カテゴリー別アーカイブ: 金融

デジタルアートが70億円で落札される!! ブロックチェインで芸術作品が高値で売れる

オークションハウスのクリスティーズ(Christie’s)でデジタルアートが6934万ドル(約70億円)で落札された。作品はコンピュータで制作され、デジタルファイルとして売られた。誰でも複製できるファイルに高値が付いた。ファイルには証明書「Non-Fungible Token(NFT)」が添付され、これがアートの所有権を示す。なぜ複製可能なデジタルアートに高値が付くのか、米国社会は騒然としている。

出典: EVERYDAYS: THE FIRST 5000 DAYS, 2021 by Beeple

デジタルアート

この作品は「Everydays: The First 5000 Days」というタイトルで、Mike Winkelmann(筆名はBeeple)が制作した(上の写真)。Beepleは米国のアーティストで、2007年からデジタルアートの制作を続け、毎日作品を発表してきた。ちょうど5000作目が完成し、これを纏めて一枚のファイルにしたのが「The First 5000 Days」となる。作品の中の小さなマス目が単独のデジタルアートで、ファイルを拡大するとヒトやモノや自然や宇宙が空想的に描かれていることが分かる。

オークション

クリスティーズでこのデジタルアートは昨日6934万ドルで落札された。作品は解像度21,069 x 21,069 ピクセル (319,168,313 バイト)のJPEGファイルとして販売された。この作品には証明書がNFTのフォーマットで付加される(下の写真)。落札者はこのJPEGファイルとNFTを受け取ることになる。

出典: Christie’s  

Non-Fungible Tokeとは

Non-Fungible Token(NFT)とは暗号通貨の一種で、特定のモノを代表する機能を持つ。具体的には、NTFはブロックチェインで構成されるトークンで、デジタルアートなどの所有権を示す証文となる。NFTはブロックチェイン「Ethereum」の上に構成され、分散データベースとして安全に管理される。また、NFTはEthereumの「Smart Contracts」を使っている。Smart Contractsとはインテリジェントな契約機能で、人間の介在無しにアプリが事前に設定されたルール(契約)に基づき、売買のトランザクションを実行する。これにより、デジタルアートの取引をソフトウェアで定義し、クラウド上で実行できる。

Fungibleとは

ちなみに、Fungibleとはコモディティの特性で等価に交換できるものを指す。例えばビットコインがこれに相当し、1ビットコインは別の1ビットコインと等価に交換できる。一方、Non-Fungibleとは等価に交換できないコモディティの特性を指す。この代表がデジタルアートの証明書で、上述のトークンは「The First 500 Days」には有効であるが、他の作品には使えない。

なぜデジタルアートが高値で売れるのか

簡単に複製できるデジタルアートがなぜ高値で売れるのか、ネットで議論が沸騰している。「The First 5000 Days」のオリジナルファイルはサイトに公開されており、それをダウンロードして閲覧できる。(先頭の写真はこのサイトからダウンロードしたもの)。アート所有者と同じように、同品質の作品を見ることができる。一方、所有者はこの作品を別のオークションにかけ転売して利益を得ることができる。その際に、NTFでアートの所有者であることを証明する。

デジタルアートが投資の対象

絵画や彫刻などの芸術作品は今までも投資の対象となり、資産家や団体が所蔵している。同時に、これらの写真がネット上に公開され、我々はPCやスマホで見ることができる。このケースでは、アート所有者は写真撮影者ではなく、購買者であることは明瞭。しかし、ここにデジタルネイティブのアートが登場し、オリジナルの複製が多数ネット上に存在している。

著作権保護はできない

その権利の所在を明らかにする技術としてNTFが使われ、簡単に複製されてもその所有者が明確になった。つまり、インターネットは著作権保護の技術開発に失敗し、ここにNFTが登場し、所有権が明確になった。アートや音楽の複製を止めることはできないが、NFTが権利の所在者を証明する。これにより、NTFがデジタルアセットの新しいクラスとなり、ネット上で資産を形成することが可能となる。このNTFという新たな資産に対し投資が始まった。

デジタルアートの価値

しかし、デジタルアートが市場の常識を超え、高値で評価されている。Beepleは上述の作品の他に、「CROSSROAD #1/1」という作品(下の写真)を発表し、これが660万ドルで落札された。これはGIF形式の動画で、裸のトランプ氏の体に落書きされ、そこにTwitterが舞い降りる構成になっている。大統領選挙でトランプ氏がバイデン氏に敗戦したことを残酷に表現している。

