月別アーカイブ: 2016年11月

トランプ大統領誕生でベーシックインカムの議論が盛り上がる、AIによる大失業時代には必須の政策か

Trump氏の勝利は行き過ぎた格差社会に不満を抱えている労働者層からの支持によるところが大きい。Trump新大統領は格差を是正することを掲げ、米国に雇用を呼び戻し賃金を上げると約束した (下の写真)。選挙結果を受けシリコンバレーではUniversal Basic Income (最低所得保障) の議論がクローズアップされている。低所得者層に現金を支給し、行き過ぎた格差を是正する試みが始まった。

出典: Donald J. Trump for President, Inc.

Universal Basic Incomeとは

AIやロボティックの進化で多くの人が職を失うことが懸念される。失業者対策の一つとしてUniversal Basic Income (以降ベーシックインカムと記載) が議論されてきた。ベーシックインカムとは社会保障の一種で、市民は定期的に一定額の給付金を政府や公共機関から受ける制度を指す。市民は受け取るお金で最低限の生活を送ることができる。

ベーシックインカムの争点を纏めると

ベーシックインカムの基本コンセプトは貧困層だけでなく国民全員に補助金を支給することにある。これを導入することで、福利厚生施策を廃止してベーシックインカムに一本化する。住宅補助、食糧支援、高齢者医療などの施策の代わりに、ベーシックインカムを運用する。これにより政府組織がシンプルになり、福利厚生政策の運用コストが下がるという利点がある。

一方、ベーシックインカム導入には大規模な財源が必要でこれが最大の障壁となる。更に、国民に生活費を支給すると勤労意欲が失われるという懸念が根強くある。ただ近年は、AIに起因する失業対策としてベーシックインカムの必要性が注目を集めている。Trump新大統領の誕生で社会格差の深刻さが認識され、ベーシックインカムの議論が一気に活発になった。

AI研究者がベーシックインカムの必要性を訴える

AI研究を牽引する著名人がベーシックインカムの必要性を訴えている。Baidu研究所所長Andrew Ngは大統領選挙の翌日、ベーシックインカムの必要性をブログに投稿した (下の写真)。Ngは「選挙結果は不公平感による不満を反映している」と述べ、「住民の底辺を支えるためにベーシックインカムが必要」と主張。併せて「すべての人が(社会の階段を)上るために教育も必要」と述べている。大統領選挙で露呈した格差問題を解決する施策の一つとしてベーシックインカムに注目している。

出典: Andrew Ng @ Twitter

既に実証実験が進んでいる

高度なAI技術を生み出すシリコンバレーで、既にベーシックインカムの実証実験が進んでいる。著名インキュベータY Combinator社長Sam Altmanは2016年5月、ベーシックインカムの試験運用を始めると発表した (下の写真)。San Francisco対岸のOaklandでトライアルが始まった。この地区で100家族を選び、毎月1000ドルから2000ドル程度の現金を支給する。期間は6か月から1年の間で、受給者は受け取ったお金を自由に使うことができる。

Oaklandは経済格差が顕著な場所

Oaklandは富裕者層と貧困層の間で経済格差が顕著な都市である。同時に、Oaklandはハイテク企業の流入で地域住民との関係が悪化している。これはGentrification (都市部の高級化) と呼ばれ、裕福なハイテク企業社員が街に入り物価や住居費が高騰し、住民が郊外に転出せざるを得ない問題が発生している。Y Combinatorはこれら住民にベーシックインカムを提供することで問題を緩和できるのか検証を進めている。この実証実験が上手くいけば、本格的なプログラムに移行するとしている。

出典: Y Combinator  

なぜ民間企業が社会保障施策を手掛けるのか

ベーシックインカムの実証実験はカナダやフィンランドなどで実施され、Oaklandのプロジェクトが初めてというわけではない。しかし、ベーシックインカムという社会保障政策を民間企業が手掛けている点に特徴がある。なぜ民間企業が担うのかという疑問に対しては、Y Combinatorは明確な回答は示していない。ベーシックインカムは現在施行されている失業保険などのセーフティネットの代わりとなると述べるにとどまっている。

AI開発企業の新しい責務となるのか

技術進化により職が失われていくと、多くの人が収入を失い生活に行き詰る。その原因を生み出した企業は社会的な責務を果たすべきという見方が生まれてきた。その一つの手段としてベーシックインカムに注目が集まっている。今までもITによる自動化で多くの職がコンピュータに置き換えられた。しかしAIによる自動化は今までと比べ物にならないほど社会に与える影響が大きい。Y Combinatorの実証実験は、AIやロボットや自動運転車を開発する企業は社会貢献のあり方を見直すべきとのメッセージを含んでいる。

