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Elon MuskはTwitterを440億ドルで買収、問題が山積している企業を破格の金額で取得した理由

Elon Muskは、10月27日、「the bird is freed(鳥は自由になった)」とツイートし、Twitterの買収が完了したことを示した。今年4月、買収契約を締結したが、後に、Muskはこれを撤回した。Twitterが提訴し調停が進められ、合意の通り440億ドルで買収することで決着した。Twitterの技術開発は停滞し、2020年からは事業が赤字に転落した。Muskは問題が山積している企業を破格の価格で買収した。Twitterに何を期待し、どのようなビジネスを生み出すのか、Muskの目論見について議論が広まっている。

出典: Elon Musk@Twitter

買収のポイント

MuskはTwitterを買収した理由を、コンテンツ規制を緩和し、誰もが自由に発言できる場を提供するため、と述べている。Twitterはトランプ前大統領のアカウントを閉鎖したが、Muskは基準を緩和し、アカウントを復活させるのかが最大の関心事となっている。一方、Twitterの収入の9割は広告で、コンテンツの規制を緩和すると、ヘイトスピーチなど危険な記事が増え、企業は広告の掲載を差し控え、収入の減少につながる。自由な発言と広告収入は反比例の関係にあり、両者のバランスをどうするのか、Muskの手腕が注目されている。

会社訪問

買収完了の発表に先立ち、MuskはサンフランシスコのTwitter本社を訪問した。その際に、洗面台を抱えてロビーに入り、ツイートで「let that sink in!」と述べている(先頭の写真)。買収完了と共に、MuskはCEOやCFOなど会社幹部を即日解雇した。また、社員の75%がレイオフされるとの報道もあり、社内に動揺が広がっている。この情勢の中で、Muskはカフェテリアでコーヒーを飲みながら、社員と対話する場を設けた(下の写真)。洗面台(sink)は、混乱を収拾し(sink in)、新しい会社を生み出すための第一歩という意図を表している。

出典: Elon Musk@Twitter

市場の声

MuskのTwitter買収に関し、市場は一斉に反応し、利用者から賞賛のツイートが数多く発せられた。これらは保守主義を信奉する活動家や政治家で、Muskがコンテンツ規制を緩和し、閉鎖されたアカウントを復活させるよう求めている。また、トランプ前大統領支持者で、アリゾナ州知事候補者のKari Lakeは、Twitterの本社をアリゾナ州に移転するようツイートした(下の写真)。右派系の活動家は、MuskがTwitterを買収したことで、自由に発言できるようになると期待している。

出典: Kari Lake@Twitter

複雑な政治情勢

米国政府は、来月の中間選挙を控え、ソーシャルメディア企業に対し、公正な選挙を妨害する投稿を抑制するよう求めている。Twitterも例外ではなく、有権者を混乱させる偽情報やフェイクニュースの検知と、それら記事の削除を実施している。2016年の大統領選挙の混乱を教訓に、ソーシャルメディア各社が偽情報対策を強化している中、Muskはコンテンツ規制を緩和する方向に進むことが予想され、選挙活動が再び混乱するとの懸念が広がっている。

Twitter買収の理由

これに対しMuskは、レターをツイートで公開し(下の写真)、Twitterを買収した理由などを説明した。Muskは、Twitterは人類が繁栄するために開かれた広場(Digital Town Square)となり、異なる信条の人々が、健全に意見を交わす場所と説明している。現在は、右派と左派が衝突し、社会の分断を生む原因となっている。この激しい対立で、Twitterの利用者が増え、広告収入が増える構造であるとの見解を示している。

出典: Elon Musk@Twitter 

広告主へのメッセージ

コンテンツの規制がなくなると、ヘイトスピーチや差別発言が掲載され、企業が広告を掲載できる環境ではなくなる。このため、コンテンツ規制を廃止するわけでは無く、節度ある運営を実施し、利用者に最適な広告を配信できるプラットフォームにする。Muskはフリースピーチを約束するとともに、企業広告を呼び込むという、難しいかじ取りを進めることになる。

