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Microsoftはコロナ終息後の勤務形態をハイブリッドと予想する、多くの企業はこれに対応できないと警告

米国でワクチン接種が進み、多くの企業がオフィスを再開し、社員が職場に戻りつつある。Microsoftはリモートワークの実態を調査し、コロナ終息後の勤務形態について提言した。これによると、企業も社員もハイブリッド勤務を望んでおり、これが標準勤務形態となるとの見通しを示した。同時に、会社幹部と社員の間でリモートワークに関する認識のギャップが大きく、これがハイブリッド勤務の最大の課題になると警告した。

出典: VentureClef

リモートワーク評価レポート

Microsoftは2021年3月、勤務実態の動向を分析した報告書「The Next Great Disruption Is Hybrid Work – Are We Ready?」を公開した。コロナの感染拡大で企業がリモートワークに移行したが、3万人を対象に、コラボレーションツール(Microsoft 365やLinkedIn)のデータを元に、遠隔勤務の実態について分析した。更に、コロナ終息後の勤務体形について提言を行った。

報告書の要旨

このレポートによると、オフィスが再開されると勤務形態はハイブリッドになり、これが標準形態として定着する。ハイブリッド勤務になると、社員は勤務時間が柔軟になり、居住地の制約がなくなる。その一方で、社員やチームが孤立し、仕事における人的ネットワークを構築することが難しくなる。特に、若い社員はリモートワークに上手く対応できてなく、今年は転職者の数が激増するとしている。会社はこの環境の変化に迅速に対処する必要があり、人事管理の手法が劇的に変わる。

会社も社員もハイブリッド勤務を好む

調査した社員の73%がハイブリッド勤務を希望しており、また、企業の66%がこの形態に移行すると答えている。社員も企業もハイブリッドを好み、コロナ終息後はこの方式が定着すると予想する。ハイブリッド勤務となると、企業はオフィス環境を整備する必要があると考える。従来のオフィスは仕事の効率を追求した構造となっているが、これからは社員が快適に過ごせるスペースとしてデザインする必要がある。

管理職は社員の苦労を理解していない

社員は1年近くリモートワークを続け、仕事の重圧や孤立感を感じている。また、遠隔勤務に必要なネットワーク環境が整っていない社員も少なくない。更に、社員の多くが、仕事が順調に進んでいないとプレッシャーを感じている(下のグラフ)。特に、独身社員の67%が、また新入社員の64%が、仕事が順調ではないと答え、若い世代でこの傾向が顕著に表れている。これに対し、幹部社員の61%は、リモートワークはうまくいき、仕事の効率があがっていると評価している。また、多くの幹部社員は在宅勤務の社員は会社に多くを求めすぎると思っている。幹部社員は在宅勤務社員の困窮の状況を正しく認識していない実態が明らかになった。

出典: Microsoft

仕事の効率が上がっているのは社員の残業による

幹部社員はリモートワークで仕事の効率が上がっていると評価するが、これは社員の”残業”によるものであるとの実態が明らかになった。多くの社員はリモートワークで生産性が同じか、または、向上したと答えている。同時に、出社勤務に比べて仕事時間が増えたと答えている。これを裏付けるデータとして、Microsoftはコラボレーションツールのデータ量を公開した(下のグラフ)。これによると、都市のロックダウンで仕事が在宅勤務になると、出社勤務に比べ、会議の時間が148%増加し(グラフ上段)、チャット件数が45%増加した(グラフ下段)。リモートワークで仕事の量が増えていることがデータで示された。このため、社員の54%が過労であると感じており、生産性が上がった理由は社員の仕事時間の増加によることが明らかとなった。

出典: Microsoft

人のネットワークがしぼむ

リモートワークのもう一つの問題点は、社員やグループが孤立し、人的ネットワークが縮小したことにある(下のグラフ、社員同士のつながりの強さを示したもの)。遠隔勤務ではコラボレーションツールを使って仕事をするが、同じ部門内ではコミュニケーションの量が増え、メンバー同士のつながりが強くなった(緑色のグラフ)。しかし、部門を超えたコミュニケーションは低下し、人のネットワークが縮小した(青色のグラフ)。これにより、部門間の協調性が低下し、生産性やイノベーションの創出に影響が出る。しかし、ハイブリッド勤務に移行すると社員が出社する機会が増え、部門間のコミュニケーションが増え、再び人的ネットワークが広がると期待している。

