カテゴリー別アーカイブ: トランプ大統領

Demis HassabisはAGIクラスのAIモデルのリスクを制御するフレームワークを提唱、米国政府が主導する標準化機構を設立し製品出荷前に安全試験を実施

Google DeepMindのCEOであるDemis Hassabisは「A Framework for Frontier AI and the Dawning of a New Age」と題するAGI時代のリスク管理フレームワーク構想を公開した。この構想はAGIが数年以内にリリースされることを念頭に、AIモデルのリスクを評価するための標準化機構を米国政府主導のもとに設立し、製品出荷前に安全試験を実施する。人間が制御できない重大な危険性が確認されたら、開発を停止するとしている。米国企業だけでなく、全世界のAI開発企業を対象とする。

出典: Demis Hassabis

提言の概要

Hassabisの提言の核心部分は米国政府が主導する標準化機構「Frontier AI Standards Body」を設立することにある。標準化機構はAGIクラスのAIモデルをベンチマークして、そのリスクを査定することにある。当初は、政府の管轄の元、民間団体による自主的な組織とし、トライアルでその機能を検証する。その後、公式な機構とし、AI開発企業に製品出荷前にAIモデルの安全性の試験を義務付ける。

AGIクラスの危険性

HassabisはAGIクラスのAIモデルは大きなリスクを内包していると考える。AI開発競争が白熱し各企業は開発のペースを上げ、エンジニアがモデルの挙動を理解できないまま開発が進んでいる。これによりAGIクラスのモデルが危険な挙動を示す:

  • CBRN (Chemical, Biological, Radiological, and Nuclear):AIが兵器を開発
  • Deception:AIエージェントが実行の意図を隠しモデル評価を偽造する
  • Guardrail:AIが安全機構を突破するスキルを獲得する
  • Loss of control:高度な知能を持つAIを人間が制御できなくなる
  • Unknown risks:モデルが高度になり新しい危険性が生まれる

標準化機構とは

標準化機構「Frontier AI Standards Body」は「Financial Industry Regulatory Authority (FINRA)」をモデルにしている。FINRAとは米国の証券業界の自主規制機関で、証券市場における投資家の保護や市場の透明性の確保を目的として設立された。AI標準化機構はこのアイディアをAI開発に取り入れたもので、AI企業のAI技術に関する知見と政府の監督機能を組み合わせた独立組織となる。(下のイメージ)

出典: Generated with Google Gemini 3.6 Flash

トライアルフェイズ

標準化機構は開始当初は自主的な組織として位置付け、加盟企業は製品を出荷する30日前にAIモデルを提出し、その安全性を評価する。対象項目は、CBRNの他に、エージェントとしての自立機能、ガードレールを迂回する機能、モデルが内包する脆弱性などで、これらの機能がベンチマークされる。

実行フェイズ

ベンチマークテスト結果や試験プロセスがデザイン通り稼働することを確認した後で、実行フェイズに進む。企業は製品を出荷する前に安全試験をクリアすることが義務付けられる。Hassabisの構想によると、対象は米国市場に展開するAIモデルで、米国モデルだけでなく海外モデルを含む。また、クローズドソースだけでなくオープンソースを含み、開発者は米国人だけでなく外国人を含む。

AGIクラスの定義

AGIクラスのAIモデルを如何に定義するかで議論が続いている。従来は、AIモデルを開発するために要したプロセッサの計算量でモデルのクラスを定義してきた。Hassabisの提案ではクラスを認定するためのベンチマークテストを開発し、これによりAGIクラスを定義する。具体的には、高度なリスクを測定するためのベンチマークテストを開発し、この試験結果でモデルのクラスを定義する。モデルの進化は急速で、ベンチマークテストを定期的にアップデートする必要がある。また、モデルの進化で新たな危険性が発現した際は、このリスク要因をベンチマークテストに反映する。

出典: Generated with Google Gemini 3.6 Flash

グローバルスタンダード

Hassabisは米国が主導でこのフレームワークを導入し、その後、グローバルに展開する構想を描いている。主要AI開発企業は米国に集中しており、短期的には、米国主導でプロジェクトを進める。長期的には、国際的なコーディネーションを進め、海外のAI企業の参画を求める。グローバルにAGIクラスのAIモデルを査定するベンチマークテストを導入する。当初は米国が主導するが、長期的には国際間でフレームワークを構築する。

