警察は監視カメラの映像をAmazon顔認識技術で解析し、容疑者の身元を特定するシステムの運用を始めた。米国の人権団体はこの事実を掴み、警察の顔認識システムは人種差別につながるとして、運用の停止を求めている。一方、テロ事件など凶悪犯罪が多発する中、米国市民はAI監視カメラによる治安維持活動に一定の理解を示している。

出典: Amazon |
顔認識クラウド
Amazonはイメージ解析技術を「Amazon Rekognition」としてクラウドで提供している。顔認識技術はこのモジュールに含まれ、写真やビデオに写っているオブジェクトの中から、人の顔を把握し、その人物の名前などを特定する。解析能力は高く、一枚のイメージの中で同時に100人の顔を解析できる (上の写真)。また、ライブビデオの映像を連続して解析し、特定の人物を追跡する機能もある。
警察の捜査で利用
Amazon Rekognitionの顔認識機能が米国の警察で使われている。オレゴン州ワシントン群警察 (Washington County Sheriff‘s Office) は、顔認識システムでAmazon Rekognitionを導入した (下の写真、イメージ)。警察は刑務所に収監された人物30万人の顔写真を所有しており、これをAmazon Rekognitionにアップロードし、犯罪者の顔データベースを構築。監視カメラが捉えた容疑者の顔を、このデータベースで検索することで、その人物の身元を特定する。このシステムは、市民が提供した容疑者の写真から、その人物を特定するためにも使われている。

出典: Washington County Sheriff‘s Office |
システム運用の範囲
顔認識機能により犯罪捜査が効率化され、監視カメラで捉えた映像が容疑者や共犯者の逮捕につながる。ただし、警察は住民のプライバシーに配慮して、顔認識システムを限定的に運用している。監視カメラを使って一般市民を撮影し、その行動をリアルタイムでモニターすることはない。あくまで犯罪現場のビデオ画像から犯人を特定するためにだけ使われる。オレゴン州は法律により、一般市民をカメラで監視することを禁止しているため、警察は法令に従ってシステムを運用している。
フロリダ警察
また、フロリダ州オーランド警察 (Orlando Police Department) もAmazon Rekognitionを使った監視システムを開発している。市街地に設置されている監視カメラだけでなく、警察官が身に付けているボディーカメラやドローンで捉えた映像をAmazon Rekognitionで解析する。オーランド警察は人権問題に配慮して、このシステムは試験中で、警察による運用は始まっていないと説明している。更に、公共の場所で撮影されるビデオ画像は使ってなく、一般市民を監視するものではないことを強調している。
人権団体からの抗議
米国で警察がAmazon Rekognitionを導入し、監視カメラを犯罪捜査に活用する動きが広がっている。これに対して、ACLU (American Civil Liberties Union) など人権監視団体は強い懸念を表明し、警察に顔認識技術の使用を中止するよう要請している。その理由として、警察は顔認識技術を容疑者だけでなく、黒人、移民、特定団体の監視に使う恐れがあるとしている。デモに参加する一般市民を撮影し、顔の解析から名前を特定し、行動を監視する目的で使われることに懸念を示している。
FBIの顔認識システム
米国は早くからFBIが大規模な顔認識システムを開発している。このシステムは「Next Generation Identification-Interstate Photo System」と呼ばれ、警察が顔写真から本人の身元を特定するために使われる。2008年から開発が始まり、4億人超の顔写真が収集され、世界最大規模の顔データベースが構築された。しかし、認証精度が十分でなく、また、連邦議会からプライバシー問題を指摘され、実戦での運用は始まっていない。
流れが変わった
いまこの流れが大きく変わりつつある。Deep Learningの導入でコンピュータビジョンが進化し、顔認識精度が格段に良くなった。FBIが開発した技法より、Amazon Rekognitionのほうが認識精度が高い。更に、米国市民のメンタリティも大きく変わった。住民はプライバシー保護を求めるが、同時に、テロ事件など凶悪犯罪を防ぐ取り組みに理解を示している。警察の顔認識システムの運用に対し一方的に反対するのではなく、治安維持の必要性から一定の理解を示している。(下の写真、ボストンマラソンで監視カメラが捉えた犯人)

出典: CNN |
中国が顔認識技術で先行
世界を見渡すと、監視カメラと顔認識システムの導入では、中国が大きく先行している。中国は国家戦略として、AI応用分野を顔認識に定め、新興企業を育成している。これにロシアやインドが続いている。更に、欧州各国はプライバシー保護に敏感であるが、イギリス警察は監視カメラと顔認識システムの導入を始めた。英国議会は慎重な態度を取るが、テロ事件が相次ぎ国民世論は顔認識システム容認に傾いている。
米国でも普及の兆し
米国では家庭向けAI監視カメラが普及し、住民はその恩恵を実感し始めている。AmazonやGoogle・Nestは家庭向けにAI監視カメラの販売を拡大している。撮影されたビデオ画像はクラウドで処理され、AIが問題のイベントを把握し、それをアラートの形で利用者に通知する。これにより、家庭のセキュリティが強化され、住民の安心感が格段に向上した。この延長線上に警察の顔認識システムが位置し、AI監視カメラの果たす役割が期待されている。