が大きく変わり、AIエージェントがセールスマンとなり、商品を販売する。AIエージェントとは、人間の代わりにAIで構成するデジタルツインで、アバターとして生成される。AIエージェントが仮想社会で、消費者のアバターと対話し、商品やサービスを販売する。AIエージェントは、消費者の嗜好を把握し、好むであろう商品を提案する。また、AIエージェントは、消費者の表情や声音から感情を読み取り、巧妙にセールスを展開する。メタバースではAIエージェントが広告やセールスの主流となり、今以上に個人情報の保護が求められる。

AIが生成するアバター

メタバースにおいては、アバターは人間だけでなく、AIが生成することになる。AIがリアルなアバターを生成し、実物と見分けがつかないだけでなく、消費者に好まれる特性を備える。つまり、AIは実物の人間よりも信頼されるアバターを生成できることを意味する。これを裏付ける研究がカリフォルニア大学バークレー校から発表された。AIで生成した顔写真は、実在の人物の顔写真より信頼感を得ることが明らかになった。(下の写真:顔写真の数字は信頼の指標で、大きいほど信頼感が高い。また、Rは実在する人物で、SはAIが生成したイメージ。AIで生成したイメージが実在の人物より信頼されている。) メタバースでは、犯罪者がアバターをAIで生成し、これを悪用し、重大な犯罪行為に繋がる可能性があることを示している。

出典: Sophie J. Nightingale et al.

セキュリティ対策

メタバースでビジネスが生まれつつあるが、運営企業と利用者は、仮想社会はいま以上に危険な場所であることを認識することが最初のステップとなる。これらの問題に対処するには、メタバースのセキュリティを強化する必要がある。インターネットでは、パスワードや二要素認証が標準的な認証方式となっている。メタバースではこれらに依存しない、生体認証などが候補となる。ヘッドセットなどのウェアラブルを着装する際に、生体認証実行するなどの方策が検討されている。また、メタバースでは、異なる仮想社会との互換性も求められる。例えば、Metaが開発するメタバースで認証受けると、Microsoftのメタバースを利用できるなど、異なるメタバースを統合的に管理する技術が必要となる。

ゼレンスキー大統領のフェイクビデオが登場、Metaは即時にこれを検知し記事を削除、AIを使ったデジタル戦が拡大

ウクライナ(Ukraine)政府はロシアがフェイクビデオを使って情報操作する危険性を表明し、国民に冷静な対応を呼びかけていた。実際に、ゼレンスキー(Zelensky)大統領のフェイクビデオがメディアに掲載された(下の写真)。偽の大統領は国民に、武器を捨ててロシアに投降するよう呼びかけた。MetaはこのビデオはDeepfakesであると判定し、プラットフォームから削除した。戦時下においてはAIを使った情報戦が展開されるが、今回はそのプロトタイプが登場し、デジタル兵器の攻防が始まった。

出典: Operational Report @ Telegram

ゼレンスキー大統領の偽ビデオ

3月16日、ゼレンスキー大統領がビデオメッセージで、国民に武器を捨ててロシアに投降するよう呼びかけた。これはウクライナに対する情報戦で、ビデオはアルゴリズムにより生成されたDeepfakesで、本人の演説ではない。Metaはこれをフェイクビデオであると特定し、プラットフォームから記事を削除した(下の写真)。ロシアがウクライナに侵攻した後、Metaは特別チーム「Special Operations Center」を形成し、24時間体制で情報操作をモニターしており、このフェイクビデオを即座に検知することができた。

出典: Meta

ロシアでビデオが拡散

このフェイクビデオはMetaのプラットフォームからは削除されたが、他のソーシャルネットワークで拡散している。メッセージングアプリ「Telegram」にこのフェイクビデオが掲載され、ここには、「ハッカーがウクライナのサイトにこのビデオを掲載した」とのコメントが添えられている (先頭の写真)。また、ロシアのソーシャルネットワーク「VK」にも同じビデオが掲載され、クレムリンを指示するグループで拡散している。

テレビ局のハッキング

これに先立ち、ウクライナのテレビ局「Ukraine 24」がハッキングされ、テレビ画面に偽のテロップが表示された。フェイク・テロップはニュース画面の下部に表示され、ゼレンスキー大統領からのメッセージと偽り、「戦闘を止め武器を捨てる」よう国民に訴えた(下の写真、最下部)。また、「大統領は交渉に失敗し、キエフを去った」とも伝えている。

出典: Ukraine Now @ Telegram

ゼレンスキー大統領の対応

フェイクビデオに対し、ゼレンスキー大統領はショートビデオを公開し、偽情報を打ち消した(下の写真、Instagramから配信)。ショートビデオで、拡散したビデオは偽情報で、つたない手法の攻撃であると非難した。大統領はオフィシャルサイトから、定常的に国民にメッセージをショートビデオで配信しており、今回も、このアカウントから真実の情報を伝えた。

出典: Zelensky @ Instagram

フェイクビデオの完成度

実際に、フェイクビデオを見ると、完成度は低く、これは本物ではないと感じる。頭部が体に比べて大きく、不自然さを感じる。また、喋っている時に、頭部は動くが、体は不動のままで、強い違和感を覚える。Deepfakesを生成する高度なGANが開発されているが、このビデオは技術的には未熟で、完成の域に達していないことが分かる。このフェイクビデオはプロトタイプと解釈することもでき、これから技術改良が進み、判別が困難になると予想される。