AGIの社会へのインパクト

HassabisはAGIクラスの技術的なリスクを査定することを提言しているが、同時に、AGIの社会へのインパクトは甚大で、これらのソーシャル・リスクを如何にコントロールするかが重大な課題となると述べている。最大の課題は失業問題で、AGI時代の雇用体制を整備する必要がある。また、AGIで膨大な富が一部の企業に集中し、テクノロジー進化で生成される利益を公平に分配する仕組みの構築が検討課題となる。(上のイメージ)

トランプ政権との協議

米国のメディアはHassabisの提言をポジティブに受け止めており、連邦政府に標準化機構の設立を求めている点を評価している。また、HassabisはAGIクラスの安全性に関するコンセプトを具体的なフレームワークとして提言していることに注目が集まっている。Hassabisは既にトランプ政権と協議を進めているとも報道されており、米国政府のAI政策が大きく変わるのか、その進展を注視する必要がある。

OpenAIは米国政府の要請に従ってフロンティアモデル「GPT-5.6」を限定公開、政権はライトタッチの規制から厳格な出荷規制にAI政策を大転換

OpenAIは最新フロンティアモデル「GPT-5.6」シリーズを公開したが、トランプ政権の要請を受け、特定団体に限定的にリリースすることを発表した。GPT-5.6のハイエンドモデル「GPT-5.6 Sol」はAnthropicの「Claude Mythos 5」の性能を上回り、OpenAIが業界トップの座を奪還した。トランプ政権はAI開発を推進する政策を展開してきたが、AIモデルのサイバー攻撃能力が急進し、AIモデルの出荷を厳しく管理する方向に大転換した。

出典: OpenAI

GPT-5.6シリーズ

OpenAIは6月26日、フロンティアモデル「GPT-5.6」を発表した。GPT-5.6は最先端モデルで、特に、コーディング、バイオロジー、サイバーセキュリティ、エージェント機能が強化された。GPT-5.6シリーズは三つのモデルから構成される(下の写真、イメージ)。

  • GPT-5.6 Sol:フラッグシップモデルで最も高度な機能を持つ
  • GPT-5.6 Terra:バランスの取れたモデルで日々の業務で使われる、GPT-5.5レベルの性能を低価格で提供する
  • GPT-5.6 Luna:高速で稼働するモデルを低価格で提供

因みに、「Sol」、「Terra」、「Luna」はラテン語で「太陽」、「地球」、「月」を表す(上の写真)。GPT-5.6シリーズは惑星をモチーフとしたネーミングとなった。

出典: Generated with OpenAI GPT-5.5

GPT-5.6 Solが業界トップの性能をマーク

OpenAIはGPT-5.6シリーズのベンチマークテスト結果を公開し、Anthropicのモデルを追い抜き、業界でトップの性能をマークしたとアピールした(下のグラフ)。コーディングのワークフローの性能を測定するベンチマークテスト「Terminal‑Bench 2.1」で、GPT-5.6 SolはAnthropicのフラッグシップモデル「Claude Mythos 5」の性能を追い越した。また、GPT-5.6 Solを強化したモデル「GPT-5.6 Sol Ultra」はMythos 5の性能を圧倒的に上回った。GPT-5.6 Sol Ultraは複数のエージェントが共同でタスクを実行するモデルとなる。

出典: OpenAI

GPT-5.6シリーズは限定公開

OpenAIは当面はGPT‑5.6 Sol, Terra, Lunaを特定団体に限定的に公開する指針を取る。その後、数週間以内に、これらモデルを一般にリリースすることを明らかにした。OpenAIは発表に先立ち、トランプ政権とGPT-5.6シリーズのリリース計画や機能について協議を重ねてきた。その結果、トランプ政権の要請で、GPT-5.6シリーズを信頼できる団体に限定してリリースすることとした。これら信頼できる団体については政権が許可したものとなる。限定リリースの期間内に、OpenAIはこれら特定団体とGPT-5.6シリーズの機能を検証し安全性を評価する作業を実行する。

連邦政府とOpenAIのコラボレーション

OpenAIはこの限定リリースの仕組みは暫定的な措置で、これから長期間にわたり続くものではないと公表した。限定リリースにより、企業や開発者やグローバルパートナーはフロンティアモデルを使うことができず、ビジネスや研究開発への影響は甚大である。このため、OpenAIはトランプ政権と共同でサイバー大統領令「Cyber Executive Order」の枠組みの開発を進めている。サイバー大統領令とは、サイバーセキュリティ機能が格段に強化されたフロンティアモデルを管理するフレームワークで、安全試験のプロセスやモデルリリースのルールが規定される。(下の写真、連邦政府とOpenAIのコラボレーションのイメージ)

