カテゴリー別アーカイブ: 遺伝子解析

AIで新型コロナウイルスの遺伝子配列を解析、配列を言葉として解析しワクチンが効かない異変種の発生を予測

新型コロナウイルス感染症のワクチン接種が始まり、パンデミックが終息に向かうと期待されている。ウイルスは変異を繰り返し、今年に入り相次いで英国型や南アフリカ型異変種が発見された。これら異変種は感染力が高いが、ワクチンは有効であるとの見解が示されている。しかし、最新のAIを使った解析では、更に複数の異変種が生まれ、その幾つかはワクチンが効かないと推定する。この事態に陥れば、新型コロナウイルスの終息にはもう少し時間がかかるかもしれない。

出典: Brian Hie et al.

Viral Escape:ワクチンが効かなくなる

新型コロナウイルスなど感染症向けにワクチンが開発されるが、ウイルスの遺伝子が変異するとワクチンの有効性が低下し、最悪の場合は効かなくなる。ワクチン接種により体内に抗体(Antibody)が生成されるが、ウイルスが変異すると抗体がこれを認識できなくなる。これは「Viral Escape」(ウイルスがワクチンをすり抜けるという意味)と呼ばれ、感染症対策の大きな課題となっている。ワクチン開発ではウイルスがどう変異するとワクチンが効かなくなるのかが重要な情報となる。(上のグラフィックスは新型コロナウイルスのスパイクたんぱく質で、Viral Escapeが発生する可能性が高い個所(黄色)と低い個所(青色)を示している。スパイクたんぱく質に対してワクチンが開発されているが、Viral Escapeが発生しない部分(上のグラフィックス右側、S2と示された個所)に作用する仕組みを取る必要がある。)

ウイルスに自然言語解析を適用

MITのAI研究チームはViral EscapeをAIの自然言語解析(Natural Language Processing)を使って予測する技法を開発した。ウイルスの遺伝子配列を言葉として捉え、そこから文法(Grammar)と意味(Semantics)を把握することで、どの遺伝子変異がViral Escape(ワクチンが効かない状態)に繋がるかを予測した。この研究ではインフルエンザウイルス(influenza A hemagglutinin)、エイズウイルス(HIV-1 envelope glycoprotein)、及び、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2 spike glycoprotein)の三種類が使われた。

遺伝子配列の文法と意味

ウイルスの遺伝子配列を解析し、その文法と意味を把握するが、それらを次のように解釈できる。文法とはウイルスの基礎機能を決める。文法がしっかりしているウイルスは感染能力が高く、ウイルスが生存する可能性が高いことを示す。一方、意味はウイルスの変異を示す。異なる意味をもつウイルスは異なる形状を示すことになる。例えば、新型コロナウイルスが変異して、意味が異なり、文法が正しければ、ワクチンが効かない感染力の強いウイルスが生まれることになる。

出典: Brian Hie et al.  

遺伝子配列の文法と意味を可視化

上のグラフはこれを可視化したもので、縦軸が文法で横軸が意味を示す。文法が正しいほど(上に行くほど)、感染能力が高い(赤色の円)。意味が変わるとワクチンが効かなくなる。矢印の通り、左上のウイルスが右上のウイルスに変異すると、感染力が高く、ワクチンが効かないウイルスとなる(Viral Escapeが起こる)。一方、ウイルスが変異しても文法が正しくなければ、感染力が低下し無害のウイルスとなる(青色の円)。

自然言語解析の手法

この研究では自然言語解析の手法を適用したが、具体的には、LSTM(Long short-term memory)というタイプのニューラルネットワークが使われた。LSTMは時系列のデータを解析する手法で、言語処理では入力された言葉に続く言葉を推定する。この研究では、LSTMにウイルスの遺伝子配列を入力し、ネットワークは意味と文法を出力する。

出典: Brian Hie et al.  

上のグラフィックス;BiLSTMにウイルスの遺伝子配列を入力すると(最下段)、ネットワークはその意味(入力データに続く言葉 = 変異)を出力し(中段)、更に、その文法を出力する(最上段)。モデルは推定した言葉と、この言葉が持つ文法の正しさを推定し、Viral Escapeとなる確率を算定する。

解析の結果

モデルが予測した結果を過去のデータで検証し推定の精度を検証した。このモデルはインフルエンザやHIVや新型コロナウイルスなど5種類のウイルスを解析した。その結果、新型コロナウイルスに対して、モデルは85%の精度Viral Escapeとなる変異を予測した(下のグラフ、右端)。

出典: Brian Hie et al.  

感覚的な理解

このモデルを自然言語に応用するとこの機能を理解しやすい。モデルは元の文章が変異するパターンを予測し、それが文法に適合しているかどうかを判定する。更に、文章の意味に関し、それらがどのような位置関係にあるかを算定する(下のグラフィックス)。

  • 上段:元の文章は「オーストラリア人がバリ島で死んだ」
  • 中段:文章が変異する(australianがaussieに変わる)が意味は変わらない
  • 下段:文章が変異する(deadがballetに代わる)と「オーストラリア人がバリ島でバレイ」となり意味が変わるが、文法も正しい。この変異がViral Escapeとなる。
出典: Brian Hie et al.  

