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サンフランシスコで世界最大のネオバンクChimeが誕生、コロナを契機にフィンテック銀行が急成長

米国においてコロナ感染拡大でネオバンク(Neobank)が急成長している。ネオバンクとは新興企業が運営する銀行で、店舗を持たないでスマホアプリだけでサービスを提供する。Chimeはネオバンクの最大手で、口座手数料は無料で、給与を前受できる機能などを搭載し、手軽な銀行として大人気となっている。コロナを契機に利用者が一気に増え、世界最大のネオバンクとなった。

出典: Chime

Chimeとは

Chimeはサンフランシスコに拠点を置く新興企業で、銀行に挑戦するフィンテックと位置付けられている。専用アプリ「Chime – Mobile Banking」でデジタルバンキングを利用する。口座手数料はゼロでミレニアル層からの支持を得て急速に顧客数を増やしている。日本では普通預金口座の手数料は無料であるが、米国主要銀行は口座維持のために手数料を徴収する。Citi Bankのケースでは預金残高が1500ドルを下回ると月額12ドルの手数料を徴収する。これが銀行の収益を構成するが、消費者としてはこの手数料が重荷となる。

Chimeは手軽な銀行

Chimeは2013年に創業しTwitterなどから出資を受け、企業価値は58億ドルと評価されている。米国主要メディアによると、Chimeは4.85憶ドルの出資を受け、企業価値は145億ドルとなった。現在、最大のネオバンクはブラジルのNubankで企業価値は100億ドルとされる。Chimeはこれを抜き世界最大のネオバンクとなった。

世界最大のネオバンク

Chimeは2013年に創業しTwitterなどから出資を受け、企業価値は58億ドルと評価されていた。米国主要メディアによると、Chimeは4億8500万ドルの出資を受け、企業価値は145億ドルとなった。現在、最大のネオバンクはブラジルのNubankで企業価値は100億ドルとされる。Chimeはこれを抜き世界最大のネオバンクとなった。

コロナを契機に急成長

Chimeはコロナで成長のスピードを速めている。米国連邦議会はコロナ救済策として大型経済対策法CARES Act(Coronavirus Aid, Relief, and Economic Security Act)を可決し、企業や個人に補助金を出している。個人向けには大人一人当たり1200ドルの補助金が支給された。補助金は小切手で郵送されるが、銀行口座を登録すれば短期間で資金が振り込まれる。このため、Chimeに口座を開設し、ここで補助金を受け取る人が急増した。他の銀行と異なり、Chimeで口座を開くと、補助金が振り込まれる前に200ドルを前受することができる。このような事情から、Chimeの利用者が急増した。

出典: Chime

ネオバンクとは

ネオバンクとは営業店舗を持たないでオンラインだけで運用する銀行を指す。具体的には、Chimeは銀行の認可(Bank Charter)を受けてなく、顧客インターフェイス(Deposit Account)だけを提供し、銀行業務はBancorp Bankという銀行が担う。Bancorp Bankはデラウェア州の地方銀行で全米で215位の規模の中堅銀行である。ChimeはBancorp Bankの上に構築されたデジタルバンクとなる。Chimeは同行を通じて連邦預金保険公社(Federal Deposit Insurance Corporation)の預金保険に加入しており、仮にChimeが倒産しても顧客の預金は25万ドルまで補償される。

Chimeと銀行の関係

Chimeは銀行機能をモバイルアプリで提供するデジタルバンクであり、大手銀行とは正面から競合する関係となる。一方、ChimeとBancorp Bankは補完関係にある。中堅銀行のBancorp Bankは自社でモバイルバンキングを開発することは難しく、Chimeをデジタルバンキングのチャネルとして利用する。これは「Banking as a Service(BaaS)」といわれるビジネスモデルで、銀行が新興企業に銀行機能をクラウドとして提供し事業を拡大する。

Chimeの収益源は

口座手数料や貸し越し手数料が無料であり、Chimeはここから収益を上げることはできない。Chimeの収益源はデビットカードで、顧客がこれを使ったときに、店舗から手数料を得る構造となっている。Visaはトランザクションごとに店舗から手数料「Interchange Fee」を徴収し、この一部がChimeに支払われる。

出典: Chime

米国の法令

米国では銀行が徴収できるInterchange Feeについて法令で定められている。地方銀行は大手銀行に比べ格段に高いレートで手数料を徴収でき、ここでビジネスを構築しているChimeはカード手数料で大きな利益を上げている。(Interchange Feeは法令「The Dodd-Frank Act of 2010」で定められているが、その改定規則「Durbin Amendment」で地方銀行に有利な条件が付加された)。

