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Anthropicとトランプ政権のバトル!! 企業側はAI規制を求め政権側は自由な開発を促進、AI規制緩和が進む中Anthropicは重大な懸念を表明

AIフロンティアモデルを開発しているAnthropicはトランプ政権に対し、AI製品を出荷する前に、政府が試験を実施し安全性を確認することを提唱した。一方、政権側はAI基本指針「AIアクションプラン」に基づき、AI規制を緩和し開発を促進する政策を取る。AnthropicはAI規制緩和に重大な懸念を表明し政府に対策を求めた。政府側はAnthropicが過度に危機感を煽っていると解釈し、両者でAI政策を巡るバトルが勃発した。

出典: Generated with Google Gemini 3 Pro Image

Anthropicと政権のバトル

AnthropicのCEOであるDario Amodei(下の写真、左側)は講演会などのイベントで、AIフロンティアモデルは理解できていないリスクを内包しており、安全対策が必要と主張する。これに対し、トランプ政権のAI責任者David Sacks(右側)は、Anthropicは過度に恐怖を駆り立て、政府にAI規制を導入することを求め、事業を優位に展開する作戦であると主張する。この戦略は「Regulatory Capture(社会の利益より特定企業の利益を優先する政策)」で、AI規制が導入されるとスタートアップ企業などはこれに準拠することができず、Anthropicが優位にビジネスを進めることができると解析する。

出典: Generated with Google Gemini 3 Pro Image 

Anthropicの提言

これに対し、Anthropicは会社としての公式な見解を公表し意図を明らかにした(下の写真)。また、米国がAI市場でリーダーのポジションを維持するために必要な項目を提示した。この中で、連邦政府が統一したAI規制政策を示すことが重要としている。州政府が独自にAI規制を施行すると、全米で50の規制政策が運用されることになり、企業にとって大きな負担となる。

出典: Anthropic 

安全試験の実施を求める

更に、AnthropicはAI製品を出荷する前に安全試験を実施すべきと提言している。対象はAIフロンティアモデルを開発している大企業で、スタートアップ企業などを除外する。Anthropicの他に、OpenAIやGoogleなどが安全試験の対象となる。この指針は先に制定されたカリフォルニア州のAI規制法「SB 53」を踏襲するもので、年収が5億ドル以上の企業を対象とする。

Anthropicは公共営利法人

Anthropicは営利団体であるが「Public Benefit Corporation(公共営利法人)」として設立された。Anthropicは利益を上げることを目的とするが、同時に、公共の営利を探求することをミッションとする。実際に、AnthropicはAIモデルの安全技術開発を最重要項目と位置付け、信頼できるAIモデルを開発している。AIフロンティアモデルの判断ロジックを解明する研究や、アルゴリズムが人間の価値にアラインする研究を展開し、その成果を一般に公開している。

米国政府との共同作業

Anthropicと政権側で指針について意見が対立するが、実際には、Anthropicは米国政府とフロンティアモデルの安全性に関し共同プロジェクトを進めている。トランプ政権はAI開発を推進しリスクを評価する部門として「Center for AI Standards & Innovation (CAISI)」を設立した。AnthropicはCAISIと共同で安全評価プログラムを実施しその成果を公開した。また、Anthropicは英国政府の「UK AISI」と提携し、安全試験を実施しており、米英両国間でAIセーフティに関するコラボレーションを進めている。

出典: Generated with Google Gemini 3 Pro Image 

安全試験のプロセス

このトライアルは安全試験の標準テンプレートを確立することを目的としている。AI安全試験は政府側CAISIが実施し、Anthropicは出荷前のAIモデルへのアクセスを許諾し、試験に必要な情報を提供する。CAISIはモデルに対しストレス試験を実施しシステムの脆弱性を洗い出す。この方式は「Red-Teaming」と呼ばれ、開発者がモデルに対しジェイルブレイクなどのサイバー攻撃を展開する。また、攻撃チームは生物兵器製造に関する危険性を検証する。検証結果はAnthropicと共有し、この情報を元にモデルを強化する。