Elon Muskはベーシックインカムの必要性を認める

シリコンバレーの著名人はベーシックインカムに関し、将来を見据えた考え方を示している。Tesla創業者Elon MuskはCNBC放送のインタビューで、ベーシックインカムは必要になるとの見解を示した (下の写真)。Teslaは完全自動運転車の開発を目指している。また、Tesla製造工場はロボットによる自動化が進んでいる。これにより職業ドライバーや工場労働者は自動運転車やロボットに置き換えられ職を失う可能性が高くなる。

出典: CNBC  

社会格差が進むと平和な社会が脅かされる

この流れは自動車産業だけでなく他の産業でも起こり、自動化による失業が世界規模で発生する。人員削減で企業は高い利益を生み出すことができるが、利益を再分配するメカニズムが無ければ、収入の格差が今以上に増大する。ひいては、社会や経済が不安定になり、平和な世界が脅かされる危険性を含む。Muskは自社で技術開発を進めるだけでなく、会社としての社会的責任を負う必要があるとを認めている。

仕事をしないと人は存在価値を見失う

ベーシックインカムを導入すると最低限の生活が保障され安定した生活ができる。人々は働かなくても一定の生活が約束される。しかし、働かなくても生活ができれば、人はその存在意義を問われることになる。人は生活を支えるためには嫌な仕事でもこなすが、同時に、仕事を通して自分の価値を証明し、存在意義を確認している。仕事をしなくても生活できれば、自分の価値を見失うという問題が生じる。

人間のクリエイティビティを解き放つ

その一方、いやな仕事から解放されると人間は創造性を発揮するという考え方もある。ベーシックインカムで最低限の生活ができると、人々は興味を持っていることを自由に探究できる。絵を描くのが好きな人は時間に拘束されないで、この道を探求できる。プログラミングが好きな人は自由にハッキングできる。ベーシックインカムが導入されていない現在でも、創造性は個人の自由な活動から生まれることが見受けられる。人間のように振る舞う高度な自動運転アルゴリズム (Comma.ai) は天才青年 (George Hotz) の趣味が高じて生まれた。

近未来のすがた:ロボットが生産し人が消費する社会へ

Singularity (AIが人類を凌駕するポイント) の到来を主張するRay Kurzweil (現在はGoogle研究員) も同様な考え方を示しているが、AI大量失業時代の次はAIが人類を養う時代が来ると予測する。AIやロボットによる自動技術の進化で、全人類の生活を支えるだけの生産ができ、人は働く必要はなくなる。そうなると人々は働かなくなるのではなく、「仕事」を続けると主張。「仕事」とは誰かに命じられてこなすタスクではなく、自分が取り組みたいことを指す。つまり、生きがいを感じない労働から解放されることを意味する。

人類の創造性の爆発が起こる

いつの時代も人間は働くことに喜びを感じる。そして地球規模で人々が「仕事」をすると、人類の創造性の爆発が起こるとも予言する。高度AI社会では地球規模で創造性が開花し、新しい文明が生まれる。このバラ色の予測に対し反対意見も少なくないが、ベーシックインカムは常にAIの進化と対で議論される。

国民的な議論が広がる兆し

翻ってTrump新大統領とともに上院と下院で勝利した共和党はベーシックインカムの考え方と親和性が高い。Obama政権が運営してきた社会保障制度に一貫して反対の意思を示し、共和党は小さな政府に引き戻すと繰り返し主張している。 (下のグラフは食糧支援を受けている人の数の推移でObama政権で急増していると主張。社会保障制度が肥大化していることを意味する。) Trump新政権の四年間はAIやロボティックス技術が劇的に向上し、大量失業時代に突入することが懸念される。実証実験を含む検証作業などを通し、ベーシックインカムの国民的な議論が広がる兆しを感じる。

出典: Donald J. Trump for President, Inc.  

Trump大統領誕生で試練の時を迎えるシリコンバレー、次期政権はAIと失業対策で重い課題を背負う

Trump大統領の誕生で重大な影響を受けるのはシリコンバレーであることは間違いない。Trump氏は製造業を米国に呼び戻すと宣言したが、ハイテク産業については敵対的な見解を示している。シリコンバレーでは人々が将来について不安を抱いている。そもそもなぜTrump氏が勝利したのかという議論も始まっている。強いアメリカを掲げるTrump氏は (下の写真)、シリコンバレーとどう向き合うのか、歴史的な変革の時を迎えようとしている。

出典: Donald J. Trump for President, Inc.