事前に対策を講じる

いま新型コロナウイルスが変異し、英国型や南アフリカ型変異種の感染が広がっている。もし、変異種が発生する前に、ワクチンが有効かどうかを把握できると、医療関係者はその拡散に備え、必要な対策を取ることができる。また、ワクチンや治療薬の開発では、Viral Escapeが発生しにくい領域を対象に、モデルを開発することができる。このモデルはまだ研究段階であるが、AIは現行ワクチンが効かない新型コロナウイルスの発生を予測しており、不測の事態に備えておく必要がある。

シリコンバレーでアンチエイジングの研究が白熱、遺伝子解析とAIで若返る

合成生物学の国際会議「SynBioBeta」が開催され、最新の研究成果が発表された。合成生物学とは生物学と情報工学が融合した分野の研究で、遺伝子解析とAIが結び付きブレークスルーが生まれている。その一つがアンチエイジングの研究で、老化を抑止する医療品や製品が生まれている。

出典: One Skin

One Skinという新興企業

SynBioBetaでOne Skin創業者のCarolina Reis Oliveiraがアンチエイジング研究の成果を説明した。One Skinとはサンフランシスコに拠点を置く新興企業で、合成生物学の手法でアンチエイジングの研究を進めている。最初の成果がスキンケアサプリメント「OS-01」(上の写真)で、今日から販売が開始された。これを顔や手の肌につけると、皮膚の寿命(Skinspan)を延ばすことができる。多くのアンチエイジング製品が販売されているが、One Skinは老化した細胞を取り除くことで皮膚を若返らせるアプローチを取る。

老化とは

人は年を取ると、肌にしわができ、関節が痛み、白髪が増える。老化することは自然の摂理で、避けることはできないと考えられてきた。しかし、老化の研究が進み、そのメカニズムが分かり始め、今では老化は病気であると認識されている。このため、シリコンバレーを中心に、老化という病気を治療する研究が進んでいる。

老化のメカニズム

しかし、老化は極めて複雑な生理現象で、その詳細は分かっていない。アメリカ国立衛生研究所によると、老化の原因は九つあり、その一つが「Cellular Senescence」と呼ばれる現象である。これは「細胞の老化」という意味で、細胞が老化し、活性化が止まった状態を指す。この状態の細胞は老化細胞「Senescent Cells」と呼ばれる。人間の細胞は、生まれてから分裂を繰り返し成長するが、年を取るとこの細胞分裂が停止し、これ以上細胞分裂が起こらない状態となる。(下の写真、皮膚の細胞を示したもので、透明な部分が正常な細胞で、青色の部分が老化細胞)。

出典: One Skin

老化の役割

細胞の老化は体を守るための現象で、老化細胞や傷ついた細胞は、免疫系(Immune System)により取り除かれる。免疫系は体内の病原体や遺物を殺滅するほかに、老化細胞を取り除く役割を担っている。老化は古くなった細胞の分裂を停止させる機能で、これらが取り除かれ新たな細胞が生まれ、組織が若返る。

老化が問題となるのは

しかし、老化が問題となるのは、老化細胞が取り除かれないまま体内に蓄積されるためである。加齢とともに免疫系の機能が低下し(Immunosenescent)、老化した細胞が取り除かれないまま体内に蓄積される。古い細胞が増えることで新たな細胞が生まれないだけでなく、周囲の正常な細胞にダメージを与え、これらを老化細胞に変えていく。これにより、ガンや心臓疾患や認知症などを発症する。また、関節炎や骨粗しょう症の原因となる。これが老化の問題点で、老化細胞が取り除かれないまま蓄積することで起こる。

One Skinの手法

One Skinはこの老化細胞を取り除く技術を開発している。肌のアンチエイジングに焦点を当て、肌に蓄積する老化細胞を取り除くことで、皮膚を若返らせる技術を開発した。膨大な数のペプチド(Peptide、アミノ酸で構成された短い分子)を調べ、OS-01というペプチドが老化細胞を取り除く効果があることを発見。研究室での実験でOS-01は皮膚の老化細胞を25%から50%取り除くことができその効果を実証した。また、人体に適用しその効果を確認した。(下の写真、老化した肌(左側)にOS-01を12週間適用すると張りのある肌(右側)となった。)

出典: One Skin

人の老化を止める薬

SynBioBetaでOliveiraは、この研究の最終ゴールは人の老化を抑止する医薬品を開発することであると述べ、そのロードマップを説明した。研究は進行中で、アンチエイジングに効果のあるペプチドOS-01を線虫の一種であるC elegansに適用すると寿命が12%伸びたと、その成果を説明した。次のステップはこれを人間に適用し、老化に起因する病気の治療を目指す。具体的には、皮膚角化疾患(psoriasis)や関節リウマチ(rheumatoid arthritis)の治療薬を開発する計画である。

