カテゴリー別アーカイブ: 自動運転車

自動運転技術「Baidu Apollo」とは、オープンソースの手法でクルマを開発

Baiduは2017年から自動運転技術「Apollo」を公開している。Apolloはソフトウェアとハードウェアから構成され、通常のクルマにこれらを搭載して自動運転車を開発する (下の写真)。ソフトウェアやデータが公開されており、中国で自動運転車開発ラッシュが始まった。

出典: Baidu

Apollo開発環境

Apolloは自動運転車の開発環境を提供するもので四階層から構成される。「Cloud Service」は文字通りクラウドサービスで、ここでシミュレーション環境など基幹機能が提供される。「Apollo Open Software Stack」は自動運転ソフトウェアで、これらがオープンソースとして公開されている。「Reference Hardware Platform」はクルマに搭載する標準プロセッサやセンサーなどを定義する。「Reference Vehicle Platform」はベース車両を定義したもので、ここにApolloを搭載し自動運転車を生成する。

ソフトウェアモジュール

Apolloソフトウエアは次の三つのモジュールから構成さる。Localization (位置決定)、Perception (オブジェクト把握)、Planning (走行経路算出) で、これらが自動走行の基礎技術を提供する。企業はこれらのモジュールを使い製品を開発する。また、これらのモジュールを改造して、企業独自の製品に仕立てることもできる。

Localization

このモジュールは作成されたHDマップを参照し、GPSとIMU (Inertial measurement unit、慣性計測装置) を使い、高精度でクルマの位置を決定する。

Perception

このモジュールはクルマ周囲のオブジェクトを把握する機能を持つ。クルマに搭載されたセンサー (Lidar、カメラ、レーダー) が捉えたデータを解析し、オブジェクトの種別、位置、移動速度、進行方向を特定する。ここでDeep Learningの技法が使われている。アルゴリズムはタグ付きのデータで教育されており、高精度でオブジェクトを判定できる。

Perceptionは二つのモジュールから構成される。「Obstacle Perception」はLidarとレーダーで捉えたデータを解析し障害物を特定する (下の写真)。LidarのデータはConvolutional Neural Networkで解析し、オブジェクトの特性を把握する。「Traffic Light Perception」は信号機を把握する。3Dマップにおける信号機の位置を参照し、カメラで捉えたイメージからその場所を特定し、信号機の色を把握する。

出典: Baidu

Planning

このモジュールはリアルタイムで周囲の交通の状態を把握し、最適な進行ルートを算定する (下の写真)。まず、周囲のオブジェクトの移動方向を推定し、次に、オブジェクトに特有な挙動を把握し (クルマや自転車など)、最後に、最適な進行経路を算出する。このモジュールはアクセスが制限された道路 (高速道路のように進入が制限された道路) で使うことができる。また、昼間だけでなく夜間にも使うことができる。

出典: Baidu

Simulation

Baiduは自動運転技術開発のためにシミュレーション環境を提供している。この環境はMicrosoft Azureの上に構築され、開発に必要な次のモジュールを提供する。

  • Scenarios:シミュレーションの条件を変え異なるシナリオを生成する。道路のタイプ、路上の障害物、運転方法、信号機能状態を変えることができ、異なる環境を作り出す。
  • Execution Models:上述のシナリオを使い、開発した自動運転モジュールを実行し、その機能を検証する。
  • Automatic Grading System:試験した自動運転モジュールの完成度を評価する。衝突検知、信号認識、速度制限などの試験ができ、合格か不合格化をシステムが判定する。
  • 3D Visualization:路上におけるクルマの走行状態を可視化してモニターに表示する。

Scenarios

上述の通りシミュレータは様々なシナリオを取り揃えている。信号機のある道を直進 (Go Straight w/ Lights)するというシナリオや、信号機のある交差点を左折 (Turn Left (Intersection w/ Lights) するシナリオ (下の写真) など、100種類のシナリオが用意されている。エンジニアは開発した自動運転車を様々なシナリオで走行させアルゴリズムを検証する。

出典: Baidu

自動運転技術API

開発者はApolloが提供するAPI (自動運転機能のライブラリ) を使って自動運転車アルゴリズムを開発する。各メーカーはこれらAPIを使って自動運転車を開発する。また、公開されているソフトウェアを改造して、独自の機能を持つ自動運転車を開発することもできる。上述の通り、開発したアルゴリズムを様々なシナリオで試験して、アルゴリズム実行結果 (合格・不合格) を判定する手順となる。