選挙結果は予想外の展開

大統領選挙はClinton候補がTrump候補に大きく差をつけて勝利すると思われていた。New York Timesは80%の確率でClinton候補が勝利すると予想していた (下のグラフ、左端のポイント)。しかし、開票が始まるとTrump候補の善戦が目立ってきた。スイングステートで両者の接戦が続いた。均衡が破れたのはTrump候補がフロリダ州を制したときで、両者の情勢が逆転した (下のグラフ、グラフが交差している点、米国太平洋標準時19時ころ)。

CNNはこの事態を予測していなかった

開票が進むにつれ、スイングステートだけでなく、民主党の地盤であるペンシルベニア州、ウイスコンシン州で敗戦し、ミシガン州もTrump候補が優勢となった。Trump候補の勝利が濃厚となった。CNNで開票速報を見ていたが、キャスターはClinton候補が逆転すると繰り返し、事態の重大性を把握するまでに時間を要した。深夜にClinton候補の敗北宣言でTrump候補の勝利が確定した。

出典: New York Times

将来に対する恐怖心

Clinton候補を支援してきたシリコンバレーで落胆が広がっている。著名インキュベーターY Combinator社長のSam Altmanは、ツイッターで「今夜は悲しくて失望した」と述べている。また、「(この結果が) 怖くもある」とも述べている。このツイートがシリコンバレーのメンタリティを端的に表している。Clinton候補が破れて悲しい気持ちより、これから社会がどう変わるのか、人々は大きな不安を抱いている。

Appleは社員の結束を呼び掛ける

Appleも例ではなく、社員は会社の将来に大きな不安を抱いている。Trump氏は選挙戦でAppleという名前を挙げて、FBI捜査へ協力しない態度や海外での製造を批判してきた。このため、CEOのTime Cookは社員に対し異例のメモを送り結束を呼び掛けた。メモの中でCookはApple社員に、ともに進み続けようと述べている。このメモが象徴しているように、シリコンバレーの企業はTrump氏がどんな政策を打ち出すのか見通せず、不安定な状態に置かれている。社員は、自分は仕事を続けることができるのか、答えが見つからない状態が続く。

従来の世論調査が機能しなかった

メディアの予想に反して、なぜTrump候補が勝ったのか検証が始まっている。投票前の世論調査ではClinton候補がTrump候補を3.2ポイントリードしていた (下のグラフ、RealClearPoliticsによる集計)。しかし、最終結果はClinton候補は0.2ポイントのリードに留まり、調査結果と投票結果が大きく食い違った。Trump氏という異色の候補者の登場で、従来手法がうまく機能しなかったとの解釈もある。また、Trump候補を推す人はそれをはっきり表明しない傾向にある。”隠れTrump支持者”で、過激な発言をする候補者への支持を表明するのをためらう有権者が少なくなかった。

出典: RealClearPolitics

Trump候補優位を把握していた大学

しかし、USC (University of Southern California、南カリフォルニア大学) で開発された統計手法は、Trump候補が優勢であったことを把握していた。このサイトによると、選挙当日はTrump氏が3.2ポイントの差で勝つと予想した (下のグラフ右端のポイント、Los Angeles Timesが掲載)。選挙戦では両者のポジションが頻繁に入れ替わったが、討論会以降は一貫してTrump氏がClinton氏をリードしてきた。投票日直前に、FBIがClinton氏のEメールの捜査を再開したと発表し、Trump氏が一気にリードを広げた。これが決定打となり、Clinton候補は最終盤で劣勢に立たされ、投票日を迎えた。

出典: University of Southern California

カリフォルニア州独立運動

投票日の翌日は、Trump新大統領に反対の意思を示すため、全米各地で抗議集会が開かれた。#NotMyPresidentというツイッターのハッシュタグで集会が企画され、New YorkやLos Angelesで大規模な抗議集会が続いている。シリコンバレーではSan Franciscoで開かれ、Oaklandでは暴動が起こり住民は不安な夜を送った。Trump氏当選で、カリフォルニア州独立運動 (下の写真) が勢いを増している。イギリスがEUから脱退したように、この運動は「Calexit (キャレクジット)」と呼ばれている。カリフォルニア州がスコットランドの立場となり、Trump大統領の米国から独立を目指す。