出典: CROSSROAD #1/1 by Beeple

デジタルアート売買サイト

デジタルアートは投資の対象となり、その所有権が高値で売買される。今ではデジタルアートを売買するサイトが数多く登場し、「Crossroad」は「MakersSpace」というサイトで販売された。サイトには数多くのデジタルアートが掲載され、オークション形式で作品が販売される。デジタルアートの所有権を高値で購入するのは、転売して利益をあげることにあるが、オリジナルを持つことの満足感も大きな要因となっている。

著名人がデジタルアート制作

Elon MuskのガールフレンドであるGrimes(本名Claire Elise Boucher)はミュージシャンとして有名であるが、デジタルアートを制作し、多くの作品を発表している。その代表が「WarNymph」で(下の写真)、オークションサイト「Nifty Gateway」で販売された。WarNymphはデジタルアートのコレクションで、売上高は累計で580万ドルとされる。Nymphとはギリシャ神話に登場する女神で、悪霊から山や森を守る。WarNymphは女神が戦争から火星を守るモチーフが描かれている。

出典: Grimes

デジタルカード

この流れはデジタルアートだけでなくデジタルカードに広がり、これらがNFTで取引されている。男子プロバスケットボールリーグNBAはデジタルなトレーディングカードの販売を開始した。これはプロバスケットボールのトレカで「NBA Top Shots」と呼ばれ、愛好家の間で収集され交換される。カードは短いビデオ形式で、選手のファインプレーが録画されている。一番人気はLeBron Jamesの「Dunk」で、ダイナミックなダンクが動画で再生され、25万ドルで販売された(下の写真)。因みにNBA Top Shotsは「Flow」というブロックチェインで構成され、専用のアプリでデジタルカードが売買され、ここがNBAの大きな収入源になっている。

出典: NBA Top Shots

バブルかニューエコノミーか

アートやスポーツの他に、音楽や写真やアニメやツイートも販売の対象となる。Twitter創業者Jack Dorseyは同氏の最初のツイート(下の写真)をNFTで競売にかけ250万ドルの値が付いている。

出典: Jack Dorsey @ Twitter  

希少価値のあるデジタルアセットはNFTで取引される対象となっている。常識を超える高値で取引されるが、NFTが次のビットコインになるとの解釈もある。ビットコインが登場した当時は6万ドルの値が付くとはだれも想像していなかった。ビットコインバブルが続いているが、NFTもこの足跡を辿るのか、エコノミストや投資家が注目している。

銀行は量子コンピュータの導入に積極的、JPMorganは量子アルゴリズムと量子通信の研究を進める

量子コンピュータの国際会議「Q2B」(#Q2B20)が開催され、インダストリー分科会で主要企業から量子コンピュータ導入準備状況が報告された。その中で大手銀行JPMorgan Chaseは量子コンピュータにおけるアルゴリズムとセキュリティに関する研究成果を発表した。量子コンピュータは金融アプリケーションとの相性が良く、商用機が出荷されると、銀行が最初のユーザになるとの見方が示された。

出典: JPMorgan Chase

JPMorgan研究所

JPMorganの研究開発部門の責任者Marco Pistoiaが研究概要を説明した。JPMorganは先進技術研究「Future Lab for Applied Research and Engineering(FLARE)」で量子技術の研究を進めている。FLAREのミッションは先進技術を理解し、それをビジネスに応用することで、研究対象は量子コンピュータの他に、クラウド・ネットワーキング、AR/VR、IoTなどがある。この中で、量子コンピュータを最重要テーマとし、金融アプリケーションやセキュリティの研究を進めている。

量子アルゴリズム開発

ここで金融アプリケーションを量子コンピュータで稼働させるためのアルゴリズム開発が進んでいる。金融アプリケーションは量子コンピュータとの相性が良く、量子コンピュータがスパコンを凌駕する「Quantum Advantage」に最初に到達すると期待されている。

量子アルゴリズムの種類

研究対象の金融アプリケーションは三つに分類でき、それぞれ、モンテカルロ技法(Monte Carlo Method)、ポートフォリオ最適化(Portfolio Optimization)、機械学習(Machine Learning)となる。これらのアプリケーションは量子アルゴリズムで構成され、量子コンピュータで実行する。金融業務の多くは量子コンピュータにより処理速度が大きく上がると期待されており、その検証や必要なリソースの規模(Qubitの数やエラー発生率など)に関する研究が進められている。