100歳まで健康に暮らす

シリコンバレーの識者の間で健康寿命の捉え方が変わりつつある。老化の研究が急速に進化しており、100歳まで健康で活躍できると考える人が増えてきた。革新的なアンチエイジング医療の研究が盛んで、健康管理を怠らなければ、我々は新技術の波に乗り、余命が大きく伸びそうだ。「100 is the new 60」という言葉をよく耳にする。これは、これからの100歳は従来の60歳という意味で、100歳まで元気に働ける時代は目の前に迫っている。

[OS-01の開発手法]

遺伝子と細胞年齢

One Skinは生物学と機械学習を駆使しOS-01の開発に成功した。One Skinは、研究室でヒトの肌を培養し、このプラットフォームの上でアンチエイジングの研究を展開。また、機械学習の手法で細胞の年齢を推定するアルゴリズムを開発。遺伝子のマーカーを細胞年齢の指標として使った。このアルゴリズムを使い、開発したペプチドで細胞がどれだけ若返ったかを推定した。(下の写真、アルゴリズムの結果を示し、縦軸が細胞の年齢で横軸がその推定年齢。)

出典: One Skin

ペプチドの生成

ペプチドのライブラリーから微生物を殺す機能を持つペプチドを検索。そこから、有望なペプチドを絞り込み、それを参照して、老化細胞を殺滅する機能を持つペプチドを人工的に生成した。生成したペプチドは、通常の細胞には影響はなく、老化細胞だけを殺滅する機能を持つ。このペプチドが「OS-01」で、アンチエイジングに効果があることを実験室で(In Vitro)確認した。更に、実際に人体に適用して(In Vivo)、その効果を確認した。(下の写真、左側が老化した皮膚で、右側はOS-01を適用して若返った皮膚、細胞が密になりカラム状の構造を取る)

出典: One Skin

ゲノム編集技術「CRISPR-Cas9」の開発者がノーベル化学賞を受賞、ライフサイエンス革命が始まる

今年のノーベル化学賞はゲノム編集技術「CRISPR-Cas9」を開発した二人の女性研究者が受賞した(下の写真)。スェーデン王立科学アカデミーは、受賞理由は遺伝子編集技法の開発とし、CRISPR-Cas9を「遺伝子を切るハサミ(Genetic scissors)」と表現している。この技法を使うことで、ヒトや動物や植物の遺伝子を容易に書き換えることができ、ライフサイエンスの分野で革新的なインパクトがあると評価している。

出典: Nobel Media AB 2020

受賞内容

ノーベル化学賞受賞の理由は遺伝子の編集技術「CRISPR-Cas9」の開発(for the development of a method for genome editing)。受賞者はマックスプランク感染生物学研究所(Max Planck Unit for the Science of Pathogens)のEmmanuelle Charpentierとカリフォルニア大学バークレー校(University of California, Berkeley)のJennifer Doudna。

受賞理由

CRISPR-Cas9とはバクテリアなど原核生物(Prokaryote)が持つ免疫機構で、その存在は早くから知られていた。Doudna教授らは、これを植物や動物の細胞に適用し、遺伝子を切断・編集する技法を開発し、これが今回の受賞に繋がった。バクテリアが持つ防衛機能を動植物の遺伝子編集に適用する発想と技法が評価された。

CRISPR-Cas9の機能

CRISPR-Cas9は遺伝子を切るハサミと表現されるように、遺伝子を切断する機能を持つ。切断された遺伝子は自己修復する機能があり、再び繋がるが、その際に元の配列とは異なる配列で繋がる。このため、この遺伝子が機能しなくなる。また、接続した部分に別の配列を付加すると、遺伝子の配列を編集できる。これにより、新たな機能を持つ遺伝子を作り出すことができる。つまり、CRISPR-Cas9で特定の遺伝子の機能を止め、また、新たな遺伝子を生成できる。

出典: The Royal Swedish Academy of Sciences

ライフサイエンス革命

CRISPR-Cas9により全ての生き物の遺伝子を自在に編集でき、ライフサイエンスに革命をもたらす。農水産物物をCRISPR-Cas9で改良し、乾燥に耐性のあるトウモロコシや血圧を下げるトマトの開発が進んでいる。また、家畜の遺伝子を編集し、雄雌を産み分ける技術の開発が進んでいる。また、これを医療に応用し、ガン治療(CAR T-cell Therapy)や遺伝性貧血(鎌状赤血球症、Sickle cell disease)の治療で効果をあげている。一方、ヒトの受精卵をCRISPR-Cas9で編集し、他人より優れた能力を持つ赤ちゃん「CRISPR Baby」を生むことに関してはコンセンサスは無く、各国が独自で研究を進め、世界で混乱が広がっている。

