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もうスパコンは要らない!?AIが物理学を学習し物質の動きをシミュレーション、DeepMindの最新研究成果から

先々週、AI・機械学習の学会International Conference on Machine Learning(ICML)が開催され最新の研究成果が発表された。今年はコロナ感染拡大のためデジタル学会となり、欧米及びアジア諸国の研究者がオンラインで参加し、Zoomで講演する形式となった。

出典: Alvaro Sanchez-Gonzalez et al.

DeepMindの研究概要

この中でDeepMindはAIをシミュレータとして使う技法を発表した。シミュレータは物理現象をグラフィカルに表示する機能を持ち、水槽に水を注ぐと、AIがその動きを予測し、水の動きをビデオで表現する(上の写真右側)。実際の水の動き(上の写真左側)と比べると、複雑な動きをAIが正しく予測していることが分かる。

ニューラルネットワークでシミュレーション

これは「Graph Network-based Simulators」と呼ばれ、ニューラルネットワークでシミュレータを構築する。上の事例は、ニューラルネットワークが水槽に注がれた水の動きを予測したもので、初期条件を入力すると、ニューラルネットワークがその後の動きを計算する。つまり、ニューラルネットワークで水を表現し、それを動かすと、その後の挙動を推測する。

汎用のシミュレータ

Graph Network-based Simulatorsは、水のような液体だけでなく、砂やゼリーなど物理特性の異なる物質の動きを予測できる。水槽に水の塊を落とすと、その後の水の動きを予測する(下の写真上段)。同じニューラルネットワークが、ゼリーの塊を重ねると、それが崩れる動きを計算する(下の写真中段)。また、砂の塊を落とすと、それがタンク内に広がる動きを予測する(下の写真下段)。

出典: Alvaro Sanchez-Gonzalez et al.  

ニューラルネットワークの教育

ニューラルネットワークは実際の物質の動きを見て物理法則を学習する。教育の過程で、物質の動きを1ステップだけ教えると、ニューラルネットワークは数千ステップ先まで予測する。つまり、AIは物理法則を習得し、水槽に水の塊を落とすと、水が波打ちそれが鎮まるまで、遠い先の動きまで予測する。

シミュレーションの規模

更に、少量の物質(例えば水の分子2000個)を使ってニューラルネットワークを構成すると、ネットワークは大量の物質(水の分子85,000個)の動きを予測する。このため、少量の水で流れ方を教えると(下の写真、右上の箱)、ニューラルネットワークは大量の水の流れ方を学習する(下の写真、全体部分)。

出典: Alvaro Sanchez-Gonzalez et al.  

スパコンによるシミュレーション

物理現象のシミュレーションにはスパコンが使われる。スパコンは物質の動きをシミュレーションするために開発されたといっても過言ではない。事実、米国国立研究所Oak Ridge National LabはIBMのスパコン「Summit」を使って様々なシミュレーションを実行している。原子炉内部をスパコンでシミュレーションし、原子炉の耐用期間を延長する研究を展開している。

AIがスパコンを置き換える

スパコンによるシミュレーションで社会は多大な恩恵を受けているが、そのための対価が大きいのも事実である。IBM Summitのコストは2憶ドルといわれ、また、シミュレーショアプリの開発では数多くの研究者が必要となる。これに対し、Graph Network-based Simulatorsは汎用シミュレータで安価なAIプロセッサ(Google Cloud TPU)で動き、幅広い分野に適用できる。今すぐにSummitを置き換えることはできないが、AI開発が進むことでスパコンの一部をニューラルネットワークで代行できると期待されている。

【技術情報:Graph Network-based Simulators】

ニューラルネットワークの構成

Graph Network-based Simulatorsはニューラルネットワークで構成され、ネットワークのニューロンに物質の最小単位(例えば水の分子)を割り当てる。更に、ニューロン間の物理状態(分子の位置や速度、物質の特性、重力など)を指定する。これを実際の物理現象で教育すると、ニューラルネットワークは物質の動きを理解する。完成したニューラルネットワークに初期条件(水槽に水を灌ぐなど)を入力すると、その後の動きを予測する。

ニューラルネットワークの機能

Graph Network-based Simulatorsは物質の分子をEncodeし、これをProcessorで実行し、その結果をDecodeする(下のグラフィックス)。Encodeとは物質の状態(位置や速度や特性など)を凝縮しベクトルで表示する処理を指す。Processorは入力された分子の状態を元に、次の動きを予測する。Processorはこのプロセスを繰り返し、将来の動き(Mステップ先)まで予測する。DecodeとはProcessorの予測結果(ベクトル)を物質の状態に戻す処理をする。

出典: Alvaro Sanchez-Gonzalez et al.  