出典: IBM

モンテカルロ法とは

金融アプリケーションの中で一番期待されているのがモンテカルロ法で、量子コンピュータにより大幅なスピードアップが可能となる。モンテカルロ法とは乱数を用いたシミュレーションや数値計算で、数値モデルを生成し、乱数を使って計算し、解を推定する手法を指す。モンテカルロ法は汎用的な手法で、社会の幅広い分野で使われている。

オプション価格計算

金融分野ではオプション価格(Option Pricing)やリスク解析(Risk Analysis)にモンテカルロ法を適用する。オプション価格とは、複雑な条件のもと、将来価格を計算する技法で、現行手法では数多くのパターンを実行する必要があり処理時間が長くなる。一方、量子コンピュータでは少ない事例で価格を計算でき、大きなスピードアップが期待されている。

NISQタイプの量子コンピュータ

しかし、現在の量子コンピュータはNISQと呼ばれるタイプで、エラー発生率が高く、大規模な計算を実行することはできない。このため、JPMorganはNISQ向けのモンテカルロ法のアルゴリズムの研究を進めている。不安定なシステムで高速にアルゴリズムを実行できる技法の開発が進められている。将来、エラー補正機構を備えた大型量子コンピュータが登場すると、ここで規模の大きなアプリケーションを実行することを計画している。

出典: National Institute of Standards and Technology

セキュリティが破られる

JPMorganはセキュリティの研究を進めていることを明らかにした。大型の量子コンピュータが登場すると現行のセキュリティが破られることは早くから指摘されていたが、その対策が取られてこなかった。しかし、量子コンピュータ開発のペースが予想外に早く、量子技術に耐性のあるアルゴリズム開発が喫緊の課題となってきた。

量子コンピュータに耐性のある暗号化技術

米国政府は国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology, NIST)を中心に量子コンピュータに耐性のある暗号化技術(Post-Quantum Cryptography)の開発を進めている。このプログラムは2016年12月に始まり、コンペティションの形式で量子アルゴリズムの開発が進んでいる。69のアルゴリズムが提案され、現在は15に絞り込まれ、近く最終判断が下される(上の写真)。最終選考されたアルゴリズムが米国の標準技術となり一般に公示される。企業はこのセキュリティ技術を導入して、量子コンピュータの脅威に備える。

導入に向けた準備

量子コンピュータに耐性のあるアルゴリズムが制定されるのを前に、JPMorganは社内で準備作業をすすめていることを明らかにした。セキュリティ標準技術が決まると、JPMorganは社内のデータをこのアルゴリズムで暗号化する。そのための準備作業として、どのデータを新規基準に従って暗号化すべきかの選定作業を進めている。長期保存が必要なデータから暗号化を進め、量子コンピュータが登場しても攻撃を防御できるシステムを構築する。

量子鍵配送

JPMorganは上記に加え、量子技術を使ったセキュアな通信技術の研究を進めている。これは量子鍵配送(Quantum Key Distribution、QKD)で、ハッキングできない安全なネットワークを構築する(下のグラフィックス、QKDの原理)。量子鍵配送とは通信網を量子技術で構成するもので、究極のセキュリティとも呼ばれる。具体的には、量子ビット(光子)を使った暗号化技術で、送信するデータが経路上で盗聴されると、その攻撃が分かる仕組みになっている。JPMorganはネットワークを量子鍵配送で構成することで極めて安全な通信網を構築する。

出典: Quantum Flagship

銀行が最初のユーザか

金融アプリケーションは量子技術との相性が良く、量子コンピュータで高速化できるアルゴリズムが多いとされる。しかし、これを実際に検証する必要があり、JPMorganはこの研究を進めている。具体的には、量子コンピュータ商用機が登場すると、金融システムにどんなインパクトがあるのか、また、どの金融アプリケーションを高速化できるのか、これらのポイントを明確にする必要がある。JPMorganはIBMのパートナー企業であり、IBM Qを使ってこの研究を進めている(先頭から二番目の写真)。まだ検証作業中であるが、量子コンピュータを導入するのは銀行が最初になるとの予測もある。