コンテンツ規制ポリシー

Muskはコンテンツ管理についてツイートし、規制の基準については、「コンテンツ評価委員会(Content Moderation Council)」を設立し、ここで多角的な視点から評価するとしている(下の写真)。この委員会が発足するまでは、閉鎖されたアカウントを復活させることはないと述べ、社会の動揺を和らげている。トランプ前大統領など著名人のアカウントの復活については、この委員会の決定にゆだねられる。

出典: Elon Musk@Twitter 

Twitter再生の戦略

MuskはTwitter社員の75%をレイオフすると報道されている。この数字は確定したものではないが、Muskは多くの社員を解雇し、会社経営を軽量化する計画である。Twitterを新会社として再生するために、Muskはどんな手法を取るのか、巷で議論が広がっている。その一つがプロセスの自動化で、高度なAIを導入し、社員に代わりアルゴリズムが処理を実行する。また、コンテンツの規制では、ツイートの中で規定に反する記事を、人間に代わりAIが検知する。Muskが運営するTeslaは世界のトップクラスのAI研究者や開発者が集い、このリソースをTwitterに活用するとも噂されている。(下の写真、サンフランシスコのTwitter本社ビル)

出典: VentureClef 

衝動買いか

米国のメディアはMuskのTwitter買収を「衝動買い(Impulsive Buy)」と揶揄している。4月に買収契約書に調印したが、その後、これを中止すると発表し、Twitter側が裁判所に提訴していた。最終的には、契約書の内容でTwitterの買収が完了し、Twitter経営者が問題を抱えている企業を高値でMuskに「売りつけた」形となった。TwitterとMuskの戦いで、経営者側が勝利した。一方、Muskが買収に応じたのは、Twitterの事業展開に大きな将来性を描いているとの解釈もあり、事業形態が一変する可能性を含んでいる。技術進化が停滞していたTwitterが大きく生まれ変わるとの期待が広がっている。

トランプ新大統領はシリコンバレーの追い風となる、ハイテク企業経営者の新政権評価に変化の兆し

シリコンバレーの企業経営者はトランプ氏の発言に強い抵抗感を示し、その考え方を批判してきた。しかし、トランプ氏が政策を示し始めると、シリコンバレートップの態度が変わってきた。選挙戦での過激な発言とは異なり、トランプ氏はテクノロジーの重要性を認識し、これを経済政策に活用する動きを示している。一方、ハイテク企業社員はこの動きに敏感に反応し、会社トップがトランプ氏にすり寄っていると嫌悪感を表している。

出典: Chance Miller

トランプ氏に警戒感を示してきた

トランプ次期大統領は選挙期間中、シリコンバレーのハイテク企業を批判してきた。FBI捜査に協力しないAppleの姿勢を問題視し、トランプ氏は国民にApple製品を購買しないよう呼び掛けた。また、Amazon CEOのJeff Bezosに対して、Amazonは独占禁止法に抵触する可能性があると警告した。これは同氏が経営するWashington Postがトランプ氏に批判的な記事を掲載するための対抗措置とされる。シリコンバレーの経営者はトランプ氏の発言は民主主義への挑戦と受け止め、危機感を募らせてきた。

シリコンバレー経営者の姿勢が変わった

しかし、トランプ氏が政権移行の過程で政策概要を示し始めるにつれ、シリコンバレーの企業経営者たちの姿勢が変わってきた。トランプ氏が打ち出す政策はIT企業にとって不合理ではなく、むしろ事業拡大のチャンスとなりそうだ。シリコンバレーの経営者たちは新政権に危機感を抱いていたが、それが期待に変わり始めた。