ネオバンクとチャレンジャーバンク

新興企業が運営する銀行は二種類あり、ネオバンクとチャレンジャーバンク(Challenger Bank)に分類される。ネオバンクは銀行の上に構築されたデジタルバンクであるが、チャレンジャーバンクは銀行ライセンスを取得し、独立した銀行として事業を運営する。どちらもデジタル・ネイティブの銀行で手数料が無料で使いやすい点に特徴がある。(下の写真、チャレンジャーバンク最大手Revolut(レボリュート)、英国企業であるが米国市場で事業開始。)

出典: Revolut

米国メガバンクの応戦

米国のメガバンクはネオバンクの躍進に応戦するため、独自ブランドのネオバンクを投入してこの市場に参入した。JPMorgan Chaseは「Finn」というネオバンクを設立し事業を開始した。しかし、ビジネスは軌道に乗らず、Finnを停止し、ネオバンク事業から撤退した。同行は既にオンラインバンキング「Chase Online Banking」を運用しており、Finnとの差別化が難しかったことが失敗の要因とされる。JPMorgan Chaseの事例が示すように、米国のメガバンクはネオバンクの対応に苦慮している。

ネオバンクの将来

「銀行のイノベーションはATMだけである。」これはリーマンショックの際に連邦準備制度理事会議長であったポール・ボルカー(Paul Volcker)が述べた言葉である。この発言は銀行の消費者サービスが進化していないことを意味する。厳しい指摘であるが、ニューヨーク大学によると、銀行はITに積極的に投資しているが、その恩恵は消費者ではなく銀行が得ていると分析する。米国の銀行はデジタル化を進めているが、この目的はコストダウンであり、必ずしも消費者が恩恵を受けているわけではない。このような背景からネオバンクが急成長し、米国の金融サービスを大きく変えようとしている。

手数料ゼロのネット証券Robinhoodが大ブーム、やはりタダで使えるサービスほど高いものは無い

コロナの感染拡大でネット証券「Robinhood(ロビンフッド)」の会員数が急増している。アプリはお洒落なデザインで使いやすく、手数料はゼロで、個人の株式投資への敷居がぐんと下がった。手数料ゼロで利益を出せるのは訳があり、その背後で高度な情報通信技術が使われている。会員の注文は極めて短時間で決済できる超高速取引で処理され、これが収益の源泉となっている。

出典: Robinhood

Robinhoodとは

Robinhoodはカリフォルニア州メンロパークに拠点を置く新興企業で証券取引のプラットフォームを提供している。Robinhoodは手数料ゼロのネット証券として2015年に事業をスタートし、ディスラプターとして証券取引ビジネスを一新した。ミレニアル世代を中心に人気が沸騰し、2020年には会員数が1300万人を超えた。

人気の秘密

Robinhoodの人気の秘密は証券取引数料が無料であることと、アプリのデザインが若者世代のテイストにマッチしていることがあげられる。白をベースとしたシンプルなデザインで、フレッシュな印象を受ける(下の写真)。今までのフィンテックアプリとは異なり、操作性も大きく向上した。更に、0.1株から購入できるため初心者でも安心して取引できる。

出典: Robinhood

アプリ利用方法

Robinhoodはスマホアプリから利用する。最初に、会員登録のプロセスで個人情報などを入力し、銀行口座をリンクする。株を購入するときは銘柄を指定し、株数と単価とオプションを指定する。例えば、テスラ「TSLA」1株を330ドルでMarket Orderで購入するなどと指定する。このほかに、Limit Orderを指定すると条件を満たす価格で購入できる。

ビジネスモデル

Robinhoodは利益を得る仕組みを説明している。それによると、株式やオプションの手数料はゼロであるが、信用取引口座(Margin Account、Robinhoodから資金を借りて投資する口座)は有償で、会員は手数料(5ドル/月)と金利(年率5%)を支払う。また、Robinhoodは会員の余剰現金を貸付事業に展開している。これらがRobinhoodの収益を構成すると説明している。

もう一つのモデルが存在

これだけではなく、Robinhoodは「Payment for Order Flow」と呼ばれる手法で収益をあげていることが判明した。Robinhoodはこのモデルについては公開しておらず、証券取引委員会(Securities and Exchange Commission)が捜査に乗り出した。Payment for Order Flowは合法的な手法であるが、Robinhoodはこの事実を会員に公開していなかった。これが情報開示義務違反に該当する可能性があるとされる。