サンフランシスコで世界最大のネオバンクChimeが誕生、コロナを契機にフィンテック銀行が急成長

米国においてコロナ感染拡大でネオバンク(Neobank)が急成長している。ネオバンクとは新興企業が運営する銀行で、店舗を持たないでスマホアプリだけでサービスを提供する。Chimeはネオバンクの最大手で、口座手数料は無料で、給与を前受できる機能などを搭載し、手軽な銀行として大人気となっている。コロナを契機に利用者が一気に増え、世界最大のネオバンクとなった。

出典: Chime

Chimeとは

Chimeはサンフランシスコに拠点を置く新興企業で、銀行に挑戦するフィンテックと位置付けられている。専用アプリ「Chime – Mobile Banking」でデジタルバンキングを利用する。口座手数料はゼロでミレニアル層からの支持を得て急速に顧客数を増やしている。日本では普通預金口座の手数料は無料であるが、米国主要銀行は口座維持のために手数料を徴収する。Citi Bankのケースでは預金残高が1500ドルを下回ると月額12ドルの手数料を徴収する。これが銀行の収益を構成するが、消費者としてはこの手数料が重荷となる。

Chimeは手軽な銀行

Chimeは2013年に創業しTwitterなどから出資を受け、企業価値は58億ドルと評価されている。米国主要メディアによると、Chimeは4.85憶ドルの出資を受け、企業価値は145億ドルとなった。現在、最大のネオバンクはブラジルのNubankで企業価値は100億ドルとされる。Chimeはこれを抜き世界最大のネオバンクとなった。

世界最大のネオバンク

Chimeは2013年に創業しTwitterなどから出資を受け、企業価値は58億ドルと評価されていた。米国主要メディアによると、Chimeは4億8500万ドルの出資を受け、企業価値は145億ドルとなった。現在、最大のネオバンクはブラジルのNubankで企業価値は100億ドルとされる。Chimeはこれを抜き世界最大のネオバンクとなった。

コロナを契機に急成長

Chimeはコロナで成長のスピードを速めている。米国連邦議会はコロナ救済策として大型経済対策法CARES Act(Coronavirus Aid, Relief, and Economic Security Act)を可決し、企業や個人に補助金を出している。個人向けには大人一人当たり1200ドルの補助金が支給された。補助金は小切手で郵送されるが、銀行口座を登録すれば短期間で資金が振り込まれる。このため、Chimeに口座を開設し、ここで補助金を受け取る人が急増した。他の銀行と異なり、Chimeで口座を開くと、補助金が振り込まれる前に200ドルを前受することができる。このような事情から、Chimeの利用者が急増した。

出典: Chime

ネオバンクとは

ネオバンクとは営業店舗を持たないでオンラインだけで運用する銀行を指す。具体的には、Chimeは銀行の認可(Bank Charter)を受けてなく、顧客インターフェイス(Deposit Account)だけを提供し、銀行業務はBancorp Bankという銀行が担う。Bancorp Bankはデラウェア州の地方銀行で全米で215位の規模の中堅銀行である。ChimeはBancorp Bankの上に構築されたデジタルバンクとなる。Chimeは同行を通じて連邦預金保険公社(Federal Deposit Insurance Corporation)の預金保険に加入しており、仮にChimeが倒産しても顧客の預金は25万ドルまで補償される。

Chimeと銀行の関係

Chimeは銀行機能をモバイルアプリで提供するデジタルバンクであり、大手銀行とは正面から競合する関係となる。一方、ChimeとBancorp Bankは補完関係にある。中堅銀行のBancorp Bankは自社でモバイルバンキングを開発することは難しく、Chimeをデジタルバンキングのチャネルとして利用する。これは「Banking as a Service(BaaS)」といわれるビジネスモデルで、銀行が新興企業に銀行機能をクラウドとして提供し事業を拡大する。

Chimeの収益源は

口座手数料や貸し越し手数料が無料であり、Chimeはここから収益を上げることはできない。Chimeの収益源はデビットカードで、顧客がこれを使ったときに、店舗から手数料を得る構造となっている。Visaはトランザクションごとに店舗から手数料「Interchange Fee」を徴収し、この一部がChimeに支払われる。

出典: Chime

米国の法令

米国では銀行が徴収できるInterchange Feeについて法令で定められている。地方銀行は大手銀行に比べ格段に高いレートで手数料を徴収でき、ここでビジネスを構築しているChimeはカード手数料で大きな利益を上げている。(Interchange Feeは法令「The Dodd-Frank Act of 2010」で定められているが、その改定規則「Durbin Amendment」で地方銀行に有利な条件が付加された)。