Message Passingという手法

Graph Network-based Simulatorsは物質の分子をネットワークのニューロンに割り当てるが、これら分子間の相互作用をメッセージ交換(Message Passing)として表現する(下のグラフィックス、中央)。メッセージを交換することで、分子は次の状態に移る。このプロセスを繰り返し分子の動きをMステップ先まで予測する。メッセージは分子の特性(物質の特性や重力など)と隣の分子との相互関係(距離や速度など)で構成される。

出典: Alvaro Sanchez-Gonzalez et al.  

バラ色ではないシリコンバレーの在宅勤務、地方都市に移住すると給与が減る

米国で都市閉鎖が解除され経済活動が徐々に再開しているが、コロナと共棲するために、企業は在宅勤務を取り入れた企業戦略を策定している。多くの企業はオフィス勤務と在宅勤務を併用したハイブリッド勤務を導入している。また、企業は在宅勤務に最適なポジションを新設し、幅広く人材を募っている。在宅勤務がコロナ社会を生き抜くカギとなるが、企業の狙いは人材採用やオフィス費用削減にある。

出典: Facebook

Facebookの在宅勤務

シリコンバレーのIT企業は他社に先駆けて在宅勤務を採用した。Facebookの社員は在宅勤務を続けているが、CEOのZuckerbergはこれを正式な勤務形態とすると発表した。また、今後5 年から10 年のレンジで、社員の半数が在宅勤務となるとの見通しを示した。社員はオフィス勤務か在宅勤務かを選択でき、来年1 月までにこれを会社に通知する。

地方に移住すると給与が減る

在宅勤務を希望する社員は審査を受け、基準に沿っていると判断されるとこれが認められる。社員はシリコンバレーに住む必要はなく、他の地域に引っ越すこともできる。生活費の高いシリコンバレーから、郊外のサクラメントなどに引っ越しすることもできる。ただし、給与は当地の物価により調整され、郊外に引っ越しすると実質的に給与減額となる。

狙いは地方の人材採用

Facebookは今後の人材採用計画について明らかにした。在宅勤務を導入することで、シリコンバレーだけでなく、全米の主要都市で優秀な人材を採用できる。当面は、本社オフィスの近郊(クルマで4時間以内)で在宅勤務ができるエンジニアを採用する。次に、アトランタ、ダラス、デンバーで在宅勤務エンジニアを採用し、最終的には、カナダを含め全米の都市で採用を進める。つまり、Facebookは北米全域で優秀なエンジニアを雇い入れることを目論んでいる。更に、本社オフィススペースを縮小でき、Facebookは本社キャンパス増築計画を見直すとしている(先頭の写真、増築された本社ビル「MPK21」)。

Facebookの在宅勤務ツール

Facebookは在宅勤務が広がる中、新しいコミュニケーションツール「Workplace」を発表した。これは社員間でコラボレーションするためのツールで、共同の作業スペース「Group」、チャット「Chat」、ビデオ会議「Rooms」(下の写真)などから構成される。RoomsがZoomに相当する機能で、Workplace全体はSlackの対抗製品として位置付けられる。今月からサービスが開始され企業で導入が始まった。

出典: Facebook

社員全員が在宅勤務

コロナのパンデミック以前から在宅勤務を取り入れている企業は少なくない。その中で、Automatticは社員全員が在宅勤務をしている。Automatticはサンフランシスコに拠点を置く企業でブログソフトウェア「Wordpress」を開発している。世界75か国で1200人の社員がいるが、全員が在宅勤務をしている。オープンソース・ソフトウェアをベースにした製品を開発しており、社員は遠隔でコラボレーションし、プロジェクトがうまく進んでいる。(Automatticは数年前まで、サンフランシスコにオフィスを構えていた(下の写真)。社員は出社勤務か在宅勤務を選択できたが、出社する社員はわずかで、Automatticはオフィスを閉鎖した。)

人間関係が仕事のベース

しかし、Automatticはチームワークや社員同士の交流を重視しており、定期的に社員が集うイベントを開催し、チームスピリットを育んでいる。在宅勤務で仕事は進むが、そのベースは人間同士の信頼感や親近感である。顔を合わせたことのない社員と円滑に仕事を進めるのは難しく、このような場が必要になる。因みに、Automatticは世界のウェブサイトの35%で使われており、企業価値は30億ドルのユニコーンに成長している。