出典: YesCalifornia.org

シリコンバレーにもTrump支持者がいる

一方、シリコンバレーでTrump候補を支援してきた人物もいる。PayPal共同創設者であるPeter Theilはシリコンバレーの著名なベンチャーキャピタリストである。ThielはFacebookやPalantirなどへの投資で成功し、26億ドルの資産があるとされる。ThielはTrump候補に寄付金を拠出し、同氏の主張を論理的に代弁してきた。Theilは共和党党大会に招かれ独自の見解を展開した。

シリコンバレーの責任

Thielによると、シリコンバレーは米国社会からかい離している。シリコンバレーでイノベーションが生まれビジネスが興隆している。しかし、成功は個人の資産を増やすだけで、米国市民の生活が豊かになっているわけではない。世帯当たりの収入は長い間低迷し、反対に、米国の医療費は世界で一番高い。学生は奨学金で巨額なローンを抱え、就職しても返済に追われている。シリコンバレーは社会の現状を理解し、企業としての責任を果たすべきと主張する。

サイレントマジョリティー

大統領選挙結果はシリコンバレーが米国社会からかい離していることを物語っている。シリコンバレーだけでなくメディアも含め、米国のエスタブリッシュメントは市民の心情を読み誤った。これだけ多くの市民が今の政治に大きな不満を抱いているとは予想外であった。Obama政権はリーマンショックから立ち直ったと主張するが、恩恵を受けているのはエスタブリッシュメントで、ブルーカラーとの差が開いた。Clinton候補の敗北は行き過ぎた格差社会に起因するといっても過言ではない。投票結果は声を上げない一般市民の意見が反映されている。

これからの四年間はAIに起因する失業対策

大統領に当選したTrump氏は一般市民の声に応えることが責務となる。米国に製造業を呼び戻し、雇用を増やし賃金を上げると約束している。一方、製造業を含む全産業がAIやロボットによる自動化で激変している。これからの四年間はAIや自動運転車を含むロボティックスに起因する失業問題が続出し、メキシコではなくテクノロジーが職を奪うことになる。失業対策が大統領の大きな使命となる。これと並行して、Trump政権のシリコンバレーへのポジションも定まり、AIを含むイノベーションを生み続けることができるのかが決まる。

(下の写真は近所の投票所。投票は大統領選挙の他に、連邦政府の上院・下院議員、及び、州政府の上院・下院議員を選ぶ。各地域での住民投票も併せて実施される。この結果、カリフォルニア州では大麻の使用が認められた。投票用紙はリーガルサイズで6ページ分に及び、40項目について意思を表明する。このため、事前に模擬投票用紙にマークしておき、投票所ではこれを転写する。)

出典: VentureClef

再びチェンジ

Changeを掲げて当選したObama大統領であるが、共和党が多数を占める議会との関係が崩れ、政治が停滞し改革が進まない。個人所得が思うように上がらない上に、オバマケアーの保険料が年々上昇する。Trump氏は「Make America Great Again」と唱え、再びチェンジをキーワードに当選した。Trump氏は政治経験はなく実業家で、ホワイトハウスにビジネスの手法を持ち込むことになる。新しい視点から政治が進むことに期待したい。

Googleは人工知能スピーカー「Home」を出荷、スマホの会話型AIが家庭に入ってきた

Googleは人工知能スピーカー「Google Home」の出荷を開始した。会話型AI「Google Assistant」を実装し、言葉で質問すると音声で答える。AssistantはGoogle独自のスマートフォン「Google Pixel」で使われている。Googleは同じアシスタント機能をスマホと家電で展開する。Homeを使うと家の中が一気にインテリジェントになり、AI家電に大きな将来性を感じる。

出典: VentureClef

音声で操作するスピーカー

Googleは2016年11月、AIを搭載したスピーカー「Google Home」 (上の写真) の出荷を開始した。Homeは会話型AI「Google Assistant」を搭載し、音声がインターフェイスとなる。Homeは丸みを帯びた円柱形のデバイスで家庭内に置いて利用する。HomeはAmazonのヒット商品「Amazon Echo」のアイディアを踏襲している。先行しているEchoをHomeが追う展開となっている。

HomeにOk Googleと語り掛ける

Homeの上部はタッチスクリーンで、ここにLEDライトが埋め込まれている。LEDライトは利用者の声に反応して点滅する。LEDライトの様々な動きでHomeの状態を示す。タッチパネルに指で円を描くように動かすと音量を調整できる。背後にはマイクをオンオフするボタンがある。Homeは常に周囲の声を聞いており、ボタンを押すとこれがオフとなる。Homeに話しかけるときは「Ok Google」と言えば、これに続く言葉を認識する。

