血液検査でガンを早期に発見する技術「Liquid Biopsy」の技術開発が進み実用段階に入ってきた。ガンを早期に発見できると生存率が格段に向上する。後期ステージに比べ生存率が5倍から10倍向上し、ガンは治療できる病気となる。この技術の背後にはDeep Learningがあり、アルゴリズムがガンのシグナルを検知する。

出典: VentureClef |
会社概要
GrailはMenlo Park(カリフォルニア州)に拠点を置くベンチャー企業で、Liquid Biopsy技術で業界のトップを走る。Grailは高精度のDNAシークエンシング技術を使い、血液中を流れる遺伝子の断片を検出する。検知した遺伝子断片をAIで解析し、それがガンであるかどうかを判定する。血液中を流れるガン遺伝子断片の数は希少で、また、その種類は膨大で、検知に高度な技術を要す。シークエンシングではIlluminaのDeep Sequencingが、ガン判定のプロセスではDeep Learningの手法が使われる。
ベンチャーキャピタル
GrailはIlluminaからスピオンオフし独立企業として運営している。ベンチャーキャピタルから注目され、大規模な投資を受けている。また、Bill GatesやJeff Bezosが出資していることでも話題となっている。今年Grailは香港に拠点を置くベンチャーキャピタルから大規模な投資を受け、この資金を元にアジアでの事業展開を進めている。Grailは香港で今年から、咽頭ガン(nasopharyngeal cancer)検知の医療サービスを始める。
大規模な臨床試験
これに先立ち、Grailは開発した技術を検証するために、大規模な臨床試験を実施した。臨床試験の目的は、大規模データを使いAIアルゴリズムを教育することと、教育したアルゴリズムが正しくガンを判定できることを確認することにある。実際に、血液サンプルからガン遺伝子の組織を検出し、高精度でガンをスクリーニングできるかを検証した。
ガンのシグナル
Grailは15,000人の被験者を対象に臨床試験を実施した。このうち70%がガン患者で、被験者から血液サンプルを採取し、cfDNAの手法でDNA断片を解析する(後述)。DNA断片の特徴を抽出し、ガンであるシグナルを把握する。同時に、ガンでないシグナルも把握する。これがガンを特定するデータベースとなり、製品開発の基礎技術となる。
臨床試験の結果
臨床試験では19種類のガンについて検知精度(Sensitivity)が測定された。検知精度は特異性(Specificity)が98%のポイントで測定された。この中で肺ガンについて、前期ステージのガンを51%の精度で検知できた。これは業界トップレベルの検知精度で、Liquid Biopsyの実用化が視界に入ってきた。一方、製品として提供するには、更に精度を向上させる必要があり、今後も開発は続く。

出典: Sysmex |
解析手法
Grailはcell-free DNA (cfDNA) と呼ばれる手法を使っている。これは血液中のがん細胞遺伝子(ctDNA、circulating tumor DNA、上の写真、赤色のらせん構造)を検知することでガンを特定する手法である。ctDNAはガン細胞から血管中にリリースされたDNAで、これを検出してガン発症をつかむ。膨大な数のDNA断片の中から数少ないctDNAを検出するために大規模データをDeep Learningの技法で解析する。
Deep Sequencing
血液サンプルはDeep Sequencingと呼ばれる高度なシークエンシング技術で処理される。シークエンサーはIlluminaのNGS (Next-Generation Sequencing、下の写真) が使われる。シークエンシングされたデータの量は膨大でこれをAIで解析する。Grailは大規模データを取り扱うIT企業でもある。

出典: Illumina |
事業開始時期
膨大な数のcfDNAからガン細胞から排出されたctDNAを検出するため、Deep Sequencingの手法でシークエンシングする。このため検査コストは高く一回の検査で1万ドル近くかかる。このためGrailは保険会社などと交渉し、スクリーニング試験に保険を適用することを計画している。Grailは2018年から香港で事業を開始するが、米国での事業時期は明らかにしていない。
ガンによる病死を激減させる
GrailはLiquid Biopsy研究でトップを走っている。Grailの特徴は血液検査で異なる種類のガンを検知でき、初期ステージのガンの検知精度が高いこと。市場に出ているLiquid Biopsyは特定のガン(大腸がん等)に特化し、後期ステージのガンの検知で使われる。Grailは初期ステージのガン検知を目指し、スクリーニング技術を一般に幅広く普及させ、ガンによる病死を激減させることを目標としている。