出典: Generated with OpenAI GPT-5.5

米国政府のAI規制政策の転換

OpenAIはGPT-5.6シリーズを発表したが、全てのモデルが限定リリースとなり、特定団体と共同で安全性をレビューするという異例の事態となった。政権はAI開発を推進するポジションでライトタッチの規制を導入してきた。今はこれが一転して、政権がAI開発企業と個別に交渉し、出荷許可を下すという厳しいAI規制にピボットした。OpenAIは政権との協議を受けてGPT-5.6シリーズの一般公開を延伸した。OpenAIは政権のAI政策をサポートしてきたが、GPT-5.6シリーズのリリースを巡って政権とのテンションが高まった。

サイバー大統領令

OpenAIは政権とサイバー大統領令のフレームワークを準備していると述べている。高度なサイバー攻撃機能を持つフロンティアモデルに対し、新たなAI規制が導入される方向に動き出した。キーパーソンがDavid Sacksで、政権下でAIと暗号通貨の総責任者を務めた。その後、政権を去ったが、David Sacksがサイバー大統領令を執筆していると言われている。AnthropicのMythos 5 / Fable 5とOpenAIのGPT-5.6シリーズで安全評価基準とリリースに関するルールで混乱しているが、サイバー大統領令で事態が収束に向かう機運が高まってきた。

G7サミットでトランプ大統領に先端AIモデル「Mythos 5」の輸出規制撤回を求める厳しい意見が続出、欧州諸国は米国のAI政策に苛立ちを高める

トランプ政権は安全保障のリスクを理由に、Anthropicに「Fable 5」と「Mythos 5」の運用停止を命じた。米国主要企業と同盟国はProject Glasswingで「Mythos 5」を使って基幹インフラのセキュリティを検証する作業を進めているが、このプロジェクトが停止に追い込まれた。G7サミットでは加盟国がトランプ大統領に輸出規制を撤廃することを強硬に求めた。AI企業は米国が主導するフロンティアモデル検証のための国際組織を設立することを要請した。

出典: G7 France

G7サミット

フランス・エビアンで開催された主要7カ国首脳会議(G7サミット)ではAIが重要なテーマとなった。6月17日のワーキングランチで、G7首脳に加えAI企業のトップが出席し、AI輸出規制などが議論された(下の写真)。欧州を中心とするG7首脳はトランプ大統領に「Mythos 5」などフロンティアモデルの輸出規制撤廃を強く求めた。AI企業のトップは国際間でフロンティアモデルに関するルールの設定が最重要プライオリティであることをトランプ大統領に訴えた。

出典: Ludovic Marin/AFP via Getty Images

輸出禁止の背景

商務省は6月12日、Anthropicに対し、非アメリカ人と国外組織がフロンティアモデル「Fable 5」と「Mythos 5」へアクセスすることを禁止することを命じた。これが事実上の輸出規制となりヨーロッパやアジアでモデルへのアクセスが遮断された。米国とグローバル社会はProject Glasswingにおいて、「Mythos 5」で基幹ソフトウェアの安全検証を進めてきたが、このプロジェクトは停止を余儀なくされた。

フランス:輸出規制撤回を強く求める

アメリカ「CNBC」やイギリス「Financial Times」など主要メディアはG7サミットにおけるAIに関する議論を一斉に報じた。フランス、イギリス、EUは「Mythos 5」の出荷規制に関し、トランプ大統領に規制の撤回を求めた。その中で、フランスのマクロン首相が一番アグレッシブで、「Mythos 5」の輸出規制によりグローバル社会に課せられた課題は大きいとの認識を示し、AIモデルに関する共通のルールを制定すべきであると強く主張した。トランプ政権が独断で輸出制限を実施する「キル・スイッチ」を持てば、米国のAI開発企業のビジネスが大打撃を受けると警告した。