牛の受精卵の遺伝子を編集

このような状況の中、今年7月、カリフォルニア大学デービス校(University of California, Davis)は牛の受精卵遺伝子をCRISPR-Cas9で編集し、雄の牛を生ませることに成功した(下の写真、生まれた雄の子牛、名前はCosmo)。この研究では牛の受精卵の17号染色体(Chromosome 17)に雄の牛を生成する遺伝子(SRY Gene)を挿入した。この牛が育ち、この牛で繁殖させると75%の確率で雄の牛が生まれる。因みに、雄の牛を生ませる理由は一頭当たりの肉の量が牝牛に比べて多いため。ただし、米国においては遺伝子編集で誕生した食肉を販売することはアメリカ食品医薬品局(FDA)の認可が必要で、この子牛の肉を販売することはできない。遺伝子編集された食肉が安全であることを証明する必要性の他に、この研究は動物の生殖細胞の遺伝子を編集することに対し、倫理的な課題も提示している。

出典: University of California, Davis

ヒト受精卵の遺伝子編集

CRISPR-Cas9をヒトの受精卵に適用し遺伝子を書き換えることに関しては社会の理解が得られていない。しかし、2018年、中国の研究者He Jiankuiはヒト受精卵をCRISPR-Cas9で編集し、HIVに感染しない双子の女の子を作り出した。この研究は、欧米の研究者コミュニティ―と交流を持たず、中国国内に閉じて実施された。その結果が学会で報告され、世界は衝撃を受けた。

CRISPR-Cas9の危険性と国際規制

CRISPR-Cas9でヒト受精卵の遺伝子を編集することが危険な理由は、その技術が未成熟なことにある。CRISPR-Cas9は生まれたての技術で常に正確に遺伝子を編集できるわけではない。意図しない個所の遺伝子を書き換えるケース(off-target edits)が少なくない。上述のケースでも対象とする遺伝子(CCR5 Gene、HIV発症に関与する遺伝子)だけでなく、その他の遺伝子も書き換えられたとされる。未熟な技術でヒト受精卵の編集をすることの危険性が指摘されるなかで、各国でこの研究が進んでおり、国際的な規制やルールの制定が求められている。しかし、CRISPR-Cas9で優秀な国民を生み出すことは国の繁栄や安全保障と深くかかわり、世界共通の規制を制定することは容易なことではない。

選ばれなかった研究者

Charpentier博士とDoudna教授が受賞したが、CRISPR-Cas9開発では多くの研究者が関与している。その一人がマサチューセッツ工科大学Broad InstituteのFeng Zhang教授で、ノーベル賞候補とされてきたが、受賞には至らなかった。Zhang教授はCRISPR-Cas9を改良し、ヒトやマウスの遺伝子を編集することに成功した。Zhang教授が受賞しなかったことが最大のサプライズとなった。

CRISPR-Cas9の特許を巡る争い

Zhang博士が属するBroad InstituteとDoudna教授が属するUC BerkeleyはCRISPR-Cas9の特許について法廷で争っている。巨大な富を生み出すCRISPR-Cas9の特許は誰に属すのか審理が続いている。先月、米国特許裁判所(US Patent Trial and Appeal Board)は、Broad Instituteに有利な意見を公開した。

出典: Science

Doudna教授らは試験管の中でCRISPR-Cas9が遺伝子を切断できることを示し(上の写真)、世界の研究者がCRISPR-Cas9に着目する切っ掛けとなった。一方、その後、Zhang教授らはCRISPR-Cas9を改良し、ヒトやマウスなどの遺伝子を編集することに成功した。このため、裁判所は、真核生物(Eukaryotes、ヒトや動物や植物など)の遺伝子を編集する特許はBroad Instituteにあるとの見解を示した。つまり、Doudna教授らはDNA切断の基礎機能の特許を持つが、これを動物に適用する特許はZhang教授らに属すとの判断を示した。

ノーベル委員会の判断

法廷闘争が続く中で、ノーベル委員会はZhang教授を加えないでDoudna教授らを選考した。ノーベル賞枠は最大三人であり敢えてDoudna教授らを選んだ形となった。発表文の中に、Doudna教授らを選んだ理由を、CRISPR-Cas9を使えば「動物や植物や微生物のDNAを書き換えることができる」との記述があり、試験管で遺伝子を切断できれば、これを動物などに応用できることは自明であるとも解釈できる。

Jennifer Doudna talks during a press conference at UC Berkeley in Berkeley Calif. on Wednesday, Oct. 7, 2020. Doudna received the Nobel Prize in Chemistry for her work with CRISPR Cas9.
出典: UC Berkeley News

受賞の言葉

UC Berkeleyは受賞が決まったその朝にDoudna教授にインタビューし、その様子をビデオで配信した(上の写真)。Doudna教授は、受賞はバクテリアの免疫機構を遺伝子編集に適用したことが評価されたとの見解を示し、「イノベーションは思ってもみなかった方向から訪れる」と述べた。自然が長い年月にわたり培ってきた機能は人間の想像力を遥かに上回るという意味となる。