ネオバンクとチャレンジャーバンク

新興企業が運営する銀行は二種類あり、ネオバンクとチャレンジャーバンク(Challenger Bank)に分類される。ネオバンクは銀行の上に構築されたデジタルバンクであるが、チャレンジャーバンクは銀行ライセンスを取得し、独立した銀行として事業を運営する。どちらもデジタル・ネイティブの銀行で手数料が無料で使いやすい点に特徴がある。(下の写真、チャレンジャーバンク最大手Revolut(レボリュート)、英国企業であるが米国市場で事業開始。)

出典: Revolut

米国メガバンクの応戦

米国のメガバンクはネオバンクの躍進に応戦するため、独自ブランドのネオバンクを投入してこの市場に参入した。JPMorgan Chaseは「Finn」というネオバンクを設立し事業を開始した。しかし、ビジネスは軌道に乗らず、Finnを停止し、ネオバンク事業から撤退した。同行は既にオンラインバンキング「Chase Online Banking」を運用しており、Finnとの差別化が難しかったことが失敗の要因とされる。JPMorgan Chaseの事例が示すように、米国のメガバンクはネオバンクの対応に苦慮している。

ネオバンクの将来

「銀行のイノベーションはATMだけである。」これはリーマンショックの際に連邦準備制度理事会議長であったポール・ボルカー(Paul Volcker)が述べた言葉である。この発言は銀行の消費者サービスが進化していないことを意味する。厳しい指摘であるが、ニューヨーク大学によると、銀行はITに積極的に投資しているが、その恩恵は消費者ではなく銀行が得ていると分析する。米国の銀行はデジタル化を進めているが、この目的はコストダウンであり、必ずしも消費者が恩恵を受けているわけではない。このような背景からネオバンクが急成長し、米国の金融サービスを大きく変えようとしている。

手数料ゼロのネット証券Robinhoodが大ブーム、やはりタダで使えるサービスほど高いものは無い

コロナの感染拡大でネット証券「Robinhood(ロビンフッド)」の会員数が急増している。アプリはお洒落なデザインで使いやすく、手数料はゼロで、個人の株式投資への敷居がぐんと下がった。手数料ゼロで利益を出せるのは訳があり、その背後で高度な情報通信技術が使われている。会員の注文は極めて短時間で決済できる超高速取引で処理され、これが収益の源泉となっている。

出典: Robinhood

Robinhoodとは

Robinhoodはカリフォルニア州メンロパークに拠点を置く新興企業で証券取引のプラットフォームを提供している。Robinhoodは手数料ゼロのネット証券として2015年に事業をスタートし、ディスラプターとして証券取引ビジネスを一新した。ミレニアル世代を中心に人気が沸騰し、2020年には会員数が1300万人を超えた。

人気の秘密

Robinhoodの人気の秘密は証券取引数料が無料であることと、アプリのデザインが若者世代のテイストにマッチしていることがあげられる。白をベースとしたシンプルなデザインで、フレッシュな印象を受ける(下の写真)。今までのフィンテックアプリとは異なり、操作性も大きく向上した。更に、0.1株から購入できるため初心者でも安心して取引できる。

出典: Robinhood

アプリ利用方法

Robinhoodはスマホアプリから利用する。最初に、会員登録のプロセスで個人情報などを入力し、銀行口座をリンクする。株を購入するときは銘柄を指定し、株数と単価とオプションを指定する。例えば、テスラ「TSLA」1株を330ドルでMarket Orderで購入するなどと指定する。このほかに、Limit Orderを指定すると条件を満たす価格で購入できる。

ビジネスモデル

Robinhoodは利益を得る仕組みを説明している。それによると、株式やオプションの手数料はゼロであるが、信用取引口座(Margin Account、Robinhoodから資金を借りて投資する口座)は有償で、会員は手数料(5ドル/月)と金利(年率5%)を支払う。また、Robinhoodは会員の余剰現金を貸付事業に展開している。これらがRobinhoodの収益を構成すると説明している。