多種類のデータ

自動運転アルゴリズム開発や研究のために、多種類のデータが公開されている。開発者や研究者はこれらのデータを使ってアルゴリズムの教育や研究を実施できる。公開されているデータの種類はSimulation Scenario Data (シナリオ)、Annotation Data (タグ付きデータ)、Demonstration Data (デモ向けデータ)などである。

Lidar Point Cloud

Annotation Dataの中にLidarが捉えたデータ (Lidar Point Cloud) がある (下の写真)。クルマ周囲のオブジェクトはこのLidar Point Cloudを解析して判定する。Lidarが捉えたオブジェクトは種別ごとにタグ付けされ、これらデータが公開されている。データは、歩行者、自動車、自転車、その他など区分され、合計で2万フレームが公開されている。1万枚はアルゴリズム教育のために、1万枚はアルゴリズム試験のために使うことを想定している。

出典: Baidu

Baiduが勢力を拡大

このように中国ではBaiduが主導するApolloが大きく勢力を拡大している。Baiduが自動運転技術のAI開発を担い、その他の技術は参加企業が共同で開発する体制となる。ApolloプロジェクトにはVelodyne (Lidarセンサー) やNvidia (車載プロセッサ) やTomTom (マップ技術) など、自動運転車のキーコンポーネントを提供するベンダーが参加している。世界の自動運転車開発は米国、欧州、中国の三極体制に向かいつつある。

Baiduはオープンソースの手法で自動運転技術を開発しAIとデータを公開、中国で自動運転車開発ラッシュ

Baiduは2018年1月、CESで自動運転技術「Apollo」最新版を公開した。Apolloとはオープンソースの自動運転車開発基盤で、ソフトウェアやデータが公開され、メーカーはこれを使って自由に自動運転車を開発することができる。BaiduはApolloを自動運転車のAndroid位置づけ、中国企業を中心にエコシステムが広がり、Apolloを搭載した自動運転車が続々登場している。

出典: Baidu

ライブデモを実施

BaiduはCES会場で、ラスベガスと中国・北京を結び、Apolloを搭載した自動運転車のデモ走行を披露した。この模様はビデオで公開された。デモ会場は北京にあるBaidu本社で、夜明け前の暗闇の中を自動運転車が隊列走行した (上の写真)。Apolloは異なる車種のクルマに搭載され、構内を自動運転で走行した。先頭のクルマはFord製の高級車種Lincoln MKZで、Apollo自動運転技術を搭載し、運転席にはドライバーの姿はなく、クルマが自動で走行した。

AI Cityを開発

Baiduは同時に、「AI City」を走行する自動運転車のデモビデオを公開した。Baiduは地方政府と共同でXiongan (河北省・雄安) に人工知能都市AI Cityを開発している。市の一部を特区 (New Area) として、次世代スマートシティーのプロトタイプを構築する。具体的には、この街をAIを活用した商業地域とし、自動運転技術 (Intelligent Transportation)、対話型AI (Conversational AI)、クラウド (Cloud Computing) を導入し、インテリジェントな近未来都市を構築する。

AI Cityで自動運転走行デモ

BaiduはAI CityでApolloを搭載した自動運転車のデモ走行を実施した。Apolloを搭載した異なるモデルの車両が市内の公道を走行した。クルマは対面通行の道路などを安全に自動走行した (下の写真)。ここは中央分離帯が無く、道幅は狭く、高度な技術が必要となる。Baiduは中国におけるGoogleとして認識されているだけでなく、今では自動運転のリーダーとして技術開発を主導する。BaiduがAI Cityで自動運転のデモを実施した最初の企業で、その実力の高さを内外に示した形となった。

出典: Baidu

交差点の左折や問題への対応

クルマは信号機のある複雑な交差点を左折できることも示された。クルマのセンサーは信号機や歩行者を正しく認識し、安全な走行経路を決定する。また、交差点でUターンをすることもできる。更に、対向車がセンターラインを越えて車線に入ってきても、これを認識して安全に停止した (下の写真)。