出典: Microsoft

企業がなすべきこと

Microsoftはハイブリッド勤務では企業のカルチャーが重要になると指摘する。職場は仕事をするためのスペースだけでなく、社員が交流するための場となる。このため、オフィス空間は社員が快適に過ごせるようリモデルする。また、社員同士の交流を促進するプログラムの導入が必要となる。リモートワークでの孤立感を職場で解消することに加え、社員にとって会社が魅力的な環境となるよう企業カルチャーを育むことが求められる。

ポストコロナの勤務形態

実際に、シリコンバレーの企業は在宅勤務で無人となったオフィスのリモデルを進めている。あちこちで工事が行われ、ポストコロナのオフィス勤務に備えている。また、スタートアップを中心に社員の交流イベントが実施されてきたが、ハイブリッド勤務ではこれがより重要となる。夏を過ぎるとオフィスを再開する企業が多く、社員は今までとは全く異なる環境で仕事をすることになる。

Googleは今週からオフィスを再開、社員はリモートワークを終了しハイブリッド勤務となる

Googleは4月1日からオフィスを再開し、一部の社員はリモートワークを終え、会社に戻り始めた。9月1日からは全社員がハイブリッド勤務となり、週三日オフィスに出勤する勤務体系となる。社員はワクチン接種が求められ、また、オフィスはリモデルされ、安全を担保しての勤務となる。Facebookは無期限で在宅勤務を続けるが、Googleは人間同士のつながりを重視し、出社勤務が基本パターンとなる。

出典: VentureClef

オフィスを再開

Googleはコロナの感染拡大とともにいち早く勤務形態をリモートワークとしたが、コロナの終息が視野に入る中、他社に先駆けて4月1日にオフィスを再開した。希望する社員はオフィスに出社して勤務できる。オフィスはリモデリングされ、感染防止対策が取られた。また、社員はワクチン接種が求められ、安全を考慮したうえでのオフィス勤務となる。

コロナ後の勤務形態

9月1日からは、新しい勤務体系となり、全ての社員はハイブリッドで仕事をする。週三日が出勤日で、社員は改装されたオフィスに出社して、従来のように対面で仕事をする。これが基本形態で、年間14日を超えて在宅勤務を希望する社員は要望書を会社に提出する。認可されれば在宅勤務を継続できるが、必要に応じて、出社を求めることがあるとしている。コロナ終息後は、Googleはハイブリッド勤務で事業を進めることが明らかになった。(下の写真、建設中の本社ビルで今年中にオープンする予定。また、Googleは本社周辺のオフィスビルの買収を進めている。リモートワークで余った物件を買い進めオフィススペースを拡大中。)

勤務地と給与

ハイブリッド勤務になると居住地についての制限はないが、Googleは社員が住んでいる地域の物価に合わせて給与を調整するとしている。郊外の物価が安い街に住むと生活費の負担が減るが、それに合わせて給与が下がることになる。このため、Googleは多くの社員がシリコンバレーに戻ってくるとみている。まだ在宅勤務が続いているが、シリコンバレーを離れ地方都市で暮らしている社員は少なくない。

出典: VentureClef

出社勤務に戻す理由

Google最高経営責任者Sundar Pichaiは、当初から、リモートワークにおける仕事の効率や生産性について疑問視していた。リモートワークではチームワークの形成が難しく、特に、新製品開発でイノベーションが求められるが、遠隔ではやりにくい。また、在宅勤務では製品情報など社内の機密情報が外部に流出する危険性も含んでいる。このため、Googleは社員を会社勤務に戻すが、柔軟な勤務方式も維持し、週2日は在宅勤務を認める。

社員の勤務形態に関する嗜好

社員はリモートワークに魅力を感じるとともに、在宅勤務では仕事の限界を感じ、オンラインでのコミュニケーションでストレスが蓄積している。完全在宅勤務を選択する社員の割合は少なく、柔軟なワークスタイルを維持できるハイブリッド勤務を求めている。

