Microsoftの量子コンピュータ開発は10年以上前に始まった。Microsoftは2005年、量子コンピュータ開発のための研究機関「Station
Q」 (上の写真、ホームページ) をSanta
Barbara (カリフォルニア州) に開設した。Microsoft
Research (マイクロソフト研究所) の量子コンピュータ研究部門としてハードウェア機構の開発を担っている。汎用量子コンピュータ
(Universal Quantum Computer) を開発し製品化することを最終目標としている。
Topological Quantum Computer
Station Qは著名な数学者Michael
Freedmanにより設立された。Freedmanは量子コンピュータ・アーキテクチャーの一つである「Topological
Quantum Computer」という方式の研究を進めている。Topological Quantum
Computerとは二次元平面で動く特殊な粒子の特性を利用し、その位相変化を情報単位とする方式である。(詳細は後述。) Freedmanはこの方式をMicrosoftのCraig Mundieに提案し、これが切っ掛けで量子コンピュータ開発が始まった。当時Mundieは研究開発部門の責任者で、Freedmanが提唱する量子コンピュータを次世代事業の基軸に位置づけた。
QuArC:量子コンピュータ・ソフトウェア研究所
Microsoftは2011年、量子コンピュータ・ソフトウェアを開発する部門「Quantum Architectures and Computation
Group (QuArC)」 をRedmond (ワシントン州) に開設した。QuArCはStation Qのソフトウェア部門として位置づけられ、量子コンピュータのアルゴリズムを研究する。既にプログラミング環境と量子コンピュータ・シミュレータを開発し一般に公開した
(下の写真)。ハードウェアの登場に先立ち、実社会に役立つ量子アプリケーションの開発を進めている。
出典: Microsoft
量子コンピュータの活用方法
Microsoftは量子コンピュータ開発成果を大学を中心とする研究機関に向けて発信している。アカデミアの研究開発に寄与することに加え、優秀な人材を育成・採用することを狙いとしている。QuArCのSenior ResearcherであるKrysta SvoreはCalifornia Institute of Technology (カリフォルニア工科大学)
で講演し、量子コンピュータの応用分野について構想を明らかにした。量子コンピュータのアイディアはここカリフォルニア工科大学で生まれた。
セキュリティ企業RSAは素因数分解コンテスト「Factoring Challenge」を実施している。これは指定された整数を二つの素数「n
x m」に因数分解するコンテストで多くの研究者が挑戦している。コンテストの課題として「RSA-2048」が出題されている (下の写真)。青色の文字が一つの数字を表し617桁から構成される。これを二つの素数に因数分解することが求められている。これを現行のコンピュータで計算すると10億年かかるとされる。しかし量子コンピュータだと100秒で計算できると推定される。
Feynmanはカリフォルニア工科大学での講座「Potentialities
and Limitations of Computing Machines (コンピュータの可能性と限界)」で量子コンピュータについて言及している。自然界は量子力学に従って動いているので、それをシミュレーションするには量子コンピュータしかないとしている。「自然界の事象は古典物理学で定義できない。自然をシミュレーションするなら、量子コンピュータを使うべきだ。」と述べている。同時に、量子を制御するのは極めて難しいとも述べている。Feynmanが量子コンピュータというコンセプトの生みの親といわれている。
GoogleはD-Waveを使って量子コンピュータの研究を進めると同時に、独自の量子コンピュータ技術の開発に乗り出した。2014年9月、UC Santa Barbara (カリフォルニア大学サンタバーバラ校)
教授John MartinisをGoogleに招へいし、量子コンピュータハードウェア研究部門を設立した。Martinis教授は物理学部で量子コンピュータチップを開発しており、それをD-Waveに実装してシステムを構築する。
IBMは汎用量子コンピュータを世界に先駆けて商品化し数年以内に出荷することを明らかにした。Googleは研究所「Quantum AI Laboratory」で独自の量子コンピュータを開発しているが、五年以内に商用化することを公表した。両社とも製品内容についての情報は乏しいが商用量子コンピュータの道筋を示す形となった。量子コンピュータの登場は10年先と思われていたが、市場の予測を覆し製品出荷は大幅に早まった。(カナダのベンチャー企業D-Waveは既にQuantum Annealer型の量子コンピュータを出荷しているがその評価については意見が分かれている。)
量子コンピュータはIBM Thomas J. Watson
Research Center (IBMワトソン研究所) の量子コンピュータ研究部門「IBM
Q Lab」で開発されている (下の写真)。この研究所はニューヨーク郊外のYorktownに位置し、ここで歴史に名を刻むスパコンが開発された。数値計算スパコン「Blue Gene」が開発され、標準ベンチマークで世界最高速をマークした。AIスパコン「Watson」もここで生まれ、クイズ番組Jeopardyで人間のチャンピオン二人を破った。
出典: IBM
天井から吊り下げられる構造
IBM Qは現行コンピュータとは形状が大きく異なり、天井から吊り下げられる構造となる
(上の写真)。先頭の写真の通り、この部分がケースの中に格納され、ヘリウムを使ってAbsolute
Zero (絶対零度、摂氏マイナス273.15度 = 0 Kelvin) 近くまで冷却され、温度を一定に保たれる。