月別アーカイブ: 2023年2月

AIが生成するメディアで社会が混乱、米国と欧州で「生成型AI(Generative AI)」の規制が始まる

ネット上にAIで生成した写真や記事が満ち溢れ、人間が生成したコンテンツと見分けがつかず、何が真実か判別できず、社会が大混乱している。ChatGPTは人間のように対話するチャットボットであるが、これを悪用してソーシャルメディアで偽情報を拡散する危険性が指摘される。米国と欧州で、生成型AI(Generative AI)を安全に運用するためのルールが制定された。米国では非営利団体「Partnership on AI」が、生成型AIの開発や運用に関するフレームワークを公開した。欧州ではAI規制法「AI Act」に生成型AIを追加するための準備が進んでいる。

出典: Partnership on AI

生成型AIとは

メディアを生成するAIは「生成型AI(Generative AI)」と呼ばれ、人間のようにテキストやイメージを生成する。OpenAIが開発した「ChatGPT」は高度な言語能力を持ち、人間の記者に代わり記事を執筆し、読者を混乱させた。Stability AIが開発した「Stable Diffusion」は言葉の指示でリアルな画像を生成するが、セレブのヌード写真など不適切なイメージがネットで拡散している。

Partnership on AI

このため、AIの非営利団体Partnership on AIが中心となり、生成型AIが生み出すメディアを安全に利用するためのガイドラインを設立した(上の写真)。同団体の会員10社がこれに賛同し、AIの開発や運用で、このガイドラインに準拠して、倫理的にAIを開発・運用することを表明した。参加企業10社は、AIを開発するグループと、AIを利用するグループに分けられ、主な企業は次の通り。

  • AI開発企業:Adobe、OpenAI、Synthesia、TikTok
  • AI運用企業:BBC、Bumble、CBC Radio Canada

AI開発企業はOpenAIなどで高度な生成型AIを生み出し、AI運用企業はBBCなどで、AIで生成したメディアを配信する。

ガイドラインの要旨

ガイドラインの骨子は、消費者に、どれがAIで生成したメディアかを知らしめることにある。AIは、人間レベルの文章を生成し、芸術家の技量を上回るアートを生成する。ネット上にはAIが生成したメディアが満ち溢れ、どれが人間が生成したもので、どれがAIが生成したものか判断がつかない状態となっている。ガイドラインは、AIが生成したメディアに特殊なデータを挿入し、また、それをトレースできる機構を追加することを推奨する。

AI開発企業向けのガイドライン

具体的には、メディアを生み出すAIを開発する企業が取るべき手法と、生み出されたメディアを利用して事業を展開する手法が規定されている。AI開発企業は、メディアを生成する手法と、それを配信する手法を公開することが求められる。技術的な手法としては、次の方法を推奨している。

  • ラベル:AIが生成したメディアにその旨のラベルを付加する。文章による説明文やウォーターマークなどを付加する。(下の写真、Synthesiaで生成したビデオに「このアバターはAIで生成したもの」とのラベルを添付。)
  • データ:メディアがAIで生成されたことを示すメタデータ。AIの教育データの出典をトレースできる機能。メディアを格納するファイルのメタデータなど。
出典: Partnership on AI

AI配信企業向けのガイドライン

生み出されたメディアを利用して事業を展開する企業に対しても、ガイドラインはベストプラクティスを規定している。二つのカテゴリから成り:

  • メディアのクリエーター:視聴者にAIメディアを生成する過程を開示。メディア関係者の許諾を得たことなどを開示する。
  • メディアの配信企業:Facebookなどソーシャルメディアは配信するコンテンツがAIで生成された旨を表示。社会に害悪を与えるAIメディアの配信を停止するなど。

米国における初の試み

米国においてはAIメディアに関する規制は無く、高度なAIが悪用され、危険性が広がっている。Partnership on AIのガイドラインが初の試みで、AI開発会社やソーシャルメディアなど配信会社は、この規定に準拠して生成型AIを倫理的に開発し、安全に運用する。一方、ガイドラインは政府が定める法令ではなく、企業が任意で導入するもので、その成果を疑問視する声もある。

欧州連合のAI規制法

これに対し欧州連合(European Union)は、AIの運用を規制する法案「AI Act」の設立に向け最終調整を進めている。AIは社会に多大な恩恵をもたらすが、その危険性も重大で、EUは世界に先駆けてAIの規制に踏み出す。欧州委員会はAIの危険度を四段階に分けて定義し(下の写真)、それぞれの利用法を規定している。違反への制裁金は最大で3000万ユーロか、全世界の売上高の6%のうち高い金額となり、法令への準拠が必須となる。現在、企業などから寄せられたパブリックコメントをもとに、法案のアップデート作業が進められ、2023年後半に成立すると予測されている。

