月別アーカイブ: 2018年12月

アマゾン創業者Jeff Bezos氏が離婚、会社経営はどうなる?クラウド開発は続くのか?

アマゾン創業者のJeff Bezos氏は25年間連れ添ったMacKenzie Bezos氏と離婚することを発表した。Jeff Bezosはアマゾン株式の16%を保有し、資産総額は1370憶ドル(約15兆円)といわれている。離婚により資産の半分はMacKenzie Bezos氏に渡ることとなり、Jeff Bezos氏は個人資産トップの座をMicrosoft創業者Bill Gates氏に譲ることになる。

出典: Seattle Times

会社経営への影響

テレビやマスコミはBezos氏の離婚をセンセーショナルに伝えるが、ITの観点からはアマゾンの会社経営がどう影響を受けるかが懸念材料となる。アマゾンクラウドはこのまま進化を続けるのか、また、宇宙開発事業は予算が縮小されるのか、会社の行く末が不透明になってきた。

アマゾン株式の分与

離婚という個人的な出来事がIT業界に影響を及ぼすのはJeff Bezos氏がアマゾンの大株主であるため。Jeff Bezos氏は上述の通り、アマゾン株式の16%を保有している。離婚によりこの半分がMacKenzie Bezos氏に渡ることになり、その額は1370憶ドルの半分の675憶ドルとなる。

離婚の条件

Jeff Bezos氏はワシントン州に居住しており、ここで離婚手続きを進めることになる。ワシントン州は「Community Property」という概念を導入している。これは結婚してから形成した財産は夫婦の共有資産(Community Property)になるという考え方で、法令で規定されている。Jeff Bezos氏はMacKenzie Bezos氏と結婚してからアマゾンを創業し今日の資産を築いた。会社創業時にはMacKenzie Bezosが社員として働いていた。Community Propertyを適用することでJeff Bezos氏が所有している資産はMacKenzie Bezos氏との共有財産と認定される。

特別な取り決め

ただ、離婚する両者の間に特別な取り決めがあればこの限りではない。取り決めとは婚前契約(Prenuptial Agreement)を指し、結婚したりパートナーになるときに事前に条件を契約として規定するもの。離婚した際の財産の分割方法や生活費支援などを定める。米国では著名人が結婚する際の定番プロセスであるが、Jeff Bezos氏は婚前契約はないと報道されている。25年前、オンラインで書籍の販売を始め、その当時のJeff Bezos氏の所持金は4万ドルといわれている。

何らかの契約

また、米国には婚後契約(Postnuptial Agreement)という取り決めもある。これは、結婚したりパートナーとなった後で、離婚した際の財産の分割方法を決めるもので、今回の離婚でこの契約があるかどうかは明らかになっていない。この契約がなくても、世界一の富豪が離婚するので、両者の間で何らかの合意が形成され、この発表に至ったという見方が有力である。

アマゾン社をコントロール

MacKenzie Bezos氏がアマゾン株式の何パーセントを取得するのかは証券取引委員会への報告書類を待つしかないが、多くの部分がMacKenzie Bezos氏にわたるという見方もある。つまり、MacKenzie Bezos氏がJeff Bezos氏に次ぐ大株主となり、会社経営についての発言力を持つ。アマゾンクラウドやオンライン販売の経営方法について意見を述べ、会社の方針を変えることも可能となる。人気のAIスピーカーAmazon Echoの開発方針などに影響する可能性も否定できない。

出典: Google Street View

Bezos Expeditions

しかし、MacKenzie Bezos氏は小説家でアマゾンの会社経営には関心が薄いとの見方がある。MacKenzie Bezos氏はアマゾンの株式ではなく、現金やそれに相当する資産を受け取る可能性が高いとされる。実は、Jeff Bezos氏は個人で多彩な事業を展開している。「Bezos Expeditions」という会社を設立し、ここでベンチャーキャピタルから宇宙開発までを手掛けている。この事業の一部がMacKenzie Bezos氏に移譲されるとの見方が有力である。

