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米国で都市ロックダウン解除の準備が進む、AppleとGoogleは新型コロナウイルス感染者追跡システムを開発

米国で新型コロナウイルスの拡大がピークを越え、都市ロックダウン解除についての議論が始まった。政府関係者は地域ごとに徐々に閉鎖を解除することを提案している。閉鎖解除には、広範囲なウイルス検査と感染者追跡システムを確立することが必須条件となる。

出典: Apple / Google

Contact Tracing

後者は「Contact Tracing」と呼ばれ、感染者とその接触者を追跡し、感染拡大を阻止する仕組みを指す。中国や韓国やシンガポールなどで実施されているが、この仕組みをそのまま米国に適用できない。米国市民は個人情報保護に敏感で、プライバシーを守りながらContact Tracingを運用する必要がある。AppleとGoogleは両社が共同してこの要件に沿ったContact Tracingシステムを開発した。

システムの概要

AppleとGoogleは2020年4月、個人のプライバシーを守りながら濃厚接触を検知する技術を公開した。これは「COVID-19 Contact Tracing」と呼ばれ、スマホのBluetooth Low Energyを使って接触を検知する。Bluetoothは近距離無線通信技術で、スマホは定常的に近傍のスマホとシグナルを交換する仕組みになっている。Contact Tracingはこの仕様を使い、個人を特定することなく濃厚接触を把握し、感染の危険性を通知する。これはiOSとAndroidの基本ソフト機能として提供され、医療機関はこれを使って濃厚接触者を特定するアプリを開発する。

濃厚接触を検知する仕組み

公的な医療機関はContact Tracingのアプリを開発し、住民はこれをスマホにダウンロードして使う。アプリは濃厚接触を検知する機能を持つ(下のグラフィックス、左側)。スマホは常にBluetoothのシグナルを発信しており、近傍にスマホがあると、両者はKey(Rolling Proximity Identifier、識別番号)を交換する。スマホはこのKeyをデバイスに格納し、誰が近くにいたかを記録する。Keyはデバイスを特定する番号であり、個人情報や位置情報は含んでいない。

利用者が病気に感染すると

その後、利用者がウイルスに感染していることが分かると、この情報をアプリに入力する。アプリは利用者の許諾の元、BluetoothのKeyをクラウドのデータベースにアップロードする(下のグラフィックス、右側)。このKeyが感染者を特定する番号となる。(Keyはセキュリティを担保するため頻繁に変わる。このため過去14日間で生成されたすべてのKeyがアップロードされる。)

出典: Apple / Google

濃厚接触を把握する

スマホは定期的にその地域の感染者のKeyをデータベースからダウンロードする。感染者のKeyとデバイスに格納している接触者のKeyを比較する(下のグラフィックス、左側)。接触者のKeyと感染者のKeyが一致すると、利用者は感染者と濃厚接触したことになる。つまり、接触者の中に感染者がいたことが分かる。

警告メッセージを表示

次に、アプリはスマホ利用者に、感染者と濃厚接触した疑いがあるとの警告メッセージを表示し、取るべきアクションを指示する(下のグラフィックス、右側)。一方、政府医療関係者はこの情報を使って感染対策を進める。この際、アプリ利用者やAppleやGoogleは感染者の個人情報を知ることはできない。

出典: Apple / Google

アプリ開発のプラットフォーム

COVID-19 Contact Tracingは感染者を追跡するためのプラットフォームで、実際のアプリは医療機関により開発される。これら医療機関がアプリを使って感染者をトレースする仕組みとなる。この機能は2020年5月にAPIとして提供され、その後、iPhoneとAndroidの基本ソフトに組み込まれ感染者追跡機能として搭載される。

ロックダウン解除の条件

全米の主要都市が閉鎖され社会生活や事業活動が停止しているが、いま閉鎖を解除する方策が議論されている。アメリカ疾病予防管理センター(CDC)長官のRobert Redfieldはロックダウンを解除するためにはアグレッシブな感染経路の追跡が必要であるとの見解を示した。都市閉鎖を解除すると再び感染者が増えるが、それを抑え込むために感染経路を特定する仕組みを制定しておく必要がある。更に、患者増加に対して、感染者を治療する医療施設が揃っていることも条件となる。

