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バラ色ではないシリコンバレーの在宅勤務、地方都市に移住すると給与が減る

米国で都市閉鎖が解除され経済活動が徐々に再開しているが、コロナと共棲するために、企業は在宅勤務を取り入れた企業戦略を策定している。多くの企業はオフィス勤務と在宅勤務を併用したハイブリッド勤務を導入している。また、企業は在宅勤務に最適なポジションを新設し、幅広く人材を募っている。在宅勤務がコロナ社会を生き抜くカギとなるが、企業の狙いは人材採用やオフィス費用削減にある。

出典: Facebook

Facebookの在宅勤務

シリコンバレーのIT企業は他社に先駆けて在宅勤務を採用した。Facebookの社員は在宅勤務を続けているが、CEOのZuckerbergはこれを正式な勤務形態とすると発表した。また、今後5 年から10 年のレンジで、社員の半数が在宅勤務となるとの見通しを示した。社員はオフィス勤務か在宅勤務かを選択でき、来年1 月までにこれを会社に通知する。

地方に移住すると給与が減る

在宅勤務を希望する社員は審査を受け、基準に沿っていると判断されるとこれが認められる。社員はシリコンバレーに住む必要はなく、他の地域に引っ越すこともできる。生活費の高いシリコンバレーから、郊外のサクラメントなどに引っ越しすることもできる。ただし、給与は当地の物価により調整され、郊外に引っ越しすると実質的に給与減額となる。

狙いは地方の人材採用

Facebookは今後の人材採用計画について明らかにした。在宅勤務を導入することで、シリコンバレーだけでなく、全米の主要都市で優秀な人材を採用できる。当面は、本社オフィスの近郊(クルマで4時間以内)で在宅勤務ができるエンジニアを採用する。次に、アトランタ、ダラス、デンバーで在宅勤務エンジニアを採用し、最終的には、カナダを含め全米の都市で採用を進める。つまり、Facebookは北米全域で優秀なエンジニアを雇い入れることを目論んでいる。更に、本社オフィススペースを縮小でき、Facebookは本社キャンパス増築計画を見直すとしている(先頭の写真、増築された本社ビル「MPK21」)。

Facebookの在宅勤務ツール

Facebookは在宅勤務が広がる中、新しいコミュニケーションツール「Workplace」を発表した。これは社員間でコラボレーションするためのツールで、共同の作業スペース「Group」、チャット「Chat」、ビデオ会議「Rooms」(下の写真)などから構成される。RoomsがZoomに相当する機能で、Workplace全体はSlackの対抗製品として位置付けられる。今月からサービスが開始され企業で導入が始まった。

出典: Facebook

社員全員が在宅勤務

コロナのパンデミック以前から在宅勤務を取り入れている企業は少なくない。その中で、Automatticは社員全員が在宅勤務をしている。Automatticはサンフランシスコに拠点を置く企業でブログソフトウェア「Wordpress」を開発している。世界75か国で1200人の社員がいるが、全員が在宅勤務をしている。オープンソース・ソフトウェアをベースにした製品を開発しており、社員は遠隔でコラボレーションし、プロジェクトがうまく進んでいる。(Automatticは数年前まで、サンフランシスコにオフィスを構えていた(下の写真)。社員は出社勤務か在宅勤務を選択できたが、出社する社員はわずかで、Automatticはオフィスを閉鎖した。)

人間関係が仕事のベース

しかし、Automatticはチームワークや社員同士の交流を重視しており、定期的に社員が集うイベントを開催し、チームスピリットを育んでいる。在宅勤務で仕事は進むが、そのベースは人間同士の信頼感や親近感である。顔を合わせたことのない社員と円滑に仕事を進めるのは難しく、このような場が必要になる。因みに、Automatticは世界のウェブサイトの35%で使われており、企業価値は30億ドルのユニコーンに成長している。