Facebookなど

一方、FacebookやTwitterなどはコロナが終息しても、無期限で在宅勤務を続けるとしている。希望する社員はオフィス勤務に戻ることができるが、リモートワークが勤務体系の基本パターンとなる。また、社員は居住地を自由に選ぶことができ、環境がいい郊外に引っ越しできる。Facebookの狙いは人事採用にあり、リモートワークに移行することで、北米で幅広く優秀な人材を雇い入れることを目論んでいる。

シリコンバレーから人が流出

このように、社員が居住地を自由に選べるようになり、シリコンバレーから人が流出している。UC BerkeleyとUCLAの研究組織California Policy Labによると、2020年はサンフランシスコから流出する人の数が前年と比べ30%増加した。一方、人口流入はコロナ以前と同じレベルで、結果として、2020年は流出人口が増えた年となった。(下のマップ、2020年第四四半期の人口流出の割合を示している。赤色の部分が人口流出が多い地域。)。

出典: California Policy Lab

ポストコロナの勤務形態

米国はコロナの感染者数が世界最悪のレベルにあるが、バイデン政権になり感染者数が急速に減少し、ワクチン接種が急ピッチで進んでいる。このペースで行くと夏までに国民の大部分がワクチン接種を完了すると予想されている。コロナ終息が視野に入る中、IT企業はオフィスを再開し始めた。多くの企業がハイブリッド勤務を選んでおり、ポストコロナの勤務形態が見えてきた。ただ、ハイブリッド勤務は今までに経験したことのないワークスタイルで、これから各社は試行錯誤しながら最適なモデルを生み出すことになる。

顔認識AIでプライバシーが崩壊‼我々の顔写真が全米の警察で使われている

新興企業「Clearview」は高精度の顔認識AI(下の写真)を開発し、全米の警察で犯罪捜査に利用されている。Clearviewはソーシャルメディアに公開されている顔写真をダウンロードしてこのシステムを開発した。写真の数は30億枚を超え、世界最大規模の顔写真データセットとなる。これに対し、市民団体は、個人の顔写真を許可無く使用することは違法であるとして、Clearviewに対し集団訴訟を起こした。

出典: Clearview

情勢はClearviewに有利

これから審理が始まるが、情勢はClearviewに有利で、米国には、イリノイ州を除いて、顔写真をダウンロードすることを禁止する法令は無い。このため、裁判所は公開されている顔写真を使うことは違法ではないとの判決を下すと予想される。顔認識AIは我々の顔写真を使っていることは間違いなく、この行為は違法ではなく、顔写真は個人情報として保護されないことになる。

Clearviewとは

Clearviewはニューヨークに拠点を置くAI新興企業で、高精度な顔認識技術を開発した。創設者のHoan Ton-That(下の写真)はベトナムで生まれ、オーストラリアで育ち、アメリカで起業した。Clearviewの開発手法はユニークで、FacebookやTwitterやYouTubeに投稿された顔写真と属性(名前など)をダウンロード(Scraping)して顔写真のデータセットを構築した。このデータセットをAIの教育や顔認識アプリの実行で使っている。Clearviewの顔認識アプリは主に警察で使われている。警察は容疑者の写真を撮影し、それを顔認識アプリに入力し、容疑者の身元を割り出す。

出典: CNN

Clearviewの評価

データセットに格納された写真の数は30億枚を超え、ClearviewのAIが容疑者の身元を特定する精度は極めて高く、全米の警察から高く評価されている。今年1月、トランプ前大統領の支持者がアメリカ連邦議会に乱入した事件で、FBIや各地の警察は前例のない規模で事件の解明を進めている。その際に乱入者の身元を割り出すことがカギとなるが、ここでClearviewの技術が使われ、350人を超える容疑者の逮捕に繋がった。(下の写真、検索結果の事例)

出典: Clearview

Clearviewの問題

一方、ClearviewのAI開発手法に対し、個人のプライバシーを侵害しているとの懸念が高まっている。顔認識AIを開発するには大量のデータが必要であるが、Clearviewはネット上の顔写真をスクレイピングしてデータセットを構築した。我々の顔写真と名前がFacebookなどからダウンロードされており、個人のプライバシーの重大な侵害であるとして、社会から批判を受けている。

集団訴訟が始まる

ソーシャルメディアに掲載されている顔写真をサイト管理者や写真本人の了解を得ないでダウンロードすることは違法かどうかの議論が始まった。各地の市民団体はClearviewに対して集団訴訟を起こした。カリフォルニア州では、個人のプライバシーを保護する法令があり、州の住人は10件の集団訴訟を起こしている。この法令は、住民は個人情報が利用されることを制限できると定めており、Clearviewに顔写真を使うことを停止するよう求めている。