濃厚接触者を特定するプロセス

政府医療機関は感染症がアウトブレークした際に、Contact Tracingの手法で、病気感染者に接触した人物を見つけ、必要な対策を実施してきた(下のグラフィックス、CDCのContact Tracingのプロセス、エボラ出血熱のケース)。接触者の状態に応じて隔離や観察の措置を取る。また、接触者が感染している場合は、同じプロセスを繰り返し、感染のエッジに到達するまで作業を進める。Contact Tracingは感染症対策の常套手段でCDCの専門部隊などがこの任務を担っているが、COVID-19 Contact Tracingを使うことでこのプロセスが大幅に効率化されると期待されている。

出典: CDC

中国や韓国の事例

中国・武漢では1800の感染症対策チームが編成され大規模にContact Tracingを実行したとされる。また、韓国、シンガポール、台湾ではスマホを使ったContact Tracingが実施されている。これにより、感染のピークを押さえることができ、成功した事例として評価されている。

個人情報収集とプライバシー

中国で住民は移動する際に掲載されているQRコードをスマホで読み込み位置情報を登録する。韓国では監視カメラ、スマホの位置情報、クレジットカード決済データを使って感染者との接触情報を把握する。香港では政府が感染者の位置情報を公開し周囲の住民に注意を喚起している。これらは濃厚接触者追跡に有効な情報であるが、米国社会はこれらの手法はプライバシーの侵害と解釈し、そのまま適用することは難しい。

国民性の相違

このような緊急事態であるが、米国では個人のプライバシーを保護しながらContact Tracingを進めるという難しいプロセスが要求される。政府機関が国民の個人情報へアクセスすることを最小限に抑え感染症を封じ込めることが求められる。国民性の違いにより感染症対策の手法も異なることになる。

Apple Cardは女性に不利!AIが女性の信用度を低く査定、カード発行銀行は法令違反の疑いで捜査を受ける

Apple Cardはお洒落なデザインのクレジットカードで利用が広がっている。しかし、Apple Cardは女性の信用度を低く査定するという問題が発覚した。クレジットカードはGoldman Sachsが発行しており(下の写真)、同行が開発したAIに問題があるとみられている。AIが性別により評価を変えることは法令に抵触する疑いがあり、司法当局は捜査に乗り出した。

出典: Apple

Apple Cardの問題点

この問題は著名人らがツイートしたことで明らかになった。David Heinemeier Hansson(Ruby on Railsの開発者)はツイートでこの問題を指摘した。 Hansson夫妻はどちらもApple Cardを持っているが、利用限度枠(Credit Limit)が大きく異なる。利用限度枠とはクレジットの上限で、同氏は妻の20倍となっている。税金は夫妻合算で納税申告をしており、財政面では同じ条件であるが、奥様の信用度が低く評価されている。同様に、Steve Wozniak(Apple共同創業者)も奥様に比べ10倍の利用限度枠があるとツイートしている。

信用度の査定

利用限度枠はApple Cardを申し込むときに決定される。カードを申し込むとき、必要事項を記入し、Goldman Sachsがそれらを審査して可否を決定する。その際に、住所氏名、ソーシャルセキュリティー番号(マイナンバー)、年収などを記入し(下の写真左側)、それらはアルゴリズムで解析され、信用度が査定される。申し込みが受け付けられるとカードが発行されるが、その時に利用限度枠が決まる(下の写真右側、筆者のケースでは10,000ドル)。

出典: VentureClef  

司法当局が捜査に乗り出す

有名人が相次いでツイートしたことからApple Cardの問題が社会の関心事となり、ニューヨーク州の金融機関を監督するNew York State Department of Financial Services(DFS)が見解を発表した。ニューヨーク州は与信審査のアルゴリズムが性別や人種などで不公平であることを禁止している。このため、法令に抵触している疑いがあり、DFSはGoldman Sachsの捜査を開始するとしている。因みに、DFSは銀行や保険会社の違法行為を監視する機関で、今までにBitcoinにかかる不正な事業を摘発している。

米国連邦政府の法令

米国では法令「Equal Credit Opportunity Act (ECOA)」により、誰でも公平にローンを受ける権利を保障している。これは1974年に施行されたもので、その当時、女性はローンを申し込んでも断られるケースが多く、男女差別を無くすことを目的に制定された。1976年には、性別だけでなく、人種や国籍や信条などが加わり、今に至っている。ローン審査のアルゴリズムはこの法令に順守することが求められる。