出典: Medium  

社員の反応

市場調査などによると、社員はオフィス勤務に戻りたい人と、そのまま在宅勤務を続けたい人に分かれる。在宅勤務を続けたい理由は、ワークライフ・バランスで、通勤時間がゼロとなり、家族と過ごす時間を持つことができる。また、上司や同僚との人間関係を気にしないで仕事をできストレスがたまらないという声も聞かれる。一方、オフィス勤務に戻りたい社員は、他の社員とのコミュニケーションや交流を求めている。また、クールなオフィス環境で働けることや、無料の食事やスナックなどがあることも魅力となる。更に、在宅勤務だと目立たなくなり、出世に影響することを心配する声も聞かれる。若い社員は出社勤務を望み、45歳以上の社員が在宅勤務を希望するとの調査結果もある。

在宅勤務に適した職種

多くの企業が在宅勤務専用のポジションを新設しているが、これを見るとテレワークに向いているのとそうでない仕事がある。在宅勤務に向いている職種としては、医療、情報通信、顧客サポートなどで、これらのポジションで募集枠が広がっている。ソフトウェアエンジニアはこのカテゴリーとなり、IT企業で在宅勤務が広がることを裏付けている。また、コロナの後で需要が増えた職種は教育関連で、学校がオンライン授業に移り、在宅勤務のインストラクターやアシスタントが求められている。

Googleは在宅勤務に慎重

多くの企業が遠隔勤務に移る中、Googleは慎重な姿勢を見せている。Googleは今月からオフィスを再開し、全体の10%程度の社員が職場に戻ってくる。ソーシャルディスタンシングをキープしながら仕事を再開するが、遠隔勤務は緊急措置であり、その延長は計画されていない。Googleは在宅勤務で生産性が上がるとは考えていない。クリエイティブな仕事は人間同士のインタラクションで生まれるとし、遠隔勤務でイノベーションを生むのは難しいと考える。今後、Googleは在宅勤務で生産性が上がり、問題を解決できるのか、データサイエンスの手法で検証するとしている。

出典: Google

新しい企業戦略

やはり、在宅勤務では社員の仕事をどのように評価するかが最大の課題となる。仕事の定義であるJob Descriptionを明確にし、仕事の成果を公平に評価する指標が必要になる。一方、在宅勤務が広がる中、それを支援するテクノロジーの開発も進んでいる。上司に代わりAIが社員の生産性を評価する方式も登場している。社員にとって在宅勤務というオプションは必ずしもバラ色ではないが、シリコンバレーの企業は新しい会社戦略を模索している。

サンフランシスコで都市再開に向け新型コロナウイルス感染者の追跡調査が始まる、Facebook慈善団体がこれを主導

サンフランシスコ地区で都市閉鎖解除に向けた準備が進んでいる。都市再開では住民の感染状態を継続して把握することが必須要件で、これに向け新型コロナウイルス感染者の追跡調査が始まった。この調査はChan Zuckerberg Initiative(CZI)が主導し、カリフォルニア大学サンフランシスコ校などの大学病院が実施する。CZIはFacebook創業者Marc Zuckerbergと妻のPriscilla Chanが設立した慈善団体で、健康や教育に関する研究を進めている。

出典: CNN

追跡検査の概要

この調査はサンフランシスコ地区で新型コロナウイルスの感染状態を正確に掴むために実施される。試験は9か月間継続して実施され、感染状態をスポットで把握するのではなく、被験者を定期的に検査することで感染のトレンドを把握することが目的となる。調査は住民向けの検査と、医療従事者向けの検査の二つのパートから成る。調査結果は都市を再開すると感染がどの程度増えるかを評価する指標となる。

多くの疑問点に答える

新型コロナウイルスでは感染者の多くが無症状(Asymptomatic)といわれ、この調査で実際の感染状況を把握する。また、感染者のウイルスのRNAを解析することで、感染経路を特定する試みがなされる。更に、新型コロナウイルスの抗体検査も同時に実施され、抗体と免疫の関係を検証する。抗体ができれば再び病気に感染することはないかの議論に答えがでる。

地域住民を対象とした調査

新型コロナウイルスの感染状態について、幅広い層の住民を対象に検査を実施する。検査結果は都市再開の基礎データとして使われ、都市閉鎖を安全に解除するためのプロセスを策定するための基本情報となる。また、都市を再開して新しい生活に移行したあとも検査は続けられ、住民の間で感染が広まっていないかを確認し、再び感染が広がると経路を解明し対策が取られる。