Clearviewの主張

これに対し、Clearviewは、企業が公共のデータにアクセスする権利は、アメリカ合衆国憲法修正第1条(First Amendment)で保障されていると主張する。修正第1条は「表現の自由」や「報道の自由」を定めており、公開されている情報を収集する権利は保障されていると反論する。事実、Googleはサイトに公開されているテキストや写真をスクレイピングしており、Clearviewも同じ手法を取っている。

出典: Clearview

スクレイピングを禁止する法令は無い

米国では個人や企業がサイトに掲載されている情報をスクレイピングすることを禁止する法令は無い。一方、システムをハッキングすることを禁止する法令「Computer Fraud and Abuse Act」は1986年に制定された。これは個人や企業がシステムに許可なくアクセスすることを禁止するもので、システムに危害を与えることを防ぐ目的で設立された。

LinkedInの判例

LinkedInはサイトに掲載されている情報に新興企業がアクセスし、これをスクレイピングされるという被害を受けた。このため、LinkedInは上述の法令を根拠に、新興企業を提訴した。しかし、巡回裁判所(9th Circuit Court、日本の控訴裁判所に相当)は、スクレイピングは違法ではないとの判決を下しLinkedInは敗訴した。

パンドラの箱

スクレイピングの法解釈はグレーな部分が多く、また、インターネット企業のビジネスに直結するため、企業はあえて議論を避けてきた。しかし、Clearviewは法廷でこの問題を明確にする戦略を取り、これから各地の裁判所で審理が進み、スクレイピングについての判決が下されることになる。今の情勢では、この訴訟は最高裁判所まで進み、ここでスクレイピングに関する法解釈が決まるとみられている。

Googleのスクレイピング

Googleは検索クローラが世界のサイトからテキストや写真をスクレイピングしている。顔写真や氏名や電話番号などが取得され、個人情報の巨大なデータベースが運用されている。検索エンジンは巨大な顔認識システムでもあり、著名人の顔写真を入力すると氏名を検索できる(下の写真)。Googleはスクレイピングが認められるが、Clearviewにはこれが認められていないとして、Clearviewは法廷で争う姿勢を示している。

出典: Google

Microsoftの対応

このような中、Microsoftはプライバシー問題から、顔認識AIを教育するためのデータセットを消去した。Microsoftは著名人の顔写真100 万枚を収集しデータセット「Microsoft Celeb」を構築し、顔認識AIの教育で利用していた。Microsoft はデータセットに収集されている顔写真について、本人の同意を得ていないとして全てのデータを消去し、公開サイト「MS Celeb38」を閉鎖した。顔写真のプライバシーに関する解釈が分かれる中、Microsoftは独自のルールを定め倫理的な方針を取った。

政府の規制が求められる

MicrosoftなどIT企業は、顔認識技術の危険性と有益性について認識しており、早くから政府による規制を求めてきた。Microsoft 社長のBrad Smith は連邦政府議会に対し、AI による顔認識技術を規制することを求めた。同様に、ClearviewのHoan Ton-Thatも連邦議会に対し、顔認識AIの運用に関する規制を制定するよう求めている。顔認識技術は誤用すると危険なツールとなるが、正しく使うと社会に大きな恩恵をもたらすとして、許容できる利用法と禁止すべき利用法を明確にすることを求めている。

10年後アメリカ国民は毎年140万円支給される、AIが労働力を担い稼いだ利益を社会に還元

AIは社会で労働力を担い富を生み出すが、それがGoogleなどAI企業に集約される。これにより、アメリカ社会で富の偏在化が加速し、抜本的な対策が求められている。高度なAIを開発するOpenAIの創業者であるSam Altmanは、この問題を解決するためには新たな仕組みが必要であるとし、AIが得た利益を国民に還元する構想を提唱した。10年後のアメリカ社会でこれを実施し、国民は一人当たり毎年13,500ドル(訳140万円)の給付金を受ける。