Goldman Sachsの見解

これらの動きに対してGoldman Sachsは見解を表明した。それによると、Goldman Sachsはカード申し込み時に信用審査を実施するが、男性と女性に分けて行うのではなく、男女同じ基準で評価している。申込者の年収やクレジットスコアや負債などをベースに信用度が査定され、利用限度枠が決まる。審査で性別は考慮しないため、女性に不利になることはないと説明している。

出典: Apple

原因は教育データの不足

Goldman Sachsが見解を発表したが、アルゴリズムの構造などには触れておらず、問題の本質は不明のままである。同行からの検証結果を待つしかないが、市場ではアルゴリズム教育に問題があるとの考えが有力である。通常、信用評価アルゴリズムは過去のクレジットカード応募者のデータを使って教育される。データの多くは男性で、女性のデータは少なく、アルゴリズムは女性の信用度を正しく評価できなかったとみられている。

アルゴリズムが女性を識別した?

これとは別の推測もある。Goldman Sachsはアルゴリズムは男性と女性を特定しないで評価したと述べており、教育データは男性と女性に分かれておらず、アルゴリズムは性別を把握できない。しかし、アルゴリズムはデータから、男性と女性を特定する情報を学び、応募者の性別を把握していたとの解釈もある。その結果、過去のデータから、女性の信用度を低く判定した。つまり、開発者の意図とは異なり、アルゴリズムが独自に男女を識別し、男性に有利なデータに基づき、女性の信用度を低く評価したことになる。ただ、これらは推測であり、真相解明はGoldman Sachsの検証結果を待つしかない。

AIの限界

Goldman Sachsは、勿論、意図的に女性の利用限度枠を下げたのではなく、アルゴリズムが開発者の意図とは異なる挙動を示し、このように判定した可能性が高い。多くの金融機関でAIによる信用度審査が実施されているが、そのアルゴリズムはブラックボックスで、人間がそのロジックを理解できないという問題が改めて示された。AI開発ではアルゴリズムの判定メカニズムを可視化する技術の開発が急がれる。

Apple Cardを1か月使ってみた、アップルがデザインするとクレジットカードがこんなにも魅力的になる

Appleは2019年3月、自社ブランドのクレジットカード「Apple Card」を発表し、8月から運用を開始した。早速、Apple Cardを試してみたが、使い易さとお洒落なデザインに感銘を受けた。毎日使っているクレジットカードだが、単に支払いツールとしてとらえているだけで、特別な思い入れはない。しかし、Apple Cardはその常識を破り、インターフェイスが洗練され、カードに親近感を感じる。クレジットカードは無機質なプラスチックからインテリジェントなアプリに進化した。

出典: VentureClef

Apple Cardの概要

Apple CardはiPhoneのおサイフ「Wallet」に登録して利用する(上の写真左側)。既に、クレジットカードなどを登録して使っているが、ここにApple Cardが加わった。Apple Cardにタッチすると初期画面が表示され、ここに買い物のサマリーが示される(上の写真右側)。Apple Cardは物理的なカードも発行しており、これはチタン製のお洒落なカードで「Titanium Apple Card」と呼ばれる。表面は銀色でカード番号などは印字されておらず、安全性を重視したデザインとなっている(下の写真)。手に持つと、プラスチックのカードとは違い、ずっしりと重い。

出典: VentureClef

Apple Payから利用する

Apple Cardはモバイル決済「Apple Pay」で利用するのが基本パターン。Apple Payに対応している店舗やアプリで利用する。使い方は従来と同じで、サイドボタンをダブルクリックし、Face IDなどで認証し、デバイスをリーダにかざす(下の写真)。アプリ内決済では認証が完了すると決済プロセスが起動される。

出典: Apple

Titanium Apple Cardを使う

Apple Payを使えないケースではTitanium Apple Cardを使う。Apple CardはMastercardのネットワークを使い、カードを発行する銀行はGoldman Sachsとなる(下の写真、カード裏面)。Appleブランドのインパクトが強いが、Titanium Apple Cardを使うときはMastercardを取り扱っている店舗となる。通常のカードと同じく、Titanium Apple Cardをリーダーに差し込んで使う。