出典: Medium  

社員の反応

市場調査などによると、社員はオフィス勤務に戻りたい人と、そのまま在宅勤務を続けたい人に分かれる。在宅勤務を続けたい理由は、ワークライフ・バランスで、通勤時間がゼロとなり、家族と過ごす時間を持つことができる。また、上司や同僚との人間関係を気にしないで仕事をできストレスがたまらないという声も聞かれる。一方、オフィス勤務に戻りたい社員は、他の社員とのコミュニケーションや交流を求めている。また、クールなオフィス環境で働けることや、無料の食事やスナックなどがあることも魅力となる。更に、在宅勤務だと目立たなくなり、出世に影響することを心配する声も聞かれる。若い社員は出社勤務を望み、45歳以上の社員が在宅勤務を希望するとの調査結果もある。

在宅勤務に適した職種

多くの企業が在宅勤務専用のポジションを新設しているが、これを見るとテレワークに向いているのとそうでない仕事がある。在宅勤務に向いている職種としては、医療、情報通信、顧客サポートなどで、これらのポジションで募集枠が広がっている。ソフトウェアエンジニアはこのカテゴリーとなり、IT企業で在宅勤務が広がることを裏付けている。また、コロナの後で需要が増えた職種は教育関連で、学校がオンライン授業に移り、在宅勤務のインストラクターやアシスタントが求められている。

Googleは在宅勤務に慎重

多くの企業が遠隔勤務に移る中、Googleは慎重な姿勢を見せている。Googleは今月からオフィスを再開し、全体の10%程度の社員が職場に戻ってくる。ソーシャルディスタンシングをキープしながら仕事を再開するが、遠隔勤務は緊急措置であり、その延長は計画されていない。Googleは在宅勤務で生産性が上がるとは考えていない。クリエイティブな仕事は人間同士のインタラクションで生まれるとし、遠隔勤務でイノベーションを生むのは難しいと考える。今後、Googleは在宅勤務で生産性が上がり、問題を解決できるのか、データサイエンスの手法で検証するとしている。

出典: Google

新しい企業戦略

やはり、在宅勤務では社員の仕事をどのように評価するかが最大の課題となる。仕事の定義であるJob Descriptionを明確にし、仕事の成果を公平に評価する指標が必要になる。一方、在宅勤務が広がる中、それを支援するテクノロジーの開発も進んでいる。上司に代わりAIが社員の生産性を評価する方式も登場している。社員にとって在宅勤務というオプションは必ずしもバラ色ではないが、シリコンバレーの企業は新しい会社戦略を模索している。

コロナと共棲する社会の「健康パスポート」、Googleはカリフォルニア州で新型コロナ検査クラウドを構築

Google系Verilyはカリフォルニア州で新型コロナウイルスの検査体制を構築した。Verilyの専用サイトで検査を申し込み、ドライブスルーでPCR検査を受けることができる。都市閉鎖が解除され、コロナと共棲する社会となり、感染のリスクが高まっている。これからは、定期的に検査を受けて健康を確認することが求められるが、このサイトが健康パスポートの役割を担う。

出典: Verily

健康管理のダッシュボード

このシステムはVerilyがカリフォルニア州政府や連邦政府と共同で開発したもので、サンフランシスコ地区の住民はここでPCR検査を受けられるようになった。このプロジェクトは「Baseline COVID-19 Program」と呼ばれ、新型コロナウイルスの健康管理台帳として機能する。住民は会員登録するとダッシュボードが開設され、ここにCovid-19関連情報が示される。

PCR検査の申し込み

実際に、ダッシュボードからPCR検査を申し込み、検査を受けた。ダッシュボードに示される質問に回答すると(下の写真、左側)、PCR検査を受ける条件を満たしているかが判定される。条件を満たしていると、近隣の試験サイトを選び、試験日時を予約する。メールで確認書が送られ(下の写真、右側)、当日は、これを持参して検査を受ける。

出典: VentureClef

ドライブスルー検査場

予約した時間に検査場に出向き、ドライブスルーでPCR検査を受ける(下の写真)。会場入り口で本人確認が行われ、検査(Nasal Swab Test)が実施される。鼻にSwabが挿入され、検体が採取される(先頭の写真)。全ての工程はクルマに座ったままで進み、感染のリスクは最小限にとどめられる。会場到着から10分程度で検査が終わり、意外なほど簡単に進んだ。