サミットミーティングが切っ掛け

その切っ掛けはシリコンバレートップとのサミットミーティングであった。Trump Towerに米国を代表する経営者が招かれ、トランプ氏との意見交換の場が設けられた (上の写真)。会議の内容は非公開であるが、その一端が漏れてきた。トランプ氏はテクノロジーに耳を傾け、興味を示したとも伝えられる。また、トランプ氏に批判的だった経営者が招かれ、反対者からも意見を聞くというトランプ氏の寛容な態度も評価されている。更に、政権移行チームも胸襟を開き幅広く意見を求めており、オープンな姿勢が好感を呼んでいる。

規制緩和が進むか

企業経営者たちがトランプ氏に期待しているのは税制改定や規制緩和である。トランプ氏は規制緩和に向け大きく舵を切ることを表明している。金融やエネルギー産業を対象とすると述べており、関連企業の株価が上昇している。ハイテク産業については言及していないが、トランプ新政権はシリコンバレーと関わりの深いFDA (連邦食品医薬品局) やFAA (連邦航空局) の規制緩和に動くといわれている。

出典: VentureClef

新薬認可のプロセスを緩和

FDAはHHS (米国保健福祉省) の組織で食品や医療に関する行政を司る。FDAは国民の健康を守るため強い指導力を発揮することでも有名。FDAは新薬の認可で厳しいルールを設けているが、トランプ新政権はこれを緩和するとの見方が広がっている。医薬品企業にとっては承認プロセスが緩和されると事業を進めやすくなる。

遺伝子解析事業が大きく前進するか

FDAの規制緩和はシリコンバレーのベンチャー企業に大きな影響を及ぼす。Google配下の23andMe (上の写真) は個人向け遺伝子解析事業を進めてきたが、FDAの命令で事業停止に追い込まれた。23andMeは収集した遺伝子をAIで解析することで、遺伝子変異と病気の関係を紐づける技術を開発している。遺伝子データから知見を引き出す技術が新薬開発に大きき寄与すると期待されている。トランプ新政権になると遺伝子解析事業が大きく前進する可能性を秘めている。

ドローン飛行に関する厳格なルール

FAAはDOT (米国運輸省) の機関で民間航空機の運航を管轄する。航空機の管制業務やドローン運行ルールの設定などが主な任務となる。FAAはドローン飛行に関して厳格なルールを打ち出し、個人所有のドローンが航空機や住民に危害を与えないよう定めている。同時に、企業がドローンを商用飛行するためにも厳しい条件が定められている。

出典: Amazon

米国内でドローン産業を育成

このため、ドローン開発企業は米国を離れて試験飛行を展開することが多い。Amazonはドローン配送システムPrime Airを開発しているが、米国を離れ英国で配送試験を進めている (上の写真、Cambridgeshire (英国) での実証実験)。Googleは高速で飛行するドローンProject Wingの開発をオーストラリアで展開していた。トランプ氏はFAAの規制を緩和して米国でドローン産業を育てる意向を示している。ただ、FAAは厳しい規制を保持する姿勢を示しており、トランプ新政権との衝突は不可避だ。ドローン規制がどこまで緩和されるのか見通せないなか、産業界からはトランプ氏の指導力に期待が集まっている。

新政権が自動運転車運行ルールを策定

DOTは米国内の運輸を管轄する機関で自動運転車の運行ルールはここで制定される。DOT長官にはElaine Chao氏が就任したが、自動運転車についての運行指針は示されていない。オバマ政権で自動運転車に関する運行指針の策定を進めてきたが、トランプ新政権がこれを受け継ぐこととなる。

トランプ氏は次世代交通網に関心を示す

トランプ氏自身も自動運転車についてはポジションを示していないが、新政権の意向を反映した規制をゼロから策定することとなる。トランプ氏のアドバイザーにUber CEOのTravis KalanickとTesla及びSpaceX CEOのElon Muskが任命された。これはトランプ氏が次世代交通網に強い関心を示していることを示唆している。新政権のもとでライドシェアや自動運転車の規制緩和が進み、技術開発が加速する環境が整うのか関心が集まっている。