出典: VentureClef

オンラインショッピングでは

Apple Payを取り扱っていないオンラインショッピングでApple Cardを使うときは手間がかかる。Apple Cardのカード番号を決済サイトに入力する必要があるからだ。カード番号を見るには、Apple Cardを起動して(下の写真左側)、「Card Information」のページを開く。ここに表示されるカード番号、有効期限、PINを参照し、それらをオンラインサイトの決済画面に入力する(下の写真右側)。いつもは、クレジットカードに印字されているこれらの情報を入力するが、Titanium Apple Cardにはカード番号は印字されていないし、セキュリティの観点から、この番号はApple Cardの番号とは異なる構造を取る。Apple Cardの番号は「Card Number」と呼ばれ、オンラインショッピングではこの番号を使う。

出典: VentureClef

購買履歴のサマリー

Apple Cardで買い物をすると、購買履歴は綺麗に整理されて表示される(下の写真左側)。買い物の一覧表が企業ロゴと一緒に示され分かりやすい。買い物の内容を確認する際は各アイテムにタッチすると、店舗名やその場所が画面に示される(下の写真中央)。また、購買アイテムをカテゴリーごとに表示する機能もあり、週ごとに購買金額とそのカテゴリーがグラフで示される(下の写真右側)。カテゴリーは色分けされ、黄色はショッピング、緑色は旅行、青色は交通費、紫色はサービス、赤色は医療などとなる。

出典: VentureClef

キャッシュバック

Apple Cardの魅力は買い物をするとキャッシュバックを受け取れること(下の写真左側)。キャッシュバックは月ごとではなく、買い物をした日に受け取れる(下の写真右側)。キャッシュバックは「Apple Cash」に振り込まれ、送金や買い物で使うことができる。Apple製品を買うと購買金額の3%のキャッシュバックを受ける。また、Apple Payで買い物をすると購買金額の2%を、Titanium Apple Cardで買い物をしたら1%のキャッシュバックを受ける。

出典: VentureClef

Apple Cardの印象

既に、Apple Payで他社のクレジットカードを使っているが、これに比べてApple Cardは圧倒的に温かみのあるデザインで、機能的にも優れている。買い物履歴が分かりやすく表示され、出費を管理しやすい。また、Apple Cardはカテゴリーごとの支払いを反映し、表面が虹色に変化する(下の写真)。今月はショッピング(黄色)や交通(青色)やサービス(紫色)などに支出したことが視覚的に分かる。また、キャッシュバックがApple Cashに溜まっていくのが見え、買い物の特典が実感できる。一方、Apple CardはAppleデバイスでしか使えないので、最近は常にiPhoneを携帯している。いつの間にか、Appleのエコシステムにロックインされた感はぬぐえない。

出典: VentureClef

Appleのフィンテック戦略

Apple CardはApple Payで使うことを前提に設計されている。このため世界のiPhone利用者9億人が潜在顧客となる。Appleはこの巨大なネットワークでフィンテック事業を展開し、Apple Cardのトランザクション量に応じて手数料を徴収する。ブランドもMastercardではなくApple Cardで、カード会社とAppleの位置関係が分かる。これからのクレジットカード事業はデザインや機能性が重要になり、IT企業がそれをけん引する流れが鮮明になってきた。

キャッシュレス市場動向

Facebookは安全な暗号通貨「Libra」を開発しており、政府関係機関の承認を得てこの運用を始める。Amazonは独自のクレジットカードを発行し、オンラインサイトの顧客に提供すると噂されている。GoogleはApple Payに対抗するモバイル決済事業「Google Pay」を展開している。GAFAがペイメント事業で存在感を高めており、金融機関との競合が一段と厳しくなってきた。

AppleがDrive.aiを買収:名門自動運転車ベンチャー挫折の理由は?スタートアップの淘汰が始まる

Appleは2019年6月、自動運転車ベンチャー「Drive.ai」を買収した。地元の新聞San Francisco Chronicleなどが報道した。この買収はAcqui-Hire(採用目的の買収)で、AppleはDrive.aiの有力開発者を雇い入れた。Appleは自動運転車を開発しているが、この買収で開発体制が強化される。Drive.aiはAI研究の第一人者Andrew Ngが指揮を執り、革新的な自動運転技術が登場すると期待されたが、予想に反し目立った成果を出せなかった。