自主規制

安全試験の標準プロセスが確定したら、各企業は自主的にこれを適用し安全性を確認することができる。Anthropicは製品出荷前の安全試験はあくまで自主規制で法令で縛るべきでないとのポジションを取る。OpenAIなどの大企業がこの安全試験に自主的に参加しAIフロンティアモデルの安全性を担保することを目標とする。企業としては、政府と安全試験を実施することで、事実上の政府認証を受けることになり信用度が向上する。また、この安全試験プロトコールをベースとして、安全評価技術の標準化が進むと期待される。

Anthropicが孤軍奮闘

トランプ政権はAIアクションプランでAI規制を緩和しイノベーションを推進する政策を取る。AI開発企業はこの政策が強い追い風となり、開発の自由度が増し、実際にAI技術開発が急進している。一方、業界の中でAnthropicだけがこの指針に異を唱え、政府に全米を統括するAI規制を求めている。AnthropicはAIフロンティアモデルの安全性に関し重大な懸念を示し、政府に対応を求めているが、他のAI開発企業は目立った動きを示していない。Anthropicとトランプ政権のバトルはどう決着するのか業界が注目している。

Google「Gemini 3」はベンチマークテストで他社を圧倒!!AI市場で独走態勢に突入、マルチモダル推論機能が格段に向上しAGIに向けて大きく前進

Googleは11月18日、最新モデル「Gemini 3」を発表し、同日に製品をリリースした。Gemini 3はベンチマークテストでトップの性能を示し他社を圧倒した。AI開発競争でGoogleがOpenAIやAnthropicを大きく引き離し独走態勢に突入した。Gemini 3はマルチモダルと推論機能が格段に強化され、高度なAIエージェントを構築するベースとなる。DeepMindのCEOであるDemis Hassabisは「AGI開発に向けた大きな一歩となる」と述べた。実際に使ってみると、Gemini 3は高度なインテリジェンスを発揮し、AGIエージェント時代に突入したとの印象を受けた。

出典: Generated with Google Gemini 3 Pro

製品構成

Googleは二つのモデル、「Gemini 3 Pro」と「Gemini 3 Deep Think」、をリリースした。前者はベースモデルで日々の業務やAIエージェントの基盤技術となる。後者は推論機能を強化したモデルで、長時間にわたる考察を通し極めて複雑なタスクを実行する。Googleは検索エンジンの「AI Mode」にGemini 3 Proを導入しサーチ機能が大きく向上した。

Gemini 3 Proの性能

Gemini 3 Proは業界の標準ベンチマークテスト「LMArena Leaderboard」で二位を大きく引き離しトップの性能をマークした(下のグラフ)。xAI Grok-4.1がトップであったがGemini 3 Proが1501をマークし大きく躍進した。LMArena Leaderboardは利用者のフィードバックで性能を決めるベンチで世論調査による性能評価となる。これは利用者の実感を反映したもので、Gemini 3は大きなメリットを感じるモデルとなる。

出典: LMArena Leaderboard / Generated with Google Gemini 3 Pro

Gemini 3 Deep Thinkの性能

Gemini 3 Deep Thinkはベースモデルを拡張したもので、推論機能とマルチモダルを理解する能力が大きく向上した。Gemini 3 Deep Thinkは極めて複雑な問題を解決するために使われる。Gemini 3 Deep Thinkは最も難解なベンチマーク「Humanity’s Last Exam」でGPT-5 Proを引き離してトップの成績をマークした(下のグラフ、左側)。また、AIモデルの知能指数を測定するベンチマーク「ARC-AGI-2」では、Gemini 3 Deep ThinkはGPT-5.1の2.5倍の性能をマークし、インテリジェンスの高さを示した(下の写真、右側)。また、前世代モデルGemini 2.5から性能が10倍近く向上し、Gemini 3 Deep Thinkは推論機能が格段に向上したことが分かる。

出典: Google

コア機能#1:理解能力

Gemini 3はマルチモダルの推論機能がエンハンスされ、マルチメディアのコンテンツを理解する能力が格段に進化した。イメージやビデオを読み込みその内容を理解する。ピックルボール(Pickleball)の試合のビデオを入力し(下の写真、左側)、Gemini 3に「右手前のプレーヤの動きを解析し、スキルを向上するためのアドバイス」を求めると、モデルは「パドル(ラケット)の位置が下がる傾向にあり、常にお腹の高さに構えておくこと」と助言した(右側)。Geminiがスポーツ競技のコーチとなり、プレーヤに的確なアドバイスを行う。