(下の写真はSelf-Driving Uber。Uberはカリフォルニア州政府からサンフランシスコでの試験営業の停止命令を受けた。トランプ政権になると再び試験営業できるのか、それともカリフォルニア州は立場を変えないのか、せめぎ合いが続く。)

出典: Uber

インフラ整備に1兆ドル投資

トランプ氏はインフラを整備するために1兆ドルの投資を実施するとしている。道路整備を中心に交通ネットワークを近代化する。インフラ整備にはスマートシティや自動運転車も含まれるとみられる。既に、スマートグリッドなどネットワーク企業の株価が上昇している。インフラ整備には情報通信技術は必須でハイテク企業との関連が注目される。DOTはスマートシティ構築でGoogleや主要都市と連携し都市の近代化を進めている。

支出と予算のバランスが議会で審議される

一方、トランプ氏は就任100日以内に議会にインフラ整備の法案を提出するとしていたが、ここにきてトーンダウンしている。連邦議会が招集されたがオバマケア (医療保険制度改革法) 撤廃に向けた決議案や税制改正法案が先に審議されることとなる。インフラ整備に関しては1兆ドルの支出と予算のバランスが議会で審議されることになり紆余曲折が予想される。

諮問委員会から幅広く意見を聞く

トランプ氏は業界著名人から構成される諮問委員会「Strategic and Policy Forum」を設立した。トランプ氏は経済政策立案のため委員会から幅広く意見を聞く。委員会は18名で構成され会長は大手投資会社Blackstone CEOのSchwarzman。諮問委員会に上述のKalanickとMuskが加わった。次世代交通、自動運転技術、再生可能エネルギー、宇宙開発などについて助言するものと思われる。この他に、IT企業からはIBM CEOのGinni Romettyがメンバーに加わっている。

既成勢力を破壊するという共通点

シリコンバレーはクリントン氏を支持し、トランプ氏の信条や政策とは相いれないものがあった。しかし、トランプ新政権の輪郭が見え始めると両者の共通点も明らかになってきた。トランプ氏や主要閣僚の多くは政治家ではなく、いわゆる部外者である。門外漢がワシントンに新しい風を送り、政治を変えようとしている。シリコンバレーがディスラプターとして既成産業を破壊しているように、トランプ氏がワシントンの古い政治を破壊し、新しい価値を生み出すとの期待が高まる。創造的破壊がシリコンバレーとトランプ氏を結ぶ共通項となる。

シリコンバレーのエンジニアは失望

この一方で、シリコンバレーのエンジニアからは企業経営者はトランプ新大統領に投降したと失望の声が聞かれる。選挙期間中にトランプ氏を激しく非難しておきながら、サミットミーティングではトランプ氏に論戦を挑むものはいなかった。トップの変節ぶりに多くのエンジニアは失望している。同時に、新政権の下で企業は事業を拡大できるチャンスであることも社員たちは理解している。現実と理想の祖語に苦悶しているのがシリコンバレーの今の空気かもしれない。

最悪の事態は回避されそう

トランプ氏に対する根強い不信感があるものの、シリコンバレーは選挙直後の深い失望感から回復しつつある。トランプ新大統領の誕生でイノベーションが途絶えると危惧されたが、最悪の事態は回避されそうだ。むしろ、トランプ大統領がシリコンバレーの追い風となる勢いだ。米国企業だけでなく、日本企業にとっても新政権誕生はプラスに作用する流れとなってきた。ただ、トランプ新政権が発足し経済政策が示されるまでは予断は許されない。トランプ氏が打ち出す変化の激しい政策に臨機応変に対応することが求められる。

Trump大統領誕生で試練の時を迎えるシリコンバレー、次期政権はAIと失業対策で重い課題を背負う

Trump大統領の誕生で重大な影響を受けるのはシリコンバレーであることは間違いない。Trump氏は製造業を米国に呼び戻すと宣言したが、ハイテク産業については敵対的な見解を示している。シリコンバレーでは人々が将来について不安を抱いている。そもそもなぜTrump氏が勝利したのかという議論も始まっている。強いアメリカを掲げるTrump氏は (下の写真)、シリコンバレーとどう向き合うのか、歴史的な変革の時を迎えようとしている。

出典: Donald J. Trump for President, Inc.