Payment  for Order Flowとは

Payment  for Order Flowとは、顧客の注文をブローカー間で超高速で取引し、利益を上げる手法を指す。Robinhood会員が株式やオプションを発注すると、これがそのまま証券取引所で売買されるのではなく、ブローカー(Market Maker)に渡る。Market Makerとは金融サービス企業で、お互いに買い値(Bid)と売り値(Ask)を提示し、相対取引を実行する機関を指す。Market MakerはRobinhoodからの注文を受け、他のMarket Makerと取引し、売り買いの幅(Bid-ask spread)で利益を上げ、その後、注文の処理結果をRobinhoodに返す。

Payment  for Order Flowの流れ

例えば、Robinhood会員がTesla株を330ドルで買う注文を出すと、それがMarket Makerに渡る。Market Makerは他のMarket Makerが提示する価格をスキャンし、好条件の提示価格を見つける。例えば、Tesla株を他のMarket Makerから329ドルで買い、それをRobinhoodに330ドルで売り、1ドルの利益を上げる。

出典: Robinhood

Robinhoodが利益を得る仕組み

RobinhoodはMarket Makerから利益に応じた手数料を受け取り、これがRobinhoodの利益となる。SECの資料によると、Robinhoodは2020年4月-6月期にMarket Makerから1億8026万ドルの手数料を受け取っている。これがRobinhoodの収益を支え、手数料無料でネット証券を運営できる理由となる。

Market Makerと高速取引

Robinhoodは提携しているMarket MakerはCitadel SecuritiesやVirtu Financialなどであることを公開している。これらは証券取引を極めて短時間で実行できる高速取引(High-Speed Trading)と呼ばれるシステムを構築し事業を展開している。トランザクションを超高速で実行し、他社より有利な条件で証券を売買し、これがPayment  for Order Flowが成立する基盤となる。

他のネット証券も利用

Payment  for Order FlowはRobinhoodだけでなく、他のネット証券も利用しており、業界では取引モデルとして定着している。E-TradeやTD AmeritradeはRobinhoodに追従して証券取引手数料をゼロとしたが、これらネット証券もPayment  for Order Flowを使って利益を上げている。

Robinhoodの特殊性

ただ、Robinhoodが受け取る手数料が他社に比べて高いことが議論となっている。Robinhood会員は株取引を始めたばかりのアマチュアが多く、これが高い手数料に繋がっているとの見方もある。プロの投資家と違いアマチュア投資家は甘い条件で取引を発注するので、スプレッドが大きくなり、Market Makerが利益を上げやすい構造になる。Robinhoodが投資家初心者を勧誘する理由はここにある。

出典: Robinhood

ネット証券の新たなビジネスモデル

GoogleやFacebookをタダで使えるが、その背後で個人情報が集められ、広告収入に結び付いていることを消費者は理解している。ネット証券も同様に、タダで株を売買できる代わりに、利用者の注文から利益が絞り出されることを理解する必要がある。この手法が倫理的でないとの議論もあるが、ネット証券の新しいビジネスモデルになっている。

ネット証券の新たなイメージ

Robinhoodの功績はミレニアル層など若い世代に投資の魅力を説いたことにある。若者はリーマンショックなどを経験し、株式投資に消極的な世代とされてきた。Robinhoodはこれら世代を対象に、ブログ「Snacks」で株式市場の動向を発信している(冒頭の写真)。食べやすいスナックという意味があり、複雑な政治・経済情勢を消化しやすい形で解説する。ポッドキャスト「Snacks Daily」はこれをヒップホップな音楽に乗せて若者に語り掛ける。この軽快さがRobinhoodの顔となり、アマチュア投資家の案内人として資産形成を支援する。

Apple Cardは女性に不利!AIが女性の信用度を低く査定、カード発行銀行は法令違反の疑いで捜査を受ける

Apple Cardはお洒落なデザインのクレジットカードで利用が広がっている。しかし、Apple Cardは女性の信用度を低く査定するという問題が発覚した。クレジットカードはGoldman Sachsが発行しており(下の写真)、同行が開発したAIに問題があるとみられている。AIが性別により評価を変えることは法令に抵触する疑いがあり、司法当局は捜査に乗り出した。