出典: Baidu

ディスプレイ

自動運転車のダッシュボードにはディスプレイが搭載され運行状態を表示する (下の写真)。自動運転機能を可視化してディスプレイに表示することで、アルゴリズムが何を見て、どのように判断したかが分かる。具体的には、 Apollo API (自動運転ライブラリ) の「Perception」という機能は、クルマ周囲のオブジェクトを把握し、その種別を特定する (下の写真、緑色の箱)。また、「Planning」という機能は、把握したオブジェクトを考慮して、安全な走行ルートを算定する (下の写真、クルマの前に示された水色の線)。アルゴリズムの演算結果をディスプレイに表示することでクルマの挙動を理解できる。更に、クルマの走行データを記録する機能もあり、アルゴリズムのデバッグなどに役立てる。

出典: Baidu

ハードウェア

Apolloはソフトウェアとハードウェアから構成され、通常のクルマにこれらを搭載して自動運転車とする。センサーはLidar (レーザーセンサー)、カメラ、レーダーが使われ、これら機器を車両に搭載する (下の写真)。これが標準装備で、三種類のセンサーをAIが解析し (Sensor Fusionと呼ばれる)、自動運転を実現する。運転席には自動運転を解除するための非常ボタンが設置されている。Apollo自動運転車は北京の公道で試験走行を進めている。また、Baidu研究所があるカリフォルニア州でも走行試験が実施されている。

出典: Baidu

オープンソースの手法

Baiduは自社単独で自動運転技術を開発するのではなく、オープンソースの手法で技術を公開し、パートナー企業と供に製品を開発している。既に多くの企業がApolloプロジェクトに参加している。その数は90社にのぼり、中国企業が65社と大半を占めている。海外メーカーではFordやDaimlerやHyundaiが加わっている。海外サプライヤーではBosch、Continental、Delphiなどが、半導体メーカーではNvidia、Intel、NXPなどが参加している。日本からはルネサスエレクトロニクスとパイオニアが参加している。中国企業が中心であるものの、海外から大手企業が参加しており、その関心の高さが窺える。

Microsoftが参加

IT企業からはMicrosoftがパートナーに加わっている。MicrosoftはクラウドサービスAzureを提供し、自動運転車のシミュレータ「Dreamview」(下の写真) の運用を支える。自動運転車が商品として販売され、市街地で運行を始めると、Microsoftはクルマとクラウドを結ぶコネクティッドカー機能を提供することを計画。現在、Apolloは中国で展開されているが、Microsoftがプロジェクトを米国や欧州で展開することを手助けする計画もある。

出典: Baidu

オープンソースの手法は上手くいくのか

Apolloソフトウェアはオープンソースの手法で開発されている。開発されたソフトウェアはGitHubに公開され、誰でも自由に利用して自動運転車を開発できる。同時に、参加企業は自社で開発したソフトウェアをApolloにフィードバックすることもできる。このプロセスを繰り返すことでApolloの完成度が向上するというシナリオを描いている。

Apolloの機能は未成熟

Apolloの機能はまだ限定的で、複雑な市街地を走行できる訳ではない。Apolloが提供している機能は、幹線道路での直進、左折・右折、Uターンなど基本操作に限られる。Apolloの機能はまだまだ未完成で、今すぐに無人タクシーとして使える訳ではない。つまり、Waymoなど先行企業はApolloに加わるインセンティブはない。

出典: Baidu

自動運転技術はコモディティに向かう

しかし、新興企業にとってみると、Apolloに参加することで、短期間で自動運転車を商品化でき、新事業創設のチャンスが広がる。Fordなど大手メーカーは自社開発だけでなく、Apolloで逆転を狙うという目論みがあるのかもしれない。更に、自動運転技術は基本ソフトのように基礎技術となり、共通に利用できる方向に進むということを示唆している。誰でも手軽に自動運転車を開発できれば、差別化の要因をどこに求めるのか、新しい課題も見えてくる。

Androidモデルを踏襲

参加企業の多くは中国の自動車メーカーであり、Apolloを搭載した自動運転車が続々と開発されている (上の写真)。自動車だけでなく、Apolloを搭載したバスや道路掃除車両や配送ロボットなどが登場している。この状態はGoogleがスマホ基本ソフトAndroidを買収した2005年頃に似ている。当時、Apple iOSに比べAndroidは未成熟な基本ソフトであったが、Googleがオープンソースの手法で開発し、Androidは急速に完成度を増した。Androidが世界を席巻したように、Apolloもこの流れに乗ることができるのか、世界から注目を集めている。

