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Microsoftはデータセンタを連結し「AIスーパーファクトリ」を構築、このインフラでスーパーインテリジェンスを開発、OpenAIと提携関係を保ちながらAGI開発で競合する関係となる

Microsoftはジョージア州にギガワット・データセンタ(下の写真)を建設しておりその概要を明らかにした。この施設はウィスコンシン州のデータセンタと高速通信で連結され、巨大計算環境「AIスーパーファクトリ(AI Superfactory)」実現する。ここでAGIとフロンティアモデルを開発する。MicrosoftはOpenAIとの提携契約を更新し、これからはフリーハンドで先進モデルを開発する。Microsoftにとって大きな転機で、先端技術をOpenAIに依存することなく、自社で独自にスーパーインテリジェンスの開発を進める。

出典: Microsoft

AIスーパーファクトリとは

AIスーパーファクトリ(AI Superfactory)とは異なる州に建設されたデータセンタを高速ネットワークで連結し大規模計算環境を生み出す構想となる。Microsoftはジョージア州アトランタに最新のデータセンタを建設しており、これを高速ネットワーク「AI Wide Area Network (AI WAN)」でウィスコンシン州に建設しているデータセンタ(下の写真)と結合し、巨大データセンタを構築する。物理的に異なるデータセンタを統合し仮想の単一データセンタを生み出す。

出典: Microsoft

AIスーパーファクトリの目的

現行のデータセンタは膨大な数のアプリケーションを実行するために使われるが、AIスーパーファクトリは単一の巨大AIモデルを開発することをミッションとする。具体的には、AGIを含む次世代AIフロンティアモデルを開発するための計算機環境となる。現在は、AIフロンティアモデルの教育では開発期間が数か月に及ぶが、これを数週間に短縮する。現行のAIフロンティアモデルの規模は1T(パラメータの数が1兆)であるが、次世代モデルはこれが200Tから300Tに膨らみ、メガデータセンタが必要となる。このセンタはMicrosoftだけでなく、OpenAIが次世代モデルを開発するために提供される。

フェアウォータ・デザイン

Microsoftはジョージア州アトランタに建設しているデータセンタの概要を明らかにした。設計コンセプトは「フェアウォータ・デザイン(Fairwater Design)」と呼ばれ、Nvidiaの最新GPUサーバを高密度に配置することに加え、サーバのスペックの変更に対応できる柔軟な設計思想となっている。Microsoftはウィスコンシン州にデータセンタを建設しているが、これもフェアウォータ・デザインに準拠し、このコンセプトのセンタの数が増えつつある。

出典: Microsoft

データセンタの構造

フェアウォータ・デザインでは最新の高速チップやラックが使われる。アトランタ・フェアウォータは「NVIDIA GB200 NVL72」(上の写真)が採用され、数十万ユニットの「Blackwell GPUs」を連結する。また、データセンタは二階建ての構造で単位面積当たりの計算機密度を最大にする(下の写真)。更に、GPUサーバは液冷式で、データセンタの冷却設備で水を使う必要がなく、環境への負荷を最小にする設計となる。

出典: Microsoft

スーパーインテリジェンス部門設立

これに先立ち、Microsoftはスーパーインテリジェンスを開発するためのチーム「Microsoft AI Superintelligence Team(MAIST)」を設立した(下の写真)。このチームは「Humanist Superintelligence (HSI)」を開発することを目的とする。HISとは人間の知能を超えるスーパーインテリジェンスで、機能や性能に制限を設け、人間の価値に沿ったモデルを開発する。スーパーインテリジェンスを開発するためにAIスーパーファクトリが使われる。

出典: Microsoft

スーパーインテリジェンスの機能

Humanist Superintelligence (HSI)は人間の知能を上回るが、モデルを安全に制御するために、一定の枠組みの中で稼働させる。これによりHSIが独自に進化し暴走するのを抑止する。更に、HISは特定のタスクに特化したモデルで人間社会の問題を解決することを目的とする。その主要セグメントが「Medical Superintelligence」で、医療分野のスーパーインテリジェンスとして、高度な医療技術を実現する(下の写真)。また、「Energy Superintelligence」はエネルギー分野のスーパーインテリジェンスで、クリーンエネルギーの生成と貯蔵の研究を加速する。最終ゴールは核融合発電で、スーパーインテリジェンスがこの研究開発をサポートする。

出典: Microsoft

OpenAIとの契約

MicrosoftはOpenAIと提携しChatGPTなどフロンティアモデルを開発する環境を提供してきた。両社の契約によると、Microsoftは独自でAGIを開発することを制限され、OpenAIが主導的な地位を維持する構造となっていた。しかし、OpenAIの組織改編により新たな契約が締結されこの制約が解除された。Microsoftは独自にAGIやスーパーインテリジェンスを開発することができるようになった。このため、Microsoftは上述の「Microsoft AI Superintelligence Team」を立ち上げAGI・フロンティアモデルの開発に着手した。

協調と競合

両社の関係は新たな時代を迎え、Microsoftは継続してOpenAIに最新の計算機環境を提供しAGI開発をサポートする。また、MicrosoftはOpenAIのAIモデルをクラウド「Microsoft Azure」で独占的に提供する権利を維持する。一方、MicrosoftはAGI・フロンティアモデルを独自で開発するため、OpenAIと直接競合する関係となる。これからはMicrosoftとOpenAIは協調しながら競合するという複雑な関係となる。