出典: OpenAI

10年後のAIの機能

この構想の前提条件となるのが10年後のAIの機能で、人間に代わり労働を担えるまでに成長すると予測する。AIは5年後には人間のような読解力を持ち、文章を読んで意味を理解する。また、医学の知識を蓄え、人間の医師に代わり診断を下す。更に、10年後には、ロボティックス技術が進化し、人間に代わり製造ラインで作業する。その後は、分野を特定することなく、AIは人間に代わり科学や技術の研究開発に従事する。

AI革命

Sam Altmanはこれを「AI革命(AI Revolution)」と呼んでいる。歴史を振り返ると、人間が農業を始めた「農業革命」から機械化による「工業革命」に続く。更に、計算機の登場による「コンピュータ革命」となり、これから「AI革命」が始まる。AIが人間のような思考能力や理解力や判断能力を備え、仕事に従事し、膨大な富を生み出す。AIが生み出す富は、国民が最低限の生活をするに十分な額となり、社会構造が大きく変わる(下の写真)。10年後にはこのポイントに到達し、国民は生活費を支給され、労働に縛られない自由な生活ができる。労働から解放され趣味に打ち込むことができる。また、自分の嗜好に沿った仕事を選択でき、そこで能力を開花させることもできる。

出典: Sam Altman

ムーアの法則

AltmanはAIにより社会の全ての領域でムーアの法則(Moore’s Law)が適用されると予測する。これを「Moore’s Law for Everything」と呼んでいる。ムーアの法則とはコンピュータの技術進化を一般化したもので、半導体チップのゲートの数は2年ごとに2倍になるという経験則に基づく将来予測。これは半導体素子や加工技術の進化によるもので、コンピュータや家電の単価は毎年低下する。

AIとムーアの法則

一方、アメリカでは医療費や大学授業料が異常に高く、深刻な社会問題となっている。特に、医療費の値上がりは顕著で、対GDP比は先進国の中で最も高い値となっている。AIの進化でこれらの価格がムーアの法則に従って下がると予測する。例えば、医師に代わりAIが病気を診断し治療することで医療費が値下がりする。大学ではAIが教師に代わり、学生の習熟度を把握して最適な授業をする。AIが医師や教師を置き換えることで、医療費や大学授業料もムーアの法則に従って単価が下がる社会が到来する。

American Equity Fund

これらAIが得た収入はAIを活用する企業に集約される。AltmanはAIが労働力となる社会では今とは異なる課税体系が必要だと主張する。現在は労働で得た利益に課税されるが、AIが労働力となる社会では、企業の時価総額(発行株式の価値)と企業が所有する不動産(土地の部分)に課税する。この方式を「American Equity Fund」と呼び、AI企業が生み出した富の一部を基金とし、それを国民に分配する。American Equity Fundは“AI税”とも解釈でき、AI企業の利益を国民に還元するメカニズムとなる。

試算すると

Altmanは具体的な税率を示しており、企業の時価総額と不動産資産(土地の部分だけ)の2.5%を基金に納入する。時価総額のケースでは株を、また、不動産資産のケースでは現金で納税する。現在、米国企業全体の時価総額は50兆ドルで、土地価格は30兆ドルで、10年後にはこれが2倍になると予測される。米国の成人人口は2億5000万人で、一人当たり毎年13,500ドルの支給を受ける計算となる。

ベーシックインカム

この背後にはベーシックインカム (Universal Basic Income)の考え方がある。ベーシックインカムとは、社会保障の一種であるが、従来の失業保険などとは異なり、全ての国民に一律にお金を支給する制度を指す。受取のための条件はなく、毎月一定額の金額が支給される。受け取ったお金の使途の制限も無く、受給者が自由に使うことができる。ベーシックインカムの構想は50年前から議論されてきたが、AIによる失業問題が拡大する中、再び注目されている。

出典: New Atlas

オークランドでの実証試験

実際に、Altmanはシリコンバレーでベーシックインカムの実証試験を展開することを発表した。サンフランシスコ対岸のオークランドにおいて、100家族に毎月1000ドルから2000ドルの現金を支給する。支給期間は6か月から1年の間で、受給者は受け取ったお金を自由に使うことができる。まだプロジェクトはスタートしていないが、政府機関でなくAI企業創業者が実施することで話題となっている。