毎月PCR検査と抗体検査を実施

この試験はサンフランシスコ地区の住民4000人を対象に、2020年12月まで、毎月、PCR検査(PCR Diagnostic Test)と抗体検査(Serological Test)が実施される。PCR検査で感染の広がりを把握し、一方、抗体検査で被験者の過去の感染状態を把握し、感染者数を正確に計測する。毎月これらの検査が実施され、都市再開の前後で感染者数がどのように変わるのかトレンドを把握する。

出典: Chan Zuckerberg Biohub

ウイルスの遺伝子解析

更に、PCR検査で検出されたウイルスはChan Zuckerberg Biohubで遺伝子解析を実施する。遺伝子配列を把握することで、ウイルスのRNAの変異から種別が分かり、これをたどり地域における感染経路を特定する。また、ウイルスはどこからサンフランシスコ地区に侵入したのかも解明する。感染経路の特定にはContact Tracingの手法が使われるが、遺伝子検査でこの作業を補完することを目指している。Chan Zuckerberg Biohubとはカリフォルニア大学サンフランシスコ校やスタンフォード大学などが参加する生物学研究所でMarc Zuckerbergの寄付金で設立された(上の写真)。

医療従事者向けの調査

もう一つの調査は医療従事者を対象として実施され、新型コロナウイルスが病院に及ぼすインパクトを査定する。具体的には、被験者の抗体検査とPCR検査を継続して実施する。新型コロナウイルスに感染すると抗体ができるが、この抗体がいつまで存続するかを調べる。また、抗体があれば再び新型コロナウイルスに感染することはないのかを解明する。

抗体は社会復帰のパスポート?

この検査は医療従事者3500人を対象に、12週間にわたり、毎週PCR検査と抗体検査が実施される。また、抗体検査で陽性であった被験者は、2020年12月まで、新型コロナウイルスに再度感染しているかどうかが検査される。WHOは抗体ができても免疫ができるかは不明としており、この疑問に答えを出すことになる。都市を再開して社会に復帰するときに、抗体がパスポートになるのかが分かる。

出典: VentureClef

疫学の観点からの調査

米国で、新型コロナウイルスに関する虚偽の記事が数多く発信され、社会が不安定になっている。特に、都市再開に向けては医学的な議論より政治的な主張が優勢で、正しい判断の妨げになっている。このため、研究者や著名人などがテレビ番組に登場し、国民に正しい情報を発信し続けている(先頭の写真)。番組の中でPriscilla Chanは、都市閉鎖を解除するには新型コロナウイルスの発生や流行状態など疫学(Epidemiology)の観点から検査を行うことが最低条件と述べている。

都市再開のための基礎データ

今は、住民の何人がウイルスに感染しているのかなどの基礎データが揃っていない。また、無症状の感染者の実態が分からないため、誰がスプレッダーであるのかを特定できない。更に、抗体が社会復帰のためのパスポートになるのかも定かでない。これらの基礎データをそろえない限り、都市再開を安全に進めることはできない。(上の写真:Farmers’ Marketでソーシャルディスタンシングを保ちながらの買い物)

Chan Zuckerberg Initiativeとは

このプロジェクトを主導するChan Zuckerberg InitiativeはPriscilla Chan(下の写真)とMark Zuckerbergにより2015年に設立された慈善団体で、医療や教育や科学の分野で、人間の可能性を伸ばし平等な社会を実現することをミッションとする。今世紀末までに病気をなくすことを目標に研究を進めている。CZIは従来の慈善団体と異なり、テクノロジー使って社会の問題を解決するアプローチを取る。

出典: Chan Zuckerberg Initiative

IT企業創業者の役割

米国ではこの危機を救うためにIT企業の創業者が重要な役割を果たしている。Bill Gatesは同氏の慈善団体Bill & Melinda Gates Foundationを通じて3億ドルを寄付し、新型コロナウイルスのワクチン開発を支援している。Twitter創業者Jack Dorseyは10億ドルを新型コロナウイルス対策に寄付することを表明している。多くのIT企業創業者は格差社会を是正する慈善活動を進めているが、新型コロナウイルスでこの流れが加速している。