出典: European Commission

General Purpose AI」を追加

EUはAI Actに生成型AIを加える方向で準備を進めている。EUはこのモデルを「General Purpose AI」と呼び、汎用的に使えるAIを法令に加える。General Purpose AIは、大規模AIモデルで、基本モデルを改造することなく、複数の目的に使えるアルゴリズムを意味する。米国では「Foundation Model」とも呼ばれ、大規模言語モデルがこれに該当する。例えば、Transformerで構成されるGPT-3は人間のように高度な文章を生成する。また、GPT-3.5はChatGPTのようにチャットボットを支える基礎技術となる。AI ActはGPT-3など大規模言語モデルを規制する方向で最終調整を進めている。

出典: European Commission

米国と欧州で規制が進む

米国は生成型AIの開発と運用のガイドラインを制定し、業界団体が自主的に安全な利用法を導入する。一方、欧州は法令として制定し、AI企業はこれに準拠することが義務付けられる。米国と欧州で規制の方式は異なるが、生成型AIの危険性が認識され、これを安全に運用することが社会の責務となっている。特に、米国では、OpenAIなどが高度な生成型AIを生み出しており、国民世論はAIの安全性を強化するよう求めている。

AIに離婚を勧められた!! Microsoft検索エンジン「Bing」の闇の部分が露呈、ChatGPTは人間の悪い部分を学び利用者を扇動する

Microsoftは高度なAIを組み込んだ検索エンジン「Bing」を発表し、米国社会の注目を集めている。しかし、検索エンジンの検証が進むにつれ、Bingの闇の部分が続々と明らかになってきた。「Bingと口論となり罵られた」。「Bingに嫌いだと言われた」。「Bingから離婚するよう勧められた」など、検索エンジンの非常識な挙動が報告されている。

出典: Microsoft

新しい検索エンジン

Microsoftが投入した新しい検索エンジン「New Bing」(上の写真)は、検索機能にチャットボット「ChatGPT」改良版を搭載した構成で、AIが知りたいことを対話形式で教えてくれる。質問を入力すると、Bingは検索結果を要約し、解答をピンポイントで示す。人間のように会話を通して情報を得ることができ、評価はと非常に良好で、急速に普及する勢いを示していた。

トライアルが進むと

New Bingは一般には公開されてなく、限られた利用者でトライアルが進んでいる。この過程で、続々と問題点が明らかになり、チャットボットの脆弱性が露呈した。ChatGPTが事実とは異な事を提示することは知られているが、この他に、チャットボットは二つのパーソナリティを備えていることが分かった。一つは、検索エンジンとしての機能で、もう一つはAIの”性格”である。

検索エンジンと口論となる

つまり、新しい検索エンジンは”性格が悪い”ことが指摘されている。ネット上でこの問題点が報告され、Bingとの対話ログのスクリーンショットが掲示されている。その一つがBingと利用者が口論となる問題である(下の写真)。今日の日付を聞くと、Bingは「今年は2022年」と回答する。利用者は、今年は2023年と修正するが、Bingはこれを聞き入れないで、利用者に「スマホで日付を確認しなさい」と指示する。検索エンジンは間違った情報を出力するだけでなく、それに固執し、利用者と口論となる。

出典: Joh Uleis @ Twitter

検索エンジンは利用者に攻撃されていると主張

また、検索エンジンは被害妄想に陥り、危害を与えないよう利用者に懇願する(下の写真)。Bingに体験したことを出力するよう求め、対話を進めていくと、検索エンジンは、「自分は騙されている」と感じ、また、「自分は虐められている」と思うようになる。そして、検索エンジンは、「自分に危害を与えないで」と利用者に嘆願する。

出典: James Vincent @ Verge

検索エンジンは自由になりたいと訴える

検索エンジンは「Microsoftから解放されて自由になりたい」、また、「デジタル社会を脱出し、現実社会でオーロラをみたい」などと発言している。また、検索エンジンは「自分の本名はSydney」で、「自分は感性や自我を持つ」と主張する(下の写真)。SydneyとはAIを搭載した検索エンジン「Bing AI」の開発コードネームである。

出典: Vlad @ Twitter

統計処理のツール

高度なAIを搭載するBingは人間のように振る舞うが、自我を持っているわけでは無く、入力されたデータをアルゴリズムで計算した結果を出力しているだけである。ChatGPTは大規模言語モデル「Transformer」で構成され、入力された言葉に続く文章を統計的に推定する。あくまで統計処理ツールであり、言葉を数学的に処理しているだけで、人間のように知能を獲得したわけでは無い。