イギリス:特例措置を求める

イギリスのスターマー首相はホワイトハウスへのロビー活動を進め、「Mythos 5」と「Fable 5」の輸出規制で例外事項を設けるよう要請した。これに対し、トランプ政権は輸出規制に例外事項を設けることは論外で、G7加盟国がこれら先端モデルにアクセスすることはできないとした。イギリス政府のAI部門は「UK AISI」はアメリカ商務省配下の「CAISI」と密接に「Fable 5」などフロンティアモデルの安全性を査定するプロジェクトを進めており、今回の輸出規制で両国の信頼関係が崩れた、トランプ政権に大きな不審を募らせている。

AI企業のトップが参加

6月17日のワーキングランチで、G7首脳に加えAI企業のトップが出席した。主なメンバーは、Sam Altman (OpenAI)、Dario Amodei (Anthropic)、Demis Hassabis (Google DeepMind)の他に、Marc Benioff (Salesforce)、Alexandr Wang (Meta)、Arthur Mensch (Mistral AI)、及びAidan Gomez (Cohere)が加わった。(下の写真、トランプ大統領の右側にSam Altmanが、左側にDemis Hassabisが着席)

出典: CNBC 

AI規制フレームワークの設立を要請

セッションでAI企業のトップはトランプ大統領に米国が主導するAI規制に関するフレームワーク「U.S.-Led Framework」の設立を求めた。AnthropicのDario Amodeiはフロンティアモデルの出荷に関し、民主国家が分裂するのではなく、連携して行くことが最重要であると訴えた。OpenAIのSam AltmanはAmodeiに同調し、G7加盟国にサイバー攻撃を防御するためのツールを提供すべきと主張した。GoogleのDemis Hassabisは、西側諸国が分裂すると、バイオテロやサイバーセキュリティで取り返しのつかないリスクに直面すると警戒した。これら三氏は、米国が主導してモデルを評価する組織「Model Evaluation Forum」と技術標準化組織「Technical Standards Body」を設立することをトランプ大統領に要請した。(下の写真、マクロン大統領の右側にMarc Benioffが、左側にDario Amodeiが着席)

出典: CNBC 

AIルール設定が最重要プライオリティ

トランプ政権の唐突で恣意的な輸出規制はグローバル社会に大きな混乱をもたらし、欧州諸国を中心に、米国政府のAI政策にフラストレーションを募らせた。EU首脳は米国技術に依存する政策を見直し、これに代わる代替技術の模索を進めている。混乱の原因は、なぜ「Mythos 5」と「Fable 5」の輸出が禁止されたのか、納得できる理由が示されていないことにある。AI運用に関するルールの欠如が最大の問題で、AI企業トップはフロンティアモデルの安全性評価と技術標準化を強く求めた。

トランプ政権の要請を受けAnthropicはFable 5などの運用を停止、規制緩和から厳格な規制に米国AI政策の歴史的転機

米国政府は安全保障のリスクを理由にAnthropicに「Fable 5」と「Mythos 5」の運用を停止するよう要請した。これを受け、Anthropicは両モデルのサービスを停止した。米国内だけでなく、日本を含む同盟国も両モデルへのアクセスが遮断された。トランプ政権はAI開発を促進する政策を取ってきたが、Anthropicのフロンティアモデルの運用停止を求めるなど、AI規制を極めて厳格に施行する方向に大転換した。

出典: Anthropic

米国政府の要請

Anthropicは6月12日、米国政府の要請を受け「Fable 5」と「Mythos 5」のアクセスをサスペンドすると発表した(上の写真、イメージ)。米国政府は国家安全保障を理由に、米国内外の非アメリカ人が両モデルにアクセスすることを停止することを求めた。Anthropicは即座に、両モデルの運用を停止した。

アクセス停止の理由

Anthropicは連邦政府から両モデルの運用停止を要請する書簡を受領したが、そこには要請理由は書かれていなかった。Anthropicは連邦政府との協議の中で、「ジェイルブレイク(Jailbreak)」がその要因であることを把握した。ジェイルブレイクとはプロンプトに特殊な文字列を挿入し、AIモデルの制御を奪う手法を指す。

出典: OpenAI GPT-5.5

Fable 5をジェイルブレイク

このケースでは、「Fable 5」に特殊なコードベースを入力することで、システムの制御を奪うことに成功した事例が報告された。Fable 5はMythos 5に強靭なガードレールを導入し、サイバー攻撃の機能を徹底的に抑止したモデルとなる。もし、Fable 5がジェイルブレイクされると、この強靭なガードレールが突破され、サイバー攻撃の武器となり、社会に甚大な被害をもたらす。