出典: Drive.ai  

Drive.aiとは

Drive.aiはシリコンバレーに拠点を置くベンチャー企業で、社名の通りAIを基軸に自動運転技術を開発していた。Drive.aiはスタンフォード大学AI研究所(Stanford AI Lab)の研究者が創設し、Andrew Ngが会長として指揮を執っていた。Drive.aiはステルスモードでの開発を終え、2018年7月からは、テキサス州で実証実験を開始した。ちなみに、Drive.ai共同創業者のCarol ReileyはAndrew Ngの奥様である。

開発コンセプト

Drive.aiは業界最先端のAIとDeep Learningを使って自動運転技術を開発した。AIが周囲のオブジェクトを見分け、また、AIが人間の運転テクニックを見るだけで学習する。しかし、この方式で安全なクルマを開発できないことが分かり、基本設計の見直しを迫られた。車両はミニバン「Nissan NV200」を使用し(先頭の写真)、ここにセンサー(Lidar、カメラ、レーダー)を搭載し、制御機構にRobot Operating System (ROS、ロボットや自動運転車制御ソフト)を採用した。つまり、自動運転の定番技術をオープンソースで実装するというアプローチを取った。

インターフェイス

また、自動運転車と人間のインターフェイスを確立することで、安全性を高めるデザインとした。クルマは前後にディスプレイを搭載しシステムの意思を表示する。横断歩道では歩行者に「Waiting for You to Cross」と表示し安心してクルマの前を歩けるデザインとした(下の写真)。

出典: Drive.ai  

テキサス州での実証試験

Drive.aiはテキサス州フレスコ市と提携して自動運転車の実証試験を進めた。オフィス街で定められた経路を走行する自動運転シャトルとして運行した。また、テキサス州アーリントン市と提携しシャトルサービスを展開した。クルマは固定のルートを走り、市街地とスポーツ施設(AT&T Stadium、Dallas Cowboysのスタジアム)の間で輸送サービスを展開した(下の写真)。

実証実験は終了

Drive.aiは今年に入り会社の買い手を探していたといわれている。当初、Drive.aiは自動運転技術をすべてAIで実装するという高度な技術に挑戦していた。その後、オープンソースベースの自動運転技術を開発し、上述の通り、バスのように固定ルートを走行する自動運転車として運行を始めた。しかし、この実証実験は終了となり、Drive.aiの自動運転技術が注目されることはなかった。

出典: Drive.ai  

Appleの自動運転車開発

Appleは自動運転車を開発しているがその内容はベールに包まれている。開発プロジェクトは「Project Titan」と呼ばれ、2014年から始まり、2016年にはその規模が縮小された。同じ年に、Appleは中国大手ライドシェア 「Didi Chuxing (滴滴出行)」に10億ドル出資している。その後、Appleは自動運転車開発を再開し、今では大規模な体制でこれを進めている。事実、カリフォルニア州で自動運転車の走行試験を実施しているが、車両台数は55台と破格に多い。

お洒落で滑らかなクルマ

Appleが開発するクルマは自動運転機能だけでなく、乗り心地のいいデザインになるといわれている。Appleがダッシュボードやシートを設計し、また、フルアクティブサスペンション(Fully Actuated Suspension)を搭載することでショックを吸収し滑らかな走りができる。しかし、Appleがクルマを開発するのか、それとも、自動運転技術をメーカーに供給するのかなど、ビジネスモデルは見えてない。

バブルと淘汰

Drive.aiが開発を中止したことは自動運転車技術の難易度の高さを示している。固定ルートを無人で走行するレベルのクルマはできるが、市街地を自由に走れる自動運転車の開発は異次元の難しさがある。Drive.aiはピボットするのが早かったが、事業停止の見極めも早かった。いまカリフォルニア州で60社が路上で自動運転車の走行試験を進めている。自動運転バブルともいえる状況で、これから新興企業の淘汰が始まることになる。

Appleはクレジットカード「Apple Card」を発表、お洒落なだけでなく安心感が格段に向上

Appleは2019年3月、自社ブランドのクレジットカード「Apple Card」を発表した。Apple Cardはチタン製のお洒落なカードで、表面にはカード番号などは印字されておらず、安全性を重視したデザインとなっている(下の写真)。Apple CardはiPhoneに格納し、Apple Payのモバイル決済として利用する方式が中心となる。Appleがクレジットカード事業に進出したことで、フィンテック市場が大きく変わろうとしている。