移動式スーパーマーケットが登場、店舗がクルマになり無人運転で自宅にやって来る

シリコンバレーで移動式のスーパーマーケットがデビューした (下の写真)。店舗がクルマに搭載された形だが、人は乗っておらず自動運転で街中を移動する。Amazon Goのような無人店舗が、Waymoのような自動運転車と合体した構造だ。買い物は、スーパーマーケットに出向くのではなく、消費者がスマホで店舗を呼ぶ時代になった。

出典: Robomart

移動式スーパーマーケット

このシステムは「Robomart」と呼ばれ、無人車両に商品を搭載した形で、街中を自動走行で巡回する。消費者はアプリで配車をリクエストすると、Robomartが自宅までやって来る。Robomartが道端に停車し、ドアが開き、車内に陳列された商品を買うことができる。商品は生鮮食料品、パン類、調理品などが対象となる。RobomartはSanta Clara(カリフォルニア州)に拠点を置く同名のベンチャー企業Robomartが開発した。

ショッピングの仕方

多くのRobomartが街中を巡回しており、消費者は専用アプリでクルマをリクエストする (下の写真、左側)。そうすると、近くを巡回しているRobomartがリクエストに応え自宅までやって来る。消費者はRobomartのドアを開け、並べられている商品から希望のものを取り出す。Robomartは取り上げられた商品を自動で認識し、登録されているカードに課金する (下の写真、右側)。

出典: Robomart  

商品棚の構造

Robomartの中は商品棚となっている (下の写真)。ここに生鮮食料品などが並べられる。棚には値札が付いており商品名と値段が表示される。「Tomatoes $0.92 each, 13/oz」などと記載され、トマト一つが92セントであることが分かる。量り売りの機能は無いためか、商品は一個当たりの料金になっている。棚にはカメラが設置されており、取り出された商品を把握し、クレジットカードに課金する。ここに、冷蔵庫や保温機などを搭載できるとしている。

出典: Robomart  

自動走行技術

Robomartは完全自動運転車でLevel 5の走行技術を持っている。屋根の上にはLidar (レーザーセンサー) を搭載し、周囲のオブジェクトを認識する。この他にカメラとレーダーを搭載しており、信号機や道路標識を把握し、障害物を検知する。これは「Sensor Fusion」という方式で、複数のセンサーで捉えた画像を解析し安全な経路を算定する。事前に、走行する領域の3Dマップを生成しておく。走行時には3Dマップを参照し、ピンポイントに位置を決定し、走行経路を計算する。Robomartは既にプロトタイプを製造し、シリコンバレーで試験走行を計画している。

EVとワイアレス充電

Robomartはバッテリーで稼働するEVで、走行距離は80マイルで、最大速度は時速25マイル。Robomartは専用ステーションでワイアレスで充電する。これはHEVO Power社の技術が使われ、プレートの上にクルマを停めるだけで充電できる。HEVO Powerを使ったシステムはまだ市場に出ていないが、Waymo自動運転車がこの技術を採用すると噂されている。

ビジネスモデル

Robomartは小売店舗に車両をリースする形で事業を展開する。小売店舗はRobomart使って生鮮食料品などを販売する。つまり、小売店舗は販売チャネルを拡大するためにRobomartを導入すると期待される。また、小規模事業者にとっては事業拡大のチャンスでもある。新規に出店するにはコストがかかり過ぎるが、Robomartを導入するのであれば手軽に事業を拡大できる。

遠隔で監視する

Robomartは自動で走行するが、運行状態については各店舗のオペレーターが遠隔で監視する (下の写真)。オペレーターはRobomartの配車リクエストや走行経路をデスクトップでモニターする。また、品切れの際はRobomartを運用している小売店舗が商品を補充する。更に、遠隔通信機能があり、オペレーターは消費者と直接会話することができる。買い物で支障が出た時はオペレーターがサポートする。経路上で警察官とコミュニケーションが必要な時もこの機能を利用する。