Facebookは脳のシグナルでコンピュータを操作する技術を買収、AR/VRに応用し脳波で仮想世界と接する

Facebookは今週、脳とコンピュータのインターフェイスを開発しているベンチャー企業「CTRL-labs」の買収を発表。CTRL-labsは、脳が出すシグナルをリストバンドで検知し、利用者の意図を把握する。これをコンピュータに応用すると、指を動かすだけでキーボードを操作できる。ちょうどエア・ギターの要領で、指でキーを押す真似をするとタイプできる。Facebookはこの技術をAR/VRに応用する計画で、コントローラを使わないで、指や手でオブジェクトを操作する。脳波が仮想現実社会のインターフェイスとなる。

出典: CTRL-labs

発表概要

Facebookは2019年9月、ニューヨークに拠点を置くベンチャー企業CTRL-labsを買収することを発表した。CTRL-labsは脳波からのシグナルでコンピュータを操作する技術を開発している。リストバンド(上の写真、左側のデバイス)を腕に装着して利用する。指でキーボードをタイプする真似をすると、リストバンドが脳からのシグナルを検知し、AIがその意図を解釈し、それをデバイスに送り、実際に文字が入力される。

Neural Interface Platform

CTRL-labsは脳波でコンピュータを操作する仕組みを「Neural Interface Platform」と呼んでいる。人間は目や耳から大量の情報を脳に読み込むが、脳の情報を外部に出力する手段は限られている。脳の情報を出力するには、口や声帯の筋肉を動かし、音を生成して情報を伝える。また、腕や指の筋肉を動かし、キーボードで文字を打ち込む。つまり、脳の情報を出力するには筋肉が使われ、生成されるデータ量が限られる。CTRL-labsはこの非対称性を改善するため、脳からのデータ出力量を拡大するプラットフォームを開発した。

CTRL-labsの動作原理

人間が手を動かすときに、脳から命令が発せられ、それが脊髄(Spinal Cord)から、手の筋肉を動かすシグナルとして発せられる(下の写真)。腕の筋肉はこのシグナルに従って手や指を動かす。CTRL-labsはこのシグナルを検知することでデバイスを操作する。具体的には、腕には複数の筋肉があり、それらのシグナル(微弱な電流)をリストバンドで検知する。収集したシグナルをニューラルネットワークで解析し、その意図を把握する。例えば、親指でキーを押す動作をすると、特定のシグナルが生成され、この波形をAIで解析し、その意図を特定する。

出典: CTRL-labs

脳波を検知する手法

脳波を解析する手法は二つあり、CTRL-labsの技法は「Electromyography (EMG)」と呼ばれ、脳波を腕の筋肉のシグナルからとらえる。一方、頭皮に電極を装着して脳波を直接センシングする方式もある。これは「Electroencephalography (EEG)」と呼ばれ、脳波そのものを計測し、そのシグナルから意図を把握する。EEGは医療やメンタルヘルスで使われるケースが殆どで、コンピュータインターフェイスとしての機能は限られている。

プロトタイプを公開

CTRL-labsはステルスモードで技術を開発してきたが昨年末、これを公開しリストバンドを使ったデモが実施された。リストバンドを両手首に巻いて指を動かすと、仮想の指が意図した通りにに動く。また、このシグナルをパソコンに入力すると、キーボードを使わないで、指を動かすだけでタイプできる。エア・タイプの感覚で指で机の表面を押すと文字が入力される(下の写真)。

出典: CTRL-labs

AR/VRに応用

このシステムをAR/VRに統合すると、仮想空間のオブジェクトをコントローラを使わないで手や指で操作できる。AR/VRでは画面を操作するためにコントローラが必要で、ボタンを動かしオブジェクトを操作する。また、ヘッドセットに搭載されたカメラが指の動きを撮影して意図を掴む方式もある。CTRL-labsを使うとこれらの機器が不要となり、手や指でオブジェクトを操作できる (下の写真)。これにより仮想空間と直感的なインターフェイスが形成される。