出典: Google

コア機能#2:開発能力

Gemini 3の最大の特徴はプログラム・コーディングなど開発能力が格段に向上したことにある。これは「バイブコーディング(Vibe Coding)」とも呼ばれ、シンプルなプロンプトでGemini 3がホームページを開発し、ビデオゲームを生成する。Gemini 3に「レトロなイメージの3D宇宙船ゲームを開発しブラウザーに展開」と指示すると、それを開発しそれをHTMLファイルに格納する。ゲームはJavaScriptベースのWebGLで可視化され、これをブラウザーに展開してゲームをプレーする(下の写真)。ゲームボーイ(Game Boy)などに搭載されているゲームはバイブコーディングで生成できる。

出典: Google

コア機能#3:計画能力

計画能力とは複雑なタスクを完遂するために長期レンジのプランを策定しこれを実行する機能となる。AIエージェントのコア技術でGemini 3は計画機能が大きく向上した。計画能力を査定するベンチマークの代表が「Vending-Bench 2」で、AIエージェントが人間に代わり自動販売機の管理を司り、指定された期間の収入を比較するものとなる(下の写真)。

出典: Andon Labs

Vending-Bench 2で、主要モデルをAIエージェントとして360日間稼働させると、Gemini 3 Proがトップの性能をマークした(下のグラフ)。収入額は5,462ドルで二位のClaude Sonnet 4.5の3,840ドルを大きく上回った。Gemini 3はAIエージェントのコア技術としてデザインされているがその実力を発揮した。

出典: Google

実際に使ってみると:Google AI Studio

Gemini 3 Proはアプリとクラウド「Google AI Studio」(下の写真)で使うことができる。実際に使ってみると、Gemini 3 Proはコーディング能力が大きく進化したと感じる。バイブコーディングを体験でき、本当に言葉だけでプログラムを開発できる。Gemini 3 Proに「会社が主催するダンスパーティーのイベントに関するホームページを生成」するよう指示すると(下の写真、中央部)、ウェブサイトのランディングページを生成した。

出典: Google Gemini 3 Pro

実際に使ってみると:ホームページ

ホームページはHTMLで記述されそれをブラウザーで閲覧するとデザインを見ることができる(下の写真)。ここでは「未来志向のデザイン」とプロンプトで指示しており、その命令が反映されたページが生成された。このページでイベントの概要を読み、RSVPボタンをクリックして、チケットを購入する。プログラミングの知識がなくてもプロンプトで本格的なウェブサイトやコードを生成することができ、ソフトウェア開発は新たな時代を向けたことを実感する。

出典: Google Gemini 3 Pro

AGIに向けた大きな一歩

三年前にChatGPTがリリースされ、生成AIブームが起こり、OpenAIがAI市場をリードしてきた。その後、Googleは「Google Brain」と「DeepMind」を統合し、AI研究所「Google DeepMind」を創設し、基礎研究と製品開発を一本化した。GPTシリーズの対抗モデルとしてGeminiシリーズを投入し、OpenAIを追いかけてきた。ついに、Gemini 3で順位が逆転し、GoogleがAI市場のトップに立った。GoogleはGeminiをAIエージェントのプラットフォームと位置付け、Gemini 3はAGI開発に向けた大きな一歩をしるした。

【捕捉情報:Gemini 3 Proのベンチマークテスト結果】

推論機能・一般知識

Gemini 3は推論機能が大幅に強化され、全てのベンチマークテストで競合他社のモデルの性能を上回った。最難関のベンチマークテスト「Humanity’s Last Exam」でGemini 3 Deep ThinkだけでなくGemini 3 Proもトップの性能をマーク(下のグラフ、左端)。

出典: Google / Generated with Google Gemini 3 Pro

数学・ロジック

AGIの達成度を査定するベンチマークテスト「ARC-AGI-2」で、Gemini 3 Deep ThinkだけでなくGemini 3 Proもトップの性能をマーク(下のグラフ、左端)。

出典: Google / Generated with Google Gemini 3 Pro

ビジョン・マルチモダル

Gemini 3はマルチモダル機能が強化され全てのベンチマークテストで競合他社のモデルの性能を上回った。PC画面のGUIを理解する機能を査定するベンチマークテスト「ScreenSpot-Pro」で他社を大きく上回り、AIエージェントとしてツールを使う機能の高さが示された。(下のグラフ、左から二番目)。