選挙結果は予想外の展開

大統領選挙はClinton候補がTrump候補に大きく差をつけて勝利すると思われていた。New York Timesは80%の確率でClinton候補が勝利すると予想していた (下のグラフ、左端のポイント)。しかし、開票が始まるとTrump候補の善戦が目立ってきた。スイングステートで両者の接戦が続いた。均衡が破れたのはTrump候補がフロリダ州を制したときで、両者の情勢が逆転した (下のグラフ、グラフが交差している点、米国太平洋標準時19時ころ)。

CNNはこの事態を予測していなかった

開票が進むにつれ、スイングステートだけでなく、民主党の地盤であるペンシルベニア州、ウイスコンシン州で敗戦し、ミシガン州もTrump候補が優勢となった。Trump候補の勝利が濃厚となった。CNNで開票速報を見ていたが、キャスターはClinton候補が逆転すると繰り返し、事態の重大性を把握するまでに時間を要した。深夜にClinton候補の敗北宣言でTrump候補の勝利が確定した。

出典: New York Times

将来に対する恐怖心

Clinton候補を支援してきたシリコンバレーで落胆が広がっている。著名インキュベーターY Combinator社長のSam Altmanは、ツイッターで「今夜は悲しくて失望した」と述べている。また、「(この結果が) 怖くもある」とも述べている。このツイートがシリコンバレーのメンタリティを端的に表している。Clinton候補が破れて悲しい気持ちより、これから社会がどう変わるのか、人々は大きな不安を抱いている。

Appleは社員の結束を呼び掛ける

Appleも例ではなく、社員は会社の将来に大きな不安を抱いている。Trump氏は選挙戦でAppleという名前を挙げて、FBI捜査へ協力しない態度や海外での製造を批判してきた。このため、CEOのTime Cookは社員に対し異例のメモを送り結束を呼び掛けた。メモの中でCookはApple社員に、ともに進み続けようと述べている。このメモが象徴しているように、シリコンバレーの企業はTrump氏がどんな政策を打ち出すのか見通せず、不安定な状態に置かれている。社員は、自分は仕事を続けることができるのか、答えが見つからない状態が続く。

従来の世論調査が機能しなかった

メディアの予想に反して、なぜTrump候補が勝ったのか検証が始まっている。投票前の世論調査ではClinton候補がTrump候補を3.2ポイントリードしていた (下のグラフ、RealClearPoliticsによる集計)。しかし、最終結果はClinton候補は0.2ポイントのリードに留まり、調査結果と投票結果が大きく食い違った。Trump氏という異色の候補者の登場で、従来手法がうまく機能しなかったとの解釈もある。また、Trump候補を推す人はそれをはっきり表明しない傾向にある。”隠れTrump支持者”で、過激な発言をする候補者への支持を表明するのをためらう有権者が少なくなかった。

出典: RealClearPolitics

Trump候補優位を把握していた大学

しかし、USC (University of Southern California、南カリフォルニア大学) で開発された統計手法は、Trump候補が優勢であったことを把握していた。このサイトによると、選挙当日はTrump氏が3.2ポイントの差で勝つと予想した (下のグラフ右端のポイント、Los Angeles Timesが掲載)。選挙戦では両者のポジションが頻繁に入れ替わったが、討論会以降は一貫してTrump氏がClinton氏をリードしてきた。投票日直前に、FBIがClinton氏のEメールの捜査を再開したと発表し、Trump氏が一気にリードを広げた。これが決定打となり、Clinton候補は最終盤で劣勢に立たされ、投票日を迎えた。