出典: CTRL-labs

企業買収の目的

FacebookのAR/VR部門副社長Andrew Bosworthはこの買収をブログで公開し、CTRL-labsはAR/VR研究部門「Facebook Reality Labs」に加わることを明らかにした。この部門はOculusを中心としたAR/VR技術を開発しており、CTRL-labsを使うことで自然で直感的なインターフェイスを探求する。買収金額は10億ドルから5億ドルと噂されており、Oculusに次ぐ大型買収となる。FacebookはAR/VRで次世代コンピュータ基盤を開発しているとされ、その研究内容に注目が集まっている。

Libraに戦々恐々とする世界の金融システム、Facebookが世界最大の銀行になる日

Facebookが発行を予定している暗号通貨「Libra」(リブラ)に世界の金融機関が戦々恐々としている。米国連邦議会は公聴会でFacebookに証言を求め、Libraの実態解明を進めている。FacebookはLibraを送金ツールと説明するが、Libraのようなステーブルコイン(Stablecoin)は有価証券であるとの考え方もある。また、Libraと送金アプリPayPalやVenmoとの違いも議論となった。Libraの本質が見えない中、Libraは世界の金融システムに重大な影響を及ぼすことが予想され、政府や銀行は警戒を強めている。

出典: House Financial Services Committee

米国連邦議会下院の公聴会

米国連邦議の上院銀行委員会(Senate Banking Committee)に続き、下院金融委員会(House Financial Services Committee)でLibraに関する公聴会が開催された。下院でもFacebookのデータ保護対策に関し厳しい意見が出されたが、同時に、Libraの本質に迫る質疑応答が展開された。FacebookはLibraを支払いツール(Payment Tool)と主張するが、その実態は有価証券(Security)と考え方もある。

LibraとCalibraの位置づけ

FacebookのDavis Marcusは2019年7月17日、下院金融委員会で証言した(上の写真)。この中でPatrick McHenry議員との質疑応答でLibraに関し興味深い議論がなされた。Facebookの主張を整理すると次のようになる。FacebookとLibra Associationは暗号通貨「Libra」を管轄し、スイス国内法に準拠して運用する。また、Libraの基本指針についてはG7(Group of Seven)で議論される。一方、デジタルワレット「Calibra」(カリブラ)はFacebookのアプリで、米国国内法に準拠して運用される。CalibraはPayPalのような送金アプリとして位置付けられ、資金洗浄などの不正使用を防止するための規制に準拠する。

Libraはステーブルコイン

Calibraの位置付けは明快であるが、Libraをどう解釈するかが問題となる。Libraは技術的にはブロックチェイン(Blockchain)上で稼働するデジタル通貨で暗号通貨(Cryptocurrency)として区分される。暗号通貨の中でもステーブルコイン(Stablecoin)としてデザインされている。ステーブルコインとは価格変動を最小限に抑えた暗号通貨で、Libraの場合は通貨(ドル、ユーロ、ポンド、円)がその価値支える構造となる(Fiat-Backed Stablecoinと呼ばれる)。Libraの価値が大きく変動することはなく、安定して運用できると説明している。つまり、Libraとドルの交換レートが一定に保たれる(Pegされる)ことを意味する。

出典: Calibra

ステーブルコインは有価証券か

Libraをステーブルコインと認めることについては共通の理解があるが(Facebookは「stable digital cryptocurrency」と説明)、ステーブルコインの実態については議論が分かれている。Facebookは送金ツールと主張するが、ステーブルコインは有価証券(Security)と解釈することもでき、米国証券取引委員会(Securities and Exchange Commission)が調査に乗り出した。SECはLibraの構造は上場投資信託(Exchange-Traded Fund、株やコモディティなどをグループにした証券)に近いとみておりその判断が待たれる。