出典: Robomart  

Nvidiaのインキュベーションプログラム

RobomartはNvidiaが運営する「Inception Program」で開発された。これは新興企業を育成するプログラムで、NvidiaのGPUやDeep Learning技術を使った先進的なAI技術開発を支援する。Nvidiaは自動運転技術開発環境として「Drive Platform」を提供している。自動車メーーカーはこのプラットフォームで自動運転技術を開発している。Robomartもこの環境を利用し、Nvidiaの自動運転専用プロセッサ「Drive PX」を使いこのシステムを開発した。

開発コンセプト

小売店舗はAmazonに対抗するため、オンラインショッピングを拡充し巻き返しを図っている。しかし、生鮮食料品のオンライン販売は売り上げが伸びていないという厳しい現実がある。消費者は野菜や果物など生鮮食料品については、自分の手に取って買い物をしたいという要求がある。また、生鮮食料品の宅配サービスは料金が高いことも売り上げが伸びない原因とされる。このような背景からRobomartが開発され、顧客は商品を手に取って買い物ができ、無人運用で配送コストを最小限に抑える。

課題もある

Robomartは画期的な構想であるが解決すべき問題も少なくない。サンフランシスコ市当局は配送ロボットが歩道を通行することを制限している。ロボットが歩道を無人走行すると、事故が起きる危険性が高いと判断しているためだ。Robomartが他の車両に交じり市街地を走行することに対し、当局がどのような判断を下すのか注視する必要がある。特に、家の前に停車して営業する形態で、交通への影響を査定し、買い物客の安全性を如何に担保するかが課題となる。

むしろ日本社会に向いているのか

Robomartは日本社会に適しているのかもしれない。日本は世界最速で高齢化が進み、買い物弱者が増え、その対策が求められている。Robomartを日本で展開すると、スーパーマーケットに買い物に行けない高齢者に、生鮮食料品や調理済み食材を配送できる。また、ドライバーが不足する中でRobomartがその代替手段となり、一般消費者向けにも需要が見込まれる。移動するコンビニとして新規顧客を獲得できる可能性を含んでいる。

無人タクシーに乗るためのマニュアル、Waymoは乗客を乗せて自動運転車の実証実験を開始 (補足資料)

補足情報:Waymo自動運転技術まとめ

【自動運転車のセンサー】

多種類のセンサーを併用

安全性を評価するためにはWaymoの自動運転技術を把握する必要がある。WaymoのセンサーはLidar System (レーザーセンサー)、Vision System (光学カメラ)、Radar System (ミリ波センサー)、Supplemental Sensors (オーディオセンサーやGPS) から構成される (下の写真)。

出典: Waymo  

ミニバンの屋根に小型ドームが搭載され、ここにLidar SystemとVision Systemが格納される。別タイプのLidarはクルマの前後と前方左右にも搭載される。クルマ四隅にはRadarが設置される。Lidarとカメラを併用する方式はSensor Fusionと呼ばれる。(これに対しTeslaは、Lidarを搭載せず、カメラだけで自動走行する技術に取り組んでいる。)

Lidar System

Waymoは独自技術でLidarを開発している。クルマは三種類のLidarを搭載している。「Short-Range Lidar」はクルマの前後左右四か所に設置され、周囲のオブジェクトを認識する (上の写真、バンパー中央と左側面の円筒状の装置)。クルマのすぐ近くにいる小さな子供などを把握する。解像度は高く、自転車に乗っている人のハンドシグナルを読み取ることができる。

出典: Waymo  

「Mid-Range Lidar」と「Long-Range Lidar」は屋根の上のドームの内部に搭載される。前者は高解像度のLidarで、中距離をカバーする。後者は可変式Lidarで、FOV (視野、レーザービームがスキャンする角度) を変えることができ、特定部分にズームインする。レーザービームを狭い範囲に絞り込み、遠方の小さなオブジェクトを判定できる。フットボールコート二面先のヘルメットを識別できる精度となる。

Vision System

Vision Systemはダイナミックレンジの広いカメラの集合体。8つのモジュール (Vision Module) から構成され、クルマの周囲360度をカバーする。信号機や道路標識を読むために使われる。モジュールは複数の高精度センサーから成り、ロードコーンのような小さなオブジェクトを遠方から検知できる。Vision Systemはダイナミックレンジが広く、暗いところから明るいところまでイメージを認識できる。