出典: Microsoft

トランプ大統領は”AIアポロ計画”を創設、エネルギー省のスパコンで先端AIを開発しバイオテックや核融合研究を加速させる

トランプ大統領は11月24日、高度なAIをサイエンス分野に適用し、バイオテックや核融合などの基礎研究を加速させる構想「Genesis Mission(ジェネシス・ミッション)」を明らかにした。これはアポロ計画の構想をAIに適用したもので、サイエンス分野で新発見を生み出しブレークスルーを起こすことを使命とする。米国エネルギー省が運営しているスーパーコンピューターを統合し、ここで科学に特化したAIモデルを開発する。中国は国家プロジェクトとして科学基礎研究を推し進め、そのレベルが米国に肉薄している。トランプ政権はジェネシス・ミッションで高度なAIを生成し、科学分野でリーダーの地位を固めることを目論む。

出典: Generated with Google Gemini 3 Pro Image

ジェネシス・ミッションとは

ジェネシス・ミッション」は大統領令で規定されイニシアティブで、科学的な発見や技術イノベーションを加速することを目的とする。このための基盤技術としてサイエンスに特化したAIを開発し、AIエージェントが共同研究者となりブレークスルーを目指す。ジェネシス・ミッションは1960年代のアポロ計画と対比され、科学技術の進化を政府が後押しし、世界における覇権を維持するとともに、米国の経済発展を支えるインフラを構築する。

プロジェクト構成

ジェネシス・ミッションはエネルギー省(Department of Energy)が主導するプロジェクトで、科学技術政策局(Office of Science and Technology Policy)が事務局となり省庁間のコーディネーションを司る。このプロジェクトはエネルギー省に設置されているスーパーコンピューターを使い、科学技術研究開発に特化したAIエージェントを開発する。AIエージェントが研究者のアシスタントとなり、研究プロセスを自動化し開発速度を加速する。(下の写真、ローレンスリバモア研究所に設置されている世界最高速のスーパーコンピューター「El Capitan」)

出典: Lawrence Livermore National Laboratory

プラットフォーム

大統領令はこのミッションを支えるプラットフォーム「American Science and Security Platform」を構築することを求めている。プラットフォームはスーパーコンピューターやAIエージェントなどから構成され、科学基礎研究のエンジン「Scientific Discovery Engine」を支える(下の写真)。プラットフォームの構成要素は:

  • スパコン:エネルギー省は多数のスーパーコンピューターを運営しており、ここでサイエンス向けのAIモデルやAIエージェントを開発する
  • AIエージェント:AIエージェントは共同研究者となり科学研究のプロセスを自動化する。AIエージェントが研究テーマを検索し、研究成果を評価し、研究プロセスを自動化する
  • AIファウンデーションモデル:科学研究に特化したAIファウンデーションモデルを開発する。バイオテックや核融合に最適化されたモデルが生み出される
  • データ:エネルギー省が保有している大量のデータをAI開発向けに公開する。AIファウンデーションモデルはこれらのデータを使って教育される
  • ロボティックス:新たな挑戦としてロボットを科学技術研究に導入する。AIエージェントがデザインしたプロジェクトをロボットが実験室で実行する。この試みは「Robotic Laboratories」と呼ばれ、研究者に代わりロボットが実験を代行する
出典: Generated with Google Gemini 3 Pro Image

タイムライン

大統領令はプロジェクトのアクションアイテムとその完了日を規定している。270日以内にプロトタイプを構築する計画で、主なマイルストーンは:

  • 90日以内:プラットフォームを構成するコンピュータ、ストレージ、ネットワークを特定する。また、民間からパートナー企業を選定する
  • 120日以内:AI教育で利用するデータセットを選定する
  • 240日以内:ロボット研究室を設立するための技術要件を評価する
  • 270日以内:プラットフォームのプロトタイプ(“Initial Operating Capability)のデモを実施する

サイエンスの重点領域

ジェネシス・ミッションはサイエンスにおける基礎研究をAIエージェントで加速することを使命とする。大統領令は対象領域を規定しており、バイオテック、核エネルギー(核分裂と核融合)、宇宙探査、量子情報科学、物質科学、半導体の分野で基礎研究を加速させる。これらの領域で、AIエージェントが科学者と共同で研究を進め、シミュレーションや研究成果評価の過程を自動化する。実際に、AIモデルは核融合の研究開発の必須要件で、Google DeepMindは核融合ベンチャー「Commonwealth Fusion Systems」と共同でトカマク型(Tokamak)核融合炉の開発を進めている(下の写真)。

出典: Google DeepMind

ミッションへの期待と限界

ジェネシス・ミッションは科学技術発展に大きく寄与すると期待されている。一方、ミッションは大統領令で規定されたプロジェクトで、政権の権限が及ぶ範囲が限定される。予算に関しては連邦議会が権限を持ち、ジェネシス・ミッションは設定された予算内で進められる。具体的には、現行予算や研究者を再配分してプロジェクトを進めることになる。エネルギー省の限られた予算と研究者でどれだけの成果を得ることができるのかが最大の課題となる。

出典: Generated with Google Gemini 3 Pro Image 

AIアポロ計画

トランプ政権はジェネシス・ミッションをAI世代のアポロ計画と呼ぶ(上の写真、イメージ)。停滞しているサイエンス基礎研究を推し進める起爆剤として位置付ける。アポロ計画は、米国と旧ソビエト連邦の冷戦の中で、宇宙開発における覇権を目指す構図となった。ジェネシス・ミッションは、米国と中国でし烈なAIレースが進む中で、安全保障の観点から科学技術を加速させ、サイエンス分野で世界の覇権を握ることを使命とする。