米国証券取引委員会の認可が必要か

もし、Libraが有価証券と認められると、米国でLibraを使うにはSECの認可を受ける必要がある。SECは債券取引を監視する連邦政府組織で投資家保護のためその運用には厳しい規制を課している。Libraの運用でSECの認可を受けるのは多大なコストと時間が発生するため、Facebookとしては是が非でも避けたいところである。

Libra運用に関する協議

FacebookはLibraの運用基本指針についてG7で協議を始めるとしている。これに先立ち、フランスで開催されたG7財務相会議でLibraについて強い懸念が表明され、その運用は厳格なルールが必要との見解が示された。また、Facebookは拠点を置くスイスでSwiss Financial Market Supervisory Authority (FINMA)と協議をするとしている。FINMAはスイス政府機関で銀行や証券取引所などを監視し、Libraの運用ではFINMAの法令に準拠する必要がある。

Calibraの運用指針

デジタルワレットCalibraについてはPayPalなど同様に送金アプリと解釈される。Calibraは金融サービスであり、Facebookは米国財務省(US Department of the Treasury)とFinancial Crimes Enforcement Network (FinCEN)から認可を受ける方向で検討していると表明した。FinCENとは財務省配下の組織で資金洗浄やテロ組織への送金を監視・分析する任務を担っている。Facebookはこれらの規制に準拠しLibraを使った不正送金を防止するとしている。

出典: The Libra Association  

金融市場激変の時代

FacebookはLibraを国を跨る送金や金融インフラの整っていない発展途上国での送金に使うと説明した。Libraの本質は見えないが、Facebookは銀行の基幹事業である送金サービスを脅かす存在になろうとしている。各国の政府機関や中央銀行はこの動きに警戒感を強め、主要銀行は戦略の見直しを迫られている。JP Morgan Chase最高経営責任者Jamie Dimonは、Libraがすぐに事業に影響することはないが、数年先は考える必要があると述べ、対策が必要であることを認めた。Facebookが銀行としての色合いを強め金融市場が激変の時を迎えている。

Facebookが連邦政府公聴会で証言、米国が暗号通貨Libraを規制すると中国が世界の金融システムを支配する

Facebookは発行を計画している暗号通貨Libraについて米国連邦議会で証言した。上院と下院の委員会で議員の質問にFacebookが回答する形式で進み、LibraとFacebookについて厳しい意見が相次いだ。Facebookは議会の理解を得るまではLibraを発行しないと明言したが、同時に、米国がデジタル通貨の開発を制限すると中国が金融システムを支配すると警告した。

出典: U.S. Senate Committee on Banking, Housing, and Urban Affairs  

米国連邦議会の公聴会

暗号通貨Libraに関し各国政府や金融機関の懸念が広がる中、米国連邦議会は2019年7月16日と17日の両日、公聴会を開催しLibra責任者であるDavid Marcusに証言を求めた(上の写真)。上院銀行委員会(Senate Banking Committee)と下院金融委員会(House Financial Services Committee)で議員からFacebookの姿勢とLibraの安全性が厳しく問われた。質疑応答を通して、Libraの概要が明らかになり、また、議会が問題視しているポイントが明確になった。(公聴会の様子は各委員会がウェブサイトに公開している。)

米国がデジタル通貨のルールを制定

Libraという新しい金融サービスに各国政府が戸惑っている中、Facebookは米国が世界に先駆けデジタル通貨に関する指針を示すことが必要との見解を示した。また、Libra Association(Libraの運営組織)をスイスに設立した理由は、米国政府の規制を逃れるためではなく、世界の金融組織がここに集まっているためであると説明した。

Libraのビジネスモデル

FacebookはLibraを運営してどう事業を構築するのか、そのビジネスモデルを説明した。Facebookは27億人の会員があり、9000万社がFacebook上で事業を展開している。企業がこれら会員を対象に事業を展開し、買い物の支払いにLibraが使われると事業規模が拡大する。これにより、企業はFacebookに広告を掲載し、広告収入が増えると見込んでいる。これが当面の事業計画であるが、その後は銀行などと提携し金融サービスの提供を検討している。