出典: VentureClef

検査結果とダッシュボード

検査結果は四日後にダッシュボードに表示された(下の写真、左上の部分)。検査結果は陰性であり、次に取るべきアクションが示された。また、結果が陽性であれば医療関係者から連絡があり、Contact Tracingが実施される。その後、ダッシュボードには次のPCR検査についての情報が示され、同じ手順で検査を受けることができる。コロナ社会で安全に生活するには、PCR検査を定期的に受診する必要がある。

出典: VentureClef

抗体検査プログラム

Verilyはサンフランシスコ地区でコロナ感染者の実態を把握するための研究プログラム「COVID-19 Research Project」を開始した。これは抗体検査とPCR検査を併用し、域内の感染状況を把握することを目的とする。更に、抗体があれば再び感染することがないのか、また、抗体はどれだけの期間体内に留まるのかも調べる。

研究プロジェクトへの参加

ダッシュボードにはこのプログラムに関する情報が掲載され(上の写真、右カラム)、被験者を募集している旨が示された。研究の目的や意義に賛同すれば、そのままダッシュボードで契約書に署名し、研究プロジェクトに参加できる。(実際に、この研究プロジェクトに申し込んだが、8週間にわたり抗体とウイルスの状態がモニターされる)。

トランプ大統領の記者会見

PCR検査のインフラはトランプ大統領の記者会見で発表された。大統領は国民全員がウイルス検査を受ける体制を構築すると述べ、ホワイトハウス専任チーム「Coronavirus Task Force」のDeborah Birx博士がその概要をパネルで説明した(下の写真)。パネルで示されたプロセスをVerilyがクラウドに実装し、各地の試験センターを運営するかたちとなっている。

出典: White House

Verilyとは

VerilyはAlphabetの子会社で、先進医療の研究をミッションとする(下の写真)。その中心が「Project Baseline」で、先進医療を健康管理に応用する研究を進め、被験者の身体に関するデータを収集し、それをAIで解析することで健康に関する知見を得る。PCR検査はこのスキーマの中で実施され、住民のウイルス感染情報を大規模に収集し、それを健康管理に役立てる。

出典: The Business Journal

コロナと共棲するために

全米で都市が再開され、日常生活が徐々に戻ってきた。ソーシャルディスタンシングを取りながら仕事や買い物をするが、感染の危険性は常にある。安全に暮らすためには定期的にPCR検査を受診しウイルス状態をチェックする必要がある。Amazonは自社で社員のPCR検査を定期的に実施する施設を準備しているが、一般市民は様々な公的機関でPCR検査を受けている。このためにVerilyのBaseline COVID-19 Programが健康管理で必須のインフラとなる。

米国で都市ロックダウン解除の準備が進む、AppleとGoogleは新型コロナウイルス感染者追跡システムを開発

米国で新型コロナウイルスの拡大がピークを越え、都市ロックダウン解除についての議論が始まった。政府関係者は地域ごとに徐々に閉鎖を解除することを提案している。閉鎖解除には、広範囲なウイルス検査と感染者追跡システムを確立することが必須条件となる。

出典: Apple / Google

Contact Tracing

後者は「Contact Tracing」と呼ばれ、感染者とその接触者を追跡し、感染拡大を阻止する仕組みを指す。中国や韓国やシンガポールなどで実施されているが、この仕組みをそのまま米国に適用できない。米国市民は個人情報保護に敏感で、プライバシーを守りながらContact Tracingを運用する必要がある。AppleとGoogleは両社が共同してこの要件に沿ったContact Tracingシステムを開発した。

システムの概要

AppleとGoogleは2020年4月、個人のプライバシーを守りながら濃厚接触を検知する技術を公開した。これは「COVID-19 Contact Tracing」と呼ばれ、スマホのBluetooth Low Energyを使って接触を検知する。Bluetoothは近距離無線通信技術で、スマホは定常的に近傍のスマホとシグナルを交換する仕組みになっている。Contact Tracingはこの仕様を使い、個人を特定することなく濃厚接触を把握し、感染の危険性を通知する。これはiOSとAndroidの基本ソフト機能として提供され、医療機関はこれを使って濃厚接触者を特定するアプリを開発する。