出典: Apple

Apple Cardの問題点

この問題は著名人らがツイートしたことで明らかになった。David Heinemeier Hansson(Ruby on Railsの開発者)はツイートでこの問題を指摘した。 Hansson夫妻はどちらもApple Cardを持っているが、利用限度枠(Credit Limit)が大きく異なる。利用限度枠とはクレジットの上限で、同氏は妻の20倍となっている。税金は夫妻合算で納税申告をしており、財政面では同じ条件であるが、奥様の信用度が低く評価されている。同様に、Steve Wozniak(Apple共同創業者)も奥様に比べ10倍の利用限度枠があるとツイートしている。

信用度の査定

利用限度枠はApple Cardを申し込むときに決定される。カードを申し込むとき、必要事項を記入し、Goldman Sachsがそれらを審査して可否を決定する。その際に、住所氏名、ソーシャルセキュリティー番号(マイナンバー)、年収などを記入し(下の写真左側)、それらはアルゴリズムで解析され、信用度が査定される。申し込みが受け付けられるとカードが発行されるが、その時に利用限度枠が決まる(下の写真右側、筆者のケースでは10,000ドル)。

出典: VentureClef  

司法当局が捜査に乗り出す

有名人が相次いでツイートしたことからApple Cardの問題が社会の関心事となり、ニューヨーク州の金融機関を監督するNew York State Department of Financial Services(DFS)が見解を発表した。ニューヨーク州は与信審査のアルゴリズムが性別や人種などで不公平であることを禁止している。このため、法令に抵触している疑いがあり、DFSはGoldman Sachsの捜査を開始するとしている。因みに、DFSは銀行や保険会社の違法行為を監視する機関で、今までにBitcoinにかかる不正な事業を摘発している。

米国連邦政府の法令

米国では法令「Equal Credit Opportunity Act (ECOA)」により、誰でも公平にローンを受ける権利を保障している。これは1974年に施行されたもので、その当時、女性はローンを申し込んでも断られるケースが多く、男女差別を無くすことを目的に制定された。1976年には、性別だけでなく、人種や国籍や信条などが加わり、今に至っている。ローン審査のアルゴリズムはこの法令に順守することが求められる。

Goldman Sachsの見解

これらの動きに対してGoldman Sachsは見解を表明した。それによると、Goldman Sachsはカード申し込み時に信用審査を実施するが、男性と女性に分けて行うのではなく、男女同じ基準で評価している。申込者の年収やクレジットスコアや負債などをベースに信用度が査定され、利用限度枠が決まる。審査で性別は考慮しないため、女性に不利になることはないと説明している。

出典: Apple

原因は教育データの不足

Goldman Sachsが見解を発表したが、アルゴリズムの構造などには触れておらず、問題の本質は不明のままである。同行からの検証結果を待つしかないが、市場ではアルゴリズム教育に問題があるとの考えが有力である。通常、信用評価アルゴリズムは過去のクレジットカード応募者のデータを使って教育される。データの多くは男性で、女性のデータは少なく、アルゴリズムは女性の信用度を正しく評価できなかったとみられている。

アルゴリズムが女性を識別した?

これとは別の推測もある。Goldman Sachsはアルゴリズムは男性と女性を特定しないで評価したと述べており、教育データは男性と女性に分かれておらず、アルゴリズムは性別を把握できない。しかし、アルゴリズムはデータから、男性と女性を特定する情報を学び、応募者の性別を把握していたとの解釈もある。その結果、過去のデータから、女性の信用度を低く判定した。つまり、開発者の意図とは異なり、アルゴリズムが独自に男女を識別し、男性に有利なデータに基づき、女性の信用度を低く評価したことになる。ただ、これらは推測であり、真相解明はGoldman Sachsの検証結果を待つしかない。

AIの限界

Goldman Sachsは、勿論、意図的に女性の利用限度枠を下げたのではなく、アルゴリズムが開発者の意図とは異なる挙動を示し、このように判定した可能性が高い。多くの金融機関でAIによる信用度審査が実施されているが、そのアルゴリズムはブラックボックスで、人間がそのロジックを理解できないという問題が改めて示された。AI開発ではアルゴリズムの判定メカニズムを可視化する技術の開発が急がれる。

ベンチャーキャピタルの技術発表イベント、音楽ストリーミングにブロックチェーンを導入

ベンチャーキャピタル500 Startupsはサンフランシスコで発表イベントを開催し、スタートアップは開発した最新技術を披露した。カナダ・バンクーバーに拠点を置く新興企業Beatdappは音楽ストリーミング回数を計測する技術をブロックチェーンで開発し、そのデモを公開した(下の写真)。音楽ストリーミングサービスがブームであるが、配信企業と音楽制作会社の間で音楽配信回数が食い違い、訴訟に発展することも珍しくない。