Facebookの信用問題

FacebookはCambridge Analyticaによる個人データの不正使用に関し50億ドルの制裁金を米連邦取引委員会(Federal Trade Commission)に支払うことで合意した。議員からFacebookが個人情報管理という問題を解決できないまま、なぜ暗号通貨という難しい事業に手を出すのか厳しく問われた。Libraはどのように個人情報を守るのかについて質問が集中した。

個人情報はCalibraに留まる

これに対しFacebookはCalibraで収集したデータをFacebookが共有することはないと回答。CalibraとはFacebookの子会社で同名のデジタルワレット(下の写真)を運用する。多くのデジタルワレットが登場する予定で、Facebookはその一社にすぎず、他社とともに責任をもって運営される。具体的には、消費者がFacebookでCalibraを使って買い物をすると、会員データや購買データはCalibraが管理する。Calibraは別会社でこれらデータはFacebookに渡ることはなく、Libraのトランザクション情報をFacebookが広告などに使うことはないと説明した。

出典: Calibra  

Libraを使った不正送金

委員会のLibraに関する懸念はLibraが不正送金の手段となるという点に集中している。公聴会に先立ち、連邦準備制度理事会(FRB)議長Jerome Powellもこの懸念を表明している。米国政府はイランや北朝鮮に経済制裁を科しているが、Libraによる送金手段がその抜け道になると懸念されている。また、テロリストや麻薬密売などでLibraが使われる可能性も指摘された。既に、Bitcoinのトランザクションの殆どがマネーロンダリングで使われているとの報告もあり、FacebookはLibraを使った不正送金をどう防ぐかが問われた。

Facebookがやらないと中国が手掛ける

Facebookは、米国政府がこれらの問題を回避するためLibraを規制すると暗号通貨の開発が停滞し、別の勢力(固有名称は示されなかったが中国を指す)が暗号通貨を開発し、世界に二つの金融ネットワークが造られると警告した。インターネットが二種類存在すると世界が混乱するように、金融ネットワークが二種類誕生すると経済の発展が阻害される。そもそもブロックチェインでのトランザクションを金融当局は管理できないため、その上で稼働するアプリケーションであるLibraを正しく規制し、世界の基軸ネットワークとすべきと主張した。

出典: Calibra  

Facebookが通貨を発行すべきでない

公聴会に先立ち、トランプ大統領はBitcoinやLibraについて批判的な見解をツイートしている。Bitcoinなど暗号通貨は本当のお金ではないとし、Libraは仮想通貨であり、Facebookが銀行になりたいなら認可(Banking Charter)を受けるべきとの見解を示した。議員からもなぜFacebookがデジタル通貨を発行するのかとの質問が出された。

Libraは通貨ではなく送金手段

これに対してFacebookは、多くの懸念があることを見越して事前にLibraホワイトペーパーを発行した。関係機関がLibraに関する懸念を払しょくするまではFacebookは暗号通貨事業を始めないことを明言した。更に、Libraは通貨ではなく送金手段であることを改めて説明した。海外送金では通常7%の手数料がかかり、3-4日の時間を必要とするが、Libraは無料で即時に送金できる。インターネット上で少額資金を送金する構想は早くから議論されてきたが、Libraがこれを始めて実現したと説明した。

Facebookの警告

Facebookは米国で暗号通貨の開発が停滞すると中国が金融ネットワークを支配すると警告し、Libra事業を進める意義を強調した。これはFacebookの脅しであるが、同時に、世界の情勢でもある。中国の中央銀行である中国人民銀行(People’s Bank of China)はLibraを注視しており、Libraが成功すると世界の金融システムに重大な影響を及ぼすと発言している。

世界で暗号通貨の開発が進む

中国人民銀行はBitcoinなど暗号通貨の研究でトップを走り、Libraに対抗する技術を開発するとみられている。また、カナダやノルウェーやスェーデンなども中央銀行が暗号通貨の開発を進めているとの報告もあり、主要国で暗号通貨が運営される日は遠くない。もう後戻りすることはできず、今までに経験したことのない技術に対し、消費者保護とイノベーションのバランスを取った規制が求められる。