濃厚接触を検知する仕組み

公的な医療機関はContact Tracingのアプリを開発し、住民はこれをスマホにダウンロードして使う。アプリは濃厚接触を検知する機能を持つ(下のグラフィックス、左側)。スマホは常にBluetoothのシグナルを発信しており、近傍にスマホがあると、両者はKey(Rolling Proximity Identifier、識別番号)を交換する。スマホはこのKeyをデバイスに格納し、誰が近くにいたかを記録する。Keyはデバイスを特定する番号であり、個人情報や位置情報は含んでいない。

利用者が病気に感染すると

その後、利用者がウイルスに感染していることが分かると、この情報をアプリに入力する。アプリは利用者の許諾の元、BluetoothのKeyをクラウドのデータベースにアップロードする(下のグラフィックス、右側)。このKeyが感染者を特定する番号となる。(Keyはセキュリティを担保するため頻繁に変わる。このため過去14日間で生成されたすべてのKeyがアップロードされる。)

出典: Apple / Google

濃厚接触を把握する

スマホは定期的にその地域の感染者のKeyをデータベースからダウンロードする。感染者のKeyとデバイスに格納している接触者のKeyを比較する(下のグラフィックス、左側)。接触者のKeyと感染者のKeyが一致すると、利用者は感染者と濃厚接触したことになる。つまり、接触者の中に感染者がいたことが分かる。

警告メッセージを表示

次に、アプリはスマホ利用者に、感染者と濃厚接触した疑いがあるとの警告メッセージを表示し、取るべきアクションを指示する(下のグラフィックス、右側)。一方、政府医療関係者はこの情報を使って感染対策を進める。この際、アプリ利用者やAppleやGoogleは感染者の個人情報を知ることはできない。

出典: Apple / Google

アプリ開発のプラットフォーム

COVID-19 Contact Tracingは感染者を追跡するためのプラットフォームで、実際のアプリは医療機関により開発される。これら医療機関がアプリを使って感染者をトレースする仕組みとなる。この機能は2020年5月にAPIとして提供され、その後、iPhoneとAndroidの基本ソフトに組み込まれ感染者追跡機能として搭載される。

ロックダウン解除の条件

全米の主要都市が閉鎖され社会生活や事業活動が停止しているが、いま閉鎖を解除する方策が議論されている。アメリカ疾病予防管理センター(CDC)長官のRobert Redfieldはロックダウンを解除するためにはアグレッシブな感染経路の追跡が必要であるとの見解を示した。都市閉鎖を解除すると再び感染者が増えるが、それを抑え込むために感染経路を特定する仕組みを制定しておく必要がある。更に、患者増加に対して、感染者を治療する医療施設が揃っていることも条件となる。

濃厚接触者を特定するプロセス

政府医療機関は感染症がアウトブレークした際に、Contact Tracingの手法で、病気感染者に接触した人物を見つけ、必要な対策を実施してきた(下のグラフィックス、CDCのContact Tracingのプロセス、エボラ出血熱のケース)。接触者の状態に応じて隔離や観察の措置を取る。また、接触者が感染している場合は、同じプロセスを繰り返し、感染のエッジに到達するまで作業を進める。Contact Tracingは感染症対策の常套手段でCDCの専門部隊などがこの任務を担っているが、COVID-19 Contact Tracingを使うことでこのプロセスが大幅に効率化されると期待されている。

出典: CDC

中国や韓国の事例

中国・武漢では1800の感染症対策チームが編成され大規模にContact Tracingを実行したとされる。また、韓国、シンガポール、台湾ではスマホを使ったContact Tracingが実施されている。これにより、感染のピークを押さえることができ、成功した事例として評価されている。

個人情報収集とプライバシー

中国で住民は移動する際に掲載されているQRコードをスマホで読み込み位置情報を登録する。韓国では監視カメラ、スマホの位置情報、クレジットカード決済データを使って感染者との接触情報を把握する。香港では政府が感染者の位置情報を公開し周囲の住民に注意を喚起している。これらは濃厚接触者追跡に有効な情報であるが、米国社会はこれらの手法はプライバシーの侵害と解釈し、そのまま適用することは難しい。

国民性の相違

このような緊急事態であるが、米国では個人のプライバシーを保護しながらContact Tracingを進めるという難しいプロセスが要求される。政府機関が国民の個人情報へアクセスすることを最小限に抑え感染症を封じ込めることが求められる。国民性の違いにより感染症対策の手法も異なることになる。