[技術情報: CRISPR-Cas9の仕組み]

バクテリアが備えているCRISPR-Cas9

バクテリアは体内に侵入するウイルスをCRISPR-Cas9で防御する。CRISPR-Cas9はバクテリアが持つウイルスに対する免疫機構となる(下のグラフィックス)。

  1. バクテリア内部に放出されたウイルスのDNA(VIRAL DNA)をCRISPR(CRISPR DNA)に保管する。VIRAL DNA間はREPEATED SEQUENCEという配列で結ばれる。CRISPRは過去に感染したウイルスDNAの保管倉庫となる。
  2. CRISPR DNAはそのコピーCRISPR RNAを生成する。
  3. 目印の役割を果たすtracrRNAがREPEATED SEQUENCEと結合し、ハサミの機能を持つCas9がCRISPR RNAに結合する。
  4. CRISPR RNAは侵入したウイルスのDNAと配列を比較し、それが同じであればCas9がウイルスのDNAを切断する。つまり、CRISPR-Cas9は過去に侵入したウイルスのDNAを記憶しており、再度侵入したときにそれを切断する。
出典: The Royal Swedish Academy of Sciences

CRISPR-Cas9で動物や植物の遺伝子を編集する方法

CRISPR-Cas9はハサミの機能を持ちDNAを切断する。その際に、研究者がCRISPR RNAを生成する。これはガイドの役割を持ち切断する箇所に導く。そしてCas9がDNAを切断する。 (下のグラフィックス)。

A. 切断した個所は細胞により修復されるが、前とは異なる塩基対が挿入され、その結果その遺伝子は機能しなくなる。

B. 切断した個所に新たな塩基対を加えると、新たな遺伝子を生成できる。

つまり、CRISPR-Cas9で、特定の遺伝子の機能を停止させる操作と、新たな遺伝子を生成する操作ができる。

出典: The Royal Swedish Academy of Sciences

CRISPRの発見と名前の由来

CRISPRは遺伝子の一部で、バクテリアなどに存在し、この構造は日本の石野良純博士により1987年に大腸菌の中で発見された。しかし、当時はその役割について分かっていなかった。スペインの微生物学者Francisco Mojica博士は、1993年、古細菌(archaea)の中でこの構造を見つけ、2005年に、これは免疫システムであるとの仮説を発表。Mojica博士はこの構造をclustered regularly interspaced short palindromic repeats = CRISPRと命名。

(下のグラフィックス:バクテリア内部のCRISPRで、同じ配列(黒色の部分、Repeat)が規則正しく繰り返される。しかも、この部分の配列は回文構造(palindromic、左から読んでも右から読んでも同じ配列)をしている。CRISPRは回文構造の配列が繰り返されるという意味を持つ。)

出典: The Royal Swedish Academy of Sciences

ゲノム編集技術CRISPRで合成生物学が急成長、同時にデザイナーベビー開発競争への国際規制が求められる

先週、合成生物学の国際会議「SynBioBeta」がオンラインで開催され、大学や企業の研究者が対談形式で研究成果を議論した。遺伝子工学とAIが結び付き、医療、食料、素材でブレークスルーが起こっている。会議ではCRISPR開発者Jennifer Doudna教授(下の写真、左側)が遺伝子編集技術による成果と課題を解説した。ヒト遺伝子の書き換えが世界で進み、研究開発に関する国際ルールを制定する必要性を説いた。

出典: SynBioBeta

合成生物学とは

合成生物学(Synthetic Biology)とは人工的に生物の一部を生成し、また、それを改良する技術を指す。多くの研究分野から構成され、生物工学(Bio Technology)や遺伝子工学(Genetic Engineering)がその中心となる。特に、遺伝子工学においては、遺伝子配列を読み取る技術(DNA Sequencing)のコストが劇的に下がり、また、遺伝子配列を編集する技術CRISPR-Cas9の登場で、合成生物学が急速に進化している。更に、遺伝子工学とAI・機械学習が結び付き様々なブレークスルーが生まれている。

CRISPR-Cas9とは

CRISPR-Cas9とは遺伝子配列を高精度に編集する技術を指す。従来から遺伝子編集技術(ZFNやTALENなど)が使われてきたが、CRISPR-Cas9は容易に遺伝子を編集できることが最大の特徴で、瞬く間に世界で利用が広がった。CRISPR-Cas9を使った編集技術はカリフォルニア大学バークレー校(University of California Berkeley)のJennifer Doudna教授らにより開発された。

CRISPRとCas9

CRISPRはCas9と連動して稼働する。CRISPRは遺伝子の一部で、バクテリアなどに存在する。この構造は石野良純博士により1987年に大腸菌の中で発見された。一方、Cas-9はたんぱく質で、遺伝子を切断する機能を持つ。CRISPRとCas9は連携して働き、バクテリアの中に侵入したウイルスを見つけ、その遺伝子を切断する機能を持つ。つまり、CRISPRとCas9はバクテリアが備えている免疫機構で、ウイルスを殺し感染拡大を阻止する。

