トランプ大統領は州政府がAIを規制することを禁止する大統領令に署名、賛成派と反対派で全米が二つに分断され議論が白熱

トランプ大統領は12月11日、「One Rulebook(ワン・ルールブック)」と言われる大統領令に署名した(下の写真)。ワン・ルールブックとはAIに関する連邦政府のルールで、これを全米で適用することを目的とする。現在は50の州政府が独自のAI規制法を制定し、開発企業はこれらの基準に準拠することが求められ、これがビジネスにおける大きな負担となっている。しかし、ワン・ルールブックの実態は、連邦政府のAI規制ではなく、州政府にAI規制の停止を求める条項が記載されている。トランプ政権は州レベルでも規制を緩和しAI開発を後押しするポジションを取る。これによりAI開発が急進すると期待される一方で、AI規制法が撤廃されることで、AIのリスクを管理することが不能となり、社会に重大な問題をもたらすと懸念される。

出典: The White House

ワン・ルールブックのビジョン

トランプ大統領は米国において単一のAI規制フレームワーク「National Policy Framework for AI」(下の写真)を導入する大統領令に署名した。このフレームワークは「ワン・ルールブック」とも呼ばれ、米国における統一したAI規制政策となる。50の州が個別に異なる法令を導入すると、開発企業は50の規制に準拠する必要があり、AI開発で大きな負担となる。このため、ワン・ルールブックを導入することで企業のAI開発を支援する。

出典: The White House

ワン・ルールブックの実態

しかし、大統領令を読むと連邦政府のルールブックはAIを安全に開発運用するためのガイドラインを定めているのではなく、州政府が独自のAI規制を施行することを禁じた内容となっている。カリフォルニア州は2025年9月、AI規制法「SB 53」を制定し、企業に対しAIモデルに関する情報の公開を求めている。トランプ政権のワン・ルールブックはこれら州政府のAI規制法を撤廃することを求めている。

司法省の役割

大統領令は連邦政府内の省庁を対象にしたもので、州政府など地方政府には権限が及ばない。このため、大統領令は既存の法令を根拠に州政府のAI規制法を制限する手段を取る。その代表が司法省による州政府の監視と訴訟である。大統領令は司法省に対し、州政府を訴訟するためのタスクフォース「AI Litigation Task Force」の制定を求めている。タスクフォースは州政府のAI規制法を審査し、連邦政府の指針に反する法令を特定し、州政府を訴訟する任務となる。この根拠として、州を跨る通商「Interstate Commerce」を妨げる州政府のAI規制法は憲法に違反する、とのポジションを取る。

商務省の役割

大統領令は商務省に対しては州政府への助成金をカットするアクションを求めている。連邦政府は地方のブロードバンドの整備のためのプログラム「BEAD (Broadband Equity Access and Deployment) Program」を運用している。商務省は州政府のAI規制法を精査し、この内容が連邦政府の指針に沿っていない場合は助成金の支給を停止するとしている。

例外事項

大統領令は州政府のAI規制法の中で次の項目については対象外としている。その代表が子供をAIの危険性から守る法令「child safety protections」で、州政府が制定している児童を対象としたディープフェイクの規制は例外事項となり、このまま運用することができる。また、データセンタ建設に関する認可や、州政府がAI調達に関する法令は継続して運用できる。

連邦議会のアクション

同時に、大統領令は将来プランとして連邦政府がAI規制法を制定するための準備を求めている。実際には、AIと暗号通貨の責任者(David Sacks)に対して、ワン・ルールブックを法令で制定するための準備作業を求めている。AI責任者がAI規制法のドラフトを製作し、これを議会に提出する内容となる。これが米国におけるAI規制法となり、全米で統一した法令が制定されることになる。ただし、その内容はAI規制を緩和し、州政府のAI規制を禁止する内容になるとみられている。

出典: Wikipedia

賛成派と反対派で議論白熱

米国は大統領令に賛成するグループと反対するグループに二分され議論が白熱している。OpenAI、Google、Meta、Nvidiaなどは公式のコメントを発表していないが、大統領令を強く支持していると報道されている。更に、これら企業はロビー活動により、この大統領令を実現したとも言われている。一方、州政府はこの大統領令に強硬に反対し、このワン・ルールブックは州の権利を規定している憲法に違反するとして訴訟する準備を開始した。連邦政府が主張する「州を跨る通商」と州政府が主張する「州の権利」が法廷で裁かれることになる。