もう一つのモデルが存在

これだけではなく、Robinhoodは「Payment for Order Flow」と呼ばれる手法で収益をあげていることが判明した。Robinhoodはこのモデルについては公開しておらず、証券取引委員会(Securities and Exchange Commission)が捜査に乗り出した。Payment for Order Flowは合法的な手法であるが、Robinhoodはこの事実を会員に公開していなかった。これが情報開示義務違反に該当する可能性があるとされる。

Payment  for Order Flowとは

Payment  for Order Flowとは、顧客の注文をブローカー間で超高速で取引し、利益を上げる手法を指す。Robinhood会員が株式やオプションを発注すると、これがそのまま証券取引所で売買されるのではなく、ブローカー(Market Maker)に渡る。Market Makerとは金融サービス企業で、お互いに買い値(Bid)と売り値(Ask)を提示し、相対取引を実行する機関を指す。Market MakerはRobinhoodからの注文を受け、他のMarket Makerと取引し、売り買いの幅(Bid-ask spread)で利益を上げ、その後、注文の処理結果をRobinhoodに返す。

Payment  for Order Flowの流れ

例えば、Robinhood会員がTesla株を330ドルで買う注文を出すと、それがMarket Makerに渡る。Market Makerは他のMarket Makerが提示する価格をスキャンし、好条件の提示価格を見つける。例えば、Tesla株を他のMarket Makerから329ドルで買い、それをRobinhoodに330ドルで売り、1ドルの利益を上げる。

出典: Robinhood

Robinhoodが利益を得る仕組み

RobinhoodはMarket Makerから利益に応じた手数料を受け取り、これがRobinhoodの利益となる。SECの資料によると、Robinhoodは2020年4月-6月期にMarket Makerから1億8026万ドルの手数料を受け取っている。これがRobinhoodの収益を支え、手数料無料でネット証券を運営できる理由となる。

Market Makerと高速取引

Robinhoodは提携しているMarket MakerはCitadel SecuritiesやVirtu Financialなどであることを公開している。これらは証券取引を極めて短時間で実行できる高速取引(High-Speed Trading)と呼ばれるシステムを構築し事業を展開している。トランザクションを超高速で実行し、他社より有利な条件で証券を売買し、これがPayment  for Order Flowが成立する基盤となる。

他のネット証券も利用

Payment  for Order FlowはRobinhoodだけでなく、他のネット証券も利用しており、業界では取引モデルとして定着している。E-TradeやTD AmeritradeはRobinhoodに追従して証券取引手数料をゼロとしたが、これらネット証券もPayment  for Order Flowを使って利益を上げている。

Robinhoodの特殊性

ただ、Robinhoodが受け取る手数料が他社に比べて高いことが議論となっている。Robinhood会員は株取引を始めたばかりのアマチュアが多く、これが高い手数料に繋がっているとの見方もある。プロの投資家と違いアマチュア投資家は甘い条件で取引を発注するので、スプレッドが大きくなり、Market Makerが利益を上げやすい構造になる。Robinhoodが投資家初心者を勧誘する理由はここにある。

出典: Robinhood

ネット証券の新たなビジネスモデル

GoogleやFacebookをタダで使えるが、その背後で個人情報が集められ、広告収入に結び付いていることを消費者は理解している。ネット証券も同様に、タダで株を売買できる代わりに、利用者の注文から利益が絞り出されることを理解する必要がある。この手法が倫理的でないとの議論もあるが、ネット証券の新しいビジネスモデルになっている。

ネット証券の新たなイメージ

Robinhoodの功績はミレニアル層など若い世代に投資の魅力を説いたことにある。若者はリーマンショックなどを経験し、株式投資に消極的な世代とされてきた。Robinhoodはこれら世代を対象に、ブログ「Snacks」で株式市場の動向を発信している(冒頭の写真)。食べやすいスナックという意味があり、複雑な政治・経済情勢を消化しやすい形で解説する。ポッドキャスト「Snacks Daily」はこれをヒップホップな音楽に乗せて若者に語り掛ける。この軽快さがRobinhoodの顔となり、アマチュア投資家の案内人として資産形成を支援する。

Apple Cardは女性に不利!AIが女性の信用度を低く査定、カード発行銀行は法令違反の疑いで捜査を受ける

Apple Cardはお洒落なデザインのクレジットカードで利用が広がっている。しかし、Apple Cardは女性の信用度を低く査定するという問題が発覚した。クレジットカードはGoldman Sachsが発行しており(下の写真)、同行が開発したAIに問題があるとみられている。AIが性別により評価を変えることは法令に抵触する疑いがあり、司法当局は捜査に乗り出した。