出典: Innovative Genomics Institute  

CRISPR-Cas9を遺伝子編集に応用

Doudna教授らは2012年、CRISPR-Cas9を使って遺伝子を編集する手法を考案した。これは「CRISPR Gene Editing」と呼ばれ、生物が備えている免疫機構を遺伝子編集に適用するもので、簡単な操作で遺伝子配列を編集でき、医療や生物学の分野で研究の必須ツールとなっている。 (上の写真、CRISPR-Cas9の構造。黄色のらせん構造がCRISPR、緑色の物質がCas9、水色のらせん構造が編集対象の遺伝子。)

CRISPR-Cas9で遺伝子を編集する仕組み

CRISPRは編集する箇所をピンポイントで見つけ、Cas9がその部分を切断する(下のグラフィックス)。切断した個所は細胞により修復されるが、前とは異なる塩基対が挿入され、その結果その遺伝子は機能しなくなる(左側)。一方、切断した個所に新たな塩基対を加えると、新たな遺伝子を生成できる(右側)。つまり、CRISPR-Cas9は特定の遺伝子の機能を停止させる操作と、新たな遺伝子を生成する操作ができる。

出典: Innovative Genomics Institute  

農業分野への応用

CRISPR-Cas9による遺伝子編集は幅広い分野で使われているが、農業分野で新しい作物が開発されている。従来から作物の遺伝子組み替えが実施されているが、CRISPR-Cas9を使うとこれを簡単な操作で高精度で実施できる。地球温暖化に耐性のあるトウモロコシの栽培などが始まっている。また、伝染病を介在する蚊の遺伝子を組み替える試みも進んでいる。蚊の遺伝子を別の遺伝子で置き換え繁殖機能を抑止し、マラリアやデング熱の感染拡大を防ぐ。

難病の治療に成功

Doudna教授はCRISPR-Cas9をヒト遺伝子の編集に適用することで難病を治療する研究に期待している。スタンフォード大学医学部(Stanford Medicine)はCRISPR-Cas9で遺伝性貧血(鎌状赤血球症、Sickle cell disease)の治療に成功した。この病気は赤血球が三日月状に変形し、酸素の運搬機能が低下し、貧血を引き起こし、多くの子供が成人になる前に死亡する。これは遺伝子(Beta Globin Gene、下の写真上段)の一つの塩基が置き換わり発生する。この変異した塩基をCRISPR-Cas9で元に戻すことで病気を治療できることが示された(下の写真、下段)。これは一つの遺伝子が変異することで発症する病気で「Monogenic Diseases」と呼ばれる。Monogenic Diseasesは9万種類存在し、CRISPR-Cas9でこれらの病気を治療することに期待が寄せられている。

出典: Vence L. Bonham, National Human Genome Research Institute  

デザイナーベビーの誕生

中国で遺伝子工学が極めて速い速度で進んでおり、遺伝子配列のシークエンシング技術で米国を凌駕しようとしている。研究者He Jiankuiはヒト受精卵をCRISPR-Cas9で編集し、世界で初めてデザイナーベビーを誕生させたことは記憶に新しい。これはHIV感染を防ぐための治療とされるが、この手法は重大な問題を含み国際社会に危険性を提起した形となった。

生殖細胞と体細胞

この研究では生殖細胞(Germline Cells、卵子、精子、受精卵)の遺伝子を編集し、編集された遺伝子は子孫に継承される。ヒトの遺伝子が人間の手で書き換えられ、新たな種の誕生に繋がり、重大な倫理問題を含んでいる。これに対し、遺伝性貧血の治療では体細胞(Somatic Cells)の遺伝子が書き換えられた。この変更は当人だけに留まり、子孫に受け継がれることはない。

国際ルールの設定

Doudna教授はSynBioBetaのJohn Cumbersとの対談の中で(先頭の写真)、CRISPR-Cas9による遺伝子編集に関し、国際ルールを制定する必要性を訴えた。CRISPR-Cas9の登場で全ての遺伝子を高精度で書き換えることができるようになり、「もはや研究者が生殖細胞の遺伝子を編集することを誰も止めることができない」と述べた。CRISPR-Cas9は簡単に使えるため、大きな組織でなくてもデザイナーベビーを作ることができる。ロシアはこの技術を使って、強靭で恐れを知らない兵士を生み出す研究を進めているとのレポートもある。北朝鮮やカザフスタンでも同様な研究が進んでいるとのうわさもある。Doudna教授は「遺伝子細胞を書き換える仕組みや書き換えの範囲など、共通のルールについて各国政府の関係者が話し合う時だ」と述べた。