【自動運転の仕組み】

位置決定:Localization

Waymoが自動走行するためには3D高精度マップが必要となる。マップには道路の形状が3Dで詳細に表示され、セマンティック情報 (道路、路肩、歩道、車線、道路標識などの情報) が埋め込まれている。クルマは搭載しているセンサーが捉えた情報と、3D高精度マップを比較して、現在地をピンポイントに特定する。この位置決めをLocalizationと呼ぶ。

周囲のオブジェクトの意味を理解:Perception

クルマのセンサーは常時、周囲をスキャンして、オブジェクト (歩行者、自転車、クルマ、道路工事など) を把握する (下の写真)。オブジェクトは色違いの箱で表示される。クルマは緑色または紫色、歩行者は赤色、自転車は黄色で示される。

出典: Waymo  

ソフトウェアは、これらオブジェクトが移動している方向、速度、加速度などを推定する。また、信号機、踏切標識、仮設の停止サインなどを読み込む。ソフトウェアは、オブジェクトの意味 (信号機の色の意味など) を理解する。

動くオブジェクトの挙動予測:Behavior Prediction

ソフトウェアは路上のオブジェクトの動きを予想し (下の写真、実線と円の部分)、その意図を理解する。ソフトウェアはオブジェクトの種類 (クルマや人など) により、動きが異なる (クルマの動きは早く人の動きは遅い) ことを理解している。また、人、自転車、オートバイは形状が似ているが、その動きは大きく異なることも理解している。

出典: Waymo  

更に、クルマは道路状況 (工事など) により、これらの動きが影響される (工事でクルマが車線をはみ出すなど) ことを理解している。これらは試験走行でアルゴリズムが学習したもので、ここにAI (Machine Learning) の技法が使われている。

最適な経路を計算:Planning

ソフトウェアはオブジェクトの動き予想を元に、最適なルートを決める (下の写真、幅広い緑の実線)。ソフトウェアは進行方向、速度、走るレーン、ハンドル操作を決定する。ソフトウェアは「Defensive Driving」としてプログラムされている。これは安全サイドのプログラミングを意味し、自転車と十分間隔を取るなど、慎重な運転スタイルに設定されている。クルマは周囲のオブジェクトの動きを常にモニターしており、それらの動きに対してルートを変更する。

出典: Waymo  

AIではなく人間が経路を決める

重要なポイントはPlanningのプロセスにAIは適用されていないことだ。Planningのロジックはコーディングされており、クルマの動きは人間がプログラムで指定する。人間が自動運転アルゴリズムを把握できる構造になっている。このため膨大なルールが定義されており、それを検証するためには、大規模な試験走行が必要となる。

AI Carというアプローチ

一方、NvidiaはPlanningのプロセスをAIが司る「AI Car」を開発している。AIが人間の運転を見てドライブテクニックを学ぶ先進技術に取り組んでいる。AI Carは道路というコンセプトを理解し、車線が無くても人間のように運転できる。膨大なルールの定義は不要でアルゴリズムがシンプルになる。しかし、AIの意思決定のメカニズムは人間には分からない。信頼性の高いクルマを作るため、Nvidiaはこのブラックボックスを解明する研究を進めている。

Waymoは安全なアプローチ

WaymoはLidarとカメラを併用 (Sensor Fusion) する、手堅い手法を取っている。アルゴリズムの観点からは、AIが周囲のオブジェクトを把握するが、ハンドル操作は人間がコーディングして決定する。Waymoは極めて安全な技法で開発されたクルマといえる。

無人タクシーに乗るためのマニュアル、Waymoは乗客を乗せて自動運転車の実証実験を開始 (2/2)

【無人タクシー事業とは】

販売ではなく共有モデル

WaymoはPhoenix (アリゾナ州) とその近郊で、無人タクシー (下の写真) の実証実験を始めた。無人タクシーは「Driverless Service」と呼ばれ、ドライバーが搭乗しないで輸送業務を遂行する。Waymoは今後、エリアを拡大し、無人タクシーサービスを展開する。無人タクシーが当面のビジネス形態であるが、この他に、貨物輸送、公共交通サービス、個人向け専用車両 (無人ハイヤー) などの事業を計画している。