複雑な質問に答える

Homeは情報検索で威力を発揮する。ここが他社に比べ大きな優位点となる。例えば「what time will the sun rise」と聞くと、「the sun will rise 6:39 AM」と答える。これは簡単な質問だが、複雑なクエリーにも的確に答える。「What was the US population when NASA was established」と尋ねるとHomeは「174.9 million」とズバリ回答する。(下の写真左側はHomeに問いかけた内容で、右側はAssistantが答えた内容。)

出典: VentureClef

幅広い知識を持つ

Homeは幅広い知識を持ち、スポーツの試合結果を回答する。「who won the world series」と聞くと「the world series was won by Chicago Cubs」と答える。翻訳機能もあり、「what’s good morning in Spanish」と聞くと「Buenos días」と答える。健康管理では食事の時に食物のカロリー量を知ることができる。「how many calories in an apple」と聞くと、「there is 95 calories in one medium apple」と答える。

会社の秘書のように働く

HomeはGoogle Calendarとリンクし筆者の予定を把握している。このためHomeに「what’s my next event」と質問すると、次の打ち合わせ予定などを回答する。出張などで飛行機を予約している時は、フライトスケジュールを教えてくれる。「is my flight on time」と質問すると、飛行機が予定通りに出発するかどうかを回答する。Homeは会社の秘書のように働いてくれる。

中心機能はエンターテイメント

Homeの中心機能はエンターテイメントで、音楽やニュースをスピーカーで聞くことができる。Homeに「play music by Lady Gaga」と指示するとレディー・ガガの音楽を再生する。聞きたい音楽の題名を指定する時は「play Poker Face by Lady Gaga」と語り掛けるとポーカーフェイスを流す。ラジオ放送を聞きたいときは「Play KCSM」と放送局を指定する。この他に、CNNなどのニュース放送やNFLなどスポーツ番組もそろっている。

テレビを音声で操作する

Homeを使って圧倒的に便利だと感じるのがテレビを音声で操作する機能だ。HomeはGoogleのストリーミングデバイス「Chromecast」経由でビデオや音楽コンテンツをテレビに配信する。音楽を聴きたいときは「play music by Beyoncé on my TV」と指示すると、Google Play Musicからビヨンセの音楽がテレビで再生される (下の写真)。当然だがテレビのスピーカーで聞く音楽はHomeで聞くより迫力がある。

出典: VentureClef

テレビでビデオをみる

見たい番組を指示すると、HomeはそのコンテンツをYouTubeから探し出し、テレビにストリーミングする。Homeに「play CNN News on my TV」と指示すると、この番組がYouTubeからChromecastを経由してテレビにストリーミングされる (下の写真)。今まではスマホを操作して番組をテレビにストリーミングしていたが、音声操作で格段に便利になった。

まだ複雑な指定はできないが

YouTubeには幅広いコンテンツが揃っていて、人気チャンネル「History Channel」や「National Geographic」などをテレビにストリーミングできる。「trending videos…」と言えばいま人気上昇中のビデオが配信される。但し、見たい番組を細かく指示するのは難しい。例えば、CNBC放送でElon Muskの会見の模様を見るために「play Elon Musk on CNBC on my TV」とHomeに指示するが上手くいかない。まだ、複雑な指定はできないが、これからの機能拡張を期待する。

出典: VentureClef

検索結果をテレビで見る

Homeを使うと検索結果をテレビに表示することができる。例えば「can you show me Hubble Telescope on my TV」と指示すると、ハッブル望遠鏡についてのビデオをテレビに配信する。知りたい情報をテレビで見ることができ、Homeはエンターテイメントだけでなく教育ツールとしても使えそうだ。

Chromecastをテレビにセット

この機能を使うためには、テレビ側にChromecast挿入しておく (下の写真、円形のデバイス)。ChromecastはAndroidやブラウザーからコンテンツをテレビにストリームングするために開発された。Homeはこの仕組みを利用して、音声でChromecastを操作する。

その際、Chromecastに名前を付けておけば (筆者のケースでは「TV」)、Homeに対して「play CNN on TV」と指示するとストリーミングが始まる。Homeの機能は多彩だが、音声でのストリーミング機能は予想外に便利だ。テレビを含む家電のインターフェイスが会話型AIに進化するのは間違いない。