ベンチャーキャピタル

Jeff Bezos氏はAmazon.comとは別に、個人が有望と考える企業にBezos Expeditionsを通じて投資している。テーマに沿って投資するというスタイルではなく、投資先は幅が広い。その中でも、ブレークスルーが期待できる企業や市場でトップになることが期待される企業に投資している。更に、世界を一変する革新的なヘルスケア技術への投資が目立つ。例えば、血液検査で早期ガンを検知する技術を開発しているGrailに100億ドル出資している。

Blue Origin

Jeff Bezosは宇宙開発に並々ならない情熱を注ぎ、これをライフワークとしている。このため、ロケット開発会社「Blue Origin」を設立し、宇宙旅行や衛星打ち上げの事業を展開している。Blue Originは人類が地球以外の惑星に移住するための技術を開発することをミッションとしている。移住した先で重工業を興し、地球上では軽工業だけに限定し、環境を保全するというアイディアを明らかにしている。

出典: Blue Origin

Washington Post

Jeff Bezos氏は2013年10月、Washington Postを2億5千万ドルで買収した。New York Timesに次ぐ名門新聞社であったがデジタル化の波で経営が悪化していた。買収した会社をテクノロジーで再生し経営を立て直した。新聞社を買収した理由は報道の自由を担保し住民に正確な情報を配信するためとしている。Washington Postはトランプ大統領に批判的で、このためJeff Bezos氏は政権から様々な圧力を受けている。

慈善活動

Jeff Bezos氏は世界長者番付のトップであるが、慈善活動ではほとんど活動実績がない。識者の間から、宇宙開発よりもまずは地球上での慈善活動を優先すべきとの声も聞かれる。Jeff Bezos氏は個人として慈善活動に関心が薄く、また知識も乏しい。Jeff Bezosは2017年6月、ことをTwitterで告白し、コミュニティに慈善活動のアイディアを求めた。このツイートから1年半がたつが、まだ際立った慈善活動は行われていない。

宇宙開発は続くのか

慈善活動に興味を示さないJeff Bezos氏に代わり、MacKenzie Bezosしがこのミッションを引き継ぐとの見方もある。女性のセンスで慈善活動を展開することに期待が寄せられている。同時に、資金を拠出するために、Jeff Bezos氏は個人で運営している事業を売却することも考えられる。Blue Originは宇宙開発を継続できるのか市場が注目している。

GoogleはHome Hubの出荷を開始、AIスピーカーがAIタブレットに進化

Googleはディスプレイ付きAIスピーカー「Google Home Hub」の販売を開始した。早速使ってみたがAIスピーカーの新しい可能性を感じる。GoogleはHome Hubをスマートホームを管理するハブと位置付けている。Home HubはAIタブレットという印象で、AIアシスタントが次の次元にアップグレードされたことを感じる。

出典: VentureClef

マクロコマンド

Home Hubに「おはよう」と語りかけると、一日の予定をブリーフィングする。天気予報に始まり、今日のスケジュールや道路の渋滞情報をディスプレイに示す(下の写真)。また、ニュースを登録しておくと、それらが順次ディスプレイで再生される。これは「Routines」という機能で、一言指示すると、登録している複数のコマンドが順次実行される。

出典: VentureClef

ニュース

当初、ニュースはポッドキャスト(音声配信)であったが、今ではビデオ形式に進化した。朝食を食べながらHome Hubで最新ニュースを見るのが日課となった。ニュースの種類も大幅に増えた。CNNなど大手メディアから(下の写真)、地元サンフランシスコのテレビ局のニュースも配信される。CNBCはビジネスに、TechCrunchはテクノロジーに特化したニュースを配信する。

出典: VentureClef

コントロール

Home Hubは名前が示す通り、スマートホームのハブで、家の中のデバイスを制御する(下の写真)。インターフェイスはタッチで、画面のアイコンに触って操作する。「Lights」はスマートライトを制御する機能で、電灯をオンオフしたり、光量を変えることができる。「Broadcast」を使うとHome Hubがインターコムになり、他のHomeと通話できる。「Camera」にタッチすると玄関先のビデオ画像が配信される。