出典: Google / Generated with Google Gemini 3 Pro

コーディング・エージェント

Gemini 3はコーディング機能で他社を上回ったが、「SWE-Bench」でClaude Sonnet 4.5に及ばなかった。SWE-BenchはAIエージェントのエンジニアリング機能を査定するベンチマークテスト。(下のグラフ、左から二番目)。

出典: Google / Generated with Google Gemini 3 Pro

Teslaは自動車メーカーからロボティックス企業に転身!!ヒューマノイドとロボタクシーが中核技術、半導体ファブを建設しAIチップを製造

Teslaは11月6日、株主総会を開催しElon Muskへの1兆ドルの報酬パッケージが承認された。これを受けて、Muskは規定されたゴール(Trench)を達成するために、企業の新たなビジョンを解説した。Muskは、Teslaは “サステイナブル・アバンダンス(Sustainable Abundance)”企業に転身した、と宣言した。コアビジネスはヒューマノイド・ロボットと自動運転で、高度なAIをフィジカル社会に展開する。このために膨大な量のAIチップが必要となり、Teslaは半導体ファブを建設し自社でAIチップを製造する。会場ではロボットがダンスし、参加者が歓声をあげ、ロックコンサートのようなバイブで株主総会が進んだ(下の写真)。

出典: Tesla

サステイナブル・アバンダンス

Muskは、Teslaは新たなチャプターに足を踏み入れたのではなく、全く新しい会社に転身したと説明した。また、Teslaの社是は「サステイナブル・アバンダンス(Sustainable Abundance)」で、自然や社会環境を保全しながら、テクノロジーの恩恵を幅広く消費者に届ける(下の写真)。サステイナブル・アバンダンスは持続可能な豊かさを意味し、AIやロボティックスにより商品やサービスの価格が劇的に下がり、万人が豊かな生活ができる社会が到来する。

出典: Tesla

ヒューマノイド・ロボット

Teslaはヒューマノイド・ロボット「Optimus」(下の写真)を開発しており、Muskはロボットが会社の最重要製品になるとのビジョンを示した。消費者向けには、各人が1台のロボットを所有する時代が始まる。企業向けには、社員が3-5台のロボットを使って業務を実行する形態になる。報酬パッケージのゴールの一つがOptimusを100万台販売することで、Muskはヒューマノイド・ロボットの販売台数はスマートフォンを上回るとの見通しを示した。

出典: Tesla

ヒューマノイド・ロボットの開発状況

Teslaは自動運転車を開発しており、クルマを四輪ロボットとして捉えることができる。これをヒューマノイド・ロボットに展開することになり、Teslaは既存技術を活用でき有利なポジションにいる。Teslaはシリコンバレーの製造施設で、ヒューマノイド・ロボットの製造開発を進めている(下の写真)。現行のOptimusは「V 2.5」であり、2026年にはこれを「V3」のアップグレードする。更に、2027年には「V4」を2028年には「V5」を開発し、ロボットは人間レベルに急成長する。

出典: Tesla

自動運転技術

Teslaは自動運転技術「Full Self-Driving (FSD)」を開発しており、カメラをセンサーとしクルマが自律的に走行する。現行モデルは「V14.1」で「FSD Supervised」と呼ばれ、人間のスーパービジョンのもとで自動走行する。次期モデルは「V14.2」と「V14.3」で、技術が大きく進化し、人間が監視する必要は無く、クルマが完全自動で走行する。これは「FSD Unsupervised」と呼ばれ、ドライバーは運転中にスマホでテキストメッセージを送信できる。「V14.3」は2025年末までにリリースされる。

出典: Drive Tesla

サイバーキャブ

Teslaはロボタクシー「サイバーキャブ(Cybercab)」の開発を進めており、クルマはステアリングやペダルの無い専用モデルとなる(下の写真)。クルマは完全自動運転でドライバーの介在なく目的地まで走行する。