出典: VentureClef

スマートホームのハブ

Homeはスマートホームのハブとなり、電灯や空調などを操作する。Homeをスマートライト「Philips Hue」とリンクすると音声でLEDライトをオンオフできる。例えば「turn on living light」と指示すると、リビングルームの電灯が点灯する。HomeがサポートしているスマートデバイスはPhilips Hueの他に、NestやSmartThingsなどがある。

Homeのエコシステムは拡大中

登場したばかりのHomeで使える第三者サービスの数は限られている。音楽ではSpotifyとPandoraを、ラジオではTuneInを利用できる。配車サービスではHomeでUberを呼ぶことができる。Googleの自社サービスではGoogle Play Music とYouTube Musicを使える。ビデオではYouTubeを使うことができるが、前述の通りChromecastをテレビに接続しておく必要がある。

Amazon Echoの優位点はスキル

Google Home (下の写真左側) とAmazon Echo (同右側) はAIスピーカーとして開発され両者の機能はよく似ている。一方、先行しているEchoは幅広い第三者サービス (Skillと呼ばれる) を備えている。今では2000本近いSkillがあり、病気の診断やスマートホームのハブとして使われている。Echoに指示すれば焼き立てのピザが届く。幅広いタスクを実行できる点でEchoがHomeに差をつけている。

出典: VentureClef

Google Homeの優位点は情報検索

Google Homeは複雑な質問を理解し情報検索できる点が大きな優位点となる。更に、Homeは利用者の個人情報を幅広く把握している。HomeはGoogle CalendarやGoogle Keepと連携し、予定や備忘録を管理する。気の利く秘書のように一日の予定や出張を手助けしてくれる。また、Chromecastとリンクすることで結果をテレビに出力できる。Google Pixelのコア技術であるAssistantを家庭に展開した構造で、Google Homeに大きな将来性を感じる。

Google PixelはApple iPhoneを超えた!スマホがAIで構成される

Googleは独自に開発したスマホ「Pixel」を投入した。ハードウェア機能が格段に向上しただけでなく、AIが利用者とのインターフェイスとなる。PixelはGoogleが運営するMVNO (仮想モバイルネットワーク) で利用できる。Googleモバイル事業はAndroidとハードウェアとネットワークを垂直に統合したモデルに進化した。Pixelを使ってみると先進的な機能に感銘を受け、これが近未来のスマホの姿を示していると実感した。

出典: Google

独自ブランドのスマートフォン

Googleは2016年10月、Googleブランドのスマートフォン「Pixel」 (上の写真) の販売を開始した。手に取ってみるとPixelはiPhoneと見間違うほど似ている。よく見るとPixelの表面にはホームボタンはなく、背後に円形の指紋センサー (Pixel Imprint) が搭載されている。ここに指をあててデバイスをアンロックする。PixelはGoogleがゼロから開発したスマホで、台湾HTCが製造する。AppleのようにGoogleがスマホ全体を開発して製品を販売する。

PixelはAIスマートフォン

Pixelは最新基本ソフト「Android 7.1」を搭載し、そこには会話型AI「Assistant」が組み込まれている。AssistantはApple Siriに相当する機能で、言葉で指示するとコンシェルジュのように応えてくれる。AIがスマホ機能の中心となり、Pixelはソフトウェアと人工知能の交点として位置づけられる。

ハードウェアの完成度が格段に向上

Pixelはハードウェアとしての完成度が格段に向上した。iPhoneのような形状となり、薄くて軽くて快適に使える。Nexusシリーズと比較すると数世代分を一気に成長した感がある。ディスプレはAMOLEDでカメラは12.3MPの解像度とf/2.0の口径を持つ。Pixelカメラは「Software-Defined Camera」と呼ばれ、ソフトウェアが驚くほどきれいな画像を創りだす。Pixelカメラの性能はiPhone 7を超えたと評価されている。

Assistantが会話を通して生活をサポート

PixelはAIスマホとして位置づけられ、Assistantはコンシェルジュのように会話を通して生活をサポートする。Pixelに対し「Ok Google」と語り掛けるとAssistantが立ち上がり、これに続く言葉を認識する。「When does the San Francisco Moma close」と質問すると、「Moma is open now, it closes at 5 pm」と答える。美術館は5時に閉館するのでまだ開いていることが分かる (下の写真左側)。Assistantは声を聞き分ける生体認証機能があり、筆者のPixelに対して他人が「Ok Google」と呼びかけれも反応しない。

出典: VentureClef

Assistantで撮影した写真を探す

Assistantは写真検索で威力を発揮する。「Show me my photos in the rain」と指示すれば、雨の日に撮影した写真を表示する (上の写真中央上段)。「Show me my pictures taken at Google campus」と指示すると、Googoleキャンパスで撮影した写真を表示する (上の写真中央下段)。音声で操作できるのでスマホでサクサク検索できる。Pixelで撮影した写真はオリジナルサイズで写真アルバム「Google Photos」に格納される。ストレージ容量の制限は無く何枚でも格納できる。

Assistantでレストランを予約する

Assistantは情報検索だけでなく指示されたタスクを実行する。レストランを予約する時はAssistantと対話しながら場所や時間などを決めていく。最後に確認画面が表示され、Yesと答えるとレストランアプリ「OpenTable」で予約が完了する。電話で話すように驚くほど簡単にレストランの予約ができる。また、Assistantは一日のスケジュールを管理する。「What’s next on my calendar」と質問するとAssistantは次の予定を回答する。ここでは予約したレストランの概要が示された (上の写真右側)。

Assistantでアプリを操作する

AssistantはPixelアプリを操作できる。つまり、搭載しているアプリを音声で利用できる。Assistantに「Katy Perry on Instagram」と指示すると、インスタグラムのPerryのページを開く (下の写真左側)。また、「Open Snapchat」と指示すると、スナップチャットが起動してメッセージを読むことができる (下の写真中央)。Assistantに「Play music by Beyoncé」と指示すると、音楽アプリ「Google Music」が起動しビヨンセの音楽を再生する (下の写真右側)。Assistantの音声認識精度は高く、言葉でスマホを操作できるのはとても便利だ。

出典: VentureClef

カメラの性能が業界トップ

Pixelの最大の特長はカメラの性能が業界トップであることだ。カメラの性能は「DxOMark」のベンチマーク指標が使われる。これによるとPixelカメラは89ポイントをマークし、Apple iPhone 7の86ポイントを上回った。今までのトップはSamsung Galaxy S7 Edgeなどで88ポイントをマークしているがPixelがこれを追い越した。DxOMarkはカメラ、レンズ、スマホカメラの性能を評価するサイトでDxO Labs.が運営している。同社は光学関連のソフトウェアやデバイスを開発するフランス企業。

イメージング処理ソフトウェアの威力

Pixelカメラの性能がトップとなった理由はイメージング処理ソフトウェアのアルゴリズムにある。カメラはGoogle独自のハイダイナミックレンジイメージング機能「HDR+」を搭載する。この機能によりダイナミックレンジが広がり、明るい箇所から暗い箇所までバランスよく撮影できる。下の写真はその事例で、厳しい逆光のもとGoogle本社ビルを撮影したもの。肉眼では真っ黒に見えたガラス張りのビルが内部まで写っている。同時に、背後の青空とまぶしい雲がちゃんと写っている。HDR+の威力を感じる一枚となった。

出典: VentureClef

HDRとは

HDR (High Dynamic Range) イメージングとは、異なる露出の複数枚の写真を組み合わせて一枚の写真を生成する技術を指す。一般にHDRは被写体に対して三枚の写真を使う。Underexposure (露出アンダー)、Overexposure (露出オーバー)、及びBalanced (適正露出) の三枚の写真を撮影し、ここから最適な部分を抽出し、これをつなぎ合わせて一枚の写真を生成する。

HDR+とは

これに対してPixelのHDR+は同じ露出の写真を多数枚組み合わせて一枚の写真を生成する。Pixelはカメラアプリを開いた時から撮影を始め、シャッターが押されたポイントを撮りたいシーンと理解する。露出を上げないので暗い部分はノイズが乗ることになる。しかし、暗い部分の写真を数多く重ね合わせることで数学的にノイズを減らす。この手法により、重ね合わせがシンプルになり、ゴーストが発生しないという特徴がある。下の写真はまぶしい雲を背景に星条旗が風にたなびいているが、ゴーストは発生していなく細部まで写っている。

出典: VentureClef

Software-Defined Camera

Pixelカメラは特殊なハードウェア機構は備えていない。Googleはコモディティカメラを使いソフトウェアでイメージング技術を向上させるアプローチを取る。これは「Software-Defined Camera」と呼ばれソフトウェアがカメラの性能や特性を決定する。一眼レフカメラは高価なハードウェアで1枚だけ撮影する。これに対しGoogleは安価なカメラで大量の写真を撮影してソフトウェアで最適化する。イメージング技術はAIを含むアルゴリズムが勝敗を決める。

音声で写真撮影

Pixelカメラは音声で写真を撮影できる。これはAssistantの一部で、フロントカメラで自撮りする時は、「Ok Google, take a selfie」と語るとシャッターが下りる。腕を伸ばして難しい姿勢でシャッターを押す必要はない。メインカメラで写真撮影をするときも、「Ok Google, take a picture」と言えばシャッターが下りる。タイマーを使う代わりに音声で集合写真を撮影できる。メインカメラからフロントカメラに切り替えるときは、Pixelを縦に持ち二回ひねる。

指紋センサー

Pixelをアンロックする時には指紋認証を使う。上述の通りPixelにはホームボタンはなく、背後の指紋センサーに指をかざす。片手で操作でき、かつ、スリープ状態から直接アンロックできるのでとても便利。Pixelは指紋認証の認識率が非常に高く、殆どのケースで1~2回程度でアンロックできる。指紋で認証できないときはPINなど従来方式の認証を行う。

Googleが独自のネットワークを運営

Pixelは米国最大のキャリアVerizonが販売している。また、Google独自のネットワーク「Fi Network」を使うこともできる。Fi NetworkはMVNO (仮想モバイルネットワーク) 方式のネットワークで、背後でSprintとT-Mobile USの4G LTEが使われている。Fi Networkを利用する時は専用のSIM Cardを挿入する。PixelはGoogleオリジナルのスマホをGoogleネットワークで運用する構造となっている。

Fi Networkの特徴

Fi Networkは単に通信網を提供するだけでなく、両者のうち電波強度の強いネットワークに自動で接続する。また、LTEやWiFiなど異なるネットワーク間で最適な通信網を選択し、サービスを途切れなく利用できる。屋内では通話やテキストメッセージはWiFi経由で交信する。屋外に出るとGoogleの移動体ネットワークFi Networkに接続される。

ネットワーク間での自動切換え

このためネットワーク間で途切れなくサービスを利用できる。自宅でWiFi経由で電話している時、屋外に出るとネットワークがLTEに切り替わる (下の写真左側)。通話は途切れることなくシームレスにハンドオーバーされる。通話だけでなくデータ通信でも自動でネットワークが切り替わる。自宅のWiFiでGoogleの音楽ストリーミングを聞きながらクルマで屋外に出るとFi Networkに切り替わる (下の写真中央)。

出典: VentureClef

クルマの中でAssistantが大活躍

クルマの中では言葉でAssistantに指示して好みの音楽を聴ける。電話やメッセージもAssistantに言葉で指示して発信する。ナビゲーションもAssistantに言葉で語り掛けて使う。少し大きめの声で語り掛ける必要はあるが、Assistantは運転中に絶大な威力を発揮する。今ではPixelはドライブに必須のインフォテイメントデバイスとなった。

シンプルで良心的な料金体系

Fi Networkの料金体系はシンプルで基本料金とデータ料金の組み合わせで構成される。基本料金は月額20ドルで、ここに通話、テキストなどが含まれる。データ通信は月額10ドル/GBで、例えば2GBで契約すると月額20ドルとなる。制限量まで使っていない場合は、翌月分の料金から差し引かれる、良心的な料金体系となっている。またデータ通信料はグラフで示され (上の写真右側) 使用量を明確に把握できる。(ロックスクリーン左上にFi Networkと表示される、下の写真左側。アイコンは小さめの円形になりホームスクリーンのデザインがすっきりした、下の写真右側。)

出典: VentureClef

Samsungとの関係は微妙

Googleのモバイル事業はAndroidを開発しこれをパートナー企業に提供することで成り立っている。SamsungなどがAndroidを利用してスマホを販売している。このためスマホ事業はSamsungなどに依存しているだけでなく、Googleの収益構造が問われてきた。事業が拡大するのはSamsungでGoogleは大きな収益を上げることが難しい状態が続いている。GoogleがPixelでスマホ事業に乗り出すことで、Appleのような垂直統合型となり、収益構造も改善すると期待される。一方、Android陣営内でGalaxy顧客がPixelに乗り換えることも予想され、Samsungなどパートナー企業との関係が難しくなる。

ソフトウェア+デバイス+ネットワーク

Googleは基本ソフト (Android) とデバイス (Pixel) だけでなく、ネットワーク (Fi Network) を含めた垂直統合システムでモバイル事業を始めた。Appleのようにスマホを販売するだけでなく、それを運用するネットワークも提供する。キャリアが提供するネットワーク単体では技術進化が停滞している。Googleはデバイスとそれをつなぐネットワークを統合することでイノベーションを起こせるとしている。AIスマホを独自のネットワークで結び、Googleはスマホ事業の近未来の姿を示している。