出典: Waymo  

Shared Mobility

このようにWaymoは、個人がクルマを所有するのではなく、共有するモデル「Shared Mobility」を事業の中核に据える。Waymoは、個人に自動運転車を販売するのではなく、ライドサービスを提供する。

一方、TeslaやVolvoは、個人に自動運転車を販売するモデルを計画している。GM、BMW、VWなどは、個人に自動運転車を販売し、同時に、ライドサービスを提供するハイブリッドな事業形態を計画している。

ライドシェア技術

Waymoは2017年5月、ライドシェア企業Lyftと提携することを明らかにした。両社は共同で、無人タクシーの運行試験や技術開発を進める。ライドシェア市場ではUberが大きくリードしているが、両社は自動運転技術開発で厳しく対立している。Waymoは機密情報を盗用したとして、Uberを訴訟している。このような経緯があり、WaymoはLyftに急接近した。

車両メンテナンス

Waymoは2017年11月、車両メンテナンスに関しAutoNationと提携することを発表した。AutoNationとは全米最大の自動車販売会社で、16の州に361の店舗を持ち、35のメーカーのクルマを販売している。販売だけでなく自動車のメンテナンス事業も展開している。

予防保守が中心となる

自動運転車は無人で走行するため、車両保守が極めて重要な役割を担う。問題が発生したり、警告ランプが点灯してから修理するのではなく、障害が発生する前に部品交換を実施する。自動運転車では予防保守が中心となる。(下の写真はガレージに並んでいるWaymo自動運転車。)

出典: Waymo

自動運転車は高度なセンサーやソフトウェアを搭載しており、それに対応できる保守技術が要求される。自動運転車は高価な器機を原価償却するため、24時間連続で運転するモデルが基本となる。これを支えるためにも自動運転車の保守技術が重要になる。AutoNationは既に、カリフォルニア州とアリゾナ州で、Waymoの保守サービスを実施している。

【自動運転アルゴリズム開発と試験】

Waymoの安全性を検証するには

Waymo無人タクシーを利用する時に気がかりなことは、クルマの安全性である。この疑問に答えるためには、Waymoは自動運転車をどのように開発し、安全性をどう検証しているのかを理解する必要がある。

安全性検証の大きな流れ

安全性を決定するのはソフトウェアで、バーチャルとリアルな環境で試験される。開発された自動運転ソフトウェアは、シミュレータでアルゴリズムを教育し、学習した機能を検証する。条件を様々に変えて実行し、ソフトウェアの完成度を上げていく。(下の写真はシミュレータでクルマを稼働させている様子。)

出典: Waymo  

シミュレーションを通過したソフトウェアは、実際にクルマに搭載され、専用サーキットで走行試験が実施される。専用サーキットは街並みを再現した試験コースとなっている。この試験に合格したソフトウェアは試験車両に搭載され、市街地を走行して機能や安全性が検証される。実地試験に合格したソフトウェアが最終製品となり出荷される。

シミュレーション

Waymoはクルマのアルゴリズム教育を、高度なシミュレーション環境で実施する。シミュレータで25,000台のWaymoを稼働させ、毎日800万マイル走行する。シミュレータを使うことで、試験走行距離を増やすことができる。更に、実社会では稀にしか起こらないイベントを、シミュレータで構築できる。例えば、交差点で左折信号がフラッシュするなど、極めてまれな信号機を創り出すことができる。

街並みをソフトウェアで再現

シミュレータは、実際の街並みを、ソフトウェアで再現している。仮想の街並みは、市街地をスキャンして構築される。専用車両に搭載されたLidar (レーザーセンサー) で、街並みをスキャンし、高精度な3Dマップを制作する (下の写真)。マップには、レーン、路肩、信号機などが表示され、ここには走行に関する情報 (車線の幅や路肩の高さなど) が埋め込まれている。ここに、前述の左折信号が点滅する交差点を構築できる。

出典: Waymo  

仮想の走行試験

次に、この仮想の街並みをクルマで走行する。例えば、左折信号が点滅する交差点を曲がる練習ができる (下の写真)。クルマは交差点にゆっくり進入し、対向車がいないのを確認して左折する。アルゴリズムが改良されていくが、その都度、同じ条件で走行試験を繰り返す。このプロセスを繰り返し、習得した技術 (左折信号が点滅する交差点を曲がる技術など) の完成度を上げる。