出典: Tesla

サイバーキャブ製造

サイバーキャブは2026年4月からテキサス州の製造施設「Giga Texas」で生産が始まる(下の写真)。サイバーキャブはクルマより電化製品に近い構造で、生産プロセスを自動化し大量生産する。初期の生産台数は年間200万台から300万台で、最終ゴールは年間500万台となる。

出典: Tesla

AIチップ

Teslaはクルマやロボットに搭載するAIチップを自社で開発している。次世代モデルは「AI5」と呼ばれ、現行モデルから性能が50倍向上する(下の写真)。AI5はインファレンス専用チップで、開発されたAIモデルを実行するために使われる。更に、トランスフォーマの重みの計算では浮動小数点ではなく整数が使われる。これにより演算速度が大きく向上し、AI5はNvidia Blackwellに匹敵する性能を1/10のコストで実現した。但し、AI5とBlackwellはアーキテクチャが大きく異なり、対等に比較することは難しい。AI5はTeslaが開発したAIモデルだけに適用される専用プロセッサで、これに対し、Blackwellは広範囲なAIモデルを稼働させることができる汎用プロセッサとなる。

出典: Tesla

半導体製造ファブ

MuskはAI5など自社製AIプロセッサを製造するためのファブを建設することを明らかにした。これは「Terafab」と呼ばれテキサス州オースティンに建設される。TeslaはAIプロセッサの製造をTSMCやSamsungに委託しているが、新たなロードマップでは大量のAIチップが必要となり、アウトソーシングだけではこの需要を満たすことができない。このため、Muskによると、Intelと提携してファブを建設する。製造量は月産10万ウェーファで、AIチップをクルマ、ロボタクシー、ヒューマノイド・ロボットに搭載する。(下の写真、Terafabの想像イメージ)

出典: Google Gemini 2.5 Flash Image

分散コンピューティング

この構想によりTesla車両には最新のAIチップが搭載され、100万台を超えるクルマが高速プロセッサを運用する。これらのAIチップを連結すると100ギガワット相当の巨大なデータセンタとなる。Muskこれを「Distributed AI Inference Fleet」と呼び、AIモデルを実行するための分散コンピューティング環境となる。ギガワットクラスのデータセンタの建設が進むが、テスラ・フリートが新方式のデータセンタとなる。

サプライチェーンの強化

Teslaはバッテリーのコアコンポーネントであるリチウムの精錬施設の建設を開始した。この施設は「Lithium Refinery」と呼ばれ、テキサス州コーパスクリスティに建設され、リチウムの原料となる鉱石からバッテリーで使う高純度なリチウムを抽出する。また、Teslaはバッテリーのカソードを製造するための工場を建設している。この施設はクルマを製造している「Giga Texas」(テキサス州オースティン)の施設内に建設される。これにより、レアアースを輸入に依存することなく、自社で製造することでサプライチェーンを強化する。(下の写真、Teslaが運用するバッテリー製造工場)

出典: Tesla

Teslaの企業価値

Muskは基調講演の冒頭でTeslaは「サステイナブル・アバンダンス(Sustainable Abundance)」企業に転身したと宣言した。AIやロボティックスや自動運転技術で、製品やサービスの価格が劇的に低下し、Teslaは技術の恩恵を幅広く提供する。Muskはこれにより社会から貧困を撲滅できるとの見解を示した。Teslaのコア技術がロボティックスで、Optimusが企業価値の80%を担うことになる。(下の写真、太陽光発電の電力を貯蔵する大規模バッテリーアレイ)

出典: Tesla

米国で家庭向けヒューマノイド・ロボットの販売開始、価格は2万ドルで家事をこなす、AIフロンティアモデルがロボットの頭脳となり自動でタスクを実行する能力を獲得

シリコンバレーのスタートアップ企業1Xはヒューマノイド・ロボット「NEO」の販売を開始した。NEOは家庭向けのロボットでお手伝いさんとして掃除や洗濯などの家事を実行する(下の写真)。NEOの価格は2万ドルで来年から出荷が始まる。NEOは大規模AIモデルを搭載し、汎用的にタスクを実行するスキルを獲得した。AIの進化でロボティックスが急進し、ヒューマノイド・ロボットが生活の一部となる。一方、難しいタスクは人間がテレオペレーションで実行する仕組みで、全自動で家事をこなすまでには時間を要す。