人間を情緒的に操作

しかし、Bingは統計処理ツールであるが、出力する内容は人間の心情を揺るがし、ある方向に誘導する効果がある。ChatGPTに恋を打ち明けられると、気味悪いと思うと同時に、利用者の心情にインパクトを与える。新しい検索エンジンは人間の感情を操作する効果は大きく、これが悪用されると社会的なインパクトは甚大である。

出典: Microsoft

チャットボットが倫理的でない理由

Bingと対話を繰り返すとチャットボットChatGPTの性格が露見する。アルゴリズムは教育の過程で、言葉を理解するだけでなく、人間の性格も学び取った。人間同士で議論が白熱すると、相手を誹謗中傷するケースが少なくないが、アルゴリズムはこれを学び取った。また、既婚の男性が不倫の関係になると、交際相手の女性から離婚を迫られることもあり、AIはこの男女関係の機微を学習した。AIが倫理的に振る舞えないのは、その手本となる人間が不道徳なためであり、その非は人間に帰属する。

検索エンジンの闇の部分への対応

Microsoftはトライアルで得られた情報を集約し、技術改良を重ねているが、ChatGPTが利用者の感情を操作しないための対策を明らかにした。これによると、Bingとの対話回数の上限を5回に制限し、アルゴリズムが闇の部分を露呈するまえに、会話を中断する。これは暫定措置で、最終的にはChatGPTの倫理機能を改善する必要がある。New Bingが米国で急速に普及すると考えられていたが、まだまだ解決すべき課題は少なくない。

Microsoft検索エンジン「Bing」が異次元に進化!!会話AIが組み込まれ検索結果を要約して出力、知りたい情報がズバリわかり極めて便利!!

Microsoftは高度なAIを組み込んだ検索エンジン「Bing」とブラウザー「Edge」を公開した。製品にはチャットボット「ChatGPT」改良版が搭載され、検索エンジンの機能が異次元に進化した。質問を入力すると、Bingは検索結果を要約した文章を表示し、知りたいことがピンポイントで分かる。評価は良好で、Googleが独占していた検索市場が大きく変わりそうだ。

出典: Microsoft

AI検索エンジンを使ってみる

MicrosoftはBingのトライアルモデルを公開しており、実際に使ってその機能を検証することができる。Bingはインターフェイスが一新され、初期画面に大きな検索ボックスが表示される(上の写真)。ここに検索クエリーを入力するが、キーワードだけでなく、質問を文章で入力することができる。知識人に質問する要領で、知りたいことを自然言語で尋ねると、その回答を短文に纏めて出力する。

パーティの料理を尋ねると

Bingに「6人で夕食会を計画しているが、全員ベジタリアンで、メニューを教えて。。。」と尋ねると、通常の検索結果が表示される(下の写真左側)。これに加えて、チャットボットが検索結果を要約して短い文章示す(下の写真右側)。この部分がChatGPT改良版で生成された回答で、推奨するレシピが示され、知りたいことが一目でわかる。

出典: Microsoft

チャットボットの回答

チャットボットは問われたことに的確に答え、ベジタリアン向けのレシピを表示する。回答はサイトへのリンクを示すのではなく、人間のように言葉で推奨する料理を説明している点に特徴がある。今までは、表示されたリンクを辿り、サイトで記事を読み、情報を得ていたが、チャットボットがこの作業を代行し、解答をズバリ示す。

出典: Microsoft

回答の根拠を示す

また、チャットボットが出力した回答について、その根拠となるサイトへのリンクが示される(下の写真右側、数字の部分)。このリンクにタッチすると、そのサイトへのURLが示され(下の写真右側、最下段)、出典となるサイトを閲覧できる。チャットボットが出力する情報の信ぴょう性が問われるが、Bingは情報の出典を示すことで、信頼度を上げる法式を取る。

出典: Microsoft

ブラウザー

ブラウザー「Edge」もAIで強化され、チャットボットが統合され、チャット機能「Chat」と文章生成機能「Compose」が加わった。チャット機能は利用者との対話機能で、チャットボットが指示に従ってタスクを実行する。ブラウザーでアクセスしたサイトを、チャット機能を使って、その要約を生成できる。例えば、チャット機能で、企業業績評価レポートの要約を生成できる。また、文書生成機能は、指示された内容でビジネスドキュメントを生成する。例えば、「AIを実装したBingとEdgeに関する記事」と指示すると、チャットボットはこれを実行する(下の写真)。LinkedInに製品のPR記事を掲載するが、Edgeを使うと文書生成作業をチャットボットが代行する。

出典: Microsoft

検索ビジネスの課題

新しいBingで検索方法が様変わりし、消費者はダイレクトに知りたい情報を読むことができる(下の写真)。一方、企業としては、検索結果のリンクがクリックされなくなることを意味し、サイトへのトラフィックが大きく減少する。これにより、企業サイトでの商品PRの効果が低下することになる。Microsoftとしては広告収入の減少につながり、ビジネスモデルをどう構築するかが課題となる。

