Facebookが発行を予定している暗号通貨「Libra」(リブラ)に世界の金融機関が戦々恐々としている。米国連邦議会は公聴会でFacebookに証言を求め、Libraの実態解明を進めている。FacebookはLibraを送金ツールと説明するが、Libraのようなステーブルコイン(Stablecoin)は有価証券であるとの考え方もある。また、Libraと送金アプリPayPalやVenmoとの違いも議論となった。Libraの本質が見えない中、Libraは世界の金融システムに重大な影響を及ぼすことが予想され、政府や銀行は警戒を強めている。

出典: House Financial Services Committee |
米国連邦議会下院の公聴会
米国連邦議の上院銀行委員会(Senate Banking Committee)に続き、下院金融委員会(House Financial Services Committee)でLibraに関する公聴会が開催された。下院でもFacebookのデータ保護対策に関し厳しい意見が出されたが、同時に、Libraの本質に迫る質疑応答が展開された。FacebookはLibraを支払いツール(Payment Tool)と主張するが、その実態は有価証券(Security)と考え方もある。
LibraとCalibraの位置づけ
FacebookのDavis Marcusは2019年7月17日、下院金融委員会で証言した(上の写真)。この中でPatrick McHenry議員との質疑応答でLibraに関し興味深い議論がなされた。Facebookの主張を整理すると次のようになる。FacebookとLibra Associationは暗号通貨「Libra」を管轄し、スイス国内法に準拠して運用する。また、Libraの基本指針についてはG7(Group of Seven)で議論される。一方、デジタルワレット「Calibra」(カリブラ)はFacebookのアプリで、米国国内法に準拠して運用される。CalibraはPayPalのような送金アプリとして位置付けられ、資金洗浄などの不正使用を防止するための規制に準拠する。
Libraはステーブルコイン
Calibraの位置付けは明快であるが、Libraをどう解釈するかが問題となる。Libraは技術的にはブロックチェイン(Blockchain)上で稼働するデジタル通貨で暗号通貨(Cryptocurrency)として区分される。暗号通貨の中でもステーブルコイン(Stablecoin)としてデザインされている。ステーブルコインとは価格変動を最小限に抑えた暗号通貨で、Libraの場合は通貨(ドル、ユーロ、ポンド、円)がその価値支える構造となる(Fiat-Backed Stablecoinと呼ばれる)。Libraの価値が大きく変動することはなく、安定して運用できると説明している。つまり、Libraとドルの交換レートが一定に保たれる(Pegされる)ことを意味する。

出典: Calibra |
ステーブルコインは有価証券か
Libraをステーブルコインと認めることについては共通の理解があるが(Facebookは「stable digital cryptocurrency」と説明)、ステーブルコインの実態については議論が分かれている。Facebookは送金ツールと主張するが、ステーブルコインは有価証券(Security)と解釈することもでき、米国証券取引委員会(Securities and Exchange Commission)が調査に乗り出した。SECはLibraの構造は上場投資信託(Exchange-Traded Fund、株やコモディティなどをグループにした証券)に近いとみておりその判断が待たれる。
米国証券取引委員会の認可が必要か
もし、Libraが有価証券と認められると、米国でLibraを使うにはSECの認可を受ける必要がある。SECは債券取引を監視する連邦政府組織で投資家保護のためその運用には厳しい規制を課している。Libraの運用でSECの認可を受けるのは多大なコストと時間が発生するため、Facebookとしては是が非でも避けたいところである。
Libra運用に関する協議
FacebookはLibraの運用基本指針についてG7で協議を始めるとしている。これに先立ち、フランスで開催されたG7財務相会議でLibraについて強い懸念が表明され、その運用は厳格なルールが必要との見解が示された。また、Facebookは拠点を置くスイスでSwiss Financial Market Supervisory Authority (FINMA)と協議をするとしている。FINMAはスイス政府機関で銀行や証券取引所などを監視し、Libraの運用ではFINMAの法令に準拠する必要がある。
Calibraの運用指針
デジタルワレットCalibraについてはPayPalなど同様に送金アプリと解釈される。Calibraは金融サービスであり、Facebookは米国財務省(US Department of the Treasury)とFinancial Crimes Enforcement Network (FinCEN)から認可を受ける方向で検討していると表明した。FinCENとは財務省配下の組織で資金洗浄やテロ組織への送金を監視・分析する任務を担っている。Facebookはこれらの規制に準拠しLibraを使った不正送金を防止するとしている。

出典: The Libra Association |
金融市場激変の時代
FacebookはLibraを国を跨る送金や金融インフラの整っていない発展途上国での送金に使うと説明した。Libraの本質は見えないが、Facebookは銀行の基幹事業である送金サービスを脅かす存在になろうとしている。各国の政府機関や中央銀行はこの動きに警戒感を強め、主要銀行は戦略の見直しを迫られている。JP Morgan Chase最高経営責任者Jamie Dimonは、Libraがすぐに事業に影響することはないが、数年先は考える必要があると述べ、対策が必要であることを認めた。Facebookが銀行としての色合いを強め金融市場が激変の時を迎えている。