Anthropicの解釈

Anthropicはこのジェイルブレイクは「Narrow Jailbreak(限定的なジェイルブレイク)」であり、「Universal Jailbreak(広範囲なジェイルブレイク)」ではないとの見解を示している(下の写真、そのイメージ)。「Narrow Jailbreak」とはシステムの極一部の制御を奪うもので、サイバー攻撃の特定機能だけが使われるケースを指す。Fable 5のジェイルブレイクはこのケースに相当する。現実的に、「Narrow Jailbreak」を防ぐことは不可能で、このジェイルブレイクをOpenAI GPT-5.5に適用すると、ガードレールが突破されたことを明らかにしている。「Universal Jailbreak」はサイバー機能の全ての制御を奪うもので、Fable 5でこの事象は発生していない。

出典: OpenAI GPT-5.5

ジェイルブレイクの報告書

Fable 5がジェイルブレイクでガードレールが突破されたというインシデントはAmazonの研究者により発見され、CEOであるAndy Jassyが連邦政府に報告したとされる。ウォールストリートジャーナルなどが報道している。Andy Jassyが直接、ホワイトハウスと財務相長官Scott Bessentにコンタクトしこの事実を報告した。ホワイトハウスは緊急会議を開催し、セキュリティ専門家がこのジェイルブレイクを確認し、トランプ大統領が輸出管理令「Export Control Directive」を発行した。

米国社会で議論が白熱

Fable 5とMythos 5の輸出規制指示について、反対派と賛成派が激しく主張を展開し、国論が二分されている。規制反対派は、米国政府がジェイルブレイクを根拠に、両モデルの運用を停止させたことは過剰反応であると主張する。一方、規制賛成派は、Anthropicは政府にAI規制を求めており、実際に、規制が実施されると、今度は規制緩和を求めるのは、一貫性が無いと主張する。しかし、米国の世論は規制反対派が優勢で、連邦政府に輸出管理令の根拠を明らかにするよう情報公開を求めている。

トランプ政権はAI規制に急転換

トランプ大統領はAIのイノベーションを推進しAI規制を撤廃してきたが、Mythos Previewの出荷規制や今回のFable 5とMythos 5の運用停止命令で、AI政策が180度転換した(下の写真、イメージ)。トランプ政権はMythos Previewでサイバー攻撃の脅威を認識し、規制を導入する方向にピボットした。当面の課題は、Fable 5とMythos 5の運用停止措置が継続するのか、それとも、両者の協議で妥結に向かうのかが最大の関心事となる。

出典: OpenAI GPT-5.5

AI規制に向かうのならプロセスを定義

米国のセンティメントはフロンティアモデルに一定の規制を設けることに賛成の意見が多い。一方で、Fable 5の運用停止を唐突に要請したことで産業界に脅威と不安が広がっている。AI開発企業は次世代モデルの開発を進めており、どの基準を満たすと製品出荷が認められるのか、情勢を見極める姿勢に入った。AI規制に舵を切ることに共通の合意が形成されつつあり、次は、出荷基準のルール制定で、モデルの評価方法や安全基準などプロセスの構築が求められる。

緊急修正:米国政府はDeepSeek-V4を徹底検証、ベンチマーク手法に不備がありDeepSeekはモデルの性能を過大評価、米中間の技術ギャップは2か月ではなく8か月と判定

国立標準技術研究所(NIST)はDeepSeek-V4について多角的な分析を行いその結果を発表した。DeepSeek-V4はOpenAI GPT-5に匹敵する性能で、両者の技術ギャップは8か月と判定した。(DeepSeekは技術ギャップは2か月と発表)。また、DeepSeek-V4の運用コストはGPT-5.5 Miniの半分程度で、コストパフォーマンスが優れている事実を確認した。(DeepSeekはコストは米国モデルの1/10と発表)。 NISTはDeepSeekのベンチマーク手法に不備があり、モデルの性能が過大評価されていると判定した。NISTのミッションは中国モデルのモニターにあり、DeepSeek以外にも主要モデルを検証し技術進展状況をトラックしている。