出典: VentureClef

調理方法

Home Hubに質問すると回答をディスプレイでビジュアルに表示する。Home Hubをキッチンに置いているので、調理方法を質問することが多い。例えば、野菜の煮込み料理「ラタトゥイユ」の作り方を聞くとそのレシピをステップごとに示す。また、パイナップルの皮のむき方を尋ねると、ビデオでそれを表示する(下の写真)。ここではアプリ「Allrecipes」が使われている。

出典: VentureClef

検索

会話の中で議論となったことをHome Hubに尋ねると、ディスプレイにその答えが示される。女優Ariana Grandeのアイメイク「Cat Eye」について尋ねると、メイクの手順がYouTubeに示される。また、話題のお菓子「Unicorn Cake」とは何かと尋ねると、その写真がディスプレイに示される(下の写真)。スマホを取り出さなくても手軽に回答を得ることができるし、その結果をみんなで見ることができる。

出典: VentureClef

音楽

Homeと同様に、Home HubでGoogle MusicやPandoraなど音楽配信サービスを通して音楽を聴くことができる。ディスプレイには演奏中の音楽のタイトルやアーティストの名前が示される(下の写真)。今まではAIスピーカーからテレビに音楽を配信して聴いていた。このために配信デバイス「Chromecast」が必要で、これをテレビに装着する。Home HubではChromecastは不要で、そのまま手軽に音楽やビデオを再生できる。

出典: VentureClef

Ambient Mode

Home Hubを使っていないときはディスプレイがアートギャラリーになり作品が表示される。ここには名画の他に、印象的な写真やストリートアートが表示される(下の写真)。また、「Fullscreen Clock」を選ぶと、スクリーン全体が時計になる。ディスプレイの輝度は周りの光量に応じて自動で調整される。夜になり周りが暗くなると自動でスリープモードとなり、デジタル時計が表示される。

出典: VentureClef

写真アルバム

Home Hubで便利な機能が撮影した写真を表示できること。Ambient Modeで「Google Photos」を選択すると写真アルバムが表示される。「Family & Friends」のオプションを選択すると家族や友人やペットが写った写真を表示する。音声で指示するとその写真を表示することもできる。例えば「サンフランシスコで撮った写真」と指示すると、それらが画面に表示される(下の写真)。

出典: VentureClef

監視カメラ

Home Hubは監視カメラと連携し、玄関先の様子をストリーミングする。ドアベル「Nest Hello」と連携すると、チャイムが押されると自動で玄関先のビデオ画像を表示する(下の写真)。ビデオで来訪者を確認してドアを開けることができるので安心感が格段に向上する。ちなみに、知人が訪ねてくるとHome Hubは来訪者の名前を告げる。

出典: VentureClef

タッチか言葉か

GoogleはHome Hubをスマートホームを制御するデバイスと位置付ける。操作はタッチインターフェイスで画面に触りながら操作する。実際に使ってみるとタッチより言葉のほうが便利で、Home Hubへの指示はほとんど言葉でする。つまり、Home Hubをハブとしてでなく、AIディスプレイとして利用している。ちなみに、指示した言葉はディスプレイに示され(下の写真)、どう聞こえているかが分かり会話がしっくりくる。

出典: VentureClef

競争が激化

ディスプレイ付きAIスピーカーは対話が言葉だけでなく、グラフィカルに示され、コミュニケーションの質がリッチになる。この市場ではAmazonが先駆者で2017年6月に「Echo Show」を出荷。Facebookは2018年11月、AIスピーカー「Portal」を投入したが、ここにはディスプレイが付いている。AIスピーカーはAIタブレットに進化を遂げ、この市場で競合が激しくなっている。

AI融資審査はブラックボックスで安全に使えない、いま判定結果を説明できるExplainable AIが登場

AIで融資を審査する手法は銀行業務を自動化する切り札として注目されている。しかし、金融機関はAI融資審査の導入をためらっている。これはアルゴリズムがブラックボックスで、審査したロジックが明らかでなく、銀行は消費者に判定理由を説明でいないため。いま融資審査の内容を説明できるAIが登場し注目を集めている。