Metaの特別チーム

ロシアはフェイクニュースなどを使って情報戦を展開しており、西側諸国が被害を受けている。米国においては、2016年の大統領選挙で、ロシアは大規模な情報操作戦を展開し、これがトランプ大統領の当選に繋がったとされる。Meta(当時はFacebook)は、ネットワークに掲載された偽情報を削除するなどの措置は取らず、米国社会から強い批判を受けた。これを教訓に、2020年の大統領選挙では、特別チームを形成し、偽情報をリアルタイムでモニターし、ロシアのデジタル攻撃を防いだ。ロシアのウクライナ侵攻では、再度、独別チームを形成し、デジタル戦を防衛している。

顔認識AIの危険性が暴露、我々の顔写真が全米の警察で使われている!!(続々報)

顔認識AIを開発している新興企業Clearviewは、1000億枚の顔写真を収集する計画であることが明らかになった。写真は顔認識AIのデータベースに格納され、被験者を特定するためのインデックスとして使われる。世界の人口は約79億人で、一人につき12枚の写真が収集される勘定になる。このAIを使うと、世界の全ての人物の身元を特定することができる。

出典: Clearview

顔認識AIの開発

このAIを開発しているのはClearviewという新興企業で、世界最大規模の顔データベースの構築を計画している。投資家向けの資料がネットに流出したことで明らかになった。この資料によると、Clearviewは、現在、100億枚の顔写真を格納したデータベースを運営している。これを、1000億枚に拡充するために、資金の調達を進めている。

データベースの規模と判定精度

この規模のデータベースを使うと、AIは顔写真から、世界の殆どの人物の身元を正確に特定できる。具体的には、世界の人口の98%を、99.5%の精度で判定することができる。現在、Clearviewは100億枚の顔写真を格納したデータベースを運用しており、カバー範囲は75%となる。1000億枚の顔写真を使うと、世界の殆どの人を特定できる顔認識AIが生まれる。

利用目的

Clearviewは高精度な顔認識AIを開発し、米国政府を中心に、治安維持を目的に使われている。Clearviewの顔認識精度は、他の製品に比べひときわ高く、犯罪捜査で顔写真から容疑者の身元を特定するために使われる。昨年の米国連邦議会襲撃事件では、900超の顔写真をClearviewで解析し、350人の身元を特定することができた。このシステムは、FBI(連邦捜査局)や国土安全保障省などで使われている。

出典: Clearview

ベンチマーク結果

Clearviewは世界でトップレベルの性能を持っている。米国では、NIST(国立標準技術研究所)が顔認識AIのベンチマーク結果を公開しており、世界のベンダーの判定精度を知ることができる。これによると、中国Sensetimeがトップで、Clearviewは二位の判定精度となる。しかし、Clearviewは、Sensetimeより大きなデータベースを持ち、実効性能で上回るとしている。因みに、第三位はロシアVisionLabsで四位もロシアNTechLabとなる。

データベースの規模

世界でトップレベルの判定精度を持つClearviewであるが、その開発手法が社会問題となっている。AIが被疑者の写真から本人の身元を特定するためには、解析した写真と同一の人物を、データベースから見つけ出す。このため、データベースの規模が大きいほど、マッチングの確度が上がる。

データ収集の手法

Clearviewは世界のウェブから顔写真を収集する手法でデータベースを開発してきた。Facebookなどソーシャルネットワークに掲載されている顔写真を、本人の許可なくダウンロードし、これをデータベースに格納する。これは、スクレ―ピングという手法で、個人のプライバシーを侵害するとして、米国社会で問題視されている。実際に、全米各地で集団訴訟が起こり、Clearviewの手法は法廷で問われることになる。

ビジネスモデル

Clearviewの顔認識AIは、治安当局による犯罪捜査で使われている。Clearviewは、データベースの規模を10倍に拡大するとともに、顔認識AIの新しいビジネスモデルを計画している。対象を政府官庁から企業に拡大し、顔認識AIで、セキュリティや顧客サービスなどのソリューションを開発する。特に、金融機関やギグ・エコノミー(Gig Economy)向けを重点分野とし、事業開発を進める。

出典: Clearview

金融機関向けソリューション

Clearviewは顔認識AIを金融機関向けに提供することを計画している。これは、マネーロンダリングを検知するためのソリューションで、顔認識AIで利用者が犯罪者リストに登録されているかどうかを検知する。これは「One-to-Many Analysis」と呼ばれる手法で、利用者の顔写真でデータベースを検索し、身元を特定する。偽名を使った犯罪行為を検知できる。

ギグ・エコノミー向けソリューション

Clearviewはギグ・エコノミー向け顔認識AIに対する需要が大きくなると予想している。ギグ・エコノミーとは、ネットを通じた雇用制度で、契約社員として単発で働く方式を指す。Uberなどのライドシェアがギグ・エコノミーの代表となる。企業側はギグ・ワーカーを採用する際に、顔写真を顔認識AIで解析し、過去の履歴を確認する。この他に、Walmartなど小売店舗は、万引き防止のために、顔認識AIで容疑者の身元を特定するなどの活用法が検討されている。

出典: Clearview

治安維持かプライバシー保護か

米国ではサンフランシスコなど主要都市が顔認識技術の使用を禁止したが、連邦政府レベルではこれを規制する法令は無い。顔認識技術の利用について、統一したガイドラインは無く、運用の可否は各政府機関に任されている。顔認識技術を提供するAmazon、IBM、Microsoft、Googleは、無用の混乱に巻き込まれるのを恐れ、自主的にビジネスを停止している。Clearviewは、独自の解釈で、顔認識AIを提供する方針を貫いている。高精度な顔認識AIが犯罪捜査に寄与し、社会の治安が保たれていることは事実である。一方、Clearviewは、個人の顔写真を無断で使っており、これがプライバシー侵害に該当するのか、法廷で審理が進んでいる。