出典: VentureClef

音楽ストリーミングサービスとは

音楽ストリーミングとは、音楽制作会社(Record Labels、レーベル)やアーティストが制作した音楽を、配信会社(Digital Service Provider、DSP)が消費者にオンデマンドで配信するサービスを指す。レーベルはWarner Music Groupなど大手三社と数多くの独立系(Indie Label、インディーズ)からなる。また、DSPではSpotifyがトップで、それをApple Music、Amazon Music、Tencent Musicなどが追っている。

音楽ストリーミング事業

音楽ストリーミングサービスでは音楽や音楽ビデオの配信回数で収入が決まる。この事業の収益は視聴者のサブスクリプションと広告収入で構成され、配信回数に応じてDSPがレーベルやアーティストに売り上げを分配する。しかし、Beatdappによると、世界600社の音楽ストリーミングサービスを調査すると、DSPが報告した配信回数と実際の配信回数の間に隔たりがある。DSPはレーベルやアーティストに過少申告し、その金額は$4.5Bに上るとしている。

音楽配信アナリティックス

この問題を解決するためBeatdappは音楽配信アナリティックス技術を開発した。レーベルやアーティストはBeatdappを利用することで、音楽配信情報を把握し、販売金額を正しく掴むことができる(下のグラフィックス)。具体的には、特定アーティストの音楽配信回数がグラフやテーブルで示される。例えば、The Poetというアーティストの曲が今月は1234回配信されたことが分かる。また、DSPごとの配信回数がグラフで表示され、SpotifyやApple Music経由での配信回数を掴むことができる。

出典: Beatdapp  

ブロックチェーン構成

音楽配信回数をカウントするためにはDSPがBeatdappをシステムに組み込む必要がある。DSPとしてはBeatdappを統合することで不正使用を検知でき、また、経理監査プロセスを自動化できるメリットがある。Beatdappはブロックチェーンを使ってシステムを運用している。システム構成は公開されていないが社名(Beat + dapp)にヒントがある。「Dapp」とはブロックチェーン「Ethereum」の上で稼働する分散アプリ「Decentralized Application」を指す。Dappは「Smart Contracts」とも呼ばれ、インテリジェントな契約機能を持つ。Beatdappのケースでは人間の介在無しに(人間がデータ集計でミスすることなく)Dappが契約(事前に設定されたルール)に基づき、音楽配信回数を正確にカウントする。

音楽産業の斜陽化

音楽産業は斜陽化の時代を抜けストリーミングで生まれ変わろうとしている。1980年代にCDが導入され音楽産業が大きく成長した。音楽がデジタルに記録され音質が上がり、1999年には売上金額がピークに達した。しかし、同年、P2Pファイル共用サービス「Napster」の登場で、デジタルに記録された音楽が不正にコピーされ、これ以降、音楽の売り上げが毎年低下することとなった(下のグラフ、Physicalの部分)。

出典: Financial Times  

音楽ダウンロードが転機になる

しかし2001年、AppleがiTunesを投入し、この流れが変わった。iTunesはメディアプレーヤーで音楽やビデオファイルをダウンロードして再生する。iTunes Storeで音楽ファイルを購入することで音楽の売り上げが少しずつ増えてきた(上のグラフ、Digital Downloadsの部分)。ついに、2013年には減少を続けてきた音楽収入が上昇に転じ、音楽産業は底を脱した。

ストリーミングが音楽産業を再生する

更に、この頃から音楽をダウンロードではなくストリーミングで聞く方式が人気となってきた(上のグラフ、Streamingの部分)。この先陣を切ったのはSpotifyで、著作権で管理された音楽を配信する事業を広げていった。2015年にはApple Musicがこの市場に参入し、音楽市場が一気に拡大した。この勢いでストリーミング事業が成長すると2026年には過去最大の売り上げを記録するとの予測もある。

ブロックチェーンはトライアルから実用段階へ

ブロックチェーンはBitcoinなど暗号通貨だけでなく、サプライチェインなどで適用が広がっている。ただ、多くの企業はブロックチェーンを試しに使ってみるだけで、これは「Blockchain Tourism(ブロックチェーン観光)」と揶揄されてきた。しかし、今年からブロックチェーンをアプリに組み込み基幹業務に適用するケースが増えてきた。ブロックチェーンはトライアルの段階を抜け実用段階に進んできた。技術の成熟度に敏感な新興企業はブロックチェーンを使ったアプリの開発を始め、今年はブロックチェーンが開花する予兆を感じた。