多様性が求められる

Doudna教授は世界が危機に直面している中、これを解決するには「多様性」が重要であるとの考え方を示した。Doudna教授は幼少期をハワイ島で過ごし、多民族が暮らす社会で成長した。「この中で異なる考え方をもつ人と協調するすべを学んできた」と述べ、国際社会という多様性の中で各国が協調できる道を探ることが肝要としている。CRISPR-Cas9を使ったヒト遺伝子の編集で優秀な国民を作り上げることができ、遺伝子工学は国家安全保障と深い関係を持つ。各国の多様な考え方の中で共通項を見つけ、「CRISPR-Cas9が世界に貢献できる仕組みを探求する努力が求められる」と述べた。

出典: Innovative Genomics Institute  

Doudna教授の人柄

Doudna教授はノーベル賞最有力候補で、近年中に受賞するとささやかれている。世界トップの座にあるDoudna教授であるが、人柄は謙虚で、権威をかざすことなく、優しくそしてしっかりと語り掛けるのが印象的であった。CRISPR-Cas9の開発者であるDoudna教授がそれを規制すべきとの主張には重みがある。(上の写真、Doudna教授のが代表を務める遺伝子工学研究所Innovative Genomics Institute)

ヒト受精卵の遺伝子解析で健康でIQの高い赤ちゃんを出産、AIでスーパーベイビーを誕生させることは許されるか

米国でヒトの受精卵の遺伝子解析が静かに広がっている。体外で受精した卵子の遺伝子を解析し、病気発症を予測する。複数の受精卵の中から、病気を発症する確率が低いものを選び、健康な赤ちゃんを出産する。更に、遺伝子解析でIQの高い受精卵を特定でき、賢い赤ちゃんを産むことができる。しかし、スーパーベイビーを生むことに対しては、深刻な倫理問題を内包し、社会的な批判が大きい。

出典: Genomic Prediction

受精卵の遺伝子解析技術

この技術を開発したのはGenomic Predictionという新興企業で、受精卵の遺伝子を解析し、生まれてくる子供の特性を把握する。受精した卵子から細胞を取り出し、その遺伝子配列を把握し、生まれてくる子供が罹りやすい病気を予測する。更に、子供の将来の身長やIQなど、身体特性を予測することもできる。

成人向けの遺伝子解析との相違

ヒトの遺伝子解析は幅広く普及しており、米国では23andMeなどが個人向けに解析サービスを提供している。唾液などの検体を送れば、発症する可能性が高い病気や身体の特性について知ることができる。これに対し、受精卵の遺伝子解析では、複数個(例えば5個)の受精卵を準備し、これらの遺伝子を解析し、その中で最も優れている受精卵を選んで出産する。23andMeは将来の健康状態を把握するために利用するが、Genomic Predictionは健康で優秀な子孫を残すために使われる。

受精卵の遺伝子解析のプロセス

この検査は体外受精(In Vitro Fertilization) のプロセスの中で実施される。体外で卵子と精子を受精させ、受精卵は細胞分裂を開始し胚(Embryo)となる。胚から細胞を取り出し、遺伝子の配列を解析する。体外受精は不妊治療として実施されるが、この際に受精卵の遺伝子検査を受ける。また、家系に重大な遺伝子病がある場合は、体外受精を実施し、病気発症の遺伝子を持っていない受精卵を選び出産する。

出典: UC San Francisco

体外受精の件数が増加

受精卵の遺伝子解析が広がっているが、この背景には体外受精で出産する件数が増えていることがある。世界的に女性の出産年齢が上昇する傾向にあり、体外受精で子供を授かるケースが増えている。特に、デンマークやベルギーでこの傾向が高く、出生する子供の10%が体外受精といわれている。これに対して、日本は5%で、米国は3%であるが、先進国で体外受精の割合が増加している。

病気発症のリスク

Genomic Predictionは受精卵の遺伝子解析「Pre-Implantation Genomic Testing」により、生まれてくる子供が一生のうちに病気を発症するリスクを査定する。対象となる病気は、糖尿病、乳がん、心臓疾患など10を超え、発症する確率を予測する。(下の写真、病気の種類と発症の確率)。このケースでは糖尿病を発症するリスクが平均より高いと査定された。被験者はこの受精卵を避け、病気発症のリスクが低いと判定された受精卵を選び出産する。生まれてくる赤ちゃんは糖尿病を発症する確率がぐんと低くなり、健康な生活を送ることができる。

出典: Genomic Prediction

病院で検査を受ける

Genomic Predictionの遺伝子解析サービスは医療機関を通じて提供される。提携している医療機関の数は少ないが、米国ではスタンフォード大学大学病院(Stanford Medicine Fertility and Reproductive Health、下の写真)経由でサービスを提供している。被験者は病院で診察を受け、必要に応じて受精卵の遺伝子検査を受ける。議論を呼ぶ治療法であるため、受精卵の遺伝子解析は慎重に進められている。