出典: 1X

NEOの主要機能

NEOは人間の形状を模したヒューマノイド・ロボットで、二足で歩行し、二本の腕と五本の指を持つ手から構成される。NEOはセーターを着装し温かみを演出する。NEOは言葉を理解し、口頭での指示に従ってタスクを実行する(下の写真)。ドアの開閉、電灯の消灯、部屋の片づけ、植物への水やりなどをこなす。一方、洗濯、食器洗い、ペットへの餌やりなど複雑なタスクは、自動で実行することができず、人間のエキスパートがこれを支援する。これはテレオペレーション(Tele-Operation)と呼ばれ、専門スタッフがVRヘッドセットを着装し、NEOを遠隔で操作する。

出典: 1X 

ハードウェアの構造

安全を最優先とするコンセプトで、NEOの表面は3Dラティスのポリマーで覆われている。また、NEOはセーターを着装し、これらがクッションの役割を果たし、接触した際の衝撃を吸収する。NEOの駆動系はハーネスが使われ、モーターの動力をワイヤを介して手足を動かす(下の写真)。これにより、低消費電力で静かな動きを実現する。

出典: 1X

ブレイン:VLAモデル

NEOの最大の特徴は高度なAIモデルをロボットのブレインとして搭載していることにある。このAIモデルは「Redwood AI」と呼ばれ、フロンティアモデルのコア技術であるトランスフォーマを利用している(下の写真、プロセッサ)。AIはセンサーからの視覚情報と人間の言葉を理解し、これをAIモデルで処理し、ロボットのハードウェアを制御する命令(アクション)を生成する。このタイプのAIモデルは「VLA (Vision-Language-Action)」モデルと呼ばれ、これが汎用的なスキルを修得するコア技術となる。

出典: 1X

米国で販売を開始

1Xは今週から米国においてNEOの販売を開始した(下の写真)。価格は2万ドルで2026年から初期アクセス顧客向けに出荷される。また、サブスクリプション方式では月額499ドルでNEOをレンタルできる。ロボットの身長は5’6”(168センチ)で重量は66ポンド(30キロ)と、大人の形状であるが軽量なモデルとなる。NEOは家庭において人間とインタラクションすることを前提にデザインされている。

出典: 1X

テレオペレーションとプライバシー保護

NEOは5Gネットワークや家庭のWi-Fiを通して1Xの監視センタとリンクする。オペレータがNEOの稼働状態をモニターし、複雑なタスクを実行するためのテレオペレーションを実行する。オペレータが屋内の映像を見ることになり、プライバシー保護が重要な要件となる。NEOは目の部分にカメラを搭載し、その画像がセンタに送信されるが、人間の顔の部分はマスクされ、プライバシーを保護する。また、利用者は立ち入り禁止区域「Geo-Fencing」を設定でき、プライバシーを確保する。NEOが収集したデータは、利用者の許諾のもと1Xに送信され、これがロボットの教育データとなる。1Xは初期ユーザと共同でアルゴリズムを開発する戦略を取る。

高齢化社会とヒューマノイド・ロボット

NEOは人間に代わり家事を代行するロボットとして開発されているが、高齢化に向かう米国でシニアの介護を重要な応用分野と位置付ける(下の写真)。多くの高齢者は介護施設に入居する代わりに、自宅で独立した生活を送ることを望んでいる。NEOはこれら高齢者の日常生活を支援することを大きな目的に技術開発を進めている。高齢化が進む日本においても、NEOのシニア介護のソリューションは重要な役割を果たすと考えられる。

出典: 1X

家庭環境が最後の難関

ヒューマノイド・ロボットは企業の製造施設に導入されトライアルが進んでいる。BMWはクルマの製造ラインにヒューマノイド・ロボットを投入しその性能を評価している。これに対し、家庭向けのヒューマノイド・ロボットはNEOが最初のケースとなる。家庭環境で稼働するロボットは遥かに高度なスキルが求められる。製造施設はタスクが綿密に定義されクリーンな環境であるが、家庭においては床に様々なオブジェクトが置かれ、子供やペットなどが動き回り、掃除や炊事や洗濯など、広範なスキルが求められる(下の写真)。ヒューマノイド・ロボットにとって最難関の環境で、ロボットのブレインであるフィジカルAIの能力が試される。

出典: 1X