ストックトンでの実験結果

シリコンバレー郊外のストックトン(下の写真)は、2019年から二年に渡り、ベーシックインカムの実証実験を展開し、先月、その実験成果を公表した。これによると、市民は毎月500ドルを受け取り、それを自由に使うことができ、その結果、受給者の就業率が向上し、健康状態も改善された。また、ベーシックインカムの使途は生活必需品(食料品や衣料品など)で、たばこやアルコールを購入したケースは殆ど無かった。ベーシックインカムの有効性については賛否両論があり、反対者は給付金で労働意欲が無くなり、生活が怠惰になると主張する。しかし、ストックトンのケースはこれと反対の結果となり、給付金で就労率が上がり生産性が向上した。

出典: City of Stockton

利益を再分配するメカニズム

これから、間違いなく、人の仕事はAIやロボットに奪われ、大失業時代が到来する。オフィスワークなど事務部門だけでなく、医療や教育など専門性の高い部門でも起こり、自動化による失業が世界規模で発生する。レイオフで企業は高い利益を生み出すが、利益を再分配するメカニズムが無ければ、収入の格差が今以上に増大する。ひいては、社会や経済が不安定になり、平和な世界が脅かされる。

ハイパー富裕層と貧困層

このため、AltmanだけでなくElon Muskなど業界著名人はベーシックインカムが必須となるのは自明であると主張する。ベーシックインカムの必要性については理解が広がっているが、そのための巨大な財源が常に議論となってきた。2020年の大統領選挙ではAndrew Yangがベーシックインカムを公約に掲げ、アメリカ国内でその認知度が一気に高まった。米国でハイパー富裕層が巨大な富を構築する中で、貧困層の割合が増え、階層間で緊迫状態が続いている。公平な社会の仕組みを構築することが今まで以上に求められている。

デジタルアートが70億円で落札される!! ブロックチェインで芸術作品が高値で売れる

オークションハウスのクリスティーズ(Christie’s)でデジタルアートが6934万ドル(約70億円)で落札された。作品はコンピュータで制作され、デジタルファイルとして売られた。誰でも複製できるファイルに高値が付いた。ファイルには証明書「Non-Fungible Token(NFT)」が添付され、これがアートの所有権を示す。なぜ複製可能なデジタルアートに高値が付くのか、米国社会は騒然としている。

出典: EVERYDAYS: THE FIRST 5000 DAYS, 2021 by Beeple

デジタルアート

この作品は「Everydays: The First 5000 Days」というタイトルで、Mike Winkelmann(筆名はBeeple)が制作した(上の写真)。Beepleは米国のアーティストで、2007年からデジタルアートの制作を続け、毎日作品を発表してきた。ちょうど5000作目が完成し、これを纏めて一枚のファイルにしたのが「The First 5000 Days」となる。作品の中の小さなマス目が単独のデジタルアートで、ファイルを拡大するとヒトやモノや自然や宇宙が空想的に描かれていることが分かる。

オークション

クリスティーズでこのデジタルアートは昨日6934万ドルで落札された。作品は解像度21,069 x 21,069 ピクセル (319,168,313 バイト)のJPEGファイルとして販売された。この作品には証明書がNFTのフォーマットで付加される(下の写真)。落札者はこのJPEGファイルとNFTを受け取ることになる。

出典: Christie’s  

Non-Fungible Tokeとは

Non-Fungible Token(NFT)とは暗号通貨の一種で、特定のモノを代表する機能を持つ。具体的には、NTFはブロックチェインで構成されるトークンで、デジタルアートなどの所有権を示す証文となる。NFTはブロックチェイン「Ethereum」の上に構成され、分散データベースとして安全に管理される。また、NFTはEthereumの「Smart Contracts」を使っている。Smart Contractsとはインテリジェントな契約機能で、人間の介在無しにアプリが事前に設定されたルール(契約)に基づき、売買のトランザクションを実行する。これにより、デジタルアートの取引をソフトウェアで定義し、クラウド上で実行できる。

Fungibleとは

ちなみに、Fungibleとはコモディティの特性で等価に交換できるものを指す。例えばビットコインがこれに相当し、1ビットコインは別の1ビットコインと等価に交換できる。一方、Non-Fungibleとは等価に交換できないコモディティの特性を指す。この代表がデジタルアートの証明書で、上述のトークンは「The First 500 Days」には有効であるが、他の作品には使えない。

