新型コロナウイルスに関する偽情報のパンデミック、デマの発生源はどこ?デマを拡散しているのは誰?

新型コロナウイルスに関する偽情報が世界を駆け巡っている。Bill Gatesが新型コロナウイルスを広めている。5Gの電波が新型コロナウイルスに対する免疫を弱める。漂白剤を飲めば病気が治る。新型コロナウイルスは嘘で病院には患者は一人もいない。ソーシャルメディアで新型コロナウイルスに関するデマや陰謀説が拡散しているが、その経路をたどると偽情報を発信する団体とその目的が見えてくる。

出典: NBC News

世界危機における情報伝達の特性

データサイエンス企業Graphikaはソーシャルメディアを解析し、新型コロナウイルスに関する偽情報(Misinformation)の発信源を可視化し、その結果を公開した。これによると、感染が拡大する中、大量の偽情報がソーシャルメディアを通じて拡散しているが、その発信源は際立った特性を示している。これを見ると社会が危機に瀕した際に、デマがどのように広がるかを理解でき、フェイクニュース対策に応用できる。

ツイッターを追跡調査

この調査は2020年1月から3月まで、ツイッターに掲載されたツイートを対象に、新型コロナウイルスに関する情報を発信する団体を追跡した。これによると、ソーシャルメディアで新型コロナウイルスに関する偏った情報が伝わり、これが特定のグループで増幅され、偽情報が拡散するプロセスとなる。新型コロナウイルスについて、同じテーマの記事が繰り返し大量に生成され、ハッシュタグが異常な速さで伝わっている。

米国の右翼団体がデマを拡散

具体的には、ツイッターのハッシュタグを分析し、ツイートがどの集団で発信されているかを可視化した(下の写真)。2020年2月は、米国の右翼団体(US Right Wing、下の写真左側、緑色の部分)や香港の団体(Hong Kong、下の写真左側、黄色の部分)で、メガクラスター(Mega Cluster)ができており、これらの集団が大量のツイートを発信していることを意味する。米国においては右翼団体が偽情報を大量に拡散し、新型コロナウイルスに関するデマを使って活動を活発に進めている。

出典: Graphika

偽情報の発信量が少なくなる

一方、2020年3月は、メガクラスターはなくなり、小さなクラスターに分散していることが分かる(上の写真、右側)。これは、右翼団体の活動が弱まり、偽情報の発信量が少なくなっていることを示す。この理由は、政府機関や報道各社から正しい情報が大量に発信され、市民の啓もうが進み、偽情報が打ち消されているため。また、ソーシャルメディアは偽情報を発信するアカウントを削除したことも影響している。3月には偽情報の封じ込めに一定の成果があったことを示している。

米国の右翼団体とは

米国には右翼団体が数多く存在するが、その中で注視されているのが「QAnon(キュー・アノン)」という団体である。QAnonは極右思想(Far-Right Politics)を持つ団体で、2017年ころに設立され、トランプ政権を支える活動を展開している。政界のエリート集団「Deep State」がトランプ大統領を政権から引き下ろす工作をしているが、QAnonがこれを守るために活動している。Deep Stateは根拠のない陰謀説であるが、トランプ支持者の多くがこれを信じ、活動に参加している。

陰謀説1:Bill Gateが新型コロナウイルスを拡散

QAnonを筆頭とする極右団体はマイクロソフト創業者Bill Gatesが新型コロナウイルスを広げているとの偽情報を発信している。ツイッターで、Gatesが出資する研究機関が新型コロナウイルスに関する特許を持っており、ワクチンが開発されているとのデマが広がっている。極右団体は、新型コロナウイルスを治療するワクチンが開発されると、特許を持つGatesとそれを製造する製薬会社が巨万の富を得ると考えている。

デマが生まれた原因

このデマが生まれた背景には重大な事実誤認がある。Gatesが出資している研究機関は、英国のPirbright Instituteで、ここでは新型コロナウイルスではなく、別の種類のコロナウイルス(Infectious Bronchitis Virus)の研究を進めており、弱毒化ワクチン(Attenuated Vaccine)を開発した。これは鶏が感染するのを防ぐもので、いま蔓延している新型コロナウイルスとは無関係である。世界一の富豪であるGatesはワクチン開発などで慈善活動を展開しているが、極右団体から攻撃を受け続けている。

陰謀説2:Anthony Fauci博士が製薬会社と結託

また、極右団体は、米国アレルギー感染症研究所のAnthony Fauci所長が新型コロナウイルスの感染拡大に責任があるとのデマを流している。極右団体は、Fauci博士は新型コロナウイルスの危険性を説いているが、これは大手製薬会社とグルになり、医薬品の売り上げを伸ばすためであるとの陰謀説を流し、博士をホワイトハウスの新型コロナウイルス対策チームから外す運動(#FireFauci)を展開している。更に、与党共和党上院議員候補者Shiva Ayyaduraiはインタビューでこの旨の発言をし(下の写真、右側の人物)、このビデオは4月10日にYouTubeに掲載されたが、一か月で730万回再生されている。極右団体だけでなく共和党支持者の中でもこの陰謀説が広まっている。

出典: YouTube

陰謀説3:Gが新型コロナウイルス感染の原因

欧米で5Gネットワークが新型コロナウイルス感染の原因とのデマが拡散している。これは陰謀論を唱えるDavid Ickeが発信源とされ、5Gネットワークは人間に有害で、5Gのシグナルが身体細胞の抵抗力を低下させ、これにより新型コロナウイルスが拡大したと述べている。更に、中国・武漢は最初に5Gネットワークを運用した都市で、ここから新型コロナウイルスの感染が始まったと主張。この陰謀論は数多くの事実誤があるが、Ickeはこれをソーシャルメディアで拡散し、閲覧回数は3000万回を超えている。

デマを広げる理由

このデマが広がる背景には消費者のハイテクに対する潜在的な恐怖感がある。スマホの電波がガンを発症する原因であるとの議論があり、医学的には証明されていないが消費者は一抹の不安を覚える。また、このデマはレントゲン検査のX線の危険性を5Gのシグナルに対比し、危機感を煽っている。陰謀論家がセンセーショナルな発言を繰り返す理由は様々であるが、注目度が上がり、YouTubeでビデオの閲覧回数が増え、広告収入がぐんと増えることも事実だ。

出典: World Health Organization

陰謀説4:とんでもない治療法

ソーシャルメディアには治療法に関する都市伝説が数多く掲載されている。医療用の銀を含んだ溶液(Colloidal Silver)が新型コロナウイルスを治すとのうわさが広まり、テレビで製品のコマーシャルが流れている。産業用の漂白剤(Miracle Mineral Solution)が新型コロナウイルスを治すとのうわさもあり、実際に服用して病気になったケースが報告されている。他に、ビタミンCを大量に摂取すると新型コロナウイルスに効くとの偽情報も流れている。実際に、中国で治験が行われていることは確かだが、その効果は確認されていない。

デマのパンデミック

新型コロナウイルスに関する偽情報が世界で急速に拡散し、デマのパンデミックになっている。WHOはこの現象を「Infodemic」と呼んで注意を呼び掛けている。同時に、WHOはソーシャルメディア企業と連携し、デマをフィルタリングし、偽情報を駆逐するファクトの発信に力を入れている(上のグラフィックス、辛い物を食べても感染予防にならない)。新型コロナウイルスの感染者数は増え続けているが、偽情報の件数は減少に転じた。