出典: Google

説明できるAI融資審査

ZestFinanceはロサンジェルスに拠点を置くベンチャー企業で、融資サービスのAIプラットフォームを開発している(上の写真)。この製品は「Zest Automated Machine Learning (ZAML)」と呼ばれ、融資申込者のリスクを機械学習の手法で査定する。ZAMLの特長はアルゴリズムが導いた結果を説明できること。これは一般に「Explainable AI(説明できるAI)」と呼ばれ、政府法令に準拠してAIが融資審査を実行する。

融資審査と説明責任

機械学習モデルを使うと融資判定を高精度に実施できるが、この手法はAIが抱える根本的な問題を抱えている。これはAIがブラックボックスであることで、機械学習モデルは審査結果を説明できない。融資審査では応募者がローンを受けることができなかった場合、その理由の説明が求められる。また、金融機関はアルゴリズムが法令に準拠していることを立証する責任がある。これらの要件を満たすことができないため、金融機関はAI融資審査の導入を敬遠している。

融資審査で問題発生

実際に、機械学習による融資審査で問題が発生している。アルゴリズムは人種や性別にバイアスしている事例が数多く報告されている。アルゴリズムは黒人など特定人種に対し評価が厳しいケースが多く、AIの公正さが問われている。金融機関が意図的に特定人種を締め出すことを意図しているのではなく、アルゴリズムの判定方式が不透明なため起きているケースが多い。

Explainable AIの機能

これに対してZAMLは融資審査結果のプロセスを説明することができる。ただし、ZestFinanceはその詳細を公表していないが、Explainable AIを使うと、モデルが特定の判断を下したとき、そのイベントが起こる確率を計算するとともに、その判定と入力データの関係を示す。例えば、融資審査で不合格となった場合(イベントの発生確率が低い)、申込者の入力データ(信用履歴など)を出力する。

潜在需要を掘り起こす

更に、ZAMLは機械学習の手法でクレジットスコアーは低いが返済能力のある応募者を見つけ出す。ZAMLは応募者を数百から数千の変数で定義しクレジットリスクを査定する。従来手法では融資を受けることができなかったグループを解析しリスクを再評価する。(下のグラフィック、現行方式の査定でリスクが高いと判定された応募者をZAMLで再評価するとリスクが低い応募者が数多くいるのが分かる。これらのグループが新規顧客となる。)

出典: ZestFinance  

現行の融資審査方法

ちなみに、現行の融資審査はFICOスコアーに従って応募者を10ほどのグループに区分して可否を決める。FICOスコアーとは個人の信用度を示す指標で、支払い履歴、負債の状況、負債の種類などを入力して算定する。このためクレジット履歴のない応募者は融資を受けることができない。例えば、米国に移民したばかりの医師は、返済能力はあるが融資を受けることができない。

ZAMLシステム構成

ZAMLは融資審査のためのプラットフォームで、金融機関はこの上で機械学習モデルを生成し、自社で所有している顧客データを使ってモデルを最適化する。また、外部の信用調査会社のデータを使ってモデルを強化する。ZestFinanceはプラットフォームを提供するだけでなく、システムインテグレータとしてシステム開発を支援する。完成したモデルは性能を検証し、業務システムに組み込む。ZAMLはオンプレミスまたはクラウド上に展開され、金融機関が運用しているシステムと連携して稼働する。

Microsoftとの提携

ZestFinanceは2018年12月、Microsoftと共同で融資審査向けにZAMLを提供することを発表した。この提携によりMicrosoftの機械学習クラウド「Azure and Machine Learning Server」(下の写真)でZAMLを利用できる。金融機関はクラウドで機械学習モデルを容易に開発でき、法令に準拠したAI融資審査システムを運用できる。

出典: Microsoft  

AI融資審査の導入に弾みがつく

金融機関はAIによる融資審査を導入したいが、アルゴリズムがブラックボックスで、これを躊躇している。米国では4000万人がクレジット履歴が無くローンを受けることができない。ZAMLを使うと多くの消費者を救済でき、金融機関としても法令に準拠してAI融資事業を拡大できる。Explainable AIをMicrosoft Azureで使えるようになり、AI融資審査の導入に弾みがつくと期待されている。