出典: Apple

Apple Cardの問題点

この問題は著名人らがツイートしたことで明らかになった。David Heinemeier Hansson(Ruby on Railsの開発者)はツイートでこの問題を指摘した。 Hansson夫妻はどちらもApple Cardを持っているが、利用限度枠(Credit Limit)が大きく異なる。利用限度枠とはクレジットの上限で、同氏は妻の20倍となっている。税金は夫妻合算で納税申告をしており、財政面では同じ条件であるが、奥様の信用度が低く評価されている。同様に、Steve Wozniak(Apple共同創業者)も奥様に比べ10倍の利用限度枠があるとツイートしている。

信用度の査定

利用限度枠はApple Cardを申し込むときに決定される。カードを申し込むとき、必要事項を記入し、Goldman Sachsがそれらを審査して可否を決定する。その際に、住所氏名、ソーシャルセキュリティー番号(マイナンバー)、年収などを記入し(下の写真左側)、それらはアルゴリズムで解析され、信用度が査定される。申し込みが受け付けられるとカードが発行されるが、その時に利用限度枠が決まる(下の写真右側、筆者のケースでは10,000ドル)。

出典: VentureClef  

司法当局が捜査に乗り出す

有名人が相次いでツイートしたことからApple Cardの問題が社会の関心事となり、ニューヨーク州の金融機関を監督するNew York State Department of Financial Services(DFS)が見解を発表した。ニューヨーク州は与信審査のアルゴリズムが性別や人種などで不公平であることを禁止している。このため、法令に抵触している疑いがあり、DFSはGoldman Sachsの捜査を開始するとしている。因みに、DFSは銀行や保険会社の違法行為を監視する機関で、今までにBitcoinにかかる不正な事業を摘発している。

米国連邦政府の法令

米国では法令「Equal Credit Opportunity Act (ECOA)」により、誰でも公平にローンを受ける権利を保障している。これは1974年に施行されたもので、その当時、女性はローンを申し込んでも断られるケースが多く、男女差別を無くすことを目的に制定された。1976年には、性別だけでなく、人種や国籍や信条などが加わり、今に至っている。ローン審査のアルゴリズムはこの法令に順守することが求められる。

Goldman Sachsの見解

これらの動きに対してGoldman Sachsは見解を表明した。それによると、Goldman Sachsはカード申し込み時に信用審査を実施するが、男性と女性に分けて行うのではなく、男女同じ基準で評価している。申込者の年収やクレジットスコアや負債などをベースに信用度が査定され、利用限度枠が決まる。審査で性別は考慮しないため、女性に不利になることはないと説明している。

出典: Apple

原因は教育データの不足

Goldman Sachsが見解を発表したが、アルゴリズムの構造などには触れておらず、問題の本質は不明のままである。同行からの検証結果を待つしかないが、市場ではアルゴリズム教育に問題があるとの考えが有力である。通常、信用評価アルゴリズムは過去のクレジットカード応募者のデータを使って教育される。データの多くは男性で、女性のデータは少なく、アルゴリズムは女性の信用度を正しく評価できなかったとみられている。

アルゴリズムが女性を識別した?

これとは別の推測もある。Goldman Sachsはアルゴリズムは男性と女性を特定しないで評価したと述べており、教育データは男性と女性に分かれておらず、アルゴリズムは性別を把握できない。しかし、アルゴリズムはデータから、男性と女性を特定する情報を学び、応募者の性別を把握していたとの解釈もある。その結果、過去のデータから、女性の信用度を低く判定した。つまり、開発者の意図とは異なり、アルゴリズムが独自に男女を識別し、男性に有利なデータに基づき、女性の信用度を低く評価したことになる。ただ、これらは推測であり、真相解明はGoldman Sachsの検証結果を待つしかない。

AIの限界

Goldman Sachsは、勿論、意図的に女性の利用限度枠を下げたのではなく、アルゴリズムが開発者の意図とは異なる挙動を示し、このように判定した可能性が高い。多くの金融機関でAIによる信用度審査が実施されているが、そのアルゴリズムはブラックボックスで、人間がそのロジックを理解できないという問題が改めて示された。AI開発ではアルゴリズムの判定メカニズムを可視化する技術の開発が急がれる。