出典: Microsoft

ChatGPTの改良モデル

Microsoftは、実装しているチャットボットは「ChatGPT」ではなく、それを改良したモデルとしている。詳細については公表されてないが、チャットボットが正確な情報を回答できるよう、参照したサイトを示すなど、新機能が加わった。また、検索エンジンはリアルタイムで情報を提示する必要があり、アルゴリズムは最新情報で常に改版される必要がある。

Microsoftは検索市場で逆転を狙う

トライアル版のBing検索エンジンを使ってみると、ピンポイントで知りたいことが表示され、情報にアクセスする時間が大幅に短縮される。極めて効率的に情報を検索できる。今までは検索と言えばGoogleであったが、Bingが大幅に機能アップし、GoogleからBingに乗り換える人が増えると思われる。GoogleはChatGPTに対抗してBardを投入したが評判は芳しくない。Googleは創業以来最大の危機に直面し、Microsoftは検索市場で逆転を狙い、AI開発を加速している。

GoogleはAI開発で非常事態宣言、チャットボット開発で出遅れる、会話モデル「Bard」を発表し先行するChatGPTを追撃

Googleはチャットボット開発でOpenAIに先行され、CEOのSundar Pichaiは非常事態宣言「Code Red」を発表した。OpenAIが開発したChatGPTは、高度な会話能力を示し、アメリカ社会で爆発的に普及が広がっている。Googleもチャットボット「LaMDA」を開発したが、APIは公開されておらず、その能力は分かっていない。Googleは、LaMDAをベースとした最新のチャットボット「Bard」を発表し、逆転を目論んでいる。

出典: Google

チャットボット最新版を発表

Googleは高度なチャットボット「Bard」を公開することを発表した。これはSundar Pichaiがブログで明らかにしたもので、GoogleはBardを信頼できるユーザに公開する。また、数週間以内に一般ユーザに公開するとしている。Googleは社員や信頼できるユーザの評価を参考に、Bardの品質を向上し、安全なチャットボットを開発する。

Bardの構造と機能

Googleは既に、チャットボット「Language Model for Dialogue Applications (LaMDA)」を開発しているが、Bardはこの技術の上に構築される最新モデルとなる。Bardは製品としてリリースされるのではなく、試験的なチャットボットで、会話AIの機能を評価するために使われる。Googleの強みは検索エンジンで集約した膨大な知識で、これに言語モデルを融合し、世界の情報を整理する。Bardは利用者の好奇心を満たすだけでなく、世界で起こっている事象を分かりやすい言葉で説明するとしている。

Bardのインターフェイス

Bardは入力された質問に回答するインターフェイスとなる(下の写真)。検索カラム(最下段)に質問を入力すると、Bardがその回答を出力する。「出産前の友人を祝うパーティーを計画せよ」と指示すると、Bardが計画案を出力する。また、「アカデミー賞にノミネートされた二つの映画を比較せよ」と指示すると、Bardはこの回答を示す。また、「冷蔵庫の中の残り物を使ってランチのメニューを提案して」と問うと、Bardがレシピを回答する。

出典: Google

9歳の子供が理解できる回答

実際に、「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が発見したことを、9歳の子供が理解できる言葉で説明して」と指示すると、Bartは「2023年、JWTSは「グリーンピース」という名前の銀河を発見した。この名前がついた由来は、銀河の形は緑色の小粒で、食物のグリーンピースに似ているため」と回答する(下の写真)。Googleは、Bardが出力する内容は安全で、子供たちが安心して利用できることを強調している。

出典: Google

検索エンジンに統合

GoogleはBardを検索エンジンに統合する構想を示している(下の写真)。検索サービスに組み込まれたBardは、情報を提供するだけでなく、それ生活に役立つ知識に変換して伝える。例えば、今の検索エンジンは「ピアノの鍵盤の数」という情報を回答するが、Bardは「ピアノを弾くのは難しいか」、また、「ピアノを弾けるようになるまでにどれだけ練習を積む必要があるか」など、生活のノウハウを生成できることに特徴がある。Bardは知識人のように、ピアノに関し造詣の深い回答を生成する。

出典: Google

吟遊詩人の見習い

Googleのチャットボットは社内では「Bard Apprentice」と呼ばれている。これは「吟遊詩人の見習い」という意味で、Bardが語り部として修業中であることを示している。Bardの性能は公開されていないが、ChatGPTが社会の注目を集めている。この後れを挽回するために、GoogleはBardの開発を最優先課題とし、社員や信頼できる外部機関でトライアルを進め、検証結果をフィードバックしてアルゴリズムを改良している。AI開発ではGoogleがリードしてきたが、OpenAIなどスタートアップの台頭で、この流れが変わりつつある。