出典: University of Southern California

カリフォルニア州独立運動

投票日の翌日は、Trump新大統領に反対の意思を示すため、全米各地で抗議集会が開かれた。#NotMyPresidentというツイッターのハッシュタグで集会が企画され、New YorkやLos Angelesで大規模な抗議集会が続いている。シリコンバレーではSan Franciscoで開かれ、Oaklandでは暴動が起こり住民は不安な夜を送った。Trump氏当選で、カリフォルニア州独立運動 (下の写真) が勢いを増している。イギリスがEUから脱退したように、この運動は「Calexit (キャレクジット)」と呼ばれている。カリフォルニア州がスコットランドの立場となり、Trump大統領の米国から独立を目指す。

出典: YesCalifornia.org

シリコンバレーにもTrump支持者がいる

一方、シリコンバレーでTrump候補を支援してきた人物もいる。PayPal共同創設者であるPeter Theilはシリコンバレーの著名なベンチャーキャピタリストである。ThielはFacebookやPalantirなどへの投資で成功し、26億ドルの資産があるとされる。ThielはTrump候補に寄付金を拠出し、同氏の主張を論理的に代弁してきた。Theilは共和党党大会に招かれ独自の見解を展開した。

シリコンバレーの責任

Thielによると、シリコンバレーは米国社会からかい離している。シリコンバレーでイノベーションが生まれビジネスが興隆している。しかし、成功は個人の資産を増やすだけで、米国市民の生活が豊かになっているわけではない。世帯当たりの収入は長い間低迷し、反対に、米国の医療費は世界で一番高い。学生は奨学金で巨額なローンを抱え、就職しても返済に追われている。シリコンバレーは社会の現状を理解し、企業としての責任を果たすべきと主張する。

サイレントマジョリティー

大統領選挙結果はシリコンバレーが米国社会からかい離していることを物語っている。シリコンバレーだけでなくメディアも含め、米国のエスタブリッシュメントは市民の心情を読み誤った。これだけ多くの市民が今の政治に大きな不満を抱いているとは予想外であった。Obama政権はリーマンショックから立ち直ったと主張するが、恩恵を受けているのはエスタブリッシュメントで、ブルーカラーとの差が開いた。Clinton候補の敗北は行き過ぎた格差社会に起因するといっても過言ではない。投票結果は声を上げない一般市民の意見が反映されている。

これからの四年間はAIに起因する失業対策

大統領に当選したTrump氏は一般市民の声に応えることが責務となる。米国に製造業を呼び戻し、雇用を増やし賃金を上げると約束している。一方、製造業を含む全産業がAIやロボットによる自動化で激変している。これからの四年間はAIや自動運転車を含むロボティックスに起因する失業問題が続出し、メキシコではなくテクノロジーが職を奪うことになる。失業対策が大統領の大きな使命となる。これと並行して、Trump政権のシリコンバレーへのポジションも定まり、AIを含むイノベーションを生み続けることができるのかが決まる。

(下の写真は近所の投票所。投票は大統領選挙の他に、連邦政府の上院・下院議員、及び、州政府の上院・下院議員を選ぶ。各地域での住民投票も併せて実施される。この結果、カリフォルニア州では大麻の使用が認められた。投票用紙はリーガルサイズで6ページ分に及び、40項目について意思を表明する。このため、事前に模擬投票用紙にマークしておき、投票所ではこれを転写する。)

出典: VentureClef

再びチェンジ

Changeを掲げて当選したObama大統領であるが、共和党が多数を占める議会との関係が崩れ、政治が停滞し改革が進まない。個人所得が思うように上がらない上に、オバマケアーの保険料が年々上昇する。Trump氏は「Make America Great Again」と唱え、再びチェンジをキーワードに当選した。Trump氏は政治経験はなく実業家で、ホワイトハウスにビジネスの手法を持ち込むことになる。新しい視点から政治が進むことに期待したい。