GoogleはAIで新型コロナウイルスの3D形状を解明、この情報が治療薬開発を加速する

新型コロナウイルスの感染者数が30万人を超え世界は危機的な状況となった。病気を防ぐワクチンや治療薬がないため、感染が拡大し病気が重篤化している。世界の研究機関はワクチンや治療薬の開発を急いでいる。Google系DeepMindはAIを使い新型コロナウイルスの3D形状を推定した。医薬品開発では病気を引き起こすたんぱく質の形状が決定的に重要で、AIがワクチンや治療薬の開発を加速するのか期待が寄せられている。

出典: DeepMind

AlphaFold

DeepMindはたんぱく質の形状をニューラルネットワークで推定する研究を早くから進めている。このAIは「AlphaFold」と呼ばれ、遺伝子情報を解析し、たんぱく質の3D形状を推定する。つまり、たんぱく質を生成する遺伝子配列を読み込むと、たんぱく質の形が分かるというもの。DeepMindはAlphaFoldを新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に適用し、その形状を推定した(上の写真)。これは新型コロナウイルスの「Membrane Protein」(下の写真、ウイルスの膜に付着しているたんぱく質)といわれる部分で、治療薬の開発には不可欠な情報となる。

たんぱく質の形状が持つ意味

たんぱく質の形状が注目されるのは、その形が機能を決めるからである。細胞内のたんぱく質の形状を見ることで、その役割が推定される。これにより、対象とするたんぱく質(例えばがん細胞)の形に作用する薬の開発に繋がる。新型コロナウイルスも同様で、ワクチンや治療薬を開発するにはウイルスの形状が決めてとなる。しかし、従来の手法(低温電子顕微鏡など)では形状を特定するまでに数か月かかり、この緊急事態に対応できない。このため、DeepMindは既に開発を進めていたAlphaFoldを新型コロナウイルスに適用し、その形状を推定した。

出典: Nature

Protein Folding Problem

たんぱく質はアミノ酸の配列で構成される(下の写真)。アミノ酸と別のアミノ酸が結合するとき、両者の距離や結合角度が決まる。これにより、アミノ酸結合は、らせん配列(Alpha Helix)とシート配列(Pleated Sheet)という構造を取る。更に、これらが絡み合い3D構造のたんぱく質ができる。たんぱく質がどのように折り畳まれているかを解明する研究を「Protein Folding Problem」と呼び、過去数十年にわたり研究が続いている。

出典: DeepMind

ニューラルネットワークの技法

AlphaFoldは三つのニューラルネットワークを使ってたんぱく質の形状を推定した(下の写真)。最初のネットワークはアミノ酸の配列から、それぞれのアミノ酸の間隔と結合角度を推定する。ここでは教育データとして実際のたんぱく質とその距離や角度のデータが使われた。二つ目のネットワークは推定されたたんぱく質の形状がどれだけ正確かを算定する。三つ目のネットワークは、これらの情報からたんぱく質の3D形状を描き出す。

出典: DeepMind

出力結果の検証

このプロセスを新型コロナウイルスに適用し、その形状を推定したのが先頭の写真となる。ただし、これはAlphaFoldによる推定で、実際にこの形状が正しいかどうかは検証されていない。実験で新型コロナウイルスの形状を決定するまでには時間を要し、DeepMindはこの確認を待たないで解析結果を公表した。未確認の情報であるがこれを研究開発に役立てほしいとしている。

体内で生成されるたんぱく質

AlphaFoldは新型コロナウイルスだけでなく、他の病気の治療薬を開発するために開発が続いている。医学分野では、人間の体内で生成されるたんぱく質の構造についての研究が進んでいる。既に、体内で生成されるたんぱく質の中で、その半分について構造が分かっている。これらの情報はProtein Data Bankに登録され一般に公開されている。世界の研究者はこれらたんぱく質の形状を理解し新薬の開発を進めている。

AIを創薬に応用

しかし、遺伝子変異により人間のたんぱく質の構造が変わり、これが原因で病気を引き起こす。これらの病気を治療するためには、変異したたんぱく質の構造を理解する必要がある。この分野でAlphaFoldが活躍し、難病の治療に繋がると期待されている。また、新型コロナウイルスのように新しい種類のウイルスの形状を解析するためにも有益なツールとなる。

医療以外の応用分野

AlphaFoldは医療だけでなく環境問題を解決するツールとしても期待されている。いまプラスチックが海に流れ出て環境汚染が深刻化している。AlphaFoldはプラスチックを生物学的に分解する(Biodegradable)技法の開発を目指している。プラスチックを分解する酵素の発見がゴールとなりAIでその形状を推定する。