環境を変化させる

シミュレータは環境に変化を加える(Fuzzingと呼ばれる)ことができる。左折信号のケースでは、対向車の速度を変えたり、信号機のタイミングを変えることができる。新しい条件でクルマが安全に左折できることを確認する。また、実際にはありえない条件を付加できる。オートバイがレーンの白線の上を走行したり、人がレーンをジグザグに走るケースなどを生成できる。異常な行動に対して、クルマがどう反応するかを検証する。

出典: Waymo  

シミュレーションの成果

自動運転車は、主要技術をシミュレータで学び、練習を重ね、完成度を上げた。2016年には、Waymoはシミュレータで25億マイルを走行した。これは地球10万周分の距離に当たる。シミュレーション環境が優れている点は、危険な出来事を頻繁に再生できることにある。歩行者が垣根の陰から路上に飛び出すなど、事故となるシーンでも試験を重ねた。

試験サーキット「Castle」

シミュレータを通過したソフトウェアは試験車両に搭載され、試験サーキット「Castle」で試験される。これは空軍基地跡地を利用したもので、ここに街並みが再現されている (下の写真、左下の部分)。ここで、新規に開発されたソフトウェアが試験される。また、改版されたソフトウェアが検証される。更に、ここでは、稀にしか発生しない事象を試験する。これらを「Structured Tests」呼び、2万のシナリオを検証する。検証が済んだソフトウェアは公道での実地試験に進む。

出典: Google Earth  

公道での路上試験

Waymoは試験車両を公道で走らせ試験を展開している。過去8年間にわたり、全米20都市で350万マイルを走行した。アリゾナ州では砂漠の環境で、ワシントン州では雨が降る環境で、ミシガン州では雪の中で試験が進められている。それぞれ異なる気象条件で安全に走行できることを検証する。また、路上試験は啓もう活動を兼ねている。地域住民が自動運転車に接し、理解を深めることも目標としている。

【自動運転車は安全か】

安全性の指標は確立されていない

自動運転車の安全性に関する指標は確立されておらず、どこまで試験をすればいいのか、議論が続いている。カリフォルニア州は、州内で実施されている自動運転車試験の内容を公表することを義務付けている。この中に、自動運転機能を停止する措置 「Disengagement」の項がある。Disengagement (自動運転機能解除措置) を実行することは、自動運転車が危険な状態にあることを意味する。自動運転車が設計通り作動していない状況で、不具合の件数とも解釈できる。

WaymoのDisengagementの回数 (1000マイル毎) は、2015年には0.80回であったが、2016年には0.20回に減少している (下のグラフ)。2017年度のレポートはまだ公開されていないが、このペースで進むと、更に大きく減少することになる。

出典: Department of Motor Vehicles

Waymoの安全対策を纏めると

Waymoは安全性に関し、複数の視点からプローチしている。徹底した走行試験を繰り返し、自動運転モードで350万マイルを走行した。車両ハードウェアを重複構造とし、重要システム (ステアリングやブレーキなど) を二重化している。運用面では、走行できる領域をOperational Design Domainとして定義し、クルマが走れる条件を明確に把握している。乗客とのインターフェイスも重要で、無人タクシーで乗客が不安にならないよう設計されている。

安全性を最優先した製品コンセプト

開発プロセスや試験結果から、Waymo無人タクシーは安全な乗り物であると評価できる。また、運行できる範囲を限定し、安全に走行できる環境に限ってサービスを提供している。更に、無人で走行するものの、運行は監視室で遠隔モニターされており、非常事態に対応できる。

技術的には、WaymoはLidarとカメラを併用し、慎重なアプローチを取る (詳細は下記の補足情報を参照)。ステアリングのないクルマを走らせるなど、革新技術を追求するWaymoであるが、商用モデルは意外なほど手堅い造りになっている。

次の目標

他社に先駆けて、無人タクシーの運行に漕ぎつけたことは、大きな成果である。Phoenixで運行を始めたばかりであるが、次のサービス都市は何処かが話題になっている。高度な技術が要求されるSan Franciscoで運行するには、もう少し時間がかかる。Operational Design Domainの拡大がWaymoの次の目標となる。