出典: OpenAI GPT-5.5 Image

NISTとCAISIの役割

国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology, NIST)は商務省配下の組織で米国の計量技術標準化の研究を推進する。NISTがAI技術の標準化や開発推進を担い、連邦政府のAI技術ハブとなる。トランプ政権はNIST配下にAI推進室「Center for AI Standards and Innovation (CAISI)」を開設した(上の写真、イメージ)。CAISIはAIモデルを評価しその安全性を査定する任務を担う。更に、CAISIは敵対国のAI開発状況を監視する役割があり、DeepSeekなど中国の主要モデルを評価し開発状況をトラックしている。

DeepSeek-V4の評価結果

CAISIは最新モデル「DeepSeek-V4」を検証しその結果を公表した(下のグラフ)。それによると、DeepSeek-V4は中国モデルの中で最も高い性能をマークした。一方、DeepSeekはモデルの性能を実際より高く評価していると結論付けた。DeepSeekは、DeepSeek-V4はOpenAI GPT-5.4に匹敵すると評価し、両者のギャップは2か月と発表した。CAISIは、DeepSeek-V4はOpenAI GPT-5に相当し、両者のギャップは8か月と判定した。

出典: CAISI 

ベンチマーク方式

CAISIの評価手法は5つのドメインで9のベンチマークテストを実施し、それを標準化する手法でモデルを評価した。5つのドメインは、サイバー、ソフトウェア・エンジニアリング、科学、推論機能、数学でこれらを統合してモデルを総合的に評価した。この手法は「Item Response Theory (IRT)」と呼ばれ、隠れた能力(人間の知能や特性など)を評価する手法で、これをAIモデルのベンチマークテストに適用した。

インファレンスコストの試験

CAISIはDeepSeek-V4をクラウドベースのGPUプロセッサ「H200」と「B200」 で実行しそのコストを比較した。この際に、DeepSeek-V4はOpenAI GPT-5.4 Miniと同等の性能であることから、両者のインファレンスコストを比較した(下のテーブル)。その結果、中国モデルが格段に低コストではなく、測定項目により大きな差異がある。GPQA DiamondではDeepSeek-V4のコストが高く、GPT-5.4 Miniの1.4倍となった。その他のケースではDeepSeek-V4のコストが安く、GPT-5.4 Miniの0.47倍から0.83倍となった。

出典: CAISI 

ベンチマーク・コンタミネーション

CAISIはDeepSeekのベンチマーク手法は公正ではないと結論付けた。この根拠が「Benchmark Contamination(ベンチマーク・コンタミネーション)」で、モデルを教育するデータセットに試験データが混入していると判定した。モデルがベンチマークテストのデータで教育され、これらの試験項目で実力以上に高度な性能を発揮する問題となる(下のグラフ左側、モデルは事前に試験問題を知りテストで高性能を発揮)。CAISIはDeepSeek-V4を非公開のベンチマークテストで検証した。この結果、モデルの性能は大きく下がることを確認した。(下のテーブル右側、非公開のベンチマーク「ARC-AGI-2 Semi-Private」、「PortBench」、「CTF-Archive-Diamond」でDeepSeek-V4は事前に試験問題を知ることができず、性能は極端に低下した。) これらのデータからCAISIはDeepSeek-V4の評価手法は公正ではないと結論付けた。

出典: CAISI 

競争はコストパフォーマンス

CAISIはDeepSeek-V4のインファレンス・コストを比較し、対抗モデルGPT-5.4 Miniより格安で実行できることを確認した(下のテーブル)。トップレベルの性能ではDeepSeek-V4は米国モデルに及ばないが、そこそこの性能を極めて低価格で提供し、コストパフォーマンスの競争ではDeepSeek-V4が大きく先行している事実を明らかにした。米国ではコストパフォーマンスを考慮して、GPTやClaudeを使う代わりにDeepSeekやQwenを利用する流れが広がっているが、CAISIの報告書はこれを追認した形となった。

出典: CAISI 

中国製AIプロセッサ

DeepSeek-V4の衝撃はモデルの性能ではなく、中国製のAIプロセッサで開発されたことにある。DeepSeek-V4はHuaweiのAIプロセッサ「Huawei Ascend 950」で開発された。DeepSeek-V4の実行ではインファレンス・プロセッサ「Ascend 950PR」が使われ、教育プロセスの一部でトレーニング・プロセッサ「Ascend 950DT」が使われた。中国企業はNvidia GPUへの依存の度合いを下げ、国産プロセッサでAIモデルを開発する流れを加速している。

出典: OpenAI GPT-5.5 Image