出典: Stanford Medicine

IQを予測する

Genomic Predictionの遺伝子検査で生まれてくる赤ちゃんの将来の身長やIQを推定することができる。身長やIQなど身体特性は受精卵の遺伝子配列から決まり、身長のケースでは予測誤差は3センチメートルとしている。また、IQについても、知能の高さと遺伝子配列の間で強い相関関係が認められ、高い精度で予測できる。ただし、IQの予測は重大な倫理問題を含んでおり、Genomic Predictionはこの解析サービスを中止した。

遺伝子解析と倫理問題

受精卵の遺伝子を解析することで、健康状態や身体特性を予測し、ベストな受精卵を選び出産することに関し、社会の意見は割れている。病気発症を予測するなど医療目的で使うことに対しては、一定の理解が得られている。しかし、この技術をIQなど身体特性の予測に適用し、優秀な赤ちゃんを生むことに対しては厳しい批判が相次いでいる。このため、米国においてGenomic Predictionの予測技術は健康状態を把握することに限定して使われている。

出典: Genomic Prediction

スーパーベイビーの誕生

人間の欲望は貪欲で、重大な倫理問題を抱える手法であるが、優秀な赤ちゃんを産むことに対し根強い願望がある。これからは、多くの赤ちゃんが体外受精で生まれてくることになり、優秀な受精卵を選択する機会が増える。また、iPS細胞(Induced pluripotent stem cell)を使えば、体細胞(例えば皮膚の細胞)から卵細胞を生成できる。これにより、数個ではなく数多くの受精卵を生成でき、スーパーベイビーの誕生に繋がる。倫理的にも科学的にも許容されるものではないが、世界のどこかで研究が進んでいるのは間違いない。

[技術情報:遺伝子解析とAI]

Predictor

遺伝子変異から病気発症や身体特性を予測するために高度なAIが使われている。Genomic Predictionは遺伝子特性(Genotype)から身体特性(Phenotype)を推定するAI「Predictor」を開発した。このAIは受精卵の遺伝子配列から、生まれてくる赤ちゃんの特性を算定する。遺伝子特性では一塩基多型(Single-nucleotide polymorphism、SNP)をシグナルとして使っている。対象としたSNPの数は80万で、遺伝子特性の99%をカバーする。

UK Biobank

AI開発では教育データがカギを握るが、Genomic Predictionは遺伝子バンク「UK Biobank」のデータを利用した。UK Biobankとは英国の非営利団体が構築した遺伝子データセットで、ここに50万の遺伝子と、4000億を超えるSNPが格納されている。これらのデータを使ってアルゴリズムを教育し、完成したアルゴリズムの精度が検証された。

Polygenic Prediction

Genomic Predictionは「Polygenic Prediction」という手法を使って病気発症を予測する。病気を引き起こす遺伝子は一つではなく、複数の遺伝子が関与している(下の写真右側、乳がんのケース)。AIはこれら複数の遺伝子変異から病気発症の確立を算出する。これに対し、「Monogenic Prediction」という手法は一つの遺伝子から病気発症の確立を算定する(下の写真左側)。Genomic PredictionはMonogenic Predictionに比べ予測精度が高い。

出典: Genomic Prediction

病気発症リスクの低下

この試験(Preimplantation Genetic Testing)により病気発症のリスクを下げることができる。体外受精で受精卵をランダムに選択した場合と、この試験によりリスクの低い受精卵を選択した場合を比較すると、生まれてくる子供が将来病気を発症する確率が大きく下がる(上のグラフ)。11の病気で発症リスクが下がり、心臓発作は46.9%、糖尿病(タイプI)は33%低下する。

出典: Nathan Treff et al.

IQの予測精度

Genomic PredictionはSNPとIQの間に強い相関関係(Correlation coefficientが0.7)があるとしている。また、アルゴリズムを教育するデータ数を増やせば、高い精度でIQを予測することができる。IQは遺伝するのか、それとも生活環境に依存するのか議論が続いているが、Genomic PredictionはIQを決定する要因の80%が遺伝子であるとしている。

研究課題

AIはUK Biobankに登録されている人の遺伝子情報で教育された。UK Biobankには英国を中心に欧州の人々の遺伝子情報が登録されている。このため、このアルゴリズムを他の人種に適用すると予測精度が低下する。このため、人種ごとの遺伝子情報でアルゴリズムを教育する必要がある。その際に、Transfer Learning(アルゴリズムを手直しすることなく他のデータで教育)の手法を用いることができるかがこれからの研究課題となる。

遺伝子解析とデータ

遺伝子解析による予測精度はアルゴリズムを教育するデータの量と質に依存する。このため、国や企業が大規模な遺伝子データセットを構築することが遺伝子工学の進歩に繋がる。米国ではNIHや23andMeなどが遺伝子データセットの整備を進めている。23andMeはGoogleが出資している新興会社で、消費者の個人データを収集し、これを解析することで収益を上げる構造となっている。検索や広告事業と同様に、遺伝子解析事業では消費者の個人データを大規模に収集することが成功に繋がる。