なぜデジタルアートが高値で売れるのか

簡単に複製できるデジタルアートがなぜ高値で売れるのか、ネットで議論が沸騰している。「The First 5000 Days」のオリジナルファイルはサイトに公開されており、それをダウンロードして閲覧できる。(先頭の写真はこのサイトからダウンロードしたもの)。アート所有者と同じように、同品質の作品を見ることができる。一方、所有者はこの作品を別のオークションにかけ転売して利益を得ることができる。その際に、NTFでアートの所有者であることを証明する。

デジタルアートが投資の対象

絵画や彫刻などの芸術作品は今までも投資の対象となり、資産家や団体が所蔵している。同時に、これらの写真がネット上に公開され、我々はPCやスマホで見ることができる。このケースでは、アート所有者は写真撮影者ではなく、購買者であることは明瞭。しかし、ここにデジタルネイティブのアートが登場し、オリジナルの複製が多数ネット上に存在している。

著作権保護はできない

その権利の所在を明らかにする技術としてNTFが使われ、簡単に複製されてもその所有者が明確になった。つまり、インターネットは著作権保護の技術開発に失敗し、ここにNFTが登場し、所有権が明確になった。アートや音楽の複製を止めることはできないが、NFTが権利の所在者を証明する。これにより、NTFがデジタルアセットの新しいクラスとなり、ネット上で資産を形成することが可能となる。このNTFという新たな資産に対し投資が始まった。

デジタルアートの価値

しかし、デジタルアートが市場の常識を超え、高値で評価されている。Beepleは上述の作品の他に、「CROSSROAD #1/1」という作品(下の写真)を発表し、これが660万ドルで落札された。これはGIF形式の動画で、裸のトランプ氏の体に落書きされ、そこにTwitterが舞い降りる構成になっている。大統領選挙でトランプ氏がバイデン氏に敗戦したことを残酷に表現している。

出典: CROSSROAD #1/1 by Beeple

デジタルアート売買サイト

デジタルアートは投資の対象となり、その所有権が高値で売買される。今ではデジタルアートを売買するサイトが数多く登場し、「Crossroad」は「MakersSpace」というサイトで販売された。サイトには数多くのデジタルアートが掲載され、オークション形式で作品が販売される。デジタルアートの所有権を高値で購入するのは、転売して利益をあげることにあるが、オリジナルを持つことの満足感も大きな要因となっている。

著名人がデジタルアート制作

Elon MuskのガールフレンドであるGrimes(本名Claire Elise Boucher)はミュージシャンとして有名であるが、デジタルアートを制作し、多くの作品を発表している。その代表が「WarNymph」で(下の写真)、オークションサイト「Nifty Gateway」で販売された。WarNymphはデジタルアートのコレクションで、売上高は累計で580万ドルとされる。Nymphとはギリシャ神話に登場する女神で、悪霊から山や森を守る。WarNymphは女神が戦争から火星を守るモチーフが描かれている。

出典: Grimes

デジタルカード

この流れはデジタルアートだけでなくデジタルカードに広がり、これらがNFTで取引されている。男子プロバスケットボールリーグNBAはデジタルなトレーディングカードの販売を開始した。これはプロバスケットボールのトレカで「NBA Top Shots」と呼ばれ、愛好家の間で収集され交換される。カードは短いビデオ形式で、選手のファインプレーが録画されている。一番人気はLeBron Jamesの「Dunk」で、ダイナミックなダンクが動画で再生され、25万ドルで販売された(下の写真)。因みにNBA Top Shotsは「Flow」というブロックチェインで構成され、専用のアプリでデジタルカードが売買され、ここがNBAの大きな収入源になっている。

出典: NBA Top Shots

バブルかニューエコノミーか

アートやスポーツの他に、音楽や写真やアニメやツイートも販売の対象となる。Twitter創業者Jack Dorseyは同氏の最初のツイート(下の写真)をNFTで競売にかけ250万ドルの値が付いている。

出典: Jack Dorsey @ Twitter  

希少価値のあるデジタルアセットはNFTで取引される対象となっている。常識を超える高値で取引されるが、NFTが次のビットコインになるとの解釈もある。ビットコインが登場した当時は6万ドルの値が付くとはだれも想像していなかった。ビットコインバブルが続いているが、NFTもこの足跡を辿るのか、エコノミストや投資家が注目している。