Libraショックが広がる、中国は対抗する暗号通貨を開発し年内の運用を目指す

FacebookのLibra(リブラ)が世界に衝撃を与えているが、各国の対応は分かれている。フランスとドイツはLibraを認めないとする共同声明を発表した。ユーロ圏内で統一してLibraを規制する方針を示した。一方、中国はLibraを規制するものの、対抗する暗号通貨の開発を急いでいる。この暗号通貨は数か月以内に運用が始まるといわれ、フィンテック市場でも中国が米国に対峙する形となる。

出典: People’s Bank of China

発表概要

中国の中央銀行にあたる中国人民銀行(People’s Bank of China)は、暗号通貨を開発しており、数か月以内に運用を始めることを明らかにした。同行のデジタル通貨研究所「Digital Currency Research Institute」の責任者Mu Changchunが明らかにし、上海証券報(Shanghai Securities News)が報道した。

暗号通貨とデジタルワレット

中国人民銀行が開発している暗号通貨はDC/EP(Digital Currency and Electronic Payment tool)と呼ばれる。DC/EPは流通している通貨をデジタルにしたもので、支払いツールとして機能する。専用のデジタルワレットをスマホにダウンロードしてDC/EPを利用する。

利用方法

支払いの際にはネットワークは不要で、スマホ同士をタッチするだけでトランザクションが完了する。通貨と同じくネットワーク環境が整っていない場所でも使える。ただ、スマホに近距離通信機構などが必要になると思われるがシステム要件については公表されていない。また、DC/EPは銀行口座を持たなくても使うことができる。ただし、DC/EPにお金をチャージする際は銀行口座とネットワーク環境が必要となる。

システム構成

DC/EPは二階層で運用される。中国人民銀行がDC/EPのコアシステムを運用し、ここに金融機関が加盟し、それぞれのシステムを運用するかたちとなる。7社が加盟する予定で、この中にはAlibaba、Tencent、UnionPayが含まれている。金融機関がシステムを運営する際には、ブロックチェインまたは従来の経理システムを使うことができるとしている。ブロックチェインを使わないケースではDC/EPは暗号通貨の定義から外れることになる。

中央銀行と金融機関の役割

DC/EPの運用は通貨の運用に類似しており、金融機関は中国人民銀行に口座を持ちDC/EPを購入する。利用者となる個人や企業は金融機関からDC/EPを購入し、それをデジタルワレットで使う。Libraと対比すると、中国人民銀行がLibra Associationに相当し、加盟している金融機関がFacebookなどに相当する。またデジタルワレットはCalibraのような機能を持つ。

国家が暗号通貨を運用する目的

中国では既にAlibabaやWeChat がデジタル通貨を運用しておりキャッシュレスの社会が出来上がっている。キャッシュレスの処理金額は59兆元(2019年第一四半期)で、Alipayがその1/2を、WeChat Payがその1/3を担っている。このような環境に暗号通貨を導入する狙いは、中国政府が通貨主権を守ることにある。また、民間企業が国家の通貨運用を担うと、会社が倒産した際に社会に与える影響が甚大となる。更に、仮にLibraが中国で普及すると、ドルやユーロや円に裏付けられたLibraが人民元(Renminbi)の価値を脅かすことになる。

出典: Alipay

Libraが開発を加速させた

中国人民銀行は2014年から専属の研究チームを設け暗号通貨の開発を進めてきた。その目的は、通貨の流通量を減らし運用コストを下げ、また、マネーサプライ政策を効率的に行うことであった。FacebookがLibraを発表したことでDC/EPの運用が早まった。Libraが中国の暗号通貨開発を加速させたことになる。

課題を抱えての船出

DC/EPが投入されると世界最大規模の暗号通貨エコシステムが構築されることになる。DC/EPはビットコインと異なり、価値が安定し、安全に利用できる。また、ビットコインのように匿名で使うことはできず、資金洗浄や人民元の海外への流出を防止できる。一方、DC/EPが銀行やAlibabaなどの事業にどう影響するのか見通せない部分も多い。また、キャッシュレスが普及している社会で本当にDC/EPが使われるのかも疑問視されている。様々な課題を抱えて中国人民銀行の暗号通貨プロジェクトが稼働することになる。