出典: Apple  

クレジットカードデザイン

Appleがクレジットカードをデザインするとシンプルでお洒落なカードが出来上がる。一方、その運用はパートナー企業と提携して行う。カードの決済ネットワークはMastercardを利用し、実際にカードを発行する銀行はGoldman Sachsとなる。同行は初めてクレジットカード事業に進出することになり、その手腕に注目が集まっている。

利用方法

Apple CardはiPhoneの「Wallet」アプリに格納して利用する。これによりモバイル決済システム(おサイフケータイ)「Apple Pay」でApple Cardを使う構造となる。店舗で買い物をするときは生体認証(Face IDやTouch ID)で利用者を特定し、iPhoneをリーダーにかざしてNFCインターフェイスで決済する(下の写真)。また、アプリやウェブサイトで買い物をするときも認証プロセスを経て決済トランザクションが起動する。

出典: Apple

購買履歴

Appleがクレジットカードをデザインすると使いやすくなる。Apple Cardで買い物をすると、購買記録は綺麗に整理されて表示される。買い物の内容を確認する際はアイテムにタッチすると、店舗名やその場所が画面に示される(下の写真、右側)。購買アイテムはカテゴリーごとに整理され (同中央)、週ごとに購買金額とそのカテゴリーがグラフで示される。

出典: Apple

キャッシュバック

Apple Cardの最大の特徴は買い物をするとキャッシュバックを受けることができる点だ(上の写真、左側)。Apple製品を買うと購買金額の3%のキャッシュバックを受ける。また、Apple Payで買い物をすると購買金額の2%を、クレジットカードで買い物をしたら1%のキャッシュバックを受ける。キャッシュバックは月ごとではなく、買い物をするとその場で受け取れる。お金はApple Payのキャッシュカード「Apple Pay Cash」に振り込まれ、送金や買い物で使うことができる。

ローンの返済

Apple Cardでローンを組むとその返済金額と利子が分かりやすく表示される。例えば、ローン残高が1,682.55ドルのケースでは、250ドル返済するとその時の利子は22.37ドルであることが分かる(下の写真)。支払い金額により利率が変わり、1,180.78ドル返済すると利子がゼロとなる。分かりやすい表示でローン返済を促すデザインとなっている。

出典: Apple

セキュリティ:オンラインショッピング

Apple CardはApple Payの高度なセキュリティ機能を使い、安全に支払い処理が実行される。Apple Cardを登録すると「Device Number」(iPhoneデバイス固有の識別番号)が生成され、これがSecure Elementに格納される。オンラインで買い物をするときには「Dynamic Security Code」(ワンタイムカード番号)が生成され、Device Numberとともに使われる。クレジットカード番号が使われることはなくウェブサイトで安全に決済できる。

セキュリティ:店舗での買い物

クレジットカードにはカード番号やCVV(Card Verification Value、セキュリティコード)は印字されていない。このため、レストランでクレジットカードを手渡して決済する際にカード番号を盗用されることはない。クレジットカードはICチップを実装しており安全に支払い処理を実行できる。一方、クレジットカードはNFCには対応しておらず、かざすだけのインターフェイスは持っていない。

Goldman Sachsの戦略

今回の発表でGoldman Sachsがクレジットカード事業に進出したことが話題となっている。Goldman Sachsは企業顧客を中心とし、個人は富裕層だけを対象に事業を展開してきた。しかし、2016年、Goldman Sachsは事業戦略を大きく展開し、「Marcus」というブランドで個人向け融資サービスを開始した。クレジットカードはこれに続く事業で、消費者向けビジネスを拡大する方向が鮮明になった。

出典: Apple  

Apple Cardに対する安心感

モバイル決済では日本や中国が先行するが、米国ではAppleがこの事業を手掛けてから市場が急拡大している。Tim Cookは基調演説の中で、Apple Payの累計処理量が100億件を超えたと述べた。他社に比べてAppleの企業イメージはよく、プライバシーを厳格に実行するため、安心してクレジットカードを託せる。また、Apple Cardを運営するGoldman Sachsは収集した個人データは第三者に提供しないと宣言している。Appleのクリーンなイメージが商品者に安心感を与